堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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3ーA探検家 アマゾン奥地で秘宝を見た! 究明編

サバイバル生活2日目の早朝。のどか達は今後どういう風に動くかログハウスのリビングで作戦を練っていた。

今はテーブルの上に地図を開いて今自分達が何処にいるのかを確認する。

 

「今あたしらがいるのはこのログハウス、そして神殿があるのが此処。間違いないか茶々丸さん」

「はい。私はこのジャングルの地形を予め覚えております。ですので何処に何があるのかは全て把握しています」

 

ガイノイドである茶々丸が把握しているというのなら絶対なのだろう。千雨はログハウスと神殿がある場所に印を付けて距離を計算する。

 

「距離は約10km位か。近すぎず、遠すぎない距離感って感じだな」

「単純な計算をすれば目的地到着までの時間は2時間半といった所です。けど」

「ハルナがそう簡単に目的地まで行かせないよね……」

「近くなれば近くなる程にモンスターは強うなるって言ってたやね」

 

何もなければ2時間半で着けるが敵とエンカウントしてしまえば時間は倍に掛かると考えた方がいいだろう。

 

「あたしらは4日間此処で無事に乗り切るのが目標。だが、神殿の宝なるものを入手すればその場で修行は終了。あたしとしてはこのログハウス周辺でうろうろして出てきたモンスターを倒してそれで御仕舞いがいいんだが、それをやっても意味はないと思う」

「そうやね。あっちでは何が起こるか分からないし、ぬるま湯みたいな事をしてあっちに行って何か起こったりしたら申し訳がたたないし」

「目的地に行こうとしたら否応なしに強いモンスターと遭遇する。けどそう言った敵と戦う事が出来る様になれば私達も一気にレベルアップ出来るはずです」

「そうすれば自分達の身は自分で護れてマギさんの役にも少しは立つよね」

 

のどか達は改めてこの修行の目的とこの修行が終わった後の自分達のビジョンをイメージしやる気を高めた。

 

「そうと決まれば早速あたしらのポジション決めだ。茶々丸さんを除いて今のあたしらは4人。ド○クエしかり○Fしかりテイ○ズしかり、王道RPGは4人編成。前衛中衛後衛をしっかり決めるぞ」

 

効率を求め戦う際の編成を決める事にした。

 

「まずあたしは前衛だな。この木の人形……は味気ないな。なんやかんや言って昨日はあたしや皆を護ってくれたし。木の守護者≪ガーディアンオブザツリー≫って呼称するか。この木の守護者の頑強さはお墨付きだし、前衛にはぴったりだ。デメリットはこいつを操っているあたしが耐久力持久力ともに薄っぺらい紙装甲という所と、こいつはあたしから5m以上離れると動きが鈍くなって最悪機能を停止する。なので木の守護者はごりごりの近距離型だ。けどあたしの体力が続く中で前衛は全うするつもりだ」

 

前衛は千雨となった。

 

「私とのどかは前衛と中衛の遊撃をメインで行うのがいいと思うです。魔法の矢は勿論ですが雷の斧といった近距離でも使える魔法があるです。のどかと私で交代で前衛を回せば相手を混乱出来るかもです」

「私も近くで戦える魔法が多いから、前に出て戦うね」

 

夕映とのどかが前衛と中衛を交互で行うことになりそして

 

「ウチは中衛か後衛かなぁ。昨日の歌もそうやけど、ウチのイメージ的に僧侶っぽいし、後ろでバンバンサポートしとるのがぴったりみたいやし」

 

歌の効果でのどか達の疲れを癒したのは大きく、亜子は後衛でサポート兼遠距離を担当することになった。前衛1人、前衛兼中衛2人そして後衛1人。理想的なパーティーとなっただろう。惜しむのは完全な近接格闘が出来るのが千雨だけでスタミナが心許ない所だろうか……

そんなこんなで編成を決め目的地である神殿へと目指すのだった。

 

 

 

 

蔦が生い茂るジャングルを千雨の木の守護者が強引に引きちぎる等をして道を作っていく。

出発してからかれこれ1時間は経っているはずだ。が一向に目的地に到着する気配が全く無い。ジャングルで同じような光景の中を歩いているからか、倍の距離を歩いているのではないかと錯覚してしまう。

暫く歩いていると、目の前に看板が刺さっていた。近づいて看板の内容を読み上げる。

 

「これ、ハルナの字だ」

「『此処は中間地点。目的地の神殿まで後半分だよー』かふざけた書き方しやがって。でもあと半分で神殿に着けるわけか。けど」

「はい、中間であるならばここから昨日よりも強い敵が出てくるはずです」

「うぅ、昨日のうさちゃんを思い出すけど……よし!どっからでも掛かってこいや!!」

 

