堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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闇の魔法修行③ 己を超えよ

 マギとネギが闇の魔法の修行を始めた同刻、闘技場に残った雪姫は1人で対戦相手と対峙していた。

 

「雪姫さんよぉ! 今日であんたの無敗記録を破らせてもらうぜ!」

「あんたみたいなのが1人目立ちしてるとこっちは商売上がったりなのよ!」

 

 ダークエルフのような褐色な耳長の男と猫の獣人の女が各々の武器を雪姫に向けながら吠える。

 現に雪姫は1人ですべての相手を地に沈めて来ている。

 更に容姿端麗な雪姫に男女問わずに人気になっており、闘技大会のオッズも雪姫とネギ(マギ)が同列1位であり、少し離れてナギ(ネギ)が3位。かなり離れてコジロー(コタロー)が4位となっているのだ。

 対戦相手は当て馬のような扱いには拳闘士のプライドが傷つくだろう。

 しかし雪姫本人は対戦相手に対して鼻で笑いながら

 

「端役がいちいち騒ぐな。騒いだ所で貴様達が勝てるわけじゃないだろう?」

 

 端役。そう言われてた対戦相手は雪姫が挑発したというのは分かってはいたが乗せられてしまい

 

「調子に乗るんじゃねえぞ!!」

「あたしらがあんたに地面の味を覚えさせてやるよ!!」

 

 雪姫に武器を振り下ろした。

 

「──まぁ、この位のレベルならこの程度か」

 

 軽く息を吐きながら肩に着いた土埃を払う雪姫。彼女の背後には巨大な氷山がそびえ立ち、その中に対戦相手が氷漬けになっていた。

 

『決着ぅぅぅぅ!! 雪姫選手今回も圧倒的な差を見せつけての完全勝利! これには観客の皆さんも納得の強さです!!」

 

 会場は雪姫コール一色であり、雪姫もパフォーマンスで観客に向かって手を振る。そんな雪姫にインタビュアーが近づく。

 

『雪姫選手。今回も鮮やかな勝利でしたね! 最初は1人での試合に納得出来ない人も多かったことですが、それらの声を黙らせる程の強さを見せましたが、ずばりこれ程の力を隠していたのは何故でしょうか?』

「なに、弟子のネギが1人で頑張りたいと言っていたんだ。なら弟子の顔を立てるのも師匠の役目だ」

『成程! お弟子のネギ選手の考えをくんであげたと。雪姫選手は弟子想いのお師匠様ということですね!』

「当然だ。アイツは私の大事な弟子だからな」

 

 雪姫の微笑みを見て思わず顔を赤くして呆けそうになるが、直ぐに意識を仕事に戻してインタビューを続ける。

 

『そのネギ選手ですが現在諸事情にて欠場しておりますが、噂では修行をしているとういうことですが本当でしょうか?』

「本当だ。アイツは自身の強さを磨くために修行を始めている。楽しみにしてるといい。アイツが強くなればそれこそこの闘技大会も大きく盛り上がるだろうさ」

 

 観客としては大会が盛り上がるなら是非もないと今は会場にいないネギコールが雪姫コールと交互に鳴り止まない。

 

「へんっ、もう完全に会場はネギと雪姫で一色みたいやな」

「はっ、相手にされてなくて面白くなさそうだなコジローさんよぉ」

「名前も出てないナギの代打に言われても別に悔しくともなんともないわ」

「何だとコノヤロー!!」

 

 ニヤニヤ笑いながら茶化してくるトサカを適当にあしらうコジローであった。

 

(マギ、これだけお膳立てしたんだ。しっかり強くなって戻ってこい)

 

 雪姫はマギが居るであろう方へ顔を向けて無事にマギが強くなって戻ってくることを願っているのであった。

 

 

 

 

 

 一方のそのマギ当人はというと

 

「──―あ? ここ、どこ、だ?」

 

 気を失っていたのか目を覚ますとマギはジャングルの中に居た。しかも強制転移で飛ばされた最初の森であった。

 

「何で俺、このジャングルに居る──―」

 

