堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

134 / 179
目覚めよ獣性 求めよ本能

修行3日目。アスナは雪山で凍死一歩になりかけながらも咸卦法を無意識に発動して何とか死なずに済んでいた。

一方ののどか達はネギに魔法の発動の詠唱キーが何なのかを教えてもらい、最初は自分に合うしっくり来る言葉が何かを探すことから始め、決めてからは最初は魔法の矢を出すことからが最初のステップだ。

しかし無理やり魔力の入り口をこじ開けたせいか、上手くコントロールするのが難しく、魔法の矢が明後日の方向に飛んでいったり、巨大な魔法の矢が放たれ大騒ぎになったり、魔力を放出しすぎて直ぐにガス欠になったりと問題だらけだった。多くの課題があるなと思ったネギである。

そしてマギは……

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

今日も雄叫びを挙げながらエヴァンジェリンに突貫している。

 

「ふっ今日も元気があるな」

 

そう言い微笑みを浮かべるエヴァンジェリンは容赦なく魔法の矢をマギに向かって放つ。その数優に100を越える。

 

「っ!!くぉぉぉ!」

 

マギは近くに刺さっているロングソードとブロードソードを抜く、そして双剣に魔力を流し込み強度を高め、迫ってくる魔法の矢を高速で剣を振り叩き落としていく。

全て叩き落とした頃には両腕の剣は刃こぼれが酷く使い物にならなくなった。直ぐに捨てて今度は湾曲した剣、ショーテルと同じく湾曲した短刀ククリを引き抜くと

 

「おらぁ!!」

 

魔力で強化した腕力でショーテルとククリを投擲する。高速で回転する湾曲の剣がエヴァンジェリン向かって飛んでいく。

 

「いいぞマギ。初日に比べて思いきりがついてきたじゃないか」

 

マギの戦い方を誉めながらマギが投擲したショーテルとククリを断罪の剣で弾き飛ばす。

その間にマギが間合いに入り、野太刀を横凪に振るう。しかしそれも断罪の剣によって防がれてしまう。

 

「くっはぁ!!」

「まだまだ甘いぞ」

 

もう一度野太刀を振るうがエヴァンジェリンにパリィされてしまい、左腕を斬り飛ばされてしまう。

 

「つっ、つぅーーーー!!」

 

マギは斬り飛ばされてしまった左腕に意識を集中する。すると斬り飛ばされた時に出た血が糸のようになり、左腕の斬れた断面と左腕とを繋げる。そしてそのまま近くに刺さっていたバスタードソードを掴むと

 

「くおぉら!!」

 

左腕を振り回しながらバスタードソードを乱舞して振り回す。だが

 

「ぐは!?」

 

上手くコントロール出来ずにそのままマギの体に刺さるという自爆をかましてしまった。

あまりにお粗末な自爆に深い溜め息を吐いたエヴァンジェリンはゆっくりとマギに近づき

 

「まだまだ詰めが甘いぞ馬鹿者」

 

魔力を込めた寸勁をマギの体に当てる。数秒は突っ立っているマギであったが

 

「………ごぱ」

 

口から普通の人であるなら致死量であるだろう血を吐き出しそのまま倒れてしまう。どうやらエヴァンジェリンの寸勁でマギの内側が破壊されたのだろう。

 

「マギ、お前は確実に少しずつ成長している。だがお前はまだ足りないものがある。それは……と今のお前に言っても無駄か」

 

白目を向いて痙攣してるマギに言っても意味はない。

 

「早く成長しろマギ。お前が直ぐに強くなると信じてるぞ。あぁ茶々丸、マギが倒れている。お前が今すぐ来い」

 

念話で茶々丸に来いと命じ、エヴァンジェリンは雪山を去っていった。

 

 

 

 

 

「うっ、うぅ……ん」

「お目覚めですかマギ先生」

 

次に目を覚ましたら何時も自分が寝泊まりしている洞窟で、外は真っ暗で夜になっていた。

マギの隣には茶々丸が座っており、焚き火がぱちぱちと鳴っている。どうやら茶々丸がマギが目覚めるまで付きっきりでいたようだ。

 

「ありがとう茶々丸。俺が目を覚ますまでいてくれたんだろ。体冷えてないか?」

「いっいえ、私は人ではないので寒さには平気ですし、マスターの命ですから。それに、私もマギ先生と一緒にいれるのは嬉しいですし」

 

茶々丸は自身の体が熱くなるのを感じている。そう言えばマギと2人でいるのは久方ぶりだっただろうかと少し懐かしさと嬉しさを感じる茶々丸。

とマギの腹が鳴った。恥ずかしさで顔を掻くマギに茶々丸は微笑みを浮かべる。

 

「マギ先生、簡単なご飯を用意しました。焼き魚とスープとおにぎりです」

「お、美味そうだ。けど、俺ばっかこんな待遇よくて良いのか?確かアスナもここの雪山でサバイバル修行をしてて初日にネギが色々とアスナにつくしてたらエヴァにぶっ飛ばされたんだろ?俺だけこんな良い思いしたら納得しないんじゃないか?」

 

こんな状況を見たら極限状態のアスナはずるいと喚くだろう。いやアスナじゃなくとも不公平だと異を唱えるだろう。

しかし茶々丸は冷静にこう答えた。

 

「これはマスターが言っていたことですが『確かに神楽坂は一度凍りつけばそこで死ぬ。そうならないように何かあったら私が救助する。だがマギは人として死ぬことはないが、肉体は何度も私に殺されているし、精神も肉体のダメージによって消耗してしまう。ならばこれぐらいの待遇はマギの精神を保つための救済措置だ』とのことです。私自身もマギ先生が身を削るその修行法は見ていて胸が痛みます。ですから今この時だけは少しでも心を休ませてください」

 

正直、エヴァンジェリンと茶々丸の好意には感謝している。死なないからと言っても体を貫かれ、切り裂かれ、氷の暴風で体をきりもみにされてたらいくら不死身でも精神は死にそうだ。

いただきますと言い、茶々丸が用意してくれた料理を口にする。簡単なスープだが暖かさが全身に染み渡る。焼き魚も程よい焼き加減塩加減で、握り飯も塩しかない握り飯だが噛み締めると幸福感が口一杯に広がった。

ものの数分で食べきってしまったが、よく味わって食べたから満足なマギである。

 

「お風呂も用意していますので、ゆっくりとつかって疲れを癒してください」

「何から何まで、すまないなありがとう」

 

自身のビームサーベルで雪を溶かし即席のお風呂を作った茶々丸に改めて礼を言い、お風呂で疲れを癒すのだった。

 

「―――ふぅ。いい湯だったよ」

「少しでも体が癒えてもらえたら私も幸いです」

 

長風呂でしっかりと疲れを取ったマギは着替えて焚き火に当たる。

 

「マギ先生、修行の方はどうでしょうか?」

「そうだな、段々と戦い方が分かってきた積もりだけど、何時もどこかで失敗してエヴァにやられて終わりだな。何でなんだろうな」

 

自身の腕を遠隔操作しようとしたが失敗してしまったことにへこんだ様子を見せるマギに茶々丸が

 

「それは、マギ先生が優しい人ですからマスターが傷つくのを恐れて本能で加減をしてしまっているのでしょう。大丈夫です。マギ先生は少しずつ成長しています。焦らなくても大丈夫ですよ」

 

と優しい言葉で励ましてくれるが、マギはもやもやが残っている。自分に何かが足りない。だがそれが分からない。今の自分に足りないものがなんなのか考えていると。

 

「ケケケ。相変ワラズ、我ガ妹ハ好キナ男ニハ大甘ダヨナ」

 

と何処からか声が聞こえてきた。声の正体を探すと。

 

「ヨォ」

 

と茶々丸の髪を掻き分け、チャチャゼロが現れそのまま茶々丸の頭に乗り掛かった。

 

「お姉様、付いてきたのですか?」

「オゥ、何カ面白ソウダト思ッタカラ勝手ニ付イテキタゼ」

 

人形だからか無表情なチャチャゼロがケタケタと不気味に笑う。

 

「お姉様、私が大甘というのはどういう意味ですか?」

 

茶々丸が少しだけ口調を強くするが、チャチャゼロは飄々としたような態度を見せて

 

「御主人ヤ我ガ妹ト違ッテ俺ハオ前ニ恋愛感情ヲ持ッテナイカラナ、ハッキリ言ッチマウガ、オ前マダビビッテルンダロ?」

 

図星だったのか固まるマギを見てケタケタと音を立てて笑うチャチャゼロ。

 

「ケケケ。マダ心ノ片隅デ自分ガ不死身ナ事ニ抵抗ガアルンダロウヨ。マァ記憶喪失デ新タナ人格ガ自分ガ死ヌコトガ出来ナイと知レバ困惑スルダロウゼ」

「それは、そうだが……」

「オ前ハモウ人ジャネェンダカラヨ、痛ミモ人間ノ時ノ名残ミテェナモンダロ。ソンナ名残サッサト捨テチマエバ、手ットリ早ク強クナッテ御主人ニ勝テルダロウヨ。俺トシテハ御主人とオ前ガ互ノ傷カナグリ捨テテ雪ヲ血デ真ッ赤ニ染メ上ゲルノヲ所望スルゼ」

 

とこれ以上チャチャゼロに喋らせないように茶々丸がチャチャゼロの口を押さえて喋らせないようにする。

 

「まったく、マギ先生にアドバイスを言ったつもりでしょうが、お姉様は口が悪すぎます。そんな軽々しく言えばマギ先生も困ってしまいます」

「ケケ、ダガソンナ悠長ナ事ヲ言ッテイル時間ガ無イコトモ分カッテルダロ?」

 

チャチャゼロの返しに黙ってしまう茶々丸をケタケタと笑うチャチャゼロ。そのままチャチャゼロを持ちながら洞窟の外へ、そろそろお暇するようだ。

 

「マギ先生、お姉様の言ったことはあまり気にしないで下さい。ですが、これだけは覚えておいて下さい。マスターは自分の痛みを忘れても、人への痛みはずっと覚えています。どうかマギ先生も人への痛みは忘れないで下さい」

「ケケケ。次見ニ来ル時ハモット楽シイ戦イヲ期待スルゼ」

 

それではとジェット噴射をして洞窟を後にする茶々丸である。

 

「人としての名残を捨てろ、か……」

 

チャチャゼロが言っていた事を復唱するマギ。だがそれは自身にとって大事なストッパーであることも理解していた。

どうするべきか、そんな事を考えながら魔力を回復するために就寝するのだった。

 

 

 

 

 

「よぉ、初めましてだな俺!」

 

夢の中、真っ暗な空間で俺に会った。マギはそう思った。

目の前のマギは一回りがたいがいい筋骨隆々と言って良いほどで体の色は3ーAにいる真名の褐色以上の漆黒であった。

服装もチェーン付きのジーパンに上半身は裸に革ジャンと、野性味溢れるワイルドと表した方がいいだろう。

 

「お前は何だ?俺の何なんだ?」

 

マギが訪ねると、ワイルドなマギはニヤリと笑う。笑った瞬間に牙のような鋭利な歯が現れる。

 

「俺様は破壊の黒マギさんと呼ばれてるぜ」

「何だよそのダサいネーミング」

「仕方ねえだろ理性の白マギの奴が勝手に呼称したんだからよ。そんなんだったら黒い野獣、BLACK BEASTマギとか荒ぶる獣、RAGING BEASTマギとか。呼び方なんてこっちの方がいかすよな」

「いやその2つも破壊の黒マギとそんな大差ないだろ。むしろ英語にしたせいで逆にださく感じる」

「んだよつまんねえ事を言うもんじゃねえぜ俺よ」

 

やれやれとおどけた様子を見せる黒マギに少々苛立ちが出てきたマギは

 

「それでお前はどういった存在なんだよ。お前が俺っていうことは分かるが」

 

目の前の黒マギが何者なのかを訪ねる。

 

「俺様は簡単に言えば本能の化身って所だな。お前の前の人格、つまりは記憶喪失前のマギ・スプリングフィールドが闇の魔法を乱用した結果、本能が闇の魔法で侵食され破壊の黒マギに変貌した」

「そんなお前が何で俺の前に?まさかその理性の白の俺と前の記憶の俺は破壊の黒の俺にやられたのか?」

 

いやと黒マギはマギが思い浮かべた最悪の結果を否定した。

 

「今も理性の白の俺と前の記憶の俺は大本の俺様と寝ずに戦っているぜ。まぁ精神が寝ずに戦うってのも何だか可笑しな話だけどな。俺様はまぁ蜥蜴の尻尾みたいな、破壊の俺様の残滓みたいなものさ。まぁ残りかすだからお前さんと話が出きるんだけどな」

 

快活に笑う黒マギを見て何とか目の前の黒マギがどういう存在かは理解した。

 

「それで何で俺の前に来た。まさか挨拶するだけに俺の前に来たんじゃないよな」

「あぁ。ずばり、エヴァに勝てなくてモヤモヤが溜まっている俺に俺様が手助けに来たってわけさ」

 

黒マギの手助けの言葉に訝しげな表情を浮かべていると

 

「俺様を受け入れろ。獣のような力強い獣性を、何者も破壊し強い相手に勝ちたい本能をよ。そうすればエヴァに勝てるだろうよ」

「だが、そんな事をすれば下手すれば俺は暴走するかもしれないだろう?」

「おい、おいおいおいおい。なにビビってるんだよぉ俺ぇ」

 

抵抗の色を見せるマギに黒マギは獰猛な笑みを浮かべ肩を組んでくる。

 

「俺様達はあの魔法世界に行くんだろ?どんな危険があるか分からないし、不死を断つ武具あっても可笑しくない。それにこんな所で悠長に修行をしてクソ親父の手掛かりをみすみす逃す可能性もある。最悪、のどか達に何かあったらどうするんだ?」

「それは、そうかもしれないが……」

 

まだ渋るマギに黒マギは甘い誘惑を囁く。

 

「それに、女の子っていうのは強い男に護られる方が心惹かれるもんだぜ。俺だって気になる女の子を護れば良い気持ちになるだろう?そんな事ないとは言わせねぇぜ。いい加減素直になっちまえよ」

 

どれほど時間が経ったか分からないが、黙っていたマギがゆっくりと首を縦に振った。

そんな様子を見せたマギを見て今まで以上に深い笑みを浮かべた黒マギはすっとマギに向かって手を伸ばす。

 

「そうと決まれば善は急げ。俺様の手を取れば直ぐ様俺に力が譲渡されて、俺は更に強くなる。獣の、本能の力をな」

「……」

 

マギは黙って黒マギの手を取り、力強く握手をする。その瞬間、マギの体に当てるとてつもない力が流れ込んでくるのを感じた。

 

「ディール。ここに契約は完了した」

 

あぁそれと、と黒マギは何かを言い忘れたとわざとらしい態度を見せながら

 

「俺様は自分の事を残滓や残りかすって言ったけどよ。それでもかなりの力があると自負してるから、扱いには気を付けろよ」

「どっどういうことだよ?」

 

こういう事さと黒マギが言った瞬間、黒マギが溜め込んでいたであろう。本能の、否"闇"が一気に爆発して放出された。

目の前でどす黒いと言って言い程の漆黒の深淵の闇が迫ってくる。

いけない、これは今の自分に扱える代物じゃない。そう感じたマギは逃げようとするが、動けない。黒マギががっちりと握手をしている手を決して緩めていないから。

その間に深淵の闇がどんどんとマギの体に入って来る。

 

「うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「さぁ、俺様のこの力を上手く使いこなすことが出来るのか。はたまた俺様に呑み込まれるか。内側からじっくりと観戦させて貰うぜ。クハハハハ!」

 

マギの悲鳴と黒マギの高笑い。それはマギが目覚めるまで延々と続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

修行4日目。まず最初にエヴァンジェリンはアスナの様子を見に行った。理由はただ単純、そろそろ限界に近づいていると読んでいたからだ。

現にエヴァンジェリンは岡の上からアスナを見下ろしているとうつ伏せで雪原に倒れているアスナがいた。手にはギブアップ用のハンドベルを持っている。

そうだ鳴らせ。そこでお前は終わりだ。エヴァンジェリンはアスナが結局折れてしまうと思い込んでいた。

だがそれは違った。アスナは折れかけていた精神を強引に奮い立たせ、エヴァンジェリンを絶対に見返してやると心に決めて咸卦法を発動してエヴァンジェリンに大声で悪態を吐いた後にハンドベルを見えなくなるまで遠くに放り投げると叫びながら駆け出していった。

限界を超えてむきになって更に成長したアスナ。このまま7日間を耐えきってしまうだろうなと、そうなったらそれはそれで楽しみだと思ったエヴァンジェリンである。

そんな事を考えている間にマギがいる場所に到着した。

 

「待たせたなマギ。今日も修行を開始する……マギ?」

 

返事がない。何時もならここで反応を返すマギだが、俯いたままで黙った状態だ。すると

 

「うぅ、うぅぅぅ……うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「おっおいマギ、一体どうしたんだ?」

 

エヴァンジェリンの心配など他所に唸りながらマギは近くに刺さっている剣の柄を掴む。

その剣はあまりに武骨過ぎて、剣の形をした鉄塊と言った方がいいだろう。大きく分厚い、この剣を使えばドラゴンでさえ叩き殺せそうだ。

剣の名はグレートソード。某隻眼隻腕の狂戦士が使っている剣に似ていた。おそらくこれもエヴァンジェリンの趣味だったのだろう。

そんなグレートソードの柄を強く持った瞬間、マギの足元からどす黒い深淵の闇が溢れ出す。そして

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

狂ったような雄叫びを天に向かって挙げながらグレートソードを一気に抜く。グレートソードには大きめな氷塊が付いたままだ。そしてその氷塊を

 

「アァァァァァァァァ!!」

 

叫びながらグレートソードを振り回し肩に担いだと思いきや遠心力を使い氷塊をエヴァンジェリンに向けて発射させた。

唸りを挙げながら高速でエヴァンジェリンに向かう氷塊。だがエヴァンジェリンは魔力で強化した腕で易々と氷塊を止めてしまう。

そして徐々に手に力を込めて氷塊にヒビが入りやがては轟音を立てて砕け散った。

 

「どうしたマギ。今日は随分と野生的だな」

 

表面上は何ともないと装っているが、内心で考察が走る。

 

(急にマギはどうしたっ?昨日まで普通だったのに、今のマギは暴走してるとしか考えられん。それにあの闇は何だ。まさか闇の魔法が発動してるのか?いや、その気配はまったく無い。あの闇はマギに溜まっているものが漏れだしているのか……)

 

エヴァンジェリンが考察をしている間にマギは口からお構い無しに涎を垂れ流しにしており、片腕でグレートソードを肩に担ぎながら四つん這いになる。その姿は正に獣だった。

 

「ぐるるるるるるるるる……」

「どっち道今はガス抜きをするのが先決か……さぁこいマギ、かかって来い」

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

四つん這いのまま獣のように真っ直ぐとエヴァンジェリンに向かっていくマギ。そしてある程度の距離になると両足をバネのようにして跳躍し、グレートソードを縦に回転させながら、エヴァンジェリンに向かって叩きつけた。回転したことによって速さが付き更に威力が倍増する。

エヴァンジェリンは紙一重で避ける。グレートソードは地面に叩きつけられ叩きつけられた場所は轟音を立てながら砕けた。

 

「がぁぁ!がぁぁぁぁぁ!!」

 

バックステップで後ろに下がった後に突き攻撃をし、下から上に上がる昇龍拳のような凪払いの回転斬りを繰り出した。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして数秒滞空したと思いきやエヴァンジェリンに向かって突き刺し攻撃を仕掛ける。

 

「まったく、獣のように吠え狂戦士のように振る舞いながらも、しっかりと攻撃はしてくるのだな」

 

呆れと感心が混じった感嘆の声を挙げながらエヴァンジェリンはマギの攻撃を避けていく。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!」

 

ネギも使ったことのある雷の斧をマギに向かって落とす。これが当たれば少しは堪えるはず。だがマギはグレートソードを盾にして雷の斧を防ぐ。雷の斧が当たってもひびは1つも付いていない。マギが魔力で強度を増しているかもしれないが、それでも頑丈な作りのようだ。

 

「ぐるる」

 

今度はこちらの番と言いたげにマギは近くに刺さっていた剣を何本か引き抜き上へと放り投げる。そして落ちてきた瞬間に

 

「がぁぁ!がぁぁ!がぁぁ!!」

 

柄頭を殴り蹴り、剣を弾丸の様に飛ばす。真っ直ぐ飛ぶ幾つもの剣、それはエヴァンジェリンを突き刺そうと向かっていく。

だがエヴァンジェリンは向かってくる剣を冷静に断罪の剣と近くに刺さっていたブロードソードを引き抜き2刀流で弾き落とす。

甲高い音と火花が飛び散り、弾かれた剣はまた雪原に深々と刺さる。

 

「がぁぁ!ぐるぁぁぁぁぁぁ!!」

 

と今度は短い短剣を引き抜き肉薄してくる。そして間合いに入った瞬間、マギは短剣を雪原に突き刺し、勢いを殺さず大きく弧を描くように短剣を中心に右に薙ぎ払いの攻撃を右が終われば次は左に大きく薙ぎ払いをしかける。そして最後に跳躍し一回転をしながら剣を振り下ろした。

だがこれもエヴァンジェリンは楽々と避けてしまう。色々と多彩な技を繰り出すマギだが、どれも愚直で分かりやすい。マギの咆哮や雰囲気に呑まれなかったら落ち着いて冷静に対処できるものだ。

 

「いいぞマギいい戦い方だ。暴走している方がいい動きをするというのは複雑だがな……しかし攻撃の仕方が真っ直ぐ過ぎるのは考えものだな!」

「ぐるぁ!?」

 

マギの連撃の最後を避け、かるくジャンプしたエヴァンジェリンはマギの横っ面にローリングソバットをお見舞いする。

蹴り飛ばされたマギは何度か雪原をバウンドした後に地面に叩きつけられる。が直ぐに勢いをつけて起き上がる。何時もならここで少しはダメージを見せるものだが、まったく堪えている様子が皆無だ。

 

「これだけ攻撃しても堪えないか……ならば、少しは本気を出しても問題ないな。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来たれ氷精 闇の精 闇を従え吹雪け常夜の氷雪 行くぞマギこれが私の本気だ。闇の吹雪!!」

 

手加減なしの本気の闇の吹雪がマギに向かって放たれる。しかしマギは動じることなくむしろ

 

「がぁぁぁぁぁ!!」

 

雪原を思い切り殴った。次の瞬間、雪原にヒビがはいったと思ったら忍者が行うような畳替えしのように巨大な雪の壁となってそびえ立ち、マギを闇の吹雪から護る。氷の壁だからか闇の吹雪が当たっても少々削られるだけでびくともしない。

だがこのままではいずれ闇の吹雪に呑み込まれるのが関の山だろう。

 

(さぁ、ここからどう動く。見せてみろマギ)

 

マギの取った行動は……

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト」

「なっなに?」

 

魔法の詠唱だ。これにはエヴァンジェリンも目を見開く。まだマギには魔法の詠唱の修行をつけてはいないのだ。それなのに魔法の詠唱を始めた。

 

「来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎 闇の業火!!」

 

マギのガントレットから闇の業火が放たれる。その威力は記憶喪失する前のマギが放っていた闇の業火の数倍はある。

闇の業火は氷の壁を一瞬で蒸発させ、闇の吹雪と衝突する。

闇の吹雪と闇の業火。2つの力が拮抗するが、段々と闇の吹雪の方が押され始めた。

 

「マギの奴、これほどの力を持っていたなんて。いやこれは暴走している力がマギの力を増幅させているのか……!」

 

エヴァンジェリンは苦虫を噛み潰した顔になりながらも、魔力を上げ、闇の吹雪の力を上げる。形勢逆転し、闇の業火が今度は押され始める。

しかしマギは押されて焦る様子を見せるどころかにやりと笑った。まるで今のこの時を楽しんでいるような。これからどう逆転してやろうかと、そう物語っているようだ。

 

「がぁぁ……あぁぁぁぁぁ!がぁぁぁぁぁ!!」

 

咆哮し、闇の業火の魔力を増幅させるのと口から純度の高い闇の魔力の奔流を龍の咆哮が如く放つ。威力が増大した闇の業火と闇の奔流は闇の吹雪と拮抗することなく、一瞬で闇の吹雪を吹き飛ばし、そのままエヴァンジェリンの元へ向かって行く。

 

「くっ氷盾!あぁ!」

 

氷の盾を出してもそのまま吹き飛んで雪原に叩きつけられる。

その隙を逃さず、四つん這いのままエヴァンジェリンに近づくマギはエヴァンジェリンに覆い被さるようにして、身動き取れないようにする。さらに

 

「ぐぅぅ……がぁぁ!」

 

背中から何本もの闇の手が生えてエヴァンジェリンの手足にこれでもかと言わんばかりに掴んで逃れないようにする。

そして準備は整ったと、グレートソードをエヴァンジェリンの心臓部分に狙いをつけてそのまま刺してやろうと、一度大きく上へと剣を掲げる。

 

「ふっ暴走してるとは言え、この私を捕まえる事が出来るようになったか。上出来だ。お前の一撃、甘んじて受けるとしよう」

 

出来れば暴走していないお前の実力で私を捕まえて欲しかったなと思っている間にマギは雄叫びを挙げながらグレートソードをエヴァンジェリンの心臓に向けて勢いよく下ろした。

しかし寸での所でマギが手首をひねり、そのままグレートソードはマギの体に深々と突き刺さる。

 

「ぐっ……ぐぼぁ!!」

 

口から血溜まりを吐き出すマギ。その血溜まりはエヴァンジェリンの白い肌と金色の髪を真っ赤に染める。いきなりマギが自刃した事に少々驚いていると、ぽたぽたと暖かい雫がエヴァンジェリンの頬に当たる。それはマギの涙だった。

 

「ごめ、んな、さい……俺、エヴァに、こんなことする、つもりなんて、なかった、のに……気づいたら、こんな、ことに、なって、ほんとに、ごめんなさい!」

 

すんでの所で理性が暴走の獣の力に勝ったようだ。エヴァンジェリンの四肢を拘束していた闇の手もマギの理性が戻ったからか霧散していった。

 

「まったく、坊やのように子供みたく泣くんじゃない。元々私に傷をつけるのが修行の目的だったんだ。見ろ、お前の魔法の力でちょっと火傷してしまった。一応はこれで修行は完了だ。暴走していたがこの私に傷をつけたんだ。もっと少しは嬉しそうにしてみろ」

「あぁ……あぁぁぁぁぁ……!」

「……ふふ、まぁ今は泣きたいだけ泣け。私があやしてやるよ」

 

マギを誉めるが、未だに泣き止まないので微笑みながら優しく頭を撫でて、泣き止むまで子供のようにあやしてあげるエヴァンジェリンであった。

 

 

 

 

 

 

「それで、今日はなんで暴走していたんだ?」

「実は……」

 

マギは昨日見た夢の内容をエヴァンジェリンに話した。

 

「ふむ、私がお前をいたぶり過ぎたせいか……」

「そんな事ない。俺が本能の俺の誘いに簡単に乗ったからこんな事になったんだ。俺が弱いばっかりに……」

 

本能に負けて暴走した。その事実だけを重く受け止めすぎて落ち込んでいるマギをエヴァンジェリンが軽く小突く。

 

「何を言ってる。確かにお前は本能の赴くまま暴れたかもしれない。だが最後はお前の意思で止めたんだ。お前は完全に本能に負けた訳じゃない、もっと自信を持て」

「……あぁ。エヴァにそう言って貰えると少しだけでも自信が持てるよ」

 

エヴァンジェリンに誉めて貰った事にマギも少しだけだが顔色が戻ってきた。

 

「修行も第二段階に移行だな。今度は魔力のコントロールを重きにする。あれを暴走したとマギは言ったが、本能で戦っていたとしても戦い方は理にかなっていた。あれを制御出来るようになれば、更なる強化に繋がる。ふふ、お前がもっと化けるのが楽しみだ」

「あぁ。俺も、もうただ暴れるような戦い方で誰かを傷つけることになるなんて、真っ平ごめんだからな」

 

こうして、マギの最初の修行はマギが暴走するというトラブルで幕を閉じた。

しかしマギの修行はまだ最初の段階であり、これからもっと難しくなるであろう。

それでもマギは覚悟した。もうこれ以上自分が暴走して誰かを傷つける無いためにも、自分はもっと強くなる必要があるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、今日はこれぐらいか。もっと遊びたかったんだけどなぁ」

 

マギの内側、黒マギは白い鎖でがんじがらめにされて身動きが取れない状態だ。

マギが暴走し、黒マギが内側からマギを操っていた。しかし後一歩の所でマギが理性を取り戻したのだ。

その結果、白マギと前の記憶のマギが一瞬の隙を突き黒マギを拘束、白マギが理性の鎖と言えるであろう白い鎖で黒マギを拘束した。

これでもう黒マギは悪さが出来ないだろうと判断した白マギと前の記憶のマギは黒マギの大本の元へ戻っていった。

 

「まぁいいさ。賽は投げられたってな。俺様の力をまた求めるか、それとも自力で道を切り開くか……俺がどう転んで行くか、見届けさせて貰うぜ」

 

黒マギの高笑いが延々とマギの内側の世界で響くのだった。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。