オスティア終戦記念祭が開催され、メガロメセンブリアの元老院議員主席外交官とヘラス帝国の第三皇女が固い握手を交わす。メガロメセンブリアの主力艦隊、鬼神兵、ヘラス帝国は巨大な古龍龍樹そして戦乙女の鎧を纏った夕映がいるアリアドネー戦乙女騎士団が式典を警護している。
(このオスティアの何処かにマギさん、そしてのどか達がいるはずです。どうにかして皆と合流することは出来ないでしょうか……)
「ユエどうしたの? もしかしてマギさんの事考えてるの?」
「はい。ですが、今は目の前の事に集中するです」
「その通りです。この平和な式典が必ず無事に終わる保証はないのですから」
エミリィに注意され、気を引き締め直す夕映。そしてそのマギはと言うと……
「うおらぁぁぁぁぁ!!」
グレートソードで向かってきた相手を斬り飛ばしたマギ。雪姫も相手を地に沈めている。
『決着ぅぅぅ!! 話題筆頭のネギ・雪姫両選手、優勝候補に余裕の圧勝! 批判的な意見もねじ伏せるその実力、本戦でも振るわれるのか楽しみです!』
予選で対戦相手を完封無きまでに叩き潰したのであった。
試合も終わり暫しの休息、マギは祭りを楽しむ者達を見下ろしていた。
「平和だな。クソ親父が護った世界……か」
ナギが護ったのが目の前に広がる光景だというのが今一まだピンと来てはいない。そして昨日ラカンが話していた内容、それを思い出す。
「アスナの出生の秘密、20年前の大戦で島々が崩落……ん20年前の?」
そこでマギは気づく。
「大戦が起こったのは20年前、俺はまだ生まれてない。けど、ラカンさんが言ってたお姫様がアスナっていうことは……アスナって今幾つなんだ?」
アスナの正体に近づく大きな気づき。しかしマギはそれ以上入り込もうとはしない。
「……これは俺1人で紐解くのは無理だ。これは雪姫や千雨達の協力が必要だ」
あくまでも慎重に自分に言い聞かせて、マギは自分に何か強い気配を向けられていることに気付く。気配を向けられた方向を見る。
そこには自分をバイザー越しに自分を見ているアーチャーの姿が。
「あいつはゲートポートでフェイト・アーウェルンクス達と一緒に居た」
マギは警戒を強めてアーチャーへ近づく。そして互いの間合いまで近づいた。
「まさかこんな場所で貴様とまた会う事になるとはな」
「……ああ。けど、なんでアンタが此処に居るんだ?」
「貴様が此処に居る情報は私のマスターの式神で把握済みだ。私から貴様に贈り物をと思ってね」
「贈り物?」
思わせぶりは言い回しに怪訝な顔を浮かべるマギの胸に誰かが飛び込んできた。むせてしまうが誰が胸に飛び込んで来たのか下を向くと
「マギお兄ちゃん……!」
「プールス!」
プールスが泣きじゃくりながらもマギの胸に顔を埋める。
「マギ兄ちゃん!」
「マギお兄ちゃん! 会いたかったー!」
「風香、史伽! お前らも一緒か!」
「俺も居ますぜ大兄貴!」
「カモ!」
風香と史伽もこっちに走って来てカモがマギの肩に飛び乗った。
「この子達が私の目的の地に飛ばされてね。そこのカモ氏に依頼され、貴様と合流するまで護衛を任されたのだ。これで私の仕事は終わりだ。それじゃあ失礼するよ」
「おい、待ってくれ」
アーチャーが立ち去ろうとし、マギがアーチャーを呼び止める。
「何かね? 私は早くこの場を後にしたいのだがね」
アーチャーはマギと会話したくないと雰囲気がそう語っていた。が
「この後一緒に飯行かね?」
「……何?」
まさかの食事の誘いであった。
オープンテラスのレストランにマギとプールスと風香と史伽にカモとアーチャーが座る、戦った相手と食事をするという奇妙な光景が広がっていた。
