夏休み真っ只中、マギ達はエヴァンジェリンの別荘で修行を行いながら外に出てリフレッシュを行っていた。
現在、マギ、ネギプールスの3兄妹は太鼓や笛が賑やかな音色を立て、赤い提灯がズラリと並んでおり、色とりどりの屋台に子供達が楽しそうに集まっていた。
そう、今マギ達は夏祭りにやって来ているのだ。
「すごい人の量だな……」
「これが日本のお祭りなんだね!」
「とっても楽しそうレス!!」
人の多さに感嘆の声を挙げるマギと目を輝かせるネギとプールス。3人とも日本の夏祭りは初めてなので興味津々だ。
「しかし、のどか達遅いな」
「何か準備することがあるみたいだよ」
マギ達3兄妹だけが祭りの会場に来ていて、お馴染みのアスナ達はまだ来ていない。何か準備することがあるのだろうかと時計を見ながら待っていると
「お待たせー」
とアスナの声が聞こえて振り返り、あぁ成る程と納得するマギとネギ。アスナ達は浴衣を来ていた。
「そう言えばアタシ浴衣を着るの数年振りかも」
「えへへーネギ君どうかな?似合うー?」
「はい!アスナさんやこのかさんもとっても似合います。刹那さんも!」
アスナは鞠の刺繍をされた赤い浴衣。このかは優しげな緑で万華鏡のような模様が刺繍されており、刹那は爽やかそうな蒼の浴衣だった。
「あのマギさん、どうかな?似合ってますか?」
「のどか達とどれがいいか選んで決めましたです」
「正直わたしはこういった格好は活動以外じゃ着ないと思ってたんですけどね……」
「ウチらマギさんに似合ってるって言ってもらうために選んだんやよ」
のどかは紫陽花が刺繍されている紫の浴衣で夕映はピンクと白の浴衣で千雨はあざやかなオレンジの浴衣で亜子は水玉模様の水色の浴衣だ。
「あぁ、どれも皆に似合って思わず見惚れてしまったよ」
気障っぽい台詞に聞こえるが、マギは自分の正直な気持ちを口に出した。マギの誉め言葉にのどか達も嬉しそうにしているから間違ってはいないだろう。
遅れて古菲や楓にハルナも浴衣を着て現れた。
「ふわぁ、お姉ちゃん達皆きれいレス」
浴衣を見たプールスがさっきよりも目を輝かせている。
「あっちで浴衣のレンタルしてるみたいだからよかったらレンタルしてみれば?」
アスナからの提案によってマギネギプールスはレンタルしている場所へ向かった。
数十分後
「ふわぁ~かわいいレス!」
プールスはピンク一色の子供らしい浴衣を
「えへへ、ちょっと恥ずかしいな」
ネギは青色の少年ぽい浴衣だ。大人びているネギでは少々趣味が合わないようだ。そしてマギは
「これが甚平か。浴衣と違って動きやすいな」
浴衣ではなく黒の甚平を着ていた。個人的には動きやすくて良いなと思っているようだ。
「マギさん似合ってますね」
「そうか?ははありがとう」
のどかに誉められ、ガントレットで頬を掻くマギ。
「それで何でここの夏祭りに来ることになったんだ?」
マギが夏祭りに来た理由を訪ねようとすると
「それは私が説明しよう」
と黒い浴衣を着たエヴァンジェリンが不敵な笑みを浮かべながら現れた。
「どうだマギ?私の浴衣姿は似合っているだろう?」
「あぁ、そうだな。エヴァの金色の髪に黒の浴衣は合っているな」
「そうだろう。他の女達よりも似合っているだろう?」
エヴァンジェリンの物言いに何人かがムッとした顔になる。
「おいエヴァ、返答に困るのは勘弁してくれ」
「ははは冗談だ。さて、今日お前達に此処に集まってもらったのは他でもない……」
と理由を説明し始めたのだが、その内容が
「成る程、3ーAの一般人組に新しく認可された部活のことや、イギリスに行くことがバレたと」
