まほら武道大会も残す所準決勝と決勝だけとなった。まず最初はネギと刹那の試合である。
「それじゃあ行って来るねお兄ちゃんアスナさん!」
「おうまぁ程々に頑張りな」
「ネギお兄ちゃんがんばってレス」
「気を付けなさいよネギ!」
相手の刹那が刀として代用しているデッキブラシと言う事で、ネギも愛用している杖を使うようだ。
「相手は詠春の使っていた神鳴流を使う刹那さんですか。ネギ君がどう試合を運ぶか見ものですね」
「ネギなら何とかなるだろ。まぁ相手が刹那だしどうなるか分からんけどな」
「そうですね。ところで顔の方は大丈夫ですか?」
「それは聞かない方向で」
「ふふ分かりました」
エヴァンジェリンに顔を蹴飛ばされて顔面に靴跡を作ったマギが試合がどう動くか話していた。
『さぁ!武道大会準決勝が今始まろうとしています!片やデスメガネ事高畑選手に辛くも勝利を収め、同年代の村上選手と激闘を繰り広げたネギ・スプリングフィールド選手!片やまほら中学剣道部に所属し、デッキブラシに剣技が冴え渡る桜咲刹那選手!ネギ選手は桜咲選手がデッキブラシと言う事で、自前の杖を使う模様です。ネギ選手はどう戦うのでしょうか!?』
「刹那さん、どうかよろしくお願いします!」
「ネギ先生。こちらもよろしくお願いします」
そして互いの得物を構える。試合開始の合図で最初に動いたのはネギだ。
瞬動術で刹那の背後に回り、ネギは魔力を込めた杖の先を刹那に向けて突きだした。
「桜華槍衝 太公釣魚勢!!」
鋭い突きが刹那に当たり、観客はいきなりの大技に歓声が上がる。
「おや、今のは槍術ですか」
「古菲が八極拳は槍も得意だとそう言ってたな。槍術も古菲に教えてもらったんだろう。だが、あれ位で刹那を倒せるとネギはそう思ってないだろうな」
マギの言う通り、ネギは今の一撃が手応えがあり過ぎると言うよりかは固すぎると感じた。見れば刹那の背中は気の障壁に護られており、届いていない。
そして攻撃の後の隙を、刹那は逃さない。
「神鳴流奥義 百列桜華斬!!」
神鳴流の奥義の1つ、百列桜華斬がネギを襲う。薙ぎ払いの一撃を杖で防ぐが、桜の形を扮した気のかたまりが吹雪の様に舞う。此処からは刹那のターンだ。
ネギを蹴り飛ばすと、デッキブラシに気を集める。
「奥義 斬空閃!!」
飛ぶ斬撃と言うよりかは衝撃波をもろに喰らったネギは会場を2度バウンドする。何とか立て直そうとするネギに刹那は追撃する。
「斬岩剣!!」
気を纏ったデッキブラシが会場を叩き壊す。会場が少女に破壊されるのを見て、観客たちは何人か引いている。
「斬鉄閃!!」
今度は気を纏った横一閃の攻撃。衝撃波で破壊された会場の木材も攻撃材料となってネギを襲う。
漸くネギも体制を立て直して刹那に魔法の矢を放とうとしたが、ネギよりも速く刹那が動き自身の股でネギの顔を挟み込む。
刹那の股に顔を挟まれ赤面するネギだが、今は真剣勝負の最中。剣士となった刹那に羞恥心は無い。
「神鳴龍 浮雲・桜散華」
プロレス技の1つであるフランケンシュタイナーの様な投げ技で地面に沈んだネギ。
「刹那の奴容赦のねぇこって」
「ひぃぃぃぃぃ!桜咲さん!何の権利があってネギ先生に非道な事おぉぉぉっ!!」
マギが刹那の容赦のなさに苦笑いを浮かべていると、どこかで聞いた事がある声が聞こえる。
辺りを見渡していると、屋根に3-Aの生徒達がほとんどいた。
何やってるんだと思いながら頬を掻いていたマギは周りの人たちに気づかれないように屋根へと上った。
「お前ら何しにここに来たんだ?店はどうしたんだよ」
「いやぁ~人が多すぎたからお忍びで来ちゃった。お店はザジさんに任せてま~す」
マギの問いかけに裕奈が答え、まったくと溜息を吐くマギ。そんなマギに凄い形相であやかが掴みかかった。
「マギ先生!どうしてネギ先生があれほどに傷つかないといけないのですか!?桜咲さんも何の許可があってネギ先生にあれほどの暴力行為を!!」
胸倉をガクガクと揺さぶれているマギは落ち着けとあやかを軽く小突いた。それでも痛かったのか、蹲るあやか。
「これは試合だから、互いに全力でやらなきゃ意味がないんだよ。と言ってもネギの奴ちょっと1歩引いてる感じだな」
「え?それってどういう事なんマギさん?」
マギの言った事に頭を傾げる亜子。マギの頭に乗っているプールスもよく分かっていない様子だ。
「ネギは刹那が自分の生徒だからって事で、上手く本気で戦えていない様子だな」
ネギはこれまでタカミチ、小太郎と自分が尊敬している男と良きライバルである少年としか試合をしていない。刹那は女性であり、ましてや自分が護ろうとしている生徒と言う事でどう戦っていいのか迷っている様子だ。
だがそんな甘い気持ちで刹那と戦って勝てるわけがない。ネギもそれを重々承知しているはずだ。
「さてどうなることやら」
フッと笑いながら試合がどう動くのか見物を続けるマギ。
場所はネギと刹那の試合に戻り、ネギは何とか立ち上がるが脳が揺さぶられているためか、思うように動けていない。
「どうしたのですかネギ先生、技のキレや足運びが高畑先生達と試合を行った時よりも雑なように見えますが」
「そっそうでしょうか……」
「若しかして、私がネギ先生の生徒だから本気を出していないのですか?でしたらそれは心外です。今の私は1人の戦士としてネギ先生の相手をしています。だからこそネギ先生も本気でかかってください」
「わっ分かりました……」
頭で理解していても、相手が刹那で思うように体が動かない。マギは生徒である楓と本気の試合をした。結果楓はマギに傷つけられたわけだが、楓は気にしていなかった。本気の戦いで傷がつくのは当然と楓は答えており、マギも本気でやらなければ相手の楓に失礼だと答えた。
だが素直で根が優しいネギは刹那相手に本気が上手く出せないでいた。刹那はそれを感じ取ってふぅと息を吐くと、一度デッキブラシの構えを解いた。
「話が変わりますが、ネギ先生は自分が一番護りたい人はいらっしゃいますか?」
「えっ一番護りたい人ですか?」
「私は木乃香お嬢様です。お嬢様を護る為なら私はこの命を投げ捨てる覚悟があります。ネギ先生は命をなげうってでも護りたい人はいらっしゃいますか?」
「それは……」
ネギは思わず黙ってしまう。ネギにもアスナやこのかに目の前に居る刹那や、他の3-Aの生徒達を護りたいと思っているが、たった1人それも命を賭けて護りたいと言うのを理解はしているが、刹那の覚悟まで持っていない。
自分よりも年下の少年にこの問いかけは難しかったかと判断した刹那は別の問いかけをする。
「ではネギ先生は将来どうなりたいのですか?」
「え?それはお兄ちゃんや父さんの様な立派な魔法使いに……」
「その答えはマギ先生やお父様を目標にしているだけで、ネギ先生が将来どうなりたいのか分からないと捉える者が出てきます」
「うっ僕は……その……」
「ネギ先生の歳では憧れた人の様になりたいと言う思いは分かります。ですが、ネギ先生が本当になりたいと思った時に、それが足枷になってしまう可能性もあります」
ネギは黙って刹那の話を聞いていた。観客たちは戦わずに問答を続けているネギと刹那を見て、どうしたのかとざわついている。
「私はマギ先生やお父様の背中を追う事を否定はしません。ですが、一息ついて周りを見渡したらどうでしょうか?若しかしたらネギ先生の大切なものと言うのが見えてくるかもしれません」
「大切なもの……」
ネギは刹那の言われた通り、呼吸を整えて周りを見渡す。自分を心配しながらも声援を送るアスナ。ネギと刹那、どちらにも声援を送るこのか。師として弟子を信じている古菲。いつの間にか来ていた、自分を心配しながら見ているあやかやまき絵、3-Aの生徒達。自分の兄であるマギと、最近できた妹のプールス。
そして目の前の刹那。ネギは遠くの存在を見ていて、自分が色々な人達に見守られていた事に改めて気づく。
「刹那さん。僕は将来どうなりたいか、僕が覚悟をもって護りたい大切な人と言うのはまだ分かりません。でも今は僕の周りに居る大切な人達を護っていきたいと思います」
「はい。それでいいと思います」
「それと、刹那さんも僕の大切な生徒なんですから、何かあったら僕が絶対に護ってあげます」
「……ふふっでしたら、この試合で私に勝たないと逆に私がネギ先生を護ってしまいますよ」
「はい!ですので行きます!!」
「ええ!どうぞ!」