「何でも好きなもの頼みな。無事に再会出来たお祝いだ」
「やった! ボクハンバーグ!」
「私はスパゲッティ食べたい!」
「わたしはお子様ランチ食べたいレス!」
「そんじゃ俺っちは酒と簡単なツマミ」
プールス達はメニュー表を見ながら何を頼むか楽しそうに選んでいた。そんな彼女達を微笑ましくマギが見ていると
「マギ・スプリングフィールド、何故貴様が私を食事に誘ったのか理解に苦しむのだが?」
「アンタはプールス達を危ない事から護ってくれたんだろ? 恩人をそのまま帰すなんて真似はしたくない。今俺は訳ありで拳闘士をやってるから金に余裕はあるんだ。遠慮なく頼んでくれ」
「……理解不能なのだが。BLTサンドとコーヒーのセット。それ以上の施しは受けん」
「了解了解。もっと値の張るもの頼めばいいのにな。俺はステーキのセットでも頼みますかね」
アーチャーとマギも決まったのでマギが注文し、皆で食事をした。
食事をして、食後のお茶も終わり、マギはアーチャーに話を切り出し始める。
「なぁ、俺はつい最近に記憶が失って? 過去の記憶が無い? 状態なんだ」
「そのようだな。久方ぶりに貴様を襲った時の第一声が初めましてには虚仮にされたと思ったぞ」
「まぁ俺も知らない奴から襲われてびっくりしたというか……なぁ俺ってアンタとは何か因縁があるのか?」
「何故貴様にその事を話さなければいけないのかね? 私は貴様とは友人でも何でもないのだから」
取り付く島もないとは正にこの事だろう。困ったマギはこれならいけるかと
「今から色々とアンタに質問するかアンタはYesかNoで答えてくれ」
「…………まぁそれぐらいならいいだろう」
数秒黙り込んでからのいやいやながら応じた。それほど俺と話すのが嫌なのか……そう思いながらもマギは質問を始める。
「アンタと俺は昔から馴染でなにかのトラブル、因縁があるのか?」
「Noだ」
「俺はアンタから物品または金を借りてそのままとんずらした?」
「Noだ」
「もしかして、アンタの大切な相手を傷つけ、または……殺害したなんて事をしたのか?」
「Noだ」
今の所全部No。流石に最後はNoだと思う。そうじゃなかったら俺はお天道様の下を歩く事は出来ないだろうし。
全部No。ここでマギがパターンを変えて見た。
「俺が何かしたとかじゃなくて、俺という存在がアンタに大きく関係している?」
「Yesだ」
NoではなくYesで返って来た。そのまま質問を続ける。
「俺がアンタの人生に迷惑をかけているのか?」
「Yesだ」
これもYesで返って来た。マギは最後の質問をした。
「アンタにとって、俺は居てはいけない存在だと思っているのか?」
「……Yesだ」
まさかの存在全否定にマギは言葉を失う。何もしていないのに恨まれるというのはこういうことなのか。
「まいったな。アンタに対して非道な事はしてないが、俺の存在自体がアンタにとっては煩わしいってわけか」
「そうだ。だからこそ私は貴様を斬れるであろう不死斬りを手に入れたのだから」
「だろうな。アンタの背中に指してる大太刀、それから嫌な気配をビリビリ感じるぜ」
マギは不死斬りから感じる嫌なぞわぞわした感覚を不快に感じていた。
「ならばここで味わってみるか? 不死斬りの切れ味を」
アーチャーが背中に手を回し柄を握ろうとした瞬間
「待ってくれ」
待ったをかけるマギ。
「実は俺は、今亜子を奴隷から解放するために拳闘士をやってるんだ。この終戦記念祭中にやってる拳闘大会で優勝して100万ドラクマを手に入るまでは待ってはくれないか?」
「何だそれは、命乞いをしようとでもいうのか?」
「命乞い、じゃあないな。俺は死ぬつもりはないから。けど、皆が無事に合流して、現実世界に帰る算段がついたら、アンタが決戦の場でも見繕ってくれ。だから今は見逃してくれ」
マギは頭を下げる。アーチャーはマギの下げた頭を見ながら
「その大会には貴様の弟も出ているのだろう? ならば弟に任せればいいのではないのか?」
「あぁ、だが俺は俺自身の力で亜子を救い出したいんだ」
「随分と己に酔った考えだな」
「そうだな。誰かを救うにはこれぐらい我儘じゃないとな」
じっと見合うマギとアーチャー。暫くするとアーチャーが溜め息を吐いて席を立った。
「興が削がれた。ならば作ってやろうじゃないか。貴様が死ぬに相応しい舞台を」
「ああ、ありがとう」
「……馳走になったな。それだけは礼を言おう」
そう言ってアーチャーはレストランを去っていった。アーチャーが見えなくなってからマギは深く息を吐いた。
「よかった。相手が場所を考えずに斬りかかってくるような輩じゃなくて」
「まぁあいつ手段の為には冷酷な手段を使うような奴じゃないみたいですぜ」
カモの言う通りだなぁと思ったマギはプールスに尋ねる。
「プールス、お前一緒に居たけどアーチャーって奴はどういった奴なんだ?」
「えっと……優しい人だったレス」
「だよなぁ……」
プールス、風香と史伽の格好が綺麗であり傷なんて1つもなかった。それはアーチャーが此処まで来るまでしっかり護衛してくれたからだろう。
「道中で山賊みたいな人が襲ってきたときも追い払ってくれたんだよ!」
「千草お姉ちゃんもお風呂一緒に入ってくれた時も髪をといてくれたんです!」
アーチャーのマスターである千草も道中でプールス達の世話を焼いてくれたみたいだ。そのせいかすっかりなついてしまったようだ。
「マギお兄ちゃん、本当にあの人と戦うレス?」
「そうだなぁ。お前らの恩人と戦うって抵抗あるなぁ」
「ですけど、相手はやる気満々ですぜ。あいつは大兄貴を倒すためなら己の命散らす覚悟であの大太刀を手に入れましたし」
「そっかぁ。どうにかして穏便に事を済ませる手段は無いかねぇ」
マギはもう一度大きい溜息を吐くのと同時に少し離れた場所で大きな音がした。
「なんだ? また誰かが野良試合をおっぱじめたのか?」
騒ぎを起こしたのは誰だと目を細めて見ると、殴り合うネギとフェイト・アーウェルンクスであった。
「ネギとあいつはフェイトって奴か? 何であいつがオスティアに居るんだよ」
「あ! そう言えばアーチャーとフェイト・アーウェルンクスは一緒に此処に来たんだった!」
「いや、そう言う事は先に言えよカモ。仕方ない、俺がネギに助太刀に行ってくるから、カモとプールスは雪姫か千雨と合流してくれ。風香と史伽を忘れるなよ」
「了解だぜ!」
「はいレス!」
マギは月光の剣を抜くとフェイト・アーウェルンクスと殴り合っているネギの元へ飛んで行った。
ネギは怒りで頭が沸騰しそうだった。フェイト・アーウェルンクスと会ったのは偶然だった。ゲートポート以来であった2人は何故かお茶を飲むことになり、ネギはミルクティーでフェイトはコーヒーを飲むことになり、フェイト・アーウェルンクスがミルクティーを飲むネギを挑発し、ネギもムキになり反論するという何時ものネギじゃ見られない光景にネギと一緒に居たアスナと刹那は戸惑った。
フェイトはある提案をしてきた。それはネギや仲間を現実世界に無事に戻れるようにするからアスナをこちらに寄越せというものだった。しかもアスナの今の性格や記憶を偽りの物とまるで人形に対して言う冷たさにネギの我慢を限界を迎え、テーブルを蹴り上げてフェイト・アーウェルンクスに殴りかかった。しかしネギの拳を涼しげに受け止めるフェイト。しかしフェイトはB案を出してきた。