 マギは起き上がろうとして自身の下半身と左腕が無くなっているのを見る。

 

「……あぁ、そうだった。あの野郎」

 

 激痛に顔を歪めながら体の再生に集中をかけるマギ。

 直ぐに何が起きたのかを思い出す。

 

『ヒャッホー! 行くぜ行くぜぇ!』

 

 世紀末の悪役が言うような掛け声を上げながら黒マギはグレートソードを振りかぶりフルスイングで横に薙ぎ払う。

 新マギは月光の剣でグレートソードを防ごうとするが

 

『──―あ、だめだ』

 

 やばい何かを直感で感じ取った新マギはグレートソードを防ぐには防ぐ事は出来た。

 しかし後から来た衝撃波に体が耐えられず左半身が消し飛び、場外ホームランばりに空のかなたへと飛んでいってしまった。

 

『ギャハハハハ! バイバイキーン! てか!? まだまだ行くぞぉ!』

 

 愉快そうにケタケタ笑いながら黒マギは背中から龍のような翼を生やし、飛んでいった新マギを追いかけていった。

 

 

『新俺!!』

『やっぱり本体を狙うよな……行くぞ俺』

 

 なけなしの魔力で浮遊術を使い飛んで新マギと黒マギを追いかけようとする旧マギと白マギ。

 

『旧マギさん!』

『悪い千雨、ちょっと行ってくる』

 

 いつもなら不安な顔を浮かべる相手を安心させるために何かアクションを見せたい旧マギだが、今は時間が惜しいために微笑みを見せるだけだった。

 

『行くぞ旧の俺!』

『分かってる!』

 

 なけなしの魔力で黒マギを追いかける(といっても戦闘機並の速度は出ているわけだが)旧マギと白マギ。

 

『ラカンさんあたしをマギさん達の所へ連れてってくれ! あんたならそんぐらい簡単だろ!?』

『しょうがねえな。本来なら料金を取るとこだが今回は特別サービスにしてやるよ』

 

 その後をラカンに頼んで追いかける千雨であった。

 

「くそ、油断したわけじゃないがあいつとんでもなさすぎるだろ……」

 

 漸く体を再生し終えた新マギは黒マギに対して悪態をついていると

 

「よかった。あいつよりも先に見つけられた」

「まだ心は折れていないだろうな俺」

 

 白マギと旧マギが黒マギより先に見つけてくれた。手には血みどろの臓器を持って。

 

「白い俺、それは?」

「俺を探す道中で狩った亜成体の魔法生物の魔力袋だ。今の俺達じゃ成体を狩るのは厳しいと思ってせめての幼体と成体の中間をと思ってな」

「これを食って少しでも魔力を回復しろ」

「ああ、ありがとう。いただきます」

 

 白マギと旧マギにお礼を言い魔力袋にかぶりつく。

 血なまぐさい臭いと変な感触に不快感を覚え吐きそうになるが我慢し一気に飲み込んだ。

 飲み込むと少しだけだが魔力が体中を巡るような、そんな感覚が走る。

 これならと思いながら残りの魔力袋もすべて平らげる新マギ。口周りの血を拭う。

 

「よくあの時は食えたもんだな……俺、生レバーなんて食べたことないのに」

「あの時は意識は新俺だったが体を動かしてたのは黒い俺だったからな。あいつが暴れ過ぎてハイにでもなったんだろう」

「けど、少しは魔力は回復しただろ」

「ああ、ありが──」

 

 新マギがお礼を言う前にジャングルの木々が突如吹き飛んだ。

 

「みぃつけたぁ」

 

 グレートソードを担いだ黒マギが子供のようなニンマリとした笑みを浮かべながらの登場だ。

 

「くそ、もう見つかったか……」

「何言ってんだ? 俺達は同じ存在だ。何処に居るかなんて筒抜けなんだよ。例え地球の裏側のブラジルに居てもな。ブラジルに居る人聞こえますかぁぁ!? ぎゃははは!」

 