「ごめん。アタシがいいんちょにお父さんの事を調べて貰って結果を受け取った時にまき絵や双子ちゃんが詰め寄って来て、あれよあれよといった結果に……」
3ーAにはマギやネギに関わっている魔法組と特に関わっておらず日常の学園生活を謳歌している一般人組に分かれている。
そんな一般人組のネギ大好きなまき絵やあやかに、マギを慕ってる風香と史伽にバレてしまった。
そうなれば基本イベント事大好きな他の一般人組の生徒にも知れ渡るだろう。
マギ達が行く魔法世界ではどんな事が起こるか分からない。最悪なアクシデントが起こる可能性を考慮したら無闇に一般人組の生徒を巻き込むわけにはいかない。しかしエヴァンジェリンはある事を考えていた。
「しかし、無理に突っぱねても引かないのは何時ものことだ。そこで……茶々丸、例の物を配れ」
「はいマスター」
仮のボディに入っている茶々丸がアスナ達に白い翼のバッジを配った。
「白い翼のバッジとか随分洒落たもんじゃねえか」
千雨がまじまじと見てから浴衣に着ける。
「これはナギ達が紅き翼と名乗っていたからな。それにならって白き翼と名乗ればいくらか格好がつくだろう」
白き翼の前はネギま部(仮)と名乗るには格好つかない名前だったために、エヴァンジェリンがそう考えたのだ。
白き翼のネームにカッコいいと納得しているアスナ達だが
「言っておくが、イギリスに行くまでにそのバッジを失くした者は強制退部だからその積もりでな」
『え!?』
強制退部に目を見開くアスナ達。段々とエヴァンジェリンが言いたい事が何か分かってきたようだ。
「この夏祭りで一般人組にバッジを奪われた者はバッジを奪った者と入れ替わりでイギリス行きを許可する。云わばバッジサバイバルと言った所だな。一般人組に遅れを取られないように精々気張ることだな」
「ちょっと待ってよエヴァちゃん!仮にいいんちょ達にバッジを取られて、魔法も知らないのに魔法世界に行ったら危険じゃない!」
「知らんな。何時ものノリと勢いで行けば何とかなるんじゃないか?」
そんな無責任なと思うアスナ達。だがこれは自分達の意思でバッジを奪おうとしてるのだ。こればかりは自己責任も問われるだろう
「あぁそれと、のどかに綾瀬に長谷川に和泉。お前達の中でバッジを奪われた者は、私の修行プラスイギリスは取り消しだからその積もりでな」
エヴァンジェリンの言った事にのどか達は顔を青くする。
エヴァンジェリンの修行。それは正に生き地獄と言って良い程の過激さで、ジャングルでのサバイバル修行の方が優しいと錯覚する程だった。
格闘技術を素人であるのどか達に骨の髄まで叩きつけた。初日から数日は死を覚悟する程であった。
修行はエヴァンジェリンとマンツーマンで行った。これはこのかのアーティファクトの完全治療が1日に1回しか使えないからだ。骨が砕けるか折れたらこのかの力で治癒してもらい。よく体を休ませている間に、次の人がエヴァンジェリンの相手をする。それの繰り返しを行ってきたのだ。
この修行のおかげでこのかのアーティファクトの修行にもなったのは複雑だったとこのかは溢していた。
そんな修行をまた行い尚且つイギリス行きは取り消しはかなり堪えるものだ。
ならば絶対にこのバッジを死守するだけだ。
「さてそろそろあいつらがやって来るだろう。纏まって動くんじゃあないぞ。せいぜい2人1組で動け。解散だ」
イギリス兼魔法世界行きを賭けたサバイバルが今始まる。
のどか、夕映組は一般人組の襲撃に備えながらも夏祭りを楽しんでいた。
今は小休憩で人気のない林で休んでいる。
「まさかこんな事になるなんて……」
「うん、思いもしなかったよね」
白い翼のバッジを改めてまじまじと見てポツリと呟くのどかと夕映。