話が終わり、またぶつかり合うネギと刹那。先程よりもネギの動きが生き生きとしており、瞬動術が連続で出来るようになっていた。
まだまだ粗削りだが、これほどまでに早い成長を見せるネギにマギは驚いている。
「ちょっとちょっと!ネギ君急に大人っぽくなったって言うか、生き生きしだしてない?」
ネギの戦いを見てチアの美砂が興奮しだす。あやかはネギの勇姿を又見れて、鼻血が出そうな勢いで鼻息を荒くしている。
「ねぇ!今ネット開いたんだけど、ネギ君の事が色々と載ってるよ!」
そう言って円が見せたサイトには『必見!涙の子供先生の大会出場の理由』と大きく出ていた。
ネギが大会に出た理由が行方不明の父であるナギが25年前にこの大会で優勝しており、少しでもナギの事が知りたい事。そして母親もいないと言う事が色々と書かれていた。
ネギに対しての想いが強いあやかはネギの知られざる事情を知らなかったことにショックを受けて膝から崩れ落ちていた。
更に何故かマギが次に戦うクウネルが父親説が書かれており、マギは首を傾げる。何故クウネルがナギと言う事になっているのだろうか。
「マギさん。マギさんのお父さんも若しかして魔法使いなん?クウネルさんって人がそのお父さん?」
「いや……アイツと話した事があるが、親父の友達って言ってた。それに親父があんな胡散臭い奴じゃないって断言できる」
亜子とマギがクウネルの事を話している。と亜子はネットにはマギの事が書かれていないことに気づく。
「マギさんは、その、行方不明のお父さんの事どう思ってるん?」
「……亜子、世の中の息子が全員が全員ネギみたいな父親想いじゃあないんだよ」
ネギを応援しているあやか達の気を煩わせないように、亜子にだけ聞こえるように答えた。亜子はそれを黙って聞いている。
会場でもネギの記事を読んでいる者が多く、涙を流す者も居る。まだ少年であるネギが行方不明の父を探す。これほどお涙ちょうだいな話は無いだろう。
会場の応援はネギコールに埋め尽くされた。それに応えるかのように段々とネギの動きにキレが出てきた。まさに戦いながら成長している。
遂にネギは刹那の得物であるデッキブラシを弾き飛ばす。刹那はデッキブラシには目もくれず拳を構える。
「流石ですねネギ先生!ですが神鳴流は無手でも遅れは取りません!!」
「やぁぁぁぁっ!!」
ネギは何も考えずに杖を放り投げ、八極拳を繰り出す。無手の刹那とネギの八極拳がぶつかり合う。
互いに攻め続け、一切退く事はせず。どっちが勝っても負けても可笑しくないと観客達はそう思っていた。
そして……
「見事です」
魔力が籠ったネギの肘が刹那に深々と突き刺さっていた。決定打となり刹那は膝から崩れ落ちた。
「惚れ惚れするほどの良い一撃です。ネギ先生、貴方は本当に強くなりました。それだけ分かっただけでも、今日はいい――――」
最後まで言い終えずに刹那は意識を手放した。刹那が戦闘不能になった事で、ネギの決勝進出が決まった。
ネギの勝利が決まった事に、会場から惜しみのない拍手がネギに送られた。ネギは気を失った刹那を担いで会場を後にした。
「ネギの奴何とか勝てたか。まぁ何とかなるとは思ってたけどな」
ネギに小さくだが、拍手を送るマギ。あやか達と別れ会場に戻ってみると、にこにことクウネルが笑っていた。
「ネギ君と神鳴流の対決、中々楽しませてもらいました」
「そりゃよかったな。なぁアンタに聞きたい事があるんだが、ネットでアンタがオレやネギの親父説がささやかれてるんだが……アンタなんか知ってるんじゃないか?」
マギの問いかけに、ニコニコしていたクウネルはスッと目を開きマギを見る。
「本当なら、ネギ君にこの力を見せてあげようと思っていましたが、今の私の興味対象はネギ君ではなくマギ君、貴方ですよ」
「オレ?」
「マギ君、貴方は強い。ですがその強さは歪んでいます。ナギに対する憎しみに近い感情を強く持っている。その力がナギに届くかどうか」
クウネルはマギの耳元に顔を近づけると
「俺が確かめてやるよ」
先程のクウネルとは別の声でマギに囁いた。マギはその声を聴いて顔を強張らせる
「では準決勝で。楽しみにしていますよ」
そう言ってクウネルは去って行った。
「今のはまさか……」
マギは信じられないと言ったように呟いていた。