「なんだよここ……」
千雨は真っ暗な空間をうろちょろと歩き回り
「よっし、夢だなこりゃ」
直ぐに今の状況を理解した。この数日で彼女の状況把握能力は格段に上がっている。
「しっかし、今の状況を直ぐに夢だと判断出来るってことはだ、この状況が普通とは全く違うってことだろうけど……」
先程も壮絶な痛みを伴う体験をした。その後の夢だ。絶対自分にとって良くないことが絶対起こると警戒していると目の前で光が収束してそして……
『みんなー!!今日もちうを見に来てくれてありがとー!!今日も楽しく元気に頑張るぴょーん!!応援してねー!!』
「ぶぅ!?」
ちうの衣装を来た笑顔の千雨の幻影が現れ媚媚の台詞を言い出した。いきなりもう1人の千雨が現れ媚びるような声を出したことに千雨は思わず吹き出してしまう。
千雨が吹き出したことに目もくれず、笑顔の千雨の幻影は虚空に手を振る。それに反応するように、虚空から幾つかの男や女の声が聞こえる。
「あたしってはたから見ればあんな感じなんだな……途中で恥ずかしいと思ったら上まで登り詰めることは出来なかっただろうなぁ」
まだ虚空に手を振っている笑顔の千雨の幻影を見て遠い目をする千雨に手を振るのをぴたりと止めた笑顔の千雨の幻影が千雨の方を振り返る。
『ねぇあたし、何でこんな似合わない試練みたいなことやってるの?』
「はぁ?」
いきなりの問いかけに思わず首を傾げる千雨にだってそうでしょと媚びるような声色で続ける
『元々のあたしのスタンスは面倒事には首を突っ込まない。非日常の類いは否定して、常識や日常を貫く。それなのに今は自分から魔法なんて非日常に首を突っ込む。いいじゃん今まで通りにちうを演じていればこんなにもあたしを称賛する声がほら!!』
――ちう今日もかわいいよ!!――
――いつも癒しをありがとう!――
――ちうを見れば明日も頑張れる!!――
また虚空から千雨否ちうを讃える声や感謝の声が次々と響いてくる。みんなありがとうと称賛の声達にまた作り物のような笑みを浮かべながら手を振りパフォーマンスをする笑顔の千雨の幻影。
でも、とまたも千雨の方を向き歩み寄ってくる笑顔の千雨の幻影。作り物みたいなのっぺりとした笑みを間近で見ると不気味だなと客観的に思った千雨に笑顔の千雨の幻影が言葉を続ける。
『魔法世界なんて非日常の塊みたいな場所に行くなんて馬鹿馬鹿しいとは思わない?だって死んじゃうかもしれないんだよ?何で自ら危険なリスクを侵そうとするの?治安の良い日本でネットアイドル続けてる方がいいじゃない。それに分かってるの?ネットアイドルが恋愛をするのはご法度だってことに』
「……」
痛いとこを突かれたのか黙っている千雨に笑顔の千雨の幻影が更に畳み掛ける。
『ねぇみんな聞いてー!実はちうねぇリアルで好きな人が出来たんだー!その人には他にも囲っている女の子がいるんだけど、ちう負けないでその人のハートを手に入れたいの!だから応援してお願い!!』
またも虚空に話しかける笑顔の千雨の幻影。しかしそんな好きな人がいて尚且つ付き合いたいなんてことを言えば
――は?――
――僕らのちうが何でそんな事を言うの?――
――最悪、ファンやめます――
――ふざけんな!俺らの時間返せ!!――
――結局はその程度か、なんか失望――
先程まで称賛していたのに手の平を返し罵詈雑言の嵐となった。中には聞くに堪えない誹謗中傷の言葉も混じる位だ。
あまりの喧しさに千雨も手で耳を塞ぎたいが、塞いだとしてもがんがんと響いてきて鬱陶しくてたまらなかった。
みんなひどいよーと笑顔の千雨の幻影が踞って泣いているが、涙など一切流していないうそ泣きで、罵詈雑言の嵐でも笑顔なのがまたより一層不気味だ。
『ね?これが現実だよ。もうあたしに普通の女の子みたいな恋なんて出来ない。だって自分でネットアイドルの道を選んだから。皆から飽きられるまで傀儡でいよ?それに、今誰かを好きになってもろくなことにならないし』
『ちう!!』
と今度は男の声が聞こえた。振り返ると最近マギを刺して精神が崩壊し逮捕されたストーカーが立っていた。格好は襲ってきたままの姿で、手にはマギを刺したナイフが握られている。