『僕らは君達には一切手を出さない。けど、僕らの計画に一切手出しするな』というものだった。フェイト達の目的は大きく言えばこの魔法世界を破滅させることであった。しかしフェイトは言葉巧みにネギを追い詰める。君の目的はこの魔法世界から無事に仲間たちと日本に戻る事であり、あやかや夏美アキラ達と言った一般人組はこの魔法世界なんて関係ない者達だ。この世界が破滅しても何の関係もない。世界の終わりじゃなく生徒達の安全を優先すべきだと正論でネギの退路を断っていき、フェイトの案を飲むように誘導する。
そしてネギが折れてフェイトとの交渉を呑もうとしたが、アスナがハリセンボン状態のハマノツルギでネギを叩き、ついでにフェイトにも一発喰らわせた。アスナが完全に終始フェイトのペースだった状況をぶった切った。アスナの後押しよってネギの腹も決まり、ネギはフェイト達の組織と完全に敵対する事になった。
フェイトが空へ逃げ、巨大な岩の柱を何本も出現させアスナ達へ落としてきた。アスナの周りは祭りに来てる人たちがいる。今の状況をよく分っておらず困惑していた。しかしアスナのハマノツルギによって岩の柱は瞬く間に消失していく。
「す、すごいアスナさん……」
「ほんま、凄いですわー」
「アスナの奴、あそこまで力を付けたのか」
アスナの力に舌を巻く刹那に同意する声が2つ、1つは
「マギさん!」
「おう、なんか凄いのが見えたから助太刀に来たぜ」
ぶっ飛んで駆け付けたマギでありもう1つは
「うふふ久しぶりですセンパイ。この時が来るのを心待ちにしておりましたわ」
「月詠!」
修学旅行で刹那と刃を交えた剣士月詠。彼女もフェイト達と行動を共にしていた。その理由は
「この数週間、ずっとおあずけを食らってまして、どれほど長く感じた事か。目の前の御馳走に手を出せなくて、せつなくてせつなくなって……もう、どうにかなってしまいそう。早くウチの疼きを満たしてもらいたいです」
刀を舐めながら恍惚な狂気の笑みを浮かべる月詠。見た通りヤバい奴だと分かったアスナ。月詠の目的は刹那。だからこそ刹那がこの場で月詠の相手をするべきだと判断したが、マギが刹那の前に立つ。
「マギ先生……!」
「刹那、お前はネギの元へ行け。相手はフェイトだ。今のネギが必ず勝てる可能性は低いだろうからアスナと一緒に助太刀に行ってくれ」
「でしたら! マギ先生がネギ先生の元へ! この女の相手は私がします!」
「もーなんですのオニイサン。ウチはセンパイと斬り合いたいのに……」
割って入ったマギを気に入らないと睨む月詠。しかし何かに気付いたのかマギを見て目を黒く爛々と光らせている。
「まぁ、まぁまぁまぁまぁ! 何ですのオニイサン! 鬼もビックリの真っ黒さ! そんなオニイサンと斬りあったらとっても面白そうですなー。センパイとの前にオニイサンにお相手してもらいますー」
月詠が刹那じゃなくマギに狙いを変えた。マギとしては好都合ではあるが、月詠の狂いっぷりはマギが色んな人と会った中で一番だと思った。
「行けアスナ刹那。ネギを頼む」
「分かったわ! マギさんも気を付けて!」
「……御武運を!」
アスナと刹那がフェイトと戦っているネギの元へ駆けて行った。残ったのはマギと月詠だけ。
月詠は刀を構える。太刀と小太刀の二刀流だ。
「ああん、ウチこれ以上お預け喰らったら────周りの木偶を斬ってまいそうですぅ」
気持ちが高ぶっているのか、白目が真っ黒に染まっている。
「そうか。もう我慢する必要はねえぞ。遠慮せずにかかって来い」
月光の剣を構えるマギ。
「そうですか。では……遠慮なく行かせてもらいますー」
瞬道術を使い間合いを詰めてくる月詠。
「おらぁ!」
月詠の攻撃を防いでからマギが月光の剣を振るうが月詠の刀で簡単に防がれる。
「あらー、オニイサンの剣は我流なんですねー。けど、随分と荒々しい太刀筋。まるで獣みたいですねー」
「やっぱ剣士相手じゃ俺の剣は正に付け焼き刃か。だが、まだまだこれからだ!」
マギと月詠は何十何百合と斬り合う。だがマギは魔法や光刃で月詠を攻撃は出来なかった。下手をすれば周りの人に被害が及んでしまう。しかしこのままではやられはしないが、月詠がマギとの相手に飽きて刹那を追いかけるかもしれない。
「もーオニイサンただその綺麗な剣をぶんぶん振り回す事しか出来ないんですかー? それだけならウチ、センパイの所に行きたいんですけどー」
「まぁそう焦んなよ。まだ誰にも見せてないとっておきの奴をアンタに見せてやる」
「まー。とっておきってどんなものですかー?」
「今から見せてやるよ……マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 冥界の地の底よ 断罪の炎 罪深き者の魂ごと焼き尽くせ 黒き炎! 固定 掌握!」
マギの体を黒い炎が包み込み、全身を真っ黒にし、魔法で出来た布がマギの顔を覆った。
「術式兵装 冥府の番人!」
「あらーオニイサンが真っ黒になってしまいましたー。けど、体が真っ黒になっただけと違います?」
「ただ体が黒くなったかどうか……御照覧あれってな!」
叫んでマギが月詠に向かって突っ込む。何も考えない突撃。やはり見かけ倒しか。月詠は期待していたのもあり心底がっかりし溜息を吐く。
「こんな人を楽しそうなんて思うようになるなんて、ウチの勘も鈍りましたなー。それじゃあオニイサン、さようならー」
月詠の太刀が当たろうとした瞬間、とぷんという擬音が聞こえそうな感じでマギが地面に沈み、月詠の太刀が空を切る。
「な!? 消えた?」
初めて動揺を見せた月詠の背後にマギが現れ、マギの月光の剣を驚異的な速さで振り返った月詠が太刀と小太刀で月光の剣を防ぐ。
「どういうことですか? 今オニイサンがウチの目の前で消えたと思ったら背後に現れましたけど」
「この冥府の番人は影の力に特化した形態。今のは『影走り』俺の影に潜って移動出来る。今アンタの攻撃を避けて背後に回ったわけだ」
「そうですかーそりゃ随分と厄介なものですねーけど、そう簡単に手の内を明かして大丈夫なんですのー?」
「ああ大丈夫だ。だって使う事が出来るのは『影走り』だけじゃないからな。魔法の射手! 連弾・闇の20矢!」
マギは魔法の矢を放つ。しかし月詠は魔法の矢を避けてしまう。
「残念ですねー。そんな分かり切った魔法の矢なんて避けてくださいって言っているようなものですよー。ほら、ウチが避けたせいで他の木偶当たってぇ!?」
余裕綽々で避けたと思えば月詠の足元から魔法の矢が飛び出してきて油断していた月詠の体に魔法の矢が直撃する。
「な、何で? ウチは確実に魔法の矢を避けたのに」
「『影伝い』建物の影とアンタの影を繋げた。建物の影から伝ってアンタの影を出口にして飛び出してきたってわけさ。因みに」
マギが地面を踏みぬくとマギの足が影に沈んだと思いきや、月詠の小さな影からマギの足が飛び出して月詠の体に直撃する。
「例え小さな影でも影さえあればアンタに攻撃が当たる。人間って些細な角度でも影って出来るもんだからな」
咳き込みながらマギを見る月詠。その目は先程の狂気の笑みは引っ込み、多少の苛立ちが見えている。
