ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
男性兵士28人、女性兵士7人の割合です。
久世達は宴が準備されている間に着陸したヘリの前で、簡単なミーティングを開いた。
集まっているのは小隊各班の指揮官である下士官達だ。
久世が指揮する小隊は、35名を4班の分隊に分けて運用している。
1班は久世、2班は八重樫伍長、3班は大塚軍曹、4班は西本伍長が指揮する車両班だ。
「1班と3班は僕と加藤中佐に同行し護衛にあたる。2班と4班はここに残ってヘリの護衛及びヘリポートの確保だ」
宴に参加するのは久世が率いる1班と3班の19人で加藤の護衛、2班と4班の16人でヘリポートの確保だ。
久世達1班と3班は予め用意していたOD色のベレー帽に陸軍夏季三等礼装に着替えている。陸軍夏季三等礼装は陸軍の野戦服と同じ素材を使用した礼装である。礼服着用時に偶発的な戦闘に対応するために丈夫で動きやすく難燃加工、制電加工、IR加工が施されている。この礼装は男女共にズボンが採用されている。
「各班長、質問等は?」
「なし」
「加藤中佐と話したんだが、武器は短機関銃と小銃を携行。短機関銃は僕と大塚軍曹、それ以外は小銃。万が一に備えてプロテクターも携行。礼装用の防弾チョッキを着用。何か不審なことがあったらすぐに連絡してくれ。車両班は車内で待機、パイロットにはヘリから離れないように頼む。脱出出来なくなったらまずい。無線は開いたままでいろ」
「ヘリポートの確保、頼んだよ。八重樫伍長、西本伍長」
「分かりました。久世少尉も、お気をつけて!」
「何かあったらカチコミますね!」
久世は2班の班長である八重樫伍長と4班の西本伍長に話かけた。
八重樫伍長は小柄で年齢的に30代後半と実年齢より若く見えた。無邪気そうな表情を浮かべているせいか彼を慕う部下は多い。
しかし、外見に似合わず帝国軍最強のレンジャー徽章を持ち中央アジア地上戦で実戦も経験している。彼は久世が着任した頃から率先して補佐してくれた人物でもある。そのため、久世は彼を信頼していた。
西本伍長は186cmの高身長で眼鏡をかけた女性兵士である。どこか母親みたいな雰囲気を醸し出しており部下からは「お袋」や「母ちゃん」と慕われている。八重樫と同様に中央アジア地上戦や富士宮闘争で実戦も経験している。
八重樫や西本も、部隊のために努力を惜しまない久世のことを信頼している。
「久世くん、そろそろ行こうか。待たせちゃまずい」
後ろから加藤が呑気な声で話かけている。
「あ、はい。じゃあ1班3班は集合。行くぞ」
「久世少尉ー」
そんな中で市之瀬が心配そうな顔をして久世を呼んでいた。
「すまんな、市之瀬。何かあった時のため援護要要員だから許してくれ」
1班所属の市之瀬は今回は同行しないことになっている。王城内で久世達が拘束されるような事が起きそれに脱出する際の援護役として残ってもらうことにした。
「無事に帰って来てくださいよー」
「おぅ」
準備が整い加藤と久世達率いる護衛班は城内に入城する。
「それにしても凄いお城だな...」
久世は聳え立つ尖塔を見上げた。
西洋のお城と言うより、トルコのブルーモスクを思わせるような城であった。
城から厳かな何かを感じるのは、長い時を得ている事が見ただけで分かるのと、今も現役として使われている事だろう。
「城は初めてか?」
カルダは後ろから付いてくる2人に尋ねた。
「そうですね。初めてですよ」
「そうか...」
カルダはそれ以上何も聞かなかった。
(登城の経験が無いとは、こやつらよっぽど身分が低い者だな)
益々彼らが怪しくなってきた。本来なら陛下の御前に出し、ましてや宴に招待するなどありえない事だ。