『他の男になびくような事しやがってぇ!!お前は俺のもんだ!!俺のもんにならないなら今ここで殺してやる!!』
奇声を挙げながらナイフを振り回しながら千雨に突っ込んでくるストーカー。
『ほらほらぁ!ヤバい奴がやって来たぁ!さぁどうするあたし!?今ここにあたしが好きなマギさんは何処にもいない!こんな奴どうやって相手するのぉ!?』
笑顔の千雨の幻影が興奮し早口になる。虚空の声もやっちまえやちうに裁きをなど更に加速するような事を喚きだした。
対する千雨は何もせずにただ突っ立っているだけ、そしてストーカーのナイフが千雨の体に刺さろうとする位近づいた時に大きな溜め息を吐いて
「―――くっっっだらねぇ」
そう言いきった瞬間、ストーカーはピタリと時が止まったかのように動かなくなり、虚空からの誹謗中傷などの罵詈雑言も止まり、真っ暗な空間はしんと静まり返る。
「自分自身に言われたり、ファンに汚い言葉を浴びせられたり果てにはストーカーに殺されそうになるのは流石に堪えそうになったけど、これって前から自分の中で思い悩んでいた事だったし、それが目の前で具現化してあたしに問い詰めて来るとか、やってることは結局は自問自答じゃねえか。ここでストーカーに刺されたらあたしの精神も崩壊してたんだろうな。エヴァンジェリンの奴こうなる事を分かってたんかね。まぁそう言うことだったらあたしの答えはこれだ」
そう言って千雨は止まっているストーカーの額にわりと強めなでこぴんをお見舞いした。ストーカーは後ろに大きく傾きそのまま倒れるとガラスのように砕け散った。
「あたしはあたしのやりたい事をやる。それだけは変わらず貫くつもりだ。今はあたしをちうじゃなくて長谷川千雨として見てくれるマギさんのために動きたい。それにあたしに聞くけどさ、最近ちうの活動してる時に、楽しいと思うことがあっても、満たされなくなる事が増えてきただろ?」
『……』
千雨が問い掛けても笑顔の千雨の幻影は笑顔のままで何も答えない。それがもう答えだろう。
「マギさん達と出会って、あんな体験をしちまったらもうネットアイドルの活動だけじゃ楽しめなくなった。普通の生活には満足出来なくなった。あたしはもうマギさん達との日常にという劇薬に呑まれた。別に今のファンを蔑ろにする積もりはない。ただ筋は通したい。だから、あたしは前を進むさ」
そう言って千雨が一歩踏み出すと、笑顔の千雨の幻影は砕け散り、真っ暗な空間に千雨1人だけとなった。
「というか、普通の生活を望んでたのに裏ではネットアイドルの活動をしてたのもそれも非日常だったと考えられるか。なんだ、やっぱりあたしは立派な3ーAの生徒の1人だったんだな」
自嘲気味に呟いた千雨は遥か先に見える小さな光に向かって歩きだしたのだった。
場面は変わりエヴァンジェリンは雪山にてアスナを一瞥してからマギの元へ向かっていく。
アスナはまだ気力で試練を乗り切ろうとしていたが、どうせ時間の問題だ。時間が経てば音を上げるそう判断した。
そしてマギがいるエリアに到着すると、マギは剣を一心不乱に剣を振っていた。
「おいマギ」
「……エヴァか」
深く息を吐いて、剣を振るのを一時止めたマギがエヴァンジェリンと対峙する。
「1人にしてまだ時間があまり経っていないが、お前のことだ少しは様になっただろう。見てやるさっさと構えろ」
「あぁ、分かった」
そう言ってマギは近くに刺さっている大剣を抜いた。抜いた剣の名はクレイモア。有名な剣の1つ、その剣を構えるマギを見てほうと感心の声をあげるエヴァンジェリン。
「少し目を離している間に構えが様になっているじゃないか。何度か振っている中で感覚が戻ったか?まぁいい、かかってこい」
「あぁ……いくぞっ」
マギは短く息を吐き突貫していく。前回と違い足運びもしっかり出来るようになっているが、まだまだとエヴァンジェリンは判断した。
「中々良い突進力だが、まだまだ足元がお留守だぞ!」
断罪の剣でマギの両足を切断する。切断され勢いを殺す事が出来ず前のめりに倒れそうになるマギ。
だがこれがマギの狙いだった。
「くっうぉぉぉ!」
気合いを入れ、半ば無意識で片手を魔力で強化し片手の力だけで上へと跳躍した。
そしてクレイモアを突き出し、自由落下を利用してエヴァンジェリンに向かって落ちていく。