亜子が気合いの声を挙げた瞬間に

 

『シャルルルルウ!!』

 

顔が蜥蜴のヒューマン型のモンスターが現れた。リザードマン。西洋のモンスターの代表格だ。

リザードマンは各々剣に槍、弓に杖を持っている。リザードマンセイバー、リザードマンランサー、リザードマンアーチャー、リザードマンキャスターと言った所か。前衛2人に後衛2人これまた理想的なパーティーだ。

「来たか、それじゃあ行くぞ。亜子さん!」

「うん!『戦の歌』!~♪」

 

亜子はアップダウンの激しい歌を歌い出す。するとのどか達の体の内から力が沸き上がって来るのを感じる。戦の歌は身体能力を上げるバフの効果を持っているようだ。

 

「行け!木の守護者!!」

『シャアアア!!』

 

木の守護者とリザードマンセイバーがぶつかり合う。斬撃と木の守護者の拳の攻防、リザードマンセイバーが木の守護者と戦っている間にリザードマンランサーが夕映に突き攻撃を仕掛ける。

身体能力が向上している夕映はリザードマンランサーの突きを難なく避けて詠唱を始める。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」

 

ネギやエヴァンジェリンも使っている雷の斧。それが夕映の手から放たれ、リザードマンランサーに直撃する。かなりの威力だったようで、黒焦げになったリザードマンランサーはそのまま動かなくなった。

リザードマンアーチャーは支援魔法を行っている亜子に狙いをつける。さらにリザードマンキャスターがリザードマンアーチャーに強化のバフを掛ける。

そして亜子に向かって吸盤付きの矢が放たれる。殺傷力がない吸盤付きの矢と言ってもかなりの速さで当たればかなり痛いだろう。

そんな亜子を護るためにのどかが前に立つ。

 

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」

 

のどかが真っ赤に燃える炎の大剣で矢をそのまま焼ききりそして

 

「ええい!」

 

リザードマンアーチャーに向かって炎の大剣を放った。放たれた炎大剣はリザードマンアーチャーに直撃し、雷の斧を食らったリザードマンランサーのように黒焦げになり再起不能となる。

そしてリザードマンセイバーと戦っている千雨も決着が着きそうだ。大振りな剣を弾き無防備な腹が晒される。

 

「今だ木の守護者、畳み掛けろ!!」

 

千雨が木の守護者にラッシュを念じ、木の守護者はリザードマンセイバーに高速ラッシュを浴びせる。木の守護者の拳がリザードマンセイバーの体にめり込みきりもみ回転をしながらジャングル木々を薙ぎ倒していく。

そしてリザードマンセイバーも戦闘不能となり、リザードマンセイバー、ランサー、アーチャーは霧の様に霧散してしまった。

残るのはリザードマンキャスター1匹のみ。後衛だけなら倒すのは容易いだろう。

 

『クロロロロロ、クロロロロロォォォ……』

 

すると先程とは違ってか細い声で鳴出したリザードマンキャスター。観念したのかと普通なら勝利を確信するものだが、のどか達は一切油断しなかった。

何故なら先程よりも轟音と呼べる咆哮がジャングルに響き渡ったのだから。

 

「やっぱり助けを呼びやがったか。恐らくだけどさっきの奴らよりも数倍強いと考えた方がいいかもな……」

 

舌打ちをしながら汗をぬぐう千雨の前に上半身が裸だが筋骨粒々で正に巌と言っても過言ではない筋肉で、バトルアックスを持った巨大なリザードマンが現れた。

その形相まさに狂戦士、バーサーカーである。顔つきもリザードというよりもワニ(思わずクロコ○インを連想してしまった千雨である)に近い顔つきだ。

さらに上空では赤い飛竜に乗った槍を携えたリザードマンがのどか達を見下ろしていた。リザードマンライダーと言った所だろう。そして

 

「!亜子さん危ないです!」

「え?」

 

亜子の背後に限りなく軽装をし気配を殺したであろうリザードマンが立っておりそのまま亜子を結構強めに押し倒し、そのまま尻餅を着いてしまう。

 

「きゃあ!?」

『シャシャシャ』

 

尻餅を着いた亜子を愉快そうに眺めながら笑みを溢したリザードマンは木の後ろに隠れまたも気配を消してしまう。

気配を消しながら相手の懐に入りそして狩る。その姿は正に暗殺者、リザードマンアサシンである。

強靭な肉体で敵を蹴散らすであろうバーサーカー、上空から嫌らしく攻撃して高みの見物なライダー、油断しているところ背後に近づきぐさりのアサシン、そして後ろで他のリザードマンを支援するキャスター。ハッキリ言って先程よりも手が掛かりそうな相手である。

 

「どうする千雨さん?」

「どうするも何もさっきと戦い方は一緒だ。けど明らかに容易く倒れてはくれなさそうだ。それにずっと空に飛んでてあたしらを見下ろしているアイツが厄介だ。恐らく魔法の矢で落とすのは難しいだろうな……」

 

数秒程考えた千雨はよしと決めて

 

「茶々丸さん、頼んでもいいか?」

「分かりました。私が空の相手をします。此処で直ぐに私というカードを切るというのは良い判断です。流石ですね千雨さん」

 

リザードマンライダーの相手は茶々丸に任せる事にした。これで茶々丸が助太刀する回数は2回になってしまうが、ここでお助けキャラを使うのにのどか達は反論は一切しなかった。

 

「それで残りは隠れながらチマチマ攻撃してくる奴だな。恐らく補助役の亜子さんを攻撃してくるだろうから、夕映さんが亜子さんを護衛してくれるか?」

「分かったです。任せて下さいです」

「それと亜子さんはあたしらに防御特化の歌魔法をかけてくれないか?まだ身体能力の歌魔法の効果は残っているみたいだし、防御を上げて少しでも耐久戦に挑みたい」

「うん分かった………あった!行くよ『城壁の歌』!~~♪」

 

亜子はあんちょこ本に防御特化の歌魔法がないか探し、見つけて歌い出す。

先程のアップダウンの激しい曲とうって代わり、ゆっくりと力強い歌だ。城を護る頑強な城壁、それがのどか達に纏まれる。

「よし、第2ラウンドだ。気張っていくぞ!!」

 

千雨が木の守護者にリザードマンバーサーカーに殴るように命じる。木の守護者の拳がリザードマンバーサーカーの脇腹に入る。だが頑強な筋肉では木の守護者の拳は蚊に刺された程度のものだろう。

 

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」

 

のどかも炎の大剣を詠唱し、リザードマンバーサーカーに斬りかかる。少々苦悶の声を出し体に火傷の痕がついたが、元気な姿を見せるリザードマンバーサーカー。吠えながらバトルアックスを振り回す。簡単に周りの木々をぶった切るのは脅威だ。

だが……

 

「よし"印"は着けたぞ」

 

千雨は勝利への布石を打った。その布石とはリザードマンバーサーカーの殴った脇腹である。吠えながらバトルアックスを振り回すが、所詮生き物ではないゴーレム。パターンさえ理解してしまえば簡単に避けられるようになる。

最初は危なげに避けていた木の守護者も今ではすれすれに刃が当たりそうになるが易々と避けた後に脇腹に拳を当てていく。

同じ所を殴られればいくら頑強な肉体を持っていても堪えてくる。

 

「どんなに分厚い壁だって小さな傷を付けてそこを延々と突いていればいずれは綻び崩壊する。そこだ木の守護者ィ!!」

 

大振りな攻撃を避け木の守護者の高速で放たれた拳が抉るようにリザードマンバーサーカーの脇腹に入る。今までのダメージが蓄積されたこともありリザードマンバーサーカーが片ひざをつく。

 

「のどかさん今だ!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 静寂の闇 斬り崩せ 闇の刃!!」

 

のどかの杖の先から漆黒の日本刀の様な闇の刃で横に薙ぎ払う。致命傷だったのか悲鳴を挙げるリザードマンバーサーカーを見て……

 

「――――ふふ、自分の方が上だと思っていた相手が崩れるのを見るのは愉快だわ」

 

クスクスと千雨がギリギリ聞こえるであろう声で呟いたのを聞いて目を丸くする千雨。

 

(え?のどかさんてあんな事を平気で言うタイプだったっけ?)

「のっのどかさん?」

「……あ、あれ?私今何か言ったっけ?」

 

思わず首を横に振る千雨。どうやら先程言ったことを覚えていないようだ。

 

(何かのどかさん修行を始めてから少し可笑しくなってないか?警戒はしておいた方がいいな……)

 

のどかの動向を見張る事にした千雨だが、一方的に攻撃され頭に来たのか斬り倒された巨木を持って、バトルアックスと巨木を矢鱈に振り回し始めたリザードマンバーサーカー。手負いの獣程厄介なものはない。現に振り回している風圧で吹き飛びそうになる。

しかし、手負いということはあと少しで崩せるという事でもある。

 

「あと少しだぞのどかさん!」

「うん!」

 