エヴァンジェリンは絶対にバッジを奪われたら行かせないと言っていたが、本当だろう。一般人組に遅れを取るぐらいなら足手まといになってしまう。
「でも、もし魔法を知らない人が魔法世界に行ったら」
「おそらくですが簡単な観光を終えて帰宅。いや、最悪の場合はマギさんだけが奥へ行く可能性が……」
マギに限ってそんな事はないと言い切りたいのどかだが、クウネルと話していた時に、この期を逃したくないと言っていた。
父であるナギの事を知るためなら、もしかしたら飛び出してしまうかもしれない。
そうはさせたくないから修行をしているのどか達であるが、一般人組がいたらかなり大きな足枷になってしまう。そうならないためにも
「このバッジは何が何でも」
「絶対死守……だね」
このバッジは守り通すと誓っていると
「やーやー良いバッジを着けているね。私はバッジ仙人!そのバッジをもっとよく見せてくれないかな!?」
へんなお面を着けた裕奈がのどかと夕映に近付いて来た。低クオリティな変装に思わず呆れるのどかと夕映。
「えっと裕奈ちゃん……」
「何馬鹿な事をやってるんです?」
「うぇ!?何でこんなあっさりバレるもんなの!?」
更に裕奈がポロっと自分でも正体をばらしてしまう。そんな裕奈に駆けてきたまき絵がドロップキックを食らわせる。
「あははははーごめんねー今のなしー!!」
誤魔化しの笑いを挙げながら倒れた裕奈を引きずるまき絵。後方からはアキラが走りよってきた。運動神経に自信がある裕奈とまき絵はのどかと夕映に狙いを着けたのだ。
「へーエヴァンジェリンさんから聞いたけど、カッコいいデザインだね!!もっとよく見せて見せて!!」
と言っているが、魂胆は見え見えである。油断した所をかっさらう積もりなんだろう。
「えへ、えへへへ。ほんとに素敵なバッジだねぇ……」
しかし顔が凄いことになっている。のどかのバッジにゆっくり手を伸ばすまき絵は目をギラギラと光らせ、息を荒げている。
その姿が、卑しい物乞いのように見えてしまい
―――汚らわしいなぁ―――
のどかの中で何かが冷えていくのを感じ、カチリとスイッチが切り替わった感覚が巡った。
「……ふぇ?いた、いたたたたた!?」
気づけばのどかがバッジに手を伸ばそうとしていたまき絵の手首を掴み、ゆっくりと力を込めていく。
「ねぇ、汚い手で私とマギさんの繋がりを奪おうとするのは止めてちょうだい」
「のっのどか!?貴女今何を言ってるか分かってるです!?」
今のはクラスメイトに言っていいことではない。
夕映がのどかを咎めようとする。と、ぱっとのどかがまき絵の手首を離す。手首には赤い痕が残っている。それ程強い力で握っていたのだろう。
夕映の方を振り返る。その顔には冷笑を浮かべており、夕映ものどかの冷笑を見て思わず竦み上がってしまう。
「何言ってるのゆえ?あいつらは私とゆえの大事なものを奪おうとした敵なんだよ?だったら敵をさっさと追い払わないと」
「のどかこそ何を言ってるです!?同じクラスメイトを敵って言っていいことと悪い事があるです!!」
のどかの雰囲気に臆さず言い返す夕映。自分達を敵と言われ流石に来るものがあったまき絵と裕奈はリボンと学園祭で使っていた拳銃型の魔法武器(景品として頂いた)を構える。
「ねえ本屋ちゃん。私達も馬鹿にされて笑って流せる頭の持ち主じゃないんだよ」
「そう言えば私達ってあんまり喧嘩とかしなかったよね。お祭りにかこつけて喧嘩祭りと洒落混もうか?」
「ねっねえ、ちょっと落ち着いた方がいいよ」
「ふふ、かかってきなさい。格の違いを教えてあげるから」
「のっのどか落ち着くです!!」
アキラと夕映が落ち着かせようとするが、喧嘩の火蓋は切って落とされた。
「敵を打て!!」
裕奈が唱え引き金を引き光弾がのどかに向かって行く。しかし
「何これ?こけおどし?」
のどかは無詠唱の炎陣結界で光弾をあっさりと防いでしまう。
「ええ!?何それ!?」
自分の攻撃が炎の壁に防がれた事に驚きを隠せないでいると
「ええい!!」
まき絵が巧みにリボンを操り、のどかの両手首に巻き付け拘束する。
「やった!」
上手く拘束出来たことにガッツポーズをするまき絵だが……
「これで私の動きを封じたと思っているなんて、こども騙しもいいところね」
両腕に魔力を回し、強引にリボンを引きちぎった。小気味のいい音で紙のように意図も容易くリボンがただの布へと変わる。
「ええ!?うそお!!」
のどかに引きちぎられた事に驚いていると、のどかはまき絵の間合いに入り、軽くまき絵の顎を殴った。殴られたことでまき絵は脳震盪を起こし、そのまま倒れてしまった。
「この!やったなぁ!!」
裕奈は再度のどかに狙いをつけるが、のどかは一瞬で裕奈に近づき、そのまま某傭兵が使っている格闘術で祐奈を地面に沈めた。
そして動きを取らせないように、肩の関節を固めて動けないようにする。しっかり痛みを添えて。
「いたたたたたたたた!!ギブギブアップ!!」
「まだよ。二度と歯向かえないように徹底的に痛めつけてあげる」
更に強めるのどか。アキラは顔を青くして助けを呼んだ方がいいのではと考え始める。
「のどか!やりすぎです!このままだと裕奈さんの肩が壊れてしまうです!!」
「なに言ってるのゆえ?敵はこうやって、徹底的に、潰しておかないと……」
「っ。のどか……ごめんなさいです!!」
これ以上はいけない。先に謝って、夕映は手に魔力をこめ、のどかの頬に平手を当てた。林に乾いた破裂音が響く。
叩かれたのどかは暫く呆然としていたが、暫くしていると、先程まで無かった目に光が戻ってきた。
「あれ?私、何をやっていたの?」
先程までの記憶が飛んでいるようで、倒れているまき絵や今自分が裕奈の肩を固めていることに目を見開いて驚愕する。
「わっ私なんてことを!ごめんなさい裕奈さん!!」
「あーいてててててて……変な世界が見えそうになった気がするよ……」
すぐに離れ謝罪するのどか。裕奈は何時ものノリを出そうとするが、やはりかなり痛かったのか目尻に涙を浮かべていた。
「……はれ?私、いつの間にか寝ちゃってたの?」
気を失なっていたまき絵も起き上がり、意識が朦朧としていたが、空気が重くなりすぎている事は何とか気がついた。
「ごっごめんなさい!ごめんなさい!私、私、なんてことを……!!」
「のどか、落ち着くです。今はここを離れるです!のどか行くです」
そう言って夕映は少しパニックになっているのどかを連れてこの場を離れようとして裕奈達の方を振り返る。
「裕奈さん、のどかの代わりに謝ります。ごめんなさいです。ですが私達が行く場所は、もしかしたら自分の身は自分で護らないといけない場所かもしれないです。ですから、私達のように特殊な訓練をしていない人を連れていくことは出来ないのです。分かって下さいです。それでは」
夕映は足に魔力を回し、跳躍しこの場を離れた。目の前で驚異的なジャンプを見て呆然としてしまう。
裕奈はのどかに肩を固められた時に、学園祭のマギとアーチャーの戦いを思い出してしまい、肩が震えた。
「ゆーな、大丈夫?痛かったらもう帰る?」
まき絵は裕奈を心配して声をかける。正直、もう祭りを楽しめる雰囲気ではない。だが裕奈は
「えー!?折角来たのにもう帰るの!?楽しい事にアクシデントはつきものでしょ!?これはこれ、それはそれで切り替えて楽しもうよ!!それにイギリスに行きたいならネギ君ダイスキないいんちょに頼めば一緒に行ける。でしょ?」
神父(美空)の教えを守り、元気な姿を見せるのだった。
「ゆーな……うんそうだね!折角来たんだから楽しまないと損だよ!!それに、私まだネギ君の浴衣姿を見てないからね!!」
「それなら、早く行こ?それと、汚れを落としてからね」
時には空元気も大事。そう言い聞かせ、まき絵達は祭りの会場へ戻った。
「……のどか、結構化けるようになったじゃないか」
木の影から様子を見ていたエヴァンジェリンはふっと笑いを見せていた。
近接格闘の修行を行うようになってから、のどかのあのような攻撃的な性格は時たまに出るようになった。
発動条件のトリガーは『のどかが危険な目に会いそうになった時』だ。今回のバッジが奪われそうになったのが危険な目かと言われれば……これはのどかの匙加減だろう。何かのどかの機嫌を損ねるような行動をまき絵が行ったことで強制的にスイッチが入ったのかもしれない。
攻撃的なのどかの相手もしたことがあるが、その時はのどかが気絶した時に変わっていた。攻撃的になり攻め方が苛烈だったが、結局はエヴァンジェリンの圧勝である。しかし負けていてものどかはクスクスと笑いながら
『今はせいぜいお山の頂上でふんぞりかえっていることね。近い内に貴女からマギさんを奪ってあげるんだから』
そう言い残して気を失ない、目が覚めると何時ものおどおどしてるが優しいのどかに戻っていた。しかし先程までの記憶は持っていないようで、いまいち状況が掴めずにぼうっとしていたのだった。
そんなことを思い出すエヴァンジェリン。
「少々、見張っている必要があるかもな……」
と呟き別の場所へ向かうエヴァンジェリンだった。
別の場所、風香と史伽は焦っていた。先程楓についていたバッジを手に入れようと2人がかりで飛びかかったが、残念。相手は忍者と言うこともあり、意図も容易くあしらわれてしまった。
「ぶー。悔しいんだよ!!」
楓に涼しいかおであしらわれた事に風香が憤慨していると
「お姉ちゃん、あれ見て!!」
史伽が指差した先には亜子と千雨が屋台を回っていた。亜子と千雨とは珍しい組み合わせだと思った双子だが、これは好都合だと思った。
「千雨ちゃんはインドア代表の子だよ。千雨ちゃんなら簡単にバッジをゲット出来るはずだよ」
風香と史伽は頷くとまず最初に千雨からバッジを奪うことに決めたのだった。
その風香と史伽に狙われている千雨は亜子と屋台回りの最中だ。
「はぁ、久しぶりのまともな休日やねー」
「そうだな……」
ほのぼのと言った感じで呟く亜子と千雨。
「別荘で体感した数十日は正に地獄と言っても良い程やったからなぁ。特に千雨ちゃんが」
「言わんでくれ。今でも思い出すとトラウマが発症しそうだ」
千雨は思い出し祭りには似つかわしくないげっそりとした顔を浮かべる。
のどか達の中で一番体力が低かった千雨はそれはもう酷く、何度も胃の中を戻したことか
「けど、この修行のお陰で私はかなりのレベルアップをした。文武両道なネットアイドルなんて、ちうが更なる高みに登ったもんだよ」
「そうやね。ウチも千雨ちゃんの配信見てみたけど、イキイキしててキラキラ輝いていたよ。とっても素敵やったよ」
素敵と言われ顔を赤くする。その顔の赤身が照れなのか喜びなのかは分からないが、亜子は嬉しそうににこにこと笑みを浮かべる。
ところで
「なぁ」
「うん……ウチらつけられとるね」
自分等に近づく2つの気配。それはよく知る幼い気配だ。
「捕ったぁ!!」
「やぁぁ!!」