「よく奇襲を思い付いたなマギ、流石だ。だが……そんな丸分かりな落下じゃ私に傷をつけることなど無理だと思え」
落ちてくるマギのクレイモアを断罪の剣で弾くともう片方の手から断罪の剣を展開してマギの頭を貫いた。
「――――――あ?」
「起きたか。どうだ気分は」
「強制的に意識が失って変な気分だ。俺、どのくらい意識飛んでた?」
「精々10分程度だな。だが先程の戦法はいい線をいっていたぞ。まぁ攻め方が愚直すぎたのが欠点だがな」
ふっと微笑みを浮かべながら
「この修行が順調に進めばお前ものどか達も大きく化けるだろうな」
「エヴァ、それどういう意味だ?」
マギが眉を寄せてエヴァンジェリンに問うとエヴァンジェリンはのどか達が魔女の聖水を飲んで魘されている事を聞いて、思わず立ち上がってしまうマギ。
「なんて無茶な事を……!今すぐ止めないと」
「心配するな、対処は茶々丸や茶々丸姉達に任せている。今のお前は自分の修行にだけ集中しろ。それにのどか達はお前のために自ら飲んだのだぞ」
「俺のため?」
そうだと頷いてエヴァンジェリンは続ける。
「魔法世界はお前達が思っている以上に危険な場所だ。一応治安がいい場所もあるがな。そのような場所に何も策無しで向かうのは愚の骨頂。のどか達がレベルアップすれば自分で対処出来るだろうし、お前のサポートも出来ると思っているだろう。マギも正直言って記憶を失ってから精神も不安定だ。調子がいいと思ったら急に不調になる。それなのにのどか達になにかあった時にはお前の精神が崩れる可能性もある。魔法世界に重い荷物は邪魔になるだけだからな」
エヴァンジェリンの説き伏せにマギも黙ってしまうが、その通りだと思った。過去の自分は分からないが確かに自分の精神は不安定だと思うところはある。ここはエヴァンジェリンの言うことに従う事が吉だと判断した。
「エヴァ、もう少しだけ俺に付き合ってもらってもいいか?」
「ああいいぞ。今度は魔法も使っていこう。ククク、簡単に折れるんじゃあないぞ」
あぁ分かったとマギはまた剣を構えてエヴァンジェリンに向かって突撃した。
……なおエヴァンジェリンは
「ほら魔法の矢だ。避けないと大変だぞ」
「あばばばばばば!!」
「今度は氷爆だ」
「ごぺ!?」
「ほらこれが闇の吹雪だ!!」
「どばぁぁぁぁぁぁ!!?」
と魔法の矢に体を貫かれ、氷爆で体を爆破され闇の吹雪できりもみ回転しながら吹き飛ばされと遠慮なく魔法を使用してマギを追い詰め、スタミナと精神が限界にきた。最後はふらふらの状態でエヴァンジェリンに突っ込みパリィされて心臓を貫かれて倒れる修行冒頭の光景となったのだった。
『どうしたですか?結局はこの程度だっただけですか私』
「あっあぐ!ぐ、あ……!!」
また戻り夢の中、今度はムッとした怒り顔の夕映と夕映が対峙していた。しかし夕映の方はうつ伏せに倒れており、苦しそうに蠢き呻いている。
始まりは直ぐ。夢の空間に立っていた夕映は直ぐに千雨と同じようにここは夢の中だと察した。
ここで何をすれば良いのか思案を巡らせていると、目の前に怒り顔の夕映が現れた。
急に目の前に自分が現れた事に構える夕映。恐らくこの現れた自分と何か行ってクリアしないと、この夢の空間から抜け出せない。そう察する事が出来た。さあ何をしてくるか分からないがかかってこい
『……貴女の名前はなんですか?』
「え?」
『貴女の名前はなんですか?』
「あっ綾瀬夕映……です」
急に名前を聞かれ、名を言う夕映。夕映が名前を言った瞬間に何処からかクイズ番組で使われる正解の際の擬音が聞こえてきた。
『貴女が尊敬する人は誰です?』
「私が尊敬する人、それはお祖父様です」
またも正解の擬音が聞こえる。
『貴女が救われたと思った時はなんです?』
「それは……お祖父様が亡くなって世界がどうでもいいと思った時にのどかやこのかやハルナと出会った時です」
正解。なんだこれはさっきから質問攻めばかりでずっと質問を返せばそのままクリアするのだろうか。
しかし質問攻めは急な方向転換をする。
『のどかがマギさんを好きになったことに、貴女はどう思ったです』
「どうって……親友が恋をしたんです。おめでとうと祝いたい気持ちだったです」
数秒経ってから正解の擬音が聞こえてきた。何故数秒経ってから正解の擬音が聞こえたのか疑問に思っていると少し違和感を感じた。
「あれ?なんか、少しだけ体が重く……」
少しだけ自身の体が重くなったような感じがした。といっても経った数百g重くなった程度の重さしか感じられないが
更に質問攻めは続く。
『修学旅行のホテルのイベントで偽物のマギさんにキスを迫られた時、貴女は何を思ったです?』
「なっ!?急に何を言うんです!?」
『早く、答えるです』
怒り顔の夕映は夕映に答えを急かす。心なしか先程よりも重さが増えたような感覚が来た。
「いきなりの事で驚いたのとのどかが居たのに私に迫ってきて許さないという思いで一杯だったです!」
そう答えた瞬間に不正解の擬音とブーイングのような声が響いたと思った瞬間にずんっと先程と比べ物にならない重さが夕映を襲う。
「なっなんで、急に重く……!?」
『違うです。貴女はその時それ以外の感情もあったはずです。正直に答えるです。貴女はその時どんな感情があったです?』
「っどっドキドキしたです。急に迫られて思わずドキドキとしたときめきの感情が私の体を巡ったです!」
またも正解の擬音が暗闇の空間に響く。体全体にのしかかるような不快感は消えたが重さが払拭することはなかった。
どうやら間違った答えを言うと重さが加算されるようだ。それもかなりの重さを一気に現に夕映は膝が付きそうになっている。
『次の質問です。貴女はマギさんが好きです?』
「すっ好き……です」
正解
『どんな所が好きです?』
「最初はいつも面倒だと言っていた人でした。けど本当は私達の事を考えてくれる真摯さと記憶を失っても再度歩きだそうとする折れない強さ……です」
暫くたってから正解。
『それでは、貴女はマギさんとお付き合いしたいです?』
「そっそれは……」
口をつぐんでしまう。時間切れ、不正解、ブーイング。さらに重さが加算され膝をついたと思いきやそのままうつ伏せに倒れてしまう。
「あっがっ……」
あまりの重圧にそのまま押し潰されそうになる。夢の中なのにそのまま意識が飛んでしまいそうだ。
『早く正直に答えた方が身のためです。もう一度聞くです。貴女はマギさんとお付き合いしたいです?』
「……はっはい。私はマギさんとお付き合いしたい……です」
正解。押し潰されそうになる重圧は消えたが、立ち上がることは出来そうになかった。
『それでは最後の質問です』
怒り顔の夕映は最後の質問と言った。これに答えればこの重圧からも解放されるかもしれない。夕映はそう思った。
だが、その最後の質問が夕映を更に重圧で押し潰すものだった。
『貴女はのどかを押し退けてでもマギさんを自分のものにしたいです?』
「なっ!?そんな事出来るはずないです!親友であるのどかを裏切る真似など出来るわけないです!!」
不正解不正解不正解不正解不正解不正解。ブーイングブーイングブーイングブーイングブーイングブーイング。
今までの比にならない不正解とブーイングの嵐が真っ暗の空間に響き更なる重圧が夕映を襲う。あまりの重さに夢の中なのに骨が軋むような音が聞こえてくる。このままではのしイカのようにペチャンコになってしまいそうだ。
「なっなん、でっ急に重っく……!!」
『それが貴女の罪の重さだからです私』
「罪!?私が何の罪を犯したです!?」
『私の罪、それは"嘘"です』
「う、嘘?」
自身の罪が嘘と聞かされ呆然とする夕映に怒り顔の夕映は続ける。
『自然界では擬態や擬似餌を使い狩りをする。生きるために獲物を騙して食らう。人も嘘をつく動物、時には他者を傷つけない優しい嘘もあるです。しかし私がついた嘘はマギさんにのどかへの答えを先送りにしようとしたこと。そしてマギさんを好きになったのをのどかに黙り通しをしようとしてのどかを傷つけた。親友と言っていたのどかを騙すなど許されざる罪です!!』
「ちっ違うです!確かに私はマギさんを好きになってのどかへの答えを先延ばしにするように言った、それは覆す事の出来ない事実です!親友を裏切る真似など許されないことです。だから私はこの恋を諦めてのどかを応援しようと……」
『言い訳を言うなです!!』
最後に口調が激しくなった怒り顔の夕映に弁明をするように夕映が色々と言うが、激昂した怒り顔の夕映に遮られ、更に重さが加算されてしまう。もうこれ以上の重さには堪えられそうにない。
『そうやって小賢しい言葉を乱立させて自分の想いを誤魔化す!その考え行いでのどかを悲しませたことがまだ分からないです!?』
ひどい言われよう、理不尽と思われるかもしれないが潰されている最中夕映はこうも言われて当然だと思っていた。
マギが好きになっても自分の本心を理屈でなかったこと、あり得ないと蓋をしてうやむやに誤魔化すような真似をした。
その時も心の片隅でそんな自分に怒りや呆れの感情があったのも気付いていたが見ないようにしていた。
それでこの結果か……夕映はもう諦めの境地に達していた。これが自分の罰であるならもう甘んじて受けよう。
夕映が真逆の想いを口に出そうとしたその時
『ゆえ―――』
悲しそうなのどかの顔が一瞬浮かんで霧散する。そんなのどかを思い浮かべぐっと歯を食い縛る。
重圧がなくなった。恐らくこれが最後のチャンスなのだろう。夕映はそう思った。ならば今自分が思っているこの想いを目の前のもう一人の怒っている自分にぶつけるだけだ。
『これが最後です。貴女はマギさんと付き合いです?たとえのどかを自分の親友を裏切ることになろうとも』
「……はい。私はマギさんとお付き合いがしたいです」
ですがっ重い体を何とか起き上がらせて何とか立ち上がった夕映が真っ直ぐもう一人の怒り顔の自分と向き合い。
「出来ることなら、のどかやエヴァンジェリンさんや茶々丸さんや千雨さんや亜子さん、風香さんや史伽さんや千鶴さん、マギさんを慕っている人と争うことなく裏切ることなく幸せに過ごしたい。ありきたりな一夫多妻のようなそんな漫画のような結果になっても、そうありたいと願ってるです。これが今の私の本心です」
今の自身の想いを包み隠さず伝えた。答えた後沈黙が続く。きれも不正解なのだろうか。また桁ましく鳴り響き、自分を今度こそ押し潰してしまうのだろうか。だがもうこれでいい。自分の本心は伝えたつもりだ。思い残すことは何もない。
「あぁ……でもこれで不正解だったら嫌だなぁ……」
―――――――――正解
「……え?」
先程までと全然違うか細い今にも吹いたら消えそうな正解音が聞こえ、押し潰そうとした重圧が嘘のように消えていた。
思わず怒り顔の自分を見るとまだ怒り顔ではあるが、少しだけ柔和になっている。
『それが、貴女のいえ私の本音です。けどいいです?貴女がなそうとしてることは重婚のようなもの、重婚は今の世では罪になるもの。今は子供の恋だとしてもいつかは瓦解するもの、その時に貴女は堪えれるです?』
「それは……正直分からないです。けど、今はこの瞬間を目一杯楽しみたいです。いつかきっと私達の関係がなくなるはずです。ですがこの一瞬一瞬が間違いではなかったと胸を張って言えるようになりたいです」
『……ならそうなるために、今は前だけを向いて歩くことです』
そう言って怒り顔の夕映は満足そうに笑うと砕け散った。残ったのは夕映1人。
「のどかや皆もこんな感じで自分と見つめあってるのですね……」
遥か先に見える微かな光に向かって歩きだす夕映。
「頑張ってです。のどかが、皆が私のように打ち勝てると信じてるです」
のどかもこんな暗闇に1人なのかと思った夕映。自身の親友の無事を祈るのだった。
残すことのどかだけとなった。しかしのどかの世界は夕映が思い浮かんでいる世界とはまた違うことを彼女は知らなかった。
「――――ここは、どこ?」
のどかが立っているのは真っ暗な空間……ではなく、色々な花で一杯の花畑だった。そして自身を見ると先程までの服装ではなく純白のドレスを着ていた。
小川のせせらぎと吹く風が心地よく、耳を澄ませば花達も歌が歌っている。
そして何処からかデフォルメされたうさぎや羊犬やらのぬいぐるみが現れ跳び跳ねたり回ったりと楽しそうにダンスを踊っている。
微笑ましい光景にのどかも最初は自分が花畑に立っていたことに警戒したが次第に心を許し顔が綻んできた。
するとうさぎのぬいぐるみがのどかに近づき手を引っ張る。どうやら一緒に踊りたいようだ。
踊ることを同意し一緒にぬいぐるみ達と一緒に楽しく踊り始めるのどか。
なんだか不思議の国のアリスの様だと思い笑みが浮かび上がる。
「うふふ、あはは」
ついには笑い声がこぼれたその時
『クスクスクスクス』
この穏やかな世界には似つかわしくない嫌な笑い声が聞こえる。
「っ!誰!?」
思わず踊るのを止め、笑い声が聞こえた方を見る。そこには自分が立っている。
しかし服は純白のドレスの反対の漆黒の黒いドレスで、髪の色も脱色しているのか白髪だ。
「わっ私?」
『そうよ。初めまして、になるのかな?表の私。私はそうね……"闇のどか"ってことにしましょうか』
「闇の、私?」
そうよとクスクスとまた笑う闇のどか。その笑いにはどこか色香を感じられる。しかし年相応ではない歪な色気にどこか不気味さを感じたのどか。
後退りすると闇のどかは此方に近づいてくる。闇のどかが近づくと闇のどかの足元にあった色とりどりの花は真っ黒の黒花になってしまう。うさぎや羊のぬいぐるみ達も闇のどかが近付くと一瞬ドロリと溶けた後に全身が真っ黒なぬいぐるみへと変わってしまう。
『私は、これまでの恥ずかしい時の嫌悪感、自分の気持ちを伝えられなかった時のもやもや、そして……マギさんに群がる雌共への敵意。それらの小さな負は最初は自我なんてなかった。けど日々、年々と負が積み重なって積み重なって私は自我を持てる程に成長した』
「そんな、私ゆえやエヴァさんにそんな気持ち持ったこと」
『ないって本気で言いきれる?少しの敵意、嫉妬が積み重なって私は自我を持ったって言ったわよね』
闇のどかの言ったことを否定しようとしたのどかの頬に指をゆっくりと這わせる闇のどか。氷のように冷たい指が頬に当たり全身の産毛が逆立ったように感じた。
『おっちょこちょいの私が怪我しそうになった時にマギさんに助けて貰った。それまで男が苦手だったのに助けて貰ったらころっと落ちちゃうなんて随分単純よね。その後双子がマギさんを気にするようになって、引きこもり気質のコスプレイヤー、次にエヴァンジェリン、傷持ち、ロボットに金持ちお嬢様、夕映にそう言えばウルスラのあの女もマギさんに色目使ってたわよね』
「っ!エヴァさんやゆえ達の事を悪く言わないで!!」
だって事実でしょ?のどかの反論を鼻で笑う闇のどか。気がつけばぬいぐるみ達がのどかと闇のどかを囲うように輪を作り徐々に輪を縮めていく。花も黒花なったものから次々と腐っていき、どす黒い泥へと変わっていき、のどかの足が少しずつ沈んでいく。穏やかだった風も吹き飛ばされそうな突風へと変わり、歌も背筋が凍るような叫び声呻き声へと変わっていく。
『エヴァンジェリンがマギさんを独り占めするような真似して、ずるいと思った。そうよね?私の初恋の相手を父親から息子に鞍替えしたあばずれの好き勝手さに嫌気がさしたよね?それに応援するって言ったのに私の好きな人を好きになった裏切り者……もううんざり。だから、いっそのことマギさんと愛の結晶を作っちゃう?』
「あ、あなたは何を言ってるの?」
闇のどかのぶっ飛んだ提案にのどかは目を丸くしてしまう。
『マギさんと私との間に隙がなきゃ他の女達がマギさんに手を出せなくなるでしょ?好きな人と友達が仲良くする。何馬鹿な事を言ってるの?所詮世の中奪い合いが常なんだから。だったら好きな人を独占するのは当たり前でしょ?あ、もしかしてまだ初な表の私じゃまだマギさんに初めてを捧げるのは無理かな。だったらその時は私が表に出てあげる。慣れてきてから表の私が出てくればいいわ。大丈夫、表の私が出てくる頃にはマギさんは私なしじゃいられない体に』
「やめて!!!」
闇のどかの悪魔の囁きを大声で遮るのどか。もうこれ以上闇のどかの戯れ言を聞きたくないと耳を手で塞ぐ。
『それかいっそのこと……殺しちゃおっか。邪魔な奴消して消して消して消して消して。まぁエヴァンジェリンは不死身だから苦労しそうだけど、そっちの方が効果的よ。その時は私がやってあげるわ。大丈夫、せめての情けで苦しまないようにしてあげるから』
そんな事を言っていると、いどのえにっきが急に現れ勝手にページが開きのどかに見せる。そこのページに書かれていたのは
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