暴れる敵に向かっていく千雨とのどか。

一方空でワイバーンの相手をする茶々丸。吠えながら火炎球を連続で茶々丸へ向かって吐くワイバーンだが、高速のジェット噴射で空を駆ける茶々丸に当たるわけがなかった。

 

「ここまで精巧なゴーレムを書き上げる事が出来るとは、早乙女さんの実力も中々のものですね」

 

ですが……と茶々丸の腕が肘から開閉し中からガトリングガンが現れワイバーンに向かって掃射される。ガトリングガンの弾が当たり堪らず悲鳴を挙げるワイバーン。

 

「私の敵ではありません」

 

茶々丸の心配はしないで大丈夫そうだ。

そして場面は変わりこんどは夕映と亜子がリザードマンアサシンの相手をしていたが、些か苦戦しているようだ。

『シャシャシャァァァァァ』

「こっこの! フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 雷の精霊5人! 集い来たりて 魔法の射手 連弾 雷の5矢!!」

 

連続で放たれた雷の矢を他愛なしと簡単に避けるリザードマンアサシン。アサシンの名は伊達ではないようで身体能力もずば抜けているようだ。

 

『シャアアア!!』

 

懐から数本の投げナイフを取り出し投擲してくる。投げナイフは夕映と亜子に当たるが、城壁の歌の効果の膜のような障壁に護られているお陰で傷はつかないが、攻めあぐねているのも事実。

 

「どうにかしてあのすばしっこい相手の動きを止めることが出来れば……」

考えを巡らせている夕映にあんちょこ本を捲っていた亜子の指が止まり、夕映の肩を叩く。

 

「夕映ちゃん、この歌なんやけど使えないかな?」

「……いけると思うです。亜子さんは歌う準備を私が敵の目を引き付けるです」

 

そう言い夕映は詠唱する。

 

「魔法の射手 雷の一矢!!」

 

夕映は連続で魔法の矢をリザードマンアサシンに向かって放つがリザードマンアサシンは木々を蹴りながら跳び、魔法の矢を避けていく。

それよりもリザードマンアサシンは亜子へ狙いをつけた。ゆっくりな歌だが、何処か調子やペースを乱される歌だ。先に戦闘不能にさせた方がいいと判断し、高速で夕映の目を惑わせた後に木の後ろに隠れ気配を遮断した。

 

「どっ何処です!?」

 

夕映は見当違いな所を見るが、リザードマンアサシンは亜子の背後に回り手刀を構える。いくら障壁を張っていてもこの至近距離でこの手刀が当たれば当分は動けないだろう。

 

「!?亜子さん後ろです!」

「は!!」

 

もう遅い。そう言いたげにリザードマンアサシンはにやりと笑い亜子に向かって手刀を振り下ろした。

 

「きゃああああ!!」

 

悲鳴を挙げる亜子。手刀が当たった瞬間に亜子の体が歪みそして蜃気楼の如く消えた。

 

『シュロロロ!?』

 

仰天し目を見開くリザードマンアサシン。そんなバカな、自分は確かに捉えていたはず。なのに当たった瞬間に幻の様に消えてしまうなんて。

と亜子の笑い声が聞こえてきた。

 

「引っかかったな。今の歌は『幻惑の歌』や。この歌を聴いた相手にウチの幻を見せ、その幻を攻撃させる。そして、やっと隙を見せよったな?これを待ってたんや!」

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 風の精霊11人 縛鎖となりて敵を捕まえろ 魔法の射手 戒めの風矢!!」

 

風がリザードマンアサシンを捕縛した。逃げようとしてもがんじがらめにされたかのようにびくともすんともしない。

 

「かなり手こずったです。相手は高速で動き、捉えられるのは至難。だったら誘い込み、動きを止めるのが最善です」

「漸く動きが止まってくれたから、ウチも思い切りやれるってもんや」

 

そう言って亜子はシュートの構えをする。サッカーで何回もボールを蹴ってきた亜子の脚。魔力で身体能力が強化されたシュートならかなりの威力が出るだろう。

リザードマンアサシンは何とか脱出しようとしたが、もう遅い。

 

「ええい!!」

 

亜子の必殺シュートがリザードマンアサシンのボディに入り、そのまま後ろに飛んでいった。巨大な弾丸と化したリザードマンアサシンは木々をなぎ倒していきながらそのまま……

 

『グアアアアアアア!!』

「うぉ!?すっごい勢いで飛んで来やがった!」

 

千雨とのどかと戦っていたリザードマンバーサーカー、後方にいたリザードマンキャスターに直撃した。そのままの勢いで仰向けに倒れていくリザードマンバーサーカーとアサシン。その上に