風香と史伽が千雨に飛び掛かり、バッジを奪おうとする。まずは1個を絶対にゲットし、もう1個は後で考えればいい。そう判断した風香と史伽。
「ふっ……」
「ぶべぇ!?」
「きゃあ!!」
しかし千雨は風香と史伽が来ることを察知していたので楓の様に簡単に双子の突撃を避けた。びたんという擬音が聞こえような盛大に地面にダイブした風香と史伽。
「残念だったな。お前らの尾行なんてこのちう様がお見通しなんだよ」
千雨は自身が身に付けているバッジをこれ見よがしに風香と史伽に見せつける。
「どうせこの私からだったら簡単に奪えると思ったんだろ?どうだ?長瀬と同じように簡単にあしらわれてどんな気分だ?んん?」
「うわぁ、千雨ちゃん人が悪いなぁ」
千雨の挑発に苦笑いを亜子が浮かべていると。挑発に乗ってしまった風香と史伽は再度千雨に食って掛かる。
「うううう!そのバッジをよこせえ!!」
「よこすです!!」
「はっはっは!のろいのろい!あくびが出そうだ!」
双子のコンビネーションもエヴァンジェリンの攻め苦に比べれば赤子同然だ。
しかし段々と人の流れが大きくなってきた。このままいくと人混みに紛れて奪われる可能性が高くなりそうだ。
「千雨ちゃん逃げよう!」
「了解」
風香と史伽から逃れるためにその場を離れる。逃がすまいと千雨と亜子を追いかけるが
「おっ追い付けない!?」
「待ってぇ!!」
千雨と亜子は人の波をすいすいと避けていった。これには驚きを隠せない。
亜子はサッカーの経験者だ。人ごみもドリブルをイメージして避ければわけはないだろう。
しかし千雨は違う。風香と史伽からしてみれば千雨は運動がからっきしな少女なはずなのにどうしてと頭のなかで疑問符が巡っている。
追われている亜子と千雨は
「ねぇ千雨ちゃん……」
「ああ、なんというか逃げてる筈なのに追い詰められている感じだ」
気分は追い込み漁の魚だ。そしてその理由も直ぐ分かる。逃げた先は広い広場。
そこには屈強な体格の男子学生がずらりといた。各々胴着を着ている者もいるから武道を嗜んでいる者なのだろう。
そんな男子学生が一斉に亜子と千雨を見る。
「おい、この子達例のバッジを着けてるぞ。ターゲットだ」
1人の男子生徒がそう言い、男子生徒達がジリジリと亜子と千雨に近づいてくる。
「悪いなぁ嬢ちゃん。俺らそのバッジを手に入れるように頼まれてるんだわ。だから大人しくそのバッジを俺らに渡してくれないか?」
そう言って少しずつバッジに手を伸ばそうとしている男子学生。
「……なぁ亜子さんよぉ。これってあたしら襲われてるって判断しても大丈夫か?」
「大丈夫やない?」
「だったらよぉ……返り討ちにされても文句は言えねえよなぁ?」
「言えないんやないかなぁ」
千雨と亜子の話を聞いて男子学生の何人かが吹き出した。まるで自分達に勝てるとでも言いたげだ。
「おいおいお嬢ちゃん。まるで俺達に勝とうって言っているようじゃないか?悪いが俺達に勝とうなんて無理な話―――」
「とう!」
「ごぺえ!?」
亜子がジャンプし男子学生の顎を蹴りあげた。蹴られた男子学生は変な声を出して、数10cm浮くとそのまま背中から盛大に倒れた。
亜子に蹴り倒された男子学生を見て呆然とする男子学生達。すたんと着地した亜子は
「あっちゃー。手加減したんやけど、伸びとるなー」
とあれでも手加減したとそう言い放った。その言葉を聞いて、亜子の事を自分等が崇拝してる古菲と同等のレベルだと判断した。
掛け声を出して一斉に亜子に掛かる男子学生達。端から見たら女子生徒を男子学生が襲っている警察案件であるが実際は真逆である。
亜子の強烈な蹴り技で次々と男子学生達は戦闘不能となってしまっている。