ページに余すことなく乱雑に書きなぐられた殺すの文字。あまりの多さにページが真っ黒になってしまっている。恐ろしくなり思わずいどのえにっきを放り投げる。いどのえにっきはそのまま泥の中へ、ゆっくりと沈んでいく。
色々と酷いことが起こりすぎて、虚ろな目で耳を塞ぎ、のどかは自分の感情を爆発させた。
「エヴァさんにゆえのことを酷く言って、大事な純潔を簡単に散らすようなことを私の大事な人達を殺すなんて言うなんて……そんなの、そんなの私じゃない!!!」
闇のどかを否定するように叫んだ瞬間、ぬいぐるみも黒い泥も吹き飛んだ。そしてのどかが立っている地面が砕け散りのどかはまっ逆さまに落ちていく。
「きゃああああああああああああ!!」
落ちていくのどかは悲鳴をあげ、闇のどかは浮かびながら落ちていくのどかを見下ろしている。
『やっぱりまだ表の私の自我の方が強い、か。残念ー、このままあなたを呑み込んで私が表に出ようと思ったのに。まぁいいわ、まだ何もしないでおいてあげる。けど私はあなた、あなたが私を否定し続ければ私はあなたの中でどんどん大きく力をつけていく。くれぐれも私に呑み込まれないように気を付けることね。アハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハ』
闇のどかの笑い声が真っ暗な空間で響くのだった。
「―――か―――どか!―――のどか!のどか目を覚ますです!!」
「………んぅ、ゆ、ゆ……え?」
「のどか!目を覚ましたです!?」
夕映が必死にのどかを呼び掛けていてのどかがゆっくりと目を覚ました。ほっとした夕映がのどかのことを優しく抱き締めた。
「あんたが最後まで寝てたからなのどかさん。さっきまで凄く苦しそうに魘されてたから茶々丸さんも薬を投与するか迷ってたから」
「のどかさん、無事に目が覚めて本当によかったです」
千雨や胸を撫で下ろした茶々丸がのどかの状態を話してくれる。どうやら自分達は丸1日魘されており、のどかは一番最後の目覚めだったようだ。
確かに今の自分は凄い寝汗だ。よっぽど酷く魘されてたのかを物語っている。
ねぇと亜子が手を上げて何かを言おうとする。
「自分が言える範囲でいいから夢の中で何があったか話し合わん?ウチは過去のトラウマを抉ってくるような嫌な夢やったわ。けど何とか乗り越えられたわ」
「あたしは一言で言うなれば自分のありかた、だな。誹謗中傷言われたりストーカーに襲われそうになったが、まぁ元々自己完結してたものだったし大したことはなかったさ」
「私は、自分の罪と見つめ合ったです。けどもう私は迷わず自分の想いを胸に前を進むです」
「私は……ごめんなさい。今はとても怖いものを見たとした言えない」
のどかだけはぐらかして答えた。言えない。自身が体験した夢を今は正直に語れるのは難しい。のどかの沈んだ表情で気まずい空気が漂う。
「まぁ皆無事に目が覚めたんだ。これで第一関門は突破したと見ていいだろ」
千雨が気まずい空気を払拭するために話を続ける。亜子や夕映は千雨に同調するように頷き、のどかもぎこちないながらも頷いた。自分は夕映達が言っているように自分の壁を乗り越えたのだろうか……いや乗り越えていないとのどかは結論付けた。自分は闇のどかを否定した。それなのに何故自分は目覚めたのか、今はそれが分からないため不安でしょうがない。すると
「ほぉ、随分早くに目が覚めたな。もう少し寝ているかそれとも駄目かと思ってたぞ」
「皆……」
「のどかお姉ちゃん!!」
不敵な笑みを浮かべるエヴァンジェリンと心配そうにのどか達を見ているマギと泣きながらのどかに飛び込んでいくプールス。
自分達に酷い目に合わせた張本人が現れた事に千雨が顔を強ばらせエヴァンジェリンに歩み寄る。
「よぉ。無事にお目覚めしてやったぞ。目覚めたら最初にあんたをぶん殴るって決めてたんだよ」
「ほぉ随分な言いようだな。力を求めていたのはお前達だっただろう?それに証拠にお前達随分と魔力を身につけたようだな。気が付いていないのか今の自分の状態を」
「は?……ってなんじゃこりゃ!?」