 

『クロロロロロォォォ……』

 

翼膜が穴だらけになったワイバーンが重なるように落ちてきて、目を回し戦闘不能になっているリザードマンライダー。

 

「特に苦戦せず、問題ありませんでした」

 

涼しい顔で地上に降り立った茶々丸。流石とのどか達が茶々丸を称賛していると

 

『グルルル、グルァ……』

 

まだ動けそうなリザードマンバーサーカーが戦闘不能になったリザードマンアサシンとワイバーンをどかそうとしている。がダメージが蓄積しているせいか思うように動けないようだ。終わらすには今しかない。

 

「のどかさん、夕映さん。マギさんとネギ先生がよく使ってたあれって使えるか?」

「うん、魔力はまだ十分にあるよ」

「私も問題ないです」

「それじゃあ思い切りぶっぱなしてもらってもいいか?」

 

千雨の頼みに頷いたのどかと夕映は詠唱を始める。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来たれ炎精闇の精!!」

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

 

その魔法はマギやネギが使っていた、必殺技とも言える強力な魔法。

 

「雷の暴風!!」

「闇の業火!!」

 

雷の暴風と闇の業火が混ざり合い、強力な1つの魔法となりリザードマン達に向かって行く。

リザードマンバーサーカーは強引に起き上がり、自分の上に倒れこんだアサシンとワイバーンとライダーを闇の業火と雷の暴風に向かって投げた。少しでも魔法の勢いを殺そうとしたが、魔法が直撃した瞬間に消滅してしまった。

 

『グルォ!!』

 

バトルアックスで闇の業火と雷の暴風を防ぐ。更にリザードマンキャスターがリザードマンバーサーカーに強化のバフをかけた。

バトルアックスと魔法が拮抗する。少しずつ歩き距離を近付けるリザードマンバーサーカー。このまま防がれてしまうのか。

 

「行くです!!」

「やああぁぁ!!」

 

夕映とのどかが腹から声を出した瞬間に闇の業火と雷の暴風の威力が少しだけ上がった。拮抗していたリザードマンバーサーカーのバトルアックスに少しの罅が入り、その罅がどんどんと広がっていき

鈍い音と同時にバトルアックスが粉々に砕け散った。悲鳴を挙げる間もなく、リザードマンバーサーカーは魔法の奔流によって消滅した。リザードマンキャスターと同じくだ。

そのまま闇の業火と雷の暴風は勢いを止めずに木々を薙ぎ倒し吹き飛ばし、1本の道を作った。

道の終着点に石の建造物が見えた。宝がある神殿であろう。

 

「……ふぅ」

「はふぅ」

 

全力で魔法を放ったからか座り込んでしまったのどかと夕映。

 

「おつかれさん。最終的に2人に任せる形になっちまったな。でもやっぱ凄いな。それをマギさんやネギ先生は使ってたのか……」

 

地面を抉り、木々を吹き飛ばしていった闇の業火と雷の暴風。マギやネギ程ではないが、この威力に舌を巻く千雨と亜子であった。

因みにだが、のどか達の魔力の順列は1位がのどか。2位が少しの差で夕映。3位が千雨で4位が亜子である。しかしそれでも魔力量ならば亜子でもかなりの量である。

 

『いやーさすがさすが。もうちっと苦戦するかと思ったけどにゃー』

 

何処からかハルナの声が聞こえてくる。

 

「まぁあたしらが本気になればこんなものってな」

 

中々の強敵を倒したことで少々調子が良くなった千雨。のどかや夕映に亜子も誰も大怪我をしないで勝利したことに気分も上昇していく。

 

『いやはや結構な力作だったんだけどな。お陰で召喚出来るゴーレムは1体位が限界かなーまぁあと少し歩いたら神殿だし、ゆっくりしてから来るといいよー』

 

言い終えたのかまたハルナの声は聞こえなくなった。なら少しだけ休み、目的地に向かって前進するだけだ。

しかしのどか達は連続で勝利したことによって心の何処かで余裕の感情が芽生えようとしていた。

これからが本当の地獄のようなものなのを知らず……

 

 

 

 

 

休憩し、簡単な昼食も食べて体力と魔力を多少回復したのどか達。闇の業火と雷の暴風で出来た一本道を歩き暫く……

 

「漸く着いた……!」

 

肩で荒い息を吐く千雨。あれから数キロは歩いて折角回復した体力も千雨だけ底を着きそうになっていた。

 

「この神殿にあると言われている宝を入手すればこの修行は終わると言ってたですが……」

「ねっねえ、もしかしてあれやない?」

 