エヴァンジェリンはサッカー経験者である亜子のキック力を存分に活かせるように、空手やキックボクシング、ムエタイ、カポエイラと蹴りが主流の武術を叩き込んだ。
元々運動神経が高い亜子はめきめきと成長していった。更には
「やあぁぁぁ!!」
逆立ちし、開脚し(スパッツを履いて)某黒足のコックのような回転蹴りを披露し始める。
亜子には敵わないと悟った男子学生は今度は千雨に狙いを付けた。
「はぁ、まぁあたしを狙ってくるのは分かってたけどさ」
やれやれとため息を吐く千雨。千雨を捕まえようと伸ばしてきた手首を掴み
「ほい」
思い切り捻ると
「おわぁ!?」
男子学生は盛大に大回転し、そのまま顔面から地面に激突した。鈍い音が聞こえ、もしかしたら鼻が折れてしまったかもしれない。
けど千雨は
「このちうちゃんにお触りしようとしたんだ。此ぐらいは当然だよな」
しれっと言ったのだ。まさかノーマークのような千雨の柔術に戦慄する男子学生。
千雨が柔術を身に付けるまでそれはもう血反吐ろな日々だった。
『うげぇ………』
近接格闘術の修行にて、千雨は自身が吐いた吐瀉物に沈んでいた。
『長谷川千雨、お前本当にセンスがないんだな』
修行相手のエヴァンジェリンは盛大な溜め息を吐いていた。
別荘での数日、千雨だけ色々な武術を教えているが、丸っきり成果がない。
というのも、千雨の元のポテンシャルに問題があるのだろう。
千雨はインドアなネットアイドル。元々体力は3ーAの中では下の部類、更にジャングルでの戦闘は木の守護者に任せきりであった。
そんな千雨に武術を教えるのは難しいだろう。
『わっ悪かったな……センスのないもやしっこでよ……』
膝が笑いながらやっとこさと起き上がる千雨。その顔は先程盛大に吐いたために青くげっそりとしている。
これ以上は無駄骨と判断したエヴァンジェリンは方針を変えることにした。
『長谷川千雨、お前には別の武術を叩き込む。柔術だ』
『柔術?それって柔道や合気道とか護身術として使われているあれか?』
『そうだハッキリ言ってお前は自分から前に出て戦うようなタイプではない。人形を前にして自分は後衛にいた方がお前向きだ』
『そりゃ、そうかもだけどよ。皆自分から攻めていく武術なのにあたしだけ相手の攻撃を待ってるような……』
『お前は何か勘違いしているようだが、大事なのは自分が死なんことだ。相手を倒すことじゃない。それはのどか達にも言っている。お前達の武術は自身を護るための最終防衛ライン。自分達から果敢に攻めても死に向かうだけだとな』
『……』
『分かったならさっさとやるぞ。言っておくが私は柔術だからと甘くするつもりはない。技が決まらなければそのまま沈めるからな』
そう言ってエヴァンジェリンは千雨に合気道等の柔術を教えていく。その言葉通り技が決まるまで何度もエヴァンジェリンに沈められていった。
そして今に至る。男子学生は躍起になって千雨に食って掛かっていく。それが千雨の誘いだと気づかずに。
千雨の柔術はほとんがカウンター。相手が敵意を持っていれば簡単に沈める事が出来る。
亜子の蹴り技の派手さはないが、確実に相手を倒すその流動は流れる川の様に綺麗だ。
ならばと1人の男子学生が気配を消し、少しずつ千雨の背後から近づいてきた。
あと少しで千雨の肩に触れそうだ。勝った、このまま掴んで押し倒しそのままバッジを奪ってやろう。
勝利を確信した瞬間、千雨が上に跳び、片手で男子学生の頭を掴みそのまま背後に回った。
「……は?」
理解が及ばないまま男子学生は振り返ると、千雨が男子学生の顔面を掴み、足を引っ掛け思い切り引いて大回転させた。
大回転している男子学生は悲鳴を挙げる間もなく顔面から地面に激突して動かなくなった。回転しすぎてか思い切り顔面をぶつけたからか伸びている。
背後から近づいてきたのは見えていないのに何故分かったのか、男子学生達は戦々恐々として千雨にもう近づく者は現れない。
種明かしをすると、千雨は雷の魔法を使う。そして雷の魔法をで人間の微弱な電気を感じている謂わばレーダーのようなもので人の気配を感じ取っている。だから人ごみの僅かな隙間だったり、背後の人の気配を感じる事が出来るのだ。
亜子と千雨、たった2人に苦戦していると
「何やら面白い事してるじゃん?」
「私達も参戦させてもらうアルよ」
ハルナと古菲が飛び入り参戦してきた。ハルナはアーティファクトで炎の魔神を召喚し次々と男子学生を蹴散らしていく。
男子学生が崇拝している古菲もお馴染みの中国拳法でノックアウトをしていく。
数分後には学園中の実力をもった男子学生、30人以上はたった4人の女子生徒によって全滅させられてしまった。
これには千雨と亜子を追いかけてきた風香と史伽も目を見開き、口を大きく開けるしか出来なかった。
「どうだ?あたしらの力は。正直此ぐらい出来ないとあっちじゃ難しいぞお。あたしらももしかしたら危ない場所にいくかもしれないからな。このとんでも学園に慣れてると痛い目みるかもな」
風香と史伽は悔しいが納得してしまった。目の前の千雨が次々と男子学生を薙ぎ倒す光景を見て、自分達じゃあの男子学生に軽々と持ち上げられてしまうだろう。
本来なら裕奈やまき絵と合流する筈だったが、こっちに来る気配がない。返り討ちにあって、戦意が折れたのだろうと判断する風香と史伽。
「まぁ此ぐらいでいいだろう」
と凛とした声が聞こえた方向からエヴァンジェリンとその後ろを茶々丸が歩いてきた。
「和泉亜子。長谷川千雨。それぐらい動ければ問題はないだろう。ただし、こいつらを蹴散らしたからと言って調子に乗るなよ。こいつらはゲームで言うところの戦うが簡単に死ぬNPC風情でしかないからな」
幼い見た目のエヴァンジェリンに言われプライドが傷ついた男子学生の何人かが起き上がりエヴァンジェリンに向かおうとする。
しかしエヴァンジェリンが男子学生達に殺気を飛ばす。鷹の目のように鋭い瞳孔で見られ心臓を鷲掴みにされた感覚が襲う。
「私ぐらいなら此ぐらい余裕だがな」
エヴァンジェリンの殺気を当てられ、亜子や千雨も青い顔で何度も頷いた。
「それで鳴滝風香鳴滝史伽、まだやるか?私としてはもっとお前達が無様に抗う姿を見てみたいのだがな」
「……ううん」
「……もう、ギブアップします」
なんだつまらん。小さく呟き風香と史伽を一瞥する。
「これにて茶番劇は終了だ。後は各々自由に過ごせ。言っておくが私が去った後にバッジを盗んでもイギリス行きは許可せん。それとバッジを持っている者は無くすんじゃないぞ。無くしたら、分かっているよな?和泉亜子、長谷川千雨」
「ふぇ!?」
「なんであたしらだけに言うんだよ」
「喧しい。私の無駄に長い時間をいお前達に分けてやったんだ。その労力を無下にするなと言っているんだ。しかし……まぁ及第点と言った所だな」
そっぽを向き呟くエヴァンジェリン。そんなエヴァンジェリンを見てニヤニヤしているハルナを見て睨む。
「ああそれと、のどかに綾瀬夕映に長谷川千雨に和泉亜子。お前達は私とマギと一緒に一足先にイギリスに行くぞ」
「「……え?」」
きょとんとした顔を浮かべる千雨と亜子。別の場所ではあやかとアスナが一騎討ちをしてアスナが勝利を収め、バッジサバイバルは魔法組の勝利で終わった。
そして、また別の場所では
「マギさん」
「千鶴」
花火が空に咲いている中で見つめ合っていた。