エヴァンジェリンに言われて千雨やのどか達は漸く自分達の状態に気付いた。今ののどか達は体に魔力のオーラで身に纏っている状態だった。エヴァンジェリンは順々にのどか達を見る。どうやらのどか達の魔法の属性を測定しているようだ。
「和泉亜子、お前の属性魔法は水のようだな。それに、珍しいな歌の魔法も開花してるようだな」
「う、歌の魔法?」
「よくアニメやゲームであるだろ。歌を歌って仲間を強化するそういう奴だ。クラスの奴らとバンドをしているだろう。それが影響してるのだろうな」
なっ成る程と、自身の属性の魔法と珍しいと言われた歌の魔法にどこか嬉しさを感じる亜子。
「次に長谷川千雨だがお前は雷の属性が強いな。流石はネットアイドルという所か。それと噪演魔法も使える様だな」
「余計なお世話だ!んでその躁演魔法って何だよ」
「私の人形使いみたいなものだな。しかし何処か違う所がありそうだな。さて、どんなものか楽しみだな」
くくくと笑いはぐらかすエヴァンジェリンに少し苛立つ千雨。勿体ぶらずに全部話してくれないともやもやしてしまう。
「それで綾瀬夕映だが、ほぉ雷と風か。どうやら坊やと同じ属性でお揃いとはな。どうだ綾瀬夕映、今からでも坊やに鞍替えするか?」
「それこそ冗談です。私はマギさんのため、そしてみんなのためにこの力を振るうです。その想いに嘘はないです」
ネギと魔法の属性を茶化されるが夕映は真っ直ぐとエヴァンジェリンを見てそう答える。そうかと夕映の答えにそれ以上は何も言わないでおくエヴァンジェリン。
そして最後はのどかであるがのどかのオーラを見て少々顔をしかめるエヴァンジェリン。
「最後はのどかだが、お前は……マギと同じ火と"闇"だな。それもどちらかというと闇の方が強いが大丈夫か?それにまだふらついているが」
「だ、大丈夫。さっきまで寝ていたからまだ本調子じゃないだけだよ」
のどかに飛び込んだプールスが心配そうにのどかの顔を覗き込んで、のどかは心配をかけないように微笑みながらプールスの頭を撫でるのどか。
しかしエヴァンジェリンから見て、のどかだけがオーラが不安定で歪なのだ。そのままオーラがのどかを呑み込んでしまいそうだ。
(何もなく杞憂であればいいのだが。今はのどかの言うことを信じるとするか)
そう思うことにした。これが後悔する展開にならなければいいのだが……
「皆」
と黙っていたマギが口を開いた。
「最初にこれを言うには辛い事に耐えた君達に言うことじゃないが、こんな無理なことをしないでくれ。君達に何かあったらそれこそ俺自身どうにかなってしまいそうだ」
マギにそう言われのどか達は顔を沈める。けど、とマギは話を続ける。
「自惚れるなって言われるかもしれないけど、正直言って嬉しさを覚えている自分もいる。ありがとう」
お礼を言うマギ。
「なに言ってるんだよマギさん。マギさんのサポートが目的だけど自分の自衛も出来ないとだろ?戦えるNewちうを楽しみに待ってろよ」
「ウチあんまりマギさんや皆の役に立てなかったら、だから今度は好きな歌で皆を手助けするから」
「私も迷いなく、好きなマギさんやのどか達のためにこの力を振るうです。だから期待して待っていて欲しいです」
「わ、私もマギさんのために頑張って修行します。だから応援してくれると嬉しいです」
のどか達がそう返すと
「……やっぱり俺って幸せ者だな。こんな素敵な子達に慕われているんだから」
とポツリと呟いた。ここで終われば染々と良い話で終わりそうだが咳払いをしたエヴァンジェリンがそうはさせない。
「あーお前達分かっているだろうが、今のお前達はトンネルを発破で強引に入り口を開けたに過ぎない。これから舗装して入り口を作りしっかり魔力の通り道を作らないとだぞ。まだまだ地獄の修行は今回のは入り口にすぎない。今からでも間に合うぞ」
エヴァンジェリンの脅しにのどか達は動じない。のどかの覚悟が決まったのを見てエヴァンジェリンはにやりと笑い
「そうか、では今日はゆっくりと休み、明日はお前達の魔法の詠唱キーを決めておけ。明後日からは引き返しておけばよかったと思うような修行を行うから覚悟しておけ」
こうして、魔法に片足を突っ込んだ少女達の最初の試練は突破した。しかしまだまだ波乱万丈な修行が待っているだろう。
しかし少女達は決して心が折れるずに最後まで乗り越えようと固く誓ったのだった。