「これでも女なんですけどー。オニイサンは女相手も容赦ないんですねー」
「悪いな。拳闘士をやってると女の拳闘士も相手するんだ。それに真剣勝負に女も男も関係ないだろ」
「それはそうですねー!」
本気になったようで太刀筋が鋭利になる。遊びを捨てた狂人の刃、気なんて抜くようものならいとも容易く切り捨てられるだろう。そのせいか影走りと影伝いを使うタイミングを掴めずにいた。どんどんと押されていき、遂に月光の剣が弾かれてしまう。
「斬魔剣 弐の太刀!」
月詠も刹那と同じ神鳴流の使い手であり、月詠の斬魔剣 弐の太刀によってマギの体が斬られ、上体がゆっくりと離れ地面へと落ちていく。
「あらまーウチが本気を出したらこの程度ですかーやっぱりオニイサンって見かけ倒しだったみたいですねー」
そしてマギが地面に落ちた瞬間、黒い泥水の様に弾け飛んだ。残った下半身もどろどろと崩れ落ちる。
「あらー?」
月詠が首を傾げていると、誰かが肩を叩いてきたので、振り返ると五体満足のマギが
「ハイ残念。といっても俺不死身だから斬られても死なないんだけどな」
月詠の腕を掴み、力任せにぶん回して地面に叩きつける。月詠がくぐもった悲鳴を上げるが構わず追撃する。
「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 来れ 静寂の闇 斬り崩せ 闇の刃! 装填 左腕解放」
マギの左腕から解放された闇の刃が月詠の横の地面に突き刺さる。
「何処を狙っているんですかー? しっかりとウチを狙わないと」
「いいや、これでいいのさ」
マギの言っている意味が分からず、月詠はマギが甘い行動をしたと判断し、起き上がろうとした時に気付く。
「体が動かない……!」
「『影縫い』アンタの影を俺の闇の刃で縫い付けた。多分数分は身動きは取れないぜ。あぁ因みにさっきのは『影法師』っていう影で俺の分身を作る技な」
「そうですかー色々と話しますねー。それで、身動き出来ないウチに何をするおつもりですかー?」
「え? いや、俺は何もしないけど」
そう言ってマギは月光の剣を鞘に納める。月詠はマギの行動に理解不能になっている。
「お前は刹那の宿敵みたいな奴だろ? 俺が倒しちゃったら駄目だろ」
「……随分と甘い考えをお持ち何ですね。センパイじゃウチを斬れませんよ。今の内にちにウチを討っておいた方がセンパイの為じゃないですかー?」
「は? 何言ってんの? 刹那がお前なんかに負けるわけないだろ」
マギは呆れた様子で
「お前みたいな人を斬るのが大好きな狂人じゃなくて、大切な人の為に剣を振るう刹那の方がずっと強いに決まってるじゃないか」
断言して踵を返し、ネギ達の方へ向かう。
「そう言う事だから、俺は失礼するよ」
影走りを使いネギの方へ急ぐ。
(この冥府の番人、奇襲とかには結構使えそうだけど、俺の戦闘スタイルとは違うな……いざという時以外は使わなくていいか)
初めて使った冥府の番人はマギにはしっくり来なかったようで、お蔵入りまでは行かないが使用回数は今後は少なそうである。そして残された月詠は
「マギ・スプリングフィールド……あの人の命を斬った瞬間、どんな感覚になるんやろなー……あぁ今から想像したら、ウチは……」
どうやら月詠に興味をひかれたようだった。
時は少し戻り、ネギとフェイトが一騎打ちした時間へ戻る。ネギは闇の魔法でフェイトと渡り合う。だが、フェイトからは付け焼き刃やら一時的なドーピングだと評されてあしらわれてしまう。
しかもフェイトは曼荼羅のような魔法陣を何重にも展開していたようで、ネギの攻撃を喰らっても平然としていた。フェイトがネギに攻撃を仕掛けようとしたその時