 ……今のを面白いと思っているのか? ありきたりなギャグを愉快に笑う黒マギを白けた目で見る旧マギ、新マギ、白マギ。全然面白くないこれを面白いと思ってやっている黒マギの神経が信じられないと思った3人であった。

 

「まぁ、温情でハーフタイムを設けてやったんだ。第一Rは俺様の圧勝だ。第二Rをおっぱじめようぜ。最初は……お前だぁ!!」

 

 黒マギが狙ったのは白マギであった。空気が切れるほどの轟音を上げながら白マギに向かってグレートソードを振るう黒マギ。火花を出してグレートソードとタワーシールドがぶつかり合う。

 

「前から気に食わなかったんだよなぁ! 理性だからってお高くとまってよぉ!」

「お前のような力が全てだと思ってるような愚か者がこれ以上力を振るうのは間違っている! いい加減大人しくしてくれないか!」

「嫌だね! 一度力を振るう快感を覚えちまったらもう後戻りなんて出来るわけねぇだろうがよ!」

 

 攻防を繰り広げながらそう言い争う白マギと黒マギだが、明らかに白マギが押されている。白マギ本人も自分は戦うのは得意じゃないと言っていたが本当だったのだろう。

 

「白い俺を助けるぞ新俺」

「わ、分かった!」

 

 黒マギに向かって飛び、月光の剣と断罪の剣を振るう。が

 

「そうだ! もっと! もっとこいよ!!」

 

 黒マギの背中から某山犬の姫が出てくる祟り神のような触手を無数に生やし新マギと旧マギの手足を絡め取り捕まえる。今の黒マギは闇の魔法の魔力を器用に使いこなしている。

 

「男の触手プレイなんて需要ないだろうけど、喰らいな! ホワァアタタタタ!!」

 

 鞭のようにしなやかでかつしっかりした硬さを持つ触手の高速の打撃が旧マギと新マギに襲いかかる。

 身動き出来ない2人のマギは触手の餌食となる。

 

「旧と新の俺!」

「何余所見してるんだぁ? 次はお前の番だぜぇ!」

 

 黒マギは触手を合体させ1本の太い触手へと変えた。剛腕と言える触手が白マギに迫り、白マギはタワーシールドで防ぐ。

 しかし防ぎきれる威力ではなかったために、白マギは後ろに飛ばされ、何本かの木々をなぎ倒した。

 

「うひゃひゃ。第2Rも俺様の圧勝。こりゃ俺様のストレート勝ちで決まりかぁ? キャ~! 黒マギ様ステキー! ヘーイありがとう仔猫ちゃん達〜! ん〜ま! ん〜ま!」

 

 黒マギが余裕そうに独り芝居を行い、それを見て新マギ達は怒りと苛立ちを積もらせる。

 

「あいつ絶対に負かす……!」

「あのアホ面をぼこっ面に変えないと気がすまねえ」

「同感だ……」

 

 新マギ旧マギ白マギは心が折れるどころか闘志を燃やし

 

「「「ウオォォォォ!!」」」

 

 雄叫びの咆哮を上げながら黒マギへと挑みかかった。

 新マギ達が黒マギに挑んでいる中、千雨はネギを看病していた湖にぽつんと立っていた。時折ジャングルの中でマギ達が戦っている衝撃音が聞こえる。

 ラカンに頼みマギ達を追いかける事になったのだが、その方法が剣を召喚し、マギ達が飛んでいった方角にぶん投げそれに乗って飛んでいくというぶっ飛んだ方法だった。

 波乗りラカンなどというふざけた命名をしたがどこぞの殺し屋の移動方法だろとツッコミたかったが、前から来る風圧で文字通り目も口も開けられなかった千雨であった。

 暫くはラカンの体にしがみついていた千雨であるが、漸く目的の場所へとたどり着いた。

 ラカンはネギの方へ戻ると言って同じように剣に乗って飛び去って行った。

 1人残された千雨。静かで時折戦いの衝撃波が聞こえる位である。

 獣達の声は全く聞こえない。皆黒マギに恐れているのだろう。千雨でも分かる位の圧倒的存在感。コイツに関わったら自分の命はないと本能で感じ取ったのだろう。

 

「でもどうすんだ……? 見守るなんて言ったがこんなのあたしだけじゃ手に負えないぞ」

 

 そうぼやき座り込む。そんな千雨を水底から狙う大きな影が1つ。

 その気配に千雨は気づかないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方のネギは死んだように眠っているが、酷くうなされ荒い呼吸が続いていた。

 しかも手足が裂傷し血が流れている。今はそこまで血は流れていないが、このままいけば血が圧倒的に足らなくなる。

 

「ああネギ先生。おいたわしや……!」

『あやか様、このままですと包帯が足りなくなってしまいます』

 

 嘆きの言葉を吐露しながらもテキパキとネギの看護を続けるあやかだが、マギウスの報告を聞きいよいよ不味くなったと焦りの色が見え始める。

 

「おう、どうだネギの調子は」

「ラカンさん!」

 

 そんな最中に戻ってきたラカンが様子を見に来た。

 あやかは必死にネギの現在の状態を話し始める。

 ラカンは黙ってネギの状態を聞いていたが、聞き終えた頃には汗を流して唸り出す。

 

「やべえな……下手したらマジで死ぬなこれ」

「……え? 死、ぬ? ネギ先生が死んでしまうのですか?」

 

 ラカンは言う。今のネギは精神世界と肉体がつながっており、精神世界の傷はフィードバックで体に伝わる。

 このまま体が傷つき続ければいずれ血が足りなくなって死ぬ。または精神が耐えきれなくなり死人同然の廃人になるか。

 

「運良く死なずに済んでも試練に打ち勝つ事が出来なかったボウズは二度と魔法が使えなくなるかもしれん」

「そんな……」

 

 代償の重さに絶句するあやか。魔法が使えなくなればネギは立ち直る事は出来なくなるかもしれない。魔法はナギと自分を繋ぐ橋でもあるのだから……

 

「とりあえず今はネギの傷だな。このままいけばマジで血が足りなくなって死ぬからな」

 

 そう言ってラカンは数枚の葉っぱを取り出す。薬草だろうか

 

「コイツを粉末になるまですり潰して傷口に塗って包帯を巻いてやれ。そうすれば傷は塞がるだろうからな。本来は売ってやりたいところだが特別サービスだ」

「ありがとうございます!」

 

 薬草を受け取り、早速近くにあった薬研で粉末にしようとしたその時

 

「がはぁっ!!」

 

 ネギが血を吐き出し四肢からも血が吹き出す。その血があやかの顔にベッシャリとくっついてしまった。今まさにエヴァンジェリンの幻影がネギの体を貫いたのであった。

 

「────―」

「おい嬢ちゃん大丈夫か?」

 

 流石に洒落にならないと思ったラカンはあやかに声をかける。一般人組のあやかには好きなネギが吐血するなんてショッキングで、発狂しても可笑しくはないレベルだ。

 しかしあやかは

 

「────むぐっ」

 

 叫びそうになった己の口を両手で塞ぎ、そのまま絶叫を飲み込んでしまった。

 そして顔には血が付きながらも薬研で薬草を粉末にし始める。

 あやかが薬草を粉末にし始めたのをぽかんと見ているラカン。今の光景は叫んでいても可笑しくはない状況だ。

 

『あやか様、無理であるならば私が変わりに行います』

 

 マギウスがあやかの事を考えての提案をする。今のあやかにネギの看護をするのは酷と判断してのことだ。

 しかしあやかは首を横に振る。

 

「いえ、マギウスさん。これは私がやらないといけないことなのです」

 

 何故ですか? マギウスの問にあやかは答える。

 

「私は魔法の事は何も知りませんでした。何も知らないで私はネギ先生の事を知っていたつもりでした」

 

 しかし蓋を開けて見ればどうだ。自分はネギのほんの僅かな表面しか知らなかった。そんな自分がネギを愛すなんて言っていたのが、悔しく情けなかった。

 

「故に私は決めたんです。私はどんな事になってもネギ先生を支えると。そのためなら私は絶対に逃げません。この愛は決して上面でも偽りでもないのですから」

 

 汗を滲ませながらも薬草を粉末状にする。

 そんなあやかの覚悟にラカンは茶化すことをせずにふっと微笑む。

 

「狂わしい程の愛か。愛されてるじゃねえかボウズ」

「ええ。私のネギ先生への愛は誰にも負けてはいませんから」

 

 あやかも微笑み返す。

 だからこそ、無理はしては駄目だ。あやかのネギへ対しての愛を見てマギウスはそう判断した。

 

『でしたら尚更お体をお休め下さいあやか様』

「マギウスさん?」

『先程からずっと看護を続け、更に先程の事でバイタルの低下が見られます。私はちう様から魔力を頂いており、戦闘ではないのなら数日は稼働する事は出来ます。私が交代いたしますのでどうか少しでもお体をお休め下さい。それに、あやか様の美しい髪が自身の血で傷んだと知ればネギ様も心を痛めてしまいますよ」

 

 マギウスの優しい説得に薬研を動かしながら聞いていたあやかはありがとうございますと微笑みを浮かべながら

 

「でしたら、ほんの20分程お暇を頂きます。マギウスさんお願いいたします」

 

 そう言ってあやかは滝の方へと向かうが、少し歩いたらふらふらと足取りが危うくなり始めた。どうやら無理をしていたようだ。

 

『ラカン様、どうかあやか様の事を見ていて上げて下さい。今は気丈に振る舞っていますが、少し休めば感情が押し上げて来ると思いますから』

「へいへい分かったよ。けどいいのか? 俺が覗くかもしれないって思わないのか?」

『ラカン様はいい加減な所が見られますが、泣いている女性を見て悦に浸るような方ではないと信じていますので』

「へっ言うロボットじゃねえか。まぁ任せな傷心してる嬢ちゃんを大人の余裕と抱擁力で癒やしてやるよ」

 

 手をひらひら振りながら去っていくラカン。別に抱擁力は必要ないのではとツッコミは入れないマギウス。

 マギウスとうなされているネギの2人きりとなり、改めてネギを見るマギウス。

ネギ・スプリングフィールド。自身を造ってくれた葉加瀬がモデルにしたマギ・スプリングフィールドの弟。

最初は自分をモデルの弟位の認識でしかなかった。しかし長いようで短い旅の中でマギウスは人同士の掛け合いや協力、泣いて笑って色々な営みを見てきた。

その中で知識では知っていた死という概念。ロボットで壊れても直せばまた動ける自分と違い、人は死ねばもう動くことはない。

では目の前のネギが死ねばどうなる。

 

ネギが死ぬ→あやか等が悲しむ→マギが悲しむ→千雨が悲しむ。

何より自分の主が悲しむ姿を見たくない。

 

『看護モードに変形以降開始』

 

ロボットの変形でよくありそうな擬音を出しながら姿を変えていくマギウス腕から副腕を展開し4本の腕となる。

 

『絶対に死なせはしません』

 

マギウスは4本の腕をフルに使いネギの看病を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――キャアアアア!!」

 

場所はジャングルへと戻り、マギ同士で戦っている中で千雨の声が聞こえた。

 

「今のは千雨!?」

「ああ?なんだ着いてきてたのか」

 

只事ではないと焦りの色を見せる新マギと呑気な声を出している黒マギ。新マギは黒マギを放っておいて千雨の元へ急ぐ。

 

「一旦中断だ!俺は千雨の元へ急ぐ!!」

「まぁしょうがねえか。俺様もアイツに何かあったら気分悪いからな」

 

黒マギも同意し千雨の元へ急行する。そしてマギ達が見たものとは……

 

「離せよクソガメ!!あたしは餌じゃねえんだぞ!!」

 

小山のように巨大な、まるで日本の怪獣映画に出てきそうなワニガメのような、この湖の主とも言えそうな魔法生物が口から触手を出して千雨を捕えていた。

ワニガメの口にはミミズのように動く疑似餌があり、それで魚を誘い込み捕食するのだ。

しかし千雨を襲っているワニガメもどきはもう別の生物が口の中で共生しているのかと言いたげに触手が蠢いているのであった。

 