亜子が指差した先、神殿の石の階段を登り終えた先にある祭壇に水晶で出来た髑髏が鎮座していた。恐らくしなくてもあれだろう。

 

「あれをゲットしちまえばこっちの勝ちだ。けど絶対最後のモンスターがいるはずだから皆油断するなよ」

 

千雨がのどか達に注意するように言い、のどか達が1歩踏み出した瞬間

 

ぞくっ

 

心臓を鷲掴みされたような、明確な敵意そして"殺意"を感じた時そいつは現れた。

 

「―――――」

 

何処から現れたか分からないが、神殿の石の階段をゆっくりと降りてくる全身が真っ黒の鎧に覆われた正に『黒騎士』が其処に居た。

 

(あ、駄目だ。こいつには勝てない)

 

黒騎士を見て千雨はさっきまでのリザードマンが楽に倒せる存在だったと強制的に思い知らされた。

 

『どーよ!?この私が作り上げた最高傑作は。さっきのリザードマンよりも10倍以上は強くなってると思うよー。んで色々と設定を凝りすぎたら……暴走しちゃった。ごめんなさい』

「…………は?」

 

今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。暴走、暴走と言ったか?

 

「おい早乙女!暴走ってなんだよ!?じゃあ今目の前にいるあのモンスターはお前が操作してるわけじゃないのか!?」

『いやー僕が考えた最強の~~って感じでラスボスに相応しいキャラを作ろうとしたら張り切り過ぎてねー凝った設定とか詰めに詰めた結果、私にも手に終えない最強モンスターになっちゃいました。私にも問答無用で襲いかかってきたし、だから死なないように頑張って!!』

「ふっふざけるな!!」

 

千雨が恨み節が混じった叫び声を挙げたのと同時に、黒騎士は虚空から自分の背丈以上に巨大な黒い大剣を出現させて握る。

握った瞬間に濃密な殺気が爆発した。その殺気にのどかや夕映に亜子は呑まれそうになる。

茶々丸は殺気に動じず、千雨は行きなりの理不尽な展開に怒りが湧いているお陰で何とか呑まれずに済んでいた。

黒騎士は階段から跳び、のどか達に向かって大剣を振り下ろした。

 

「死ぬ気で散れぇ!!」

 

千雨の怒鳴りの混じった命令にのどか達も漸く体が動くようになり、紙一重のタイミングで黒騎士の攻撃を避けた。

黒騎士の大剣がのどか達が居た地面に当たった瞬間、地面が抉れるのではなく、爆発し砂塵が舞った。

避けたのどか達を見て、黒騎士は1人に狙いを着けた。

狙われたのは千雨だ。千雨に向かって真っ直ぐ突っ込んで来る。

 

「クソ!木の守護者ィ!迎撃だ!!」

 

黒騎士の大剣の振り下ろし攻撃に合わせる様に、木の守護者の拳を合わせるようにぶつける。

甲高い音が響き、このまま拮抗するかと思いきや

鈍い音が聞こえ、木の守護者の拳が大剣によって砕けてしまった。そのままの勢いで木の守護者は吹っ飛び、神殿の壁に叩きつけられてしまった。千雨は直ぐに木の守護者を動かそうと念じてみるが、ダメージが大きいのか動きが鈍くなっている。

そんなのお構い無しに黒騎士は再度千雨に攻撃を仕掛ける。

 

「千雨ちゃんに『城壁の歌』最大室力!!♪~~!!」

 

亜子が千雨に城壁の歌をかける。膜ではなく障壁が千雨を護ってくれている。障壁が黒騎士の斬撃を防いでくれたが、斬撃の衝撃までは防げずに後ろに吹き飛ばされて、木の守護者と同じように神殿の壁に叩きつけられた。かはっ口から一気に空気が出ていくのを感じる。

 

「~~~~~~!!けど、痛いって事は生きてる!!」

 

痛みで生を実感するのも痛々しい話だが、黒騎士は追撃するために千雨に向かって駆けて行く。

 

「くっ来るなぁ!!」

 

思わず悲鳴を挙げる千雨にお構い無しにまた剣を振るう黒騎士。茶々丸がブーストを一気に噴射し、ビームサーベルを展開し、黒騎士の大剣から千雨を護る。

 

「ちゃ、茶々丸さん助かった」

「今のうちに下がって下さい。少しでも食い止めます」

 