「斬空閃!!」
飛ぶ斬撃がフェイトに飛んできた。だが魔法陣で簡単に防がれる。
「ご無事ですかネギ先生!」
「刹那さん!」
遅れて刹那が助太刀に参じた。
「桜咲刹那、まさか君が来るなんてね。月詠さんはどうしたのかな」
「月詠の相手はマギ先生がして下さった。もうじきアスナさんも来る。覚悟するんだフェイト・アーウェルンクス!」
アスナの名前を聞いて数秒思案顔(無表情だから分かりづらい)を浮かべるフェイト。
「まぁいい、君やお姫様が助太刀に来ようが僕に勝てる可能性は低いだろうけどね」
余裕の雰囲気を見せるフェイトに今度は2人がかりで挑む。フェイトは鋭利な岩の柱を出す他に岩の剣を振るってくる。ネギは断罪の剣、刹那は太刀とアーティファクトの短刀を展開して戦う。
(何だこの違和感は……相手の攻撃から何も感じない。何の感情も虚無だけだ。まるで、機械と斬りあっているような……)
「戦いの最中に考え事かい? 随分と僕も舐められたものだ」
「刹那さん!」
「っ! しま……!」
はっとする刹那。フェイトから感じる違和感に気を取られてしまい、間合いを詰められるのを許してしまう。隙だらけの刹那の胴体にフェイトの拳が突き刺さる。
「こっは……これは、古菲と同じ中国拳法……!」
「皮肉なものだ。君達が努力や功夫とか言って強くなろうとしても、僕は元々こういう風に造られている。これ位の事はある程度出来るんだよ」
岩の剣で追撃しようとしたところで
「雷の斧!」
ネギの雷の斧がフェイトの岩の剣を砕いた。
「そうだネギ君、それでこそだ」
フェイトはそう言いながら、ネギと一騎打ちをする。しかしフェイトの攻撃が苛烈さを増し、殴り飛ばされ闇の魔法も解除されてしまう。
「どうしたんだい? 立ちなよネギ君。失望させないでくれ。こんな程度じゃないだろう? 全てはここからだ」
急いで体勢を立て直すように体を動かすがダメージと闇の魔法の反動か指一本も動かせなかった。
このままやられてしまうのかと思いきや、何処からともなくのどかと小太郎が現れた。急な登場にフェイトもワンアクション遅れている間に、のどかが黒い猟犬に使った鬼神の童謡をフェイトに向ける。
「我 汝の真名を問う!」
「……君は」
「へ! 油断したなフェイト! とんだ大間抜けやな! ほなな!」
フェイトが攻撃する前に小太郎が影の転移でその場から退散した。
横槍を入れた事が気に入らないのか溜息を吐いたフェイト。足元に水の転移を展開するフェイト。
「まっ待て!」
ネギの静止の叫びも無視し小太郎とのどかを追跡するために転移をしてしまうフェイト。残ったのはネギと刹那だけであった。
「くそ、ネギ達何処まで行ったんだ……!」
マギは建物の屋根を飛びながらネギ達を探す。相手のフェイトは自分は戦った事は無いが、強敵なのは分かる。
大きく跳躍した時に辺りを見渡し、マギの目にフェイトに体を一部石化された小太郎とフェイトに狙われているのどかの姿が見えた。その光景が見えた瞬間にマギの行動は早かった。
「マギウス・リ・スタト・ザ・ビス 来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎 固定 掌握 魔力充填 術式兵装『夜叉紅蓮』!!」
夜叉紅蓮になり、のどかの元へ飛び込んでいき、異形化した右腕を叩きつけてのどかからフェイトを離す。
「大丈夫かのどか?」
「ま、マギさん! はい、大丈夫です」
のどかをフェイトから護るように立ちはだかるマギ。
「まさかネギ君よりも君が先に来るなんてねマギ・スプリングフィールド」
「てめぇがこの子に手を出すんじゃねえ。この子は俺にとって大事な人だ」
「へぅ……」
堂々と大事な人と言われ、顔を赤くするのどか。
「それじゃあ今度は君が僕の相手をするかい?」
「てめぇが所望なら、喜んで相手をしてやるぜ」
今度はグレートソードを影から出して構えるマギ。のどかを狙われ殺意が増しているマギは自制が少々効かない状態であったが
「マギさん!」
今度はアスナが駆けつけ、フェイトに向かってハマノツルギを振るうが軽々と避けられてしまう。
「マギさんネギは!?」
「まだ合流してない。けどお前が先に来たなら好都合だ! 俺とお前でこいつの相手をするぞ」
「分かったわ!」
魔法を無効化するアスナが来て更に空から剣が何本も降り注いで来て
「よお!」
このかを連れたラカンが現れた。
「ラカンさん」
「お前らウロチョロするなよ。探すのに時間が掛かっちまったじゃねえか」
「コタロー君半分石になってるやないか! ウチに任せて!」
直ぐにこのかがアーティファクトで小太郎を直ぐに癒す。更に
「お兄ちゃん!」
雷の暴風を闇の魔法で纏ったネギが飛んできた。少し遅れて刹那も駆けつけてきた。
「新世界最強の傭兵剣士に、英雄の息子の兄弟に新旧世界のお姫様とはこちらも分が悪い。今日はここら辺で失礼するよ。次に会えるのを楽しみにしているよ」
フェイトは数で不利と判断し、この場を退散する事を選んだ。のどかを追跡した水の転移で逃げる積りだ。
「フェイト待て!」
「口より手を動かせぼーず」
そう言ってラカンはフェイトに向かって剣を投げ、マギもラカンと同じようにグレートソードを投げる。しかし当たらず、フェイトは転移してしまう。
「ちっ逃がしたか……」
舌打ちしたマギはのどかの方を向く。
「何でのどかがフェイトに狙われたんだ?」
「その、前から考えていまして、あのフェイトって人の本名が分かれば私のアーティファクトで情報を引き出せると思って」
「そうか。けど、無茶はしないでくれ。のどかがさっきフェイトに襲われてるのを見た時は肝を冷やしたぞ」
「ごめんなさい。私も何かお役に立てたらと思って」
「……ありがとう。まぁのどかが無事でよかったよ」
微笑むマギにのどかも微笑み返す。敵が去った事で緊迫した空気も薄れるがラカンが先程から思案顔だ。
「どうしたんですかラカンさん」
「ん? ああ、さっきのフェイトって奴、遠い昔に会ったことがある。俺の記憶が正しければ厄介な相手だぜ」
ラカンが厄介と言う位フェイトは強敵なのだろう。
「こりゃあますます
「ラカンさん、貴方があのフェイトとどういった関係なのか、教えてくれませんか」
「500万」
「こんな時でもお金取るんですか!?」
「だって話してもつまらねえし。別に女でねーし』
詰め寄られても金銭を要求するのは流石という所だろうか。
「それよりも、そろそろ動いた方がいいな。俺ら暴れすぎたからアリアドネーの警備隊がそろそろ来るだろう。俺が囮するから皆は早く此処から離れてくれ」
マギが囮になり、他の者は散り散りになって別の場所に合流する事になった。
大きく飛び跳ね、自分に注目が集まるようにする。見ればアリアドネーの警備隊がマギを捉える。
(よし、食いついた。後は軽く煽って離脱を──)
「其処の男止まるです! 周りを巻き込んだ乱闘騒ぎの容疑で拘束させてもらうです!」
アリアドネー警備隊から聞き慣れた声が聞こえた。直ぐにその声の主の元へ跳んだ。マギに近づかれたアリアドネー警備隊の1人は驚きで声が出ない。それは急にマギが跳んできたからではない。
「マギさん……!!」
「夕映、何でアリアドネーに!?」
まさかの場面での再会に戸惑うマギと夕映だった。