「千雨を離せデカガメ!!」

「その子はお前の餌じゃあないんだぞ!」

 

新マギと旧マギ、白マギが千雨を助けようとワニガメもどきへと突撃するが

 

「――――――!!」

「「「ぐああああああああ!!」」」

 

ワニガメもどきは口から炎を吐き出し、炎がマギ3人に直撃しふっ飛ばされる。

 

「マギさん達!!」

 

マギ達がふっ飛ばされ悲鳴を上げる千雨。悲しいかな、今のマギの強さはネギよりも若干強い位の力まで落ちている。ネギよりも若干強い位なら目の前のワニガメもどきは今のマギでは太刀打ち出来ないということである。

 

「あ~あ~なっさけねぇたらありゃしねえな。ここは俺様がさくっと助けちゃって、改めて俺様の魅力を見せつけちゃおっかなぁ」

 

力の大元は黒マギとなっている。黒マギなら目の前のワニガメもどきは簡単に倒せるだろう。今は自分がという事に拘りを持っている時ではない。千雨が助かるのならそれでいい。新マギはそう言い聞かせる。

―――否、本当にそうだろうか。一瞬の疑問が頭を過り、月光の剣の柄を持っている手に力が入る。

自分は何の為に強くなろうとしている。答えは自分の大切な人達を護る。救うためだ。

ならば、今千雨を救うのはだれか。旧マギ、違う。白マギ、それも違う。ならば黒マギ、勿論違う。

自分だ。自分が千雨を助けなければいけない。なら、どうすればいい……

力だ。力を、寄越せ……

 

「ん?……おっと」

 

意気揚々と千雨を助け出そうとした黒マギは自身の体から力が抜けて持ってかれた感覚に襲われ、体が少しよろめいたが直ぐに踏ん張り態勢を取り戻す。

黒マギがふらついている間に新マギがワニガメもどきへ突っ込んでいく。

 

「へ、漸く兆しが見えて来たか」

 

新マギに追い抜かされた黒マギは不敵に笑いながらそう呟いた。

 

(不思議だ。さっきよりも体が軽い)

 

さっきよりも体の軽さを実感しながら、新マギは月光の剣に魔力を送る。煌々と蒼白く刀身が輝く。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

雄叫びをあげ、月光の剣を振るう。光波が飛び、そのままワニガメもどきの触手を切り裂いた。

 

「―――――!!」

 

自身の器官を斬られ激痛で悲鳴をあげるワニガメもどきはそのまま千雨を落としてしまう。が、寸止めの所で新マギが片手の横抱きで受け止めた。

 

「マギさん……」

「大丈夫か千雨?」

 

触手の粘液まみれになっているが、大した怪我がないのを見て安堵する新マギ。

一方のワニガメもどきは自分よりも遥かに小さい相手に大事な触手を切られた事に怒りが頂点に達していた。

報復するために、口に魔力を溜め放とうとして、ピタッと口を止めてしまった。

見てしまった。見えてしまった。新マギから放たれる濃く濃密な殺気を

 

「――――失せろ」

 

このまま食って掛かれば、食われるのは自分の方だ。

本能で理解したワニガメもどきは巨体の割には驚く程の機敏さで踵を返し、水底へと潜って行くのであった。

脅威が去って少し落ち着くが、まだ他の脅威自体が無くなったわけではない。

 

「やるじゃねえか。目力だけであのカメを追っ払うなんてよ」

 

嬉しそうににやりと笑う黒マギ。新マギや倒れている旧マギと白マギも急いで構えようとするが

黒マギからドラゴンのような腹の虫が鳴り出し

 

「……そういえば腹が減ったなぁ。飯にでもしようぜ」

 

勝手に戦意を解いた事にマギ達はずっこけそうになるが、何とか堪える。

しかしマギ達や千雨も空腹を覚えていたので、モンスターを文字通りハントして、簡易な夕食を取ることにしたのであった。

マギとネギの修行はまだまだ終わりを見せないのであった……

 

 

 

 

 

 

 


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