ブースト噴射をしながら跳び膝蹴りを繰り出し、ローリングソバットを連続で浴びせる。しかし黒騎士は怯んだ様子を全く見せない。

だが茶々丸が黒騎士に注意を引いてくれたお陰で千雨が木の守護者に辛うじて念じて自分を米俵の担ぐようにして逃げた。

千雨がのどか達の元に到着したのを見て茶々丸がガトリングガンを出して黒騎士に向かって放つ。黒騎士が大剣の腹で弾丸を防ぐ。

 

「皆さん、今のうちに退避をここは私が食い止めます」

「だっだったら、茶々丸さんが食い止めてくれてる間にあのお宝をゲットしちゃえば!」

 

馬鹿野郎と亜子の提案を遮る千雨。

 

「あの茶々丸さんが自ら食い止めるなんて言ってるんだ。今下手に動いたらあの黒騎士の餌食になる可能性が高い」

「そうです。今は逃げて体制を立て直す方が得策です」

 

夕映も千雨の提案に賛成だ。なんやかんや言ってリザードマンとの戦闘でかなりの魔力を消費している。逃げて体制を立て直すのが先決だ。

しかし逃げるなら少しでも怯ませておいた方がいいだろう。

 

「のどか、闇の業火はまだ撃てそうです?」

「うん、逃げる時の魔力も考えたらあと1回位なら。ゆえは?」

「私もあと1回だけなら大丈夫です」

「なら」

「ええ。行くです! フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来たれ炎精闇の精!!」

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

 

今自分達が使える最大火力を黒騎士にぶつける。それから逃げればいい。

 

「雷の暴風!!」

「闇の業火!!」

 

雷の暴風と闇の業火が放たれた瞬間に茶々丸は飛び、魔法が当たらないようにした。雷の暴風と闇の業火を黒騎士は大剣で防ぐ。

防ぐ間に魔法の力が臨界に達し大きな爆発をもたらし、黒騎士はそのまま爆発に巻き込まれた。

しかし爆発が晴れても黒騎士には傷1つついておらず、精々鎧が汚れた程度だった。のどか達は爆発が起こった瞬間に一目散に逃げたために神殿にはポツンと黒騎士だけしか立っていなかった。

逃げたのなら追えばいいそう言いたげに黒騎士は一歩踏み出そうとすると、残っていた茶々丸が黒騎士にガトリングを浴びせる。

 

「悪いのですが、ここで足止めをさせて頂きます」

 

茶々丸と黒騎士の攻防はその後1時間以上続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

黒騎士から逃げおおせること数時間、やっとのこさのどか達は最初にベースキャンプにしたログハウスに到着した。

皆泥だらけ土まみれだ。道中何度か転んだのだろう。それほどなりふりかまっていられる状態ではなかったと言うことだ。

 

「皆無事です?」

「うん……」

「何とかって感じや」

「正直言ってもうあたしはもう動けそうにない」

 

千雨だけ木の守護者に抱えられるようにしてもらいながらここまで逃げてきた。それほどダメージが大きいのだろう。

もう日も暮れて夜となってしまった。

 

「これからどうする?個人的にはアクシデントに見舞われたからこの修行は一時中止っていうのが望ましいが……エヴァンジェリンのことだから絶対中止にしたらここであたしらの修行は強制的に終わりだろうなぁ……」

 

千雨は鼻で笑うエヴァンジェリンを思い浮かべる。いや実際鼻で笑うだろうなと確信する。

 

「それに私達が向かう場所は思いどおりに行かないアクシデントだらけの世界だろうし、ここで怖いから止めるなんて言い出したら私はもうマギさんと一緒にどこまでもいけないと思う。だから私は止まらない」

 

のどかは決意を新たにする。

 

「私ものどかと同じ考えです。私は自ら危険な道に行くと決めた。ならばこれも試練として糧にするです」

「ウチもここまで来たら最後まで頑張るって決めたんや。さっきのは正直怖かったやけど、ウチももう逃げないって決めたんや」

 

夕映や亜子も逃げずに立ち向かうことを決めていると

 

「皆さんどうやら無事みたいですね」

 

茶々丸がドアを開けて戻ってきた。体に目立った外傷はなく、精々のどか達と同じように土で汚れている程度だ。

茶々丸も無事に戻ったことに胸を撫で下ろすのどか達。

 

「茶々丸さんあの黒騎士はどうなった?」

「残念ですがそれ程ダメージを与えられた様子はありませんでした。しかしあの神殿を離れても追ってきはしませんでした。どうやらあの周辺で戦うように設定されているようです」

「よかったーこれで追ってきたらたまったもんやないもんなー」

 

黒騎士が留まっていることを知った瞬間、のどか達は一斉に腹の虫を鳴らした。思わず鳴ってしまった事に顔を赤くするのどか達を見て微笑む茶々丸。

 

「では消化のいいものを作りましょう」

 

そう言って茶々丸は多めの具材が入った雑炊を作ってくれた。それをよく味わって完食したのどか達であった。

 

 

 

 

 

夕食を食べた後、今日は一緒にお風呂に入ることにした。お風呂に入ったことで疲れを洗い流すことが出来て気持ちもスッキリすることが出来た。

とリラックスしていた時にログハウスにのドアが激しく叩かれ。

 

「ごめーん私なんだけど入れて貰えるかなー?」

 

ハルナの声が聞こえ、警戒しながら茶々丸がドアを開けると所々傷があり、服もぼろぼろになっているが至って元気そうだった。

とりあえず残っている食事と風呂に入ってもらい、綺麗になって満足な表情を浮かべるハルナに詰め寄る千雨。

 

「おい早乙女、何で暴走するまで設定細かくしたんだよ。召喚したお前が死にかけるとか笑い話にもならねえじゃねえか」

「いやー面目ない。一応ラスボスっていう訳だからさ、簡単に倒されるのも面白くないし、どうせなら強いモンスターを創ってみたいと言う欲がどんどんと膨らみ……今に至ります」

 

てへと舌を出しながら謝罪するハルナに青筋を浮かべる千雨が思い切りハルナの頬を横に引っ張った。

 

「いひゃいいひゃい!」

「テメー可愛く言って許されると思うなよ!さっきも言ったがお前が死にかけたら笑い話にもならねえだろうが!詫びにアイツをどうすれば倒せるか攻略を教えやがれ!!」

「おーいてて。強引に引っ張ることないじゃんか……あーもう遅いかもだけど、あんまり黒騎士に対して敵意とか向けない方がいいよ」

「どう言うことだよ?」

 

千雨が聞くのと同時に茶々丸が勢いよく椅子から立ち、神殿がある方向を凝視する。

 

「茶々丸さんどうしたのです?」

「濃密な魔力反応……!皆さん伏せて下さい!!」

 

慌てている様子を見せる茶々丸に驚いて言う通りに伏せるのどか達。次の瞬間

轟音と共に何かがログハウスに当たったのか大きく揺れ、食器が落ちて砕け散った。

 

「ななななな何だぁぁぁ!?」

 

行きなりの大きな揺れにパニックになる千雨にあーと申し訳無さそうにハルナが

 

「黒騎士は神殿周辺を護るようにインプットされてて神殿の側を離れないようにしてるんだけど、自分に敵意を向けた相手が遠くに居た場合……剣からビームが出る様になってます」

「おまっふざけんなよ!!!」

 

ハルナが付与させたまたも理不尽とも取れる設定に叫ばずにいられない千雨だった。

ログハウスの窓から外を見ると、黒い極光がログハウスの周辺の森を消滅させていた。焼却ではなく、消滅。それほど黒騎士が剣から放っているビームが強力ということが分かる。

 

「でもどうしてこのログハウスは無事なのです!?」

「マスターはここを気に入っていまして、何があっても壊れないように、ログハウス周辺に障壁が出る結界を施してあります。この障壁は例えマスターが本気を出しても壊れないはずです」

「けどこんなに揺れると怖いんやけど!!」

 

恐怖で涙目な亜子。ビームは絶えずログハウスに当たっている訳ではなく、断続的に放たれログハウスに当たるかログハウスの周りを消滅させている。

 

「当てずっぽうにビームを放っているみたいだけど!?」

「まぁ敵意が結構距離あるから正確な位置を把握してないんじゃない?私もビームが出せる位の設定しか着けてないからねー」

「何でそんな呑気な事が言えるんだお前はぁぁ!!!」

 

千雨の絶叫はログハウスに響いたが大きな揺れで直ぐに掻き消えてしまった。

そしてビームが止むまで2時間はかかり、衝撃とビームに当たるかもしれない恐怖でログハウスから一歩も出られなかったのどか達は寝るに寝られず、日が昇って来たときも眠ることができず。

 

「あ、あ……あ」

「のどか、大丈夫で……す?」

「あかん、不眠と熱気で目の前がぐるぐるしよる」

「あたしら、何でここにいるんだっけ?」

 

眠気に耐えられず目の前が真っ暗になり、気絶するように倒れ混み寝息を立てるのだった。

 

「やっぱ、のどか達は眠れなかったかー」

「それよりも何故ハルナさんは眠れたのですか……」

 

一方のハルナはビームが放たれている間も呑気な寝息を立てて爆睡しており、その図太さに茶々丸は戦慄を覚えた。

修行2日目、これにて終了である。

 

 

 

 

 


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