ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
短いです。
(特に書くことは)ないです。
強襲揚陸艦大隅甲板
「う…」
仰向けに倒れた陸軍将校、久世啓幸陸軍少尉は目を覚ました。
彼は最初、俯せで倒れたと勘違いした。視界が何かによって遮られたからだ。冷たい甲板の感触が背中に感じられた。仰向けに倒れて空を眺めてるらしい。視界を遮っているのは周囲を包む霧だった。
「はっ!?」
(あ、あの気味悪い黒いウネウネは!?)
彼は上体を起こし、周囲を見渡す。
打撃ミサイル巡洋艦伊吹から溢れ出した、あの謎の闇のことを思い出した。
自分は確か、あれに呑まれる前、息抜きで甲板に上がっていた。そこまでは覚えている。
まだ夢の中だろうか。霧がかかっている周囲の光景は、そう思わせてしまうほど幻想的な物だった。
おまけに誰もいない。
彼のいる艦尾の近くからは、大隅が進んでいることを示す白い航跡が見えた。大きな機関音も聞こえてくる。大隅は幽霊船ではなく生きた艦として動いている。
「に、にしてもさっきのは一体…」
自分1人だけが見た幻覚だろうか。
艦内に戻って部下の安否を確認しなければならない。なんとか立ち上がる。
久世が急いで艦内へ続くハッチに向かおうとした時だった。
『ラ…ララ…』
彼の耳に旋律が届いた。
彼は足を止め、声の方を向いた。
岩礁だろうか、大隅の右舷200メートルほど先に何か見える。声はそこからだ。
(バカなここはインド洋洋上だぞ?黒いウネウネと言い一体どうなってるんだ!?)
彼はたまたま用意していた双眼鏡を手にする。
レンズ越しの世界が彼の眼に映し出された。
『ララ…ラララ…』
大隅が進むにつれ、霧に隠れようとしている岩礁に、彼ははっきりと見た。
「う…そだろ…!?」
そこには数人の人影があった。
アシカやジュゴンのような海棲動物が横たわっているのかと思っていた。だがそうではなかった。
「久世少尉!こんなところにいたのね!」
背後から女性の声がし彼は振り向いた。年齢的には20代後半で久世と同じ陸軍迷彩服を着ていた。
「板井中隊長!?」
板井香織陸軍大尉。
久世が所属する中隊の中隊長である。彼が国防大学校に居た頃の先輩にあたる人物でもある。
大学校では鬼先輩としてシゴき、任官後はドS上司としてイビり倒している恐怖の存在だ。
久世は弾かれるように彼女の元へ駆け寄った。足がもつれて転びそうになった。
「ほ、報告でありますっ!」
「ど、どうしたの?」
彼の必死な形相に、板井は珍しくたじろいだ。
「ほ、ほ、本艦右舷に“人魚”の群れが!」
必死にその方向を指差す。
板井が指の向かう先を確認するがそこには霧がかかっているだけだ。
上官はそっと彼の肩に手をかけ、心配そうな表情を浮かべた。
「久世少尉。どこか痛むところあるかしら?」
「君は気を失ってショックで混乱してるの。医務室行きましょう。肩貸そうかしら?」
「う、嘘じゃありません!自分は大丈夫であります!この通り体もピンピンしています!」
「うん、そうね。詳しくは医務室へ行ってから聞くからね?」
普段なら絶対に見せない子供をあやすかのような優しさが少しだけ嬉しかったが、必死に抵抗する。
「ちょっと待ってください!ほ、本当ですって!」
「分かってるわ。さぁ艦内に戻りましょう」
「僕は無実だぁあああー」
がっしりと腕を掴まれ連行されるかのように艦内へ戻っていった。
静寂が海原を支配した。
スクリューの巻き起こす白い航跡が海面に浮かび上がっている。
その航跡の横で、「ちゃぷん」と微かな音がした。
数人の少女が海中から顔を出した音であることを気づく者はいない。
彼女らの先には、あてもなく進んでいる強襲揚陸艦大隅の艦尾がある。
3人の少女は人形のような整った顔で小首を傾げ、心配そうな表情で再び海中へと潜っていた。
彼女らの尾鰭が立てる泡が、スクリューの起こした航跡の中で踊っていた。
誤字脱字等の感想待ってます。