「城って言えば、熊本城なら修学旅行で見たことありますよ?」
「へぇ、僕んとこは名古屋城だったよ」
「千葉のネズミ城なら通学路で飽きるほど見てましたよ」
「万里の長城なら歩いたことありますねー」
「こんな形で機能してる城って皇居ぐらいじゃないですかね」
相変わらずわけのわからない会話をしている。
敵ではないことは分かる。
だが、こんな得体の知れない、それでいて強そうに見えない連中を味方にして何になるのか。
「久世少尉、写真撮っても良いですかね?私の友達に作画資料として提供したいです」
「まぁ、何とか良好な関係になってからにしよう。それからでも遅くない」
「ここから先は玉座の間だ。くれぐれも粗相のないように頼む」
ガルダは2人の護衛だと言う奇妙な形をした鉄の杖を手にした連中に冷たい視線を向ける。
「あまりこの世界の作法に明るくありませんので、何かタブーなどがあればその都度教えて頂けるとありがたいのですが」
「私も同席する故、善処しよう」
貴族の義務としてそう答えるより他は無い。
こいつらを追い出して部下達を鍛え上げ継承帝国との戦争に備えたかった。宴などしてる暇はない。
「悪い人じゃなさそうですよね?」
「でもちょっと怖い感じ」
「ああ、それありますね。絶対男振り回してそう」
カルダは聞こえないフリをした。
ちょっと傷付いたからだ。
カルダと名乗った女性は玉座に続く巨大な扉の前に止まった。
「お客人である。開門を」
「御意」
扉の横に控えていた屈強な男達が答えた。
その周囲には顔をベールで隠し腰に剣を帯びた女性達が並んでいる。
「彼女ら、多分近衛だ」
加藤の耳打ちに久世は頷いた。
彼女らからはピリピリとした殺気と視線を感じた。
こちらが妙な動きをしようものなら彼女らは一斉に襲いかかってくることだろう。
「こいつは戦場で経験した殺気だ。この距離なら銃の安全装置を解除する前にやられます小隊長」
数多くの戦場で死線を潜り抜けた大塚軍曹からも耳打ちで伝えられた。
大塚軍曹は数多くの戦場で実戦を経験したベテラン兵士である。年齢的に53歳で顔のあちこちには戦場で傷ついた傷跡が付いている。
「閉門!」
重い音を立て、屈強な男達が数人がかりで門を開けた。
久世達はその巨大な門を潜り抜ける。
「よう来たのう。なあに、こちらの作法など知らぬであろう?苦しゅうない楽にせよ」
その空間には豪華な食事がところせましと並べられていた。
「なんとまぁ」
「いいのかな、こんな美味しそうなもの食べても」
2人はその歓待ぶり逆に驚いてしまう。
全員が座卓を用意してもらいそこに座る。
「遠慮するでない。ああ、中庭で待つお仲間にも同じ物を届けさせたのでな、自分達だけと思う必要はないぞぇ」
「ありがたく頂戴いたします」
承諾してしまった加藤に、久世がそっと尋ねる。
「いいんですか、加藤中佐?」
「毒が盛られてる可能性も捨てきれないけど、ここまでして僕らを殺す理由がない。睡眠薬で眠らせて人質にと言う線はあるけど、そこまでする理由が思いつかない」
「本当に客として招かれてるんでしょうか?」
「さぁね、それを今から確かめるさ。おっと」
横に少女がやってくると酒杯を渡し手慣れた動作で久世達に酒を注いでくれる。
この城で働く侍女のようだ。
久世は自分についた少女に笑いかける。
「ああ、どうもありがとうね」
「え?は、はい。畏れ多いことであります」
白磁のような肌に円な瞳に、10代後半くらいの女の子だ。
薄い桃色がかった金髪を肩まで伸ばしている。涼しそうな、少し露出の多い、それで上品な服装をしていた。
可愛い子だな、と久世は思った。
今まで張り詰めていただけであって少女の存在に少しホッとした。
少女自身も、この玉座の間で礼を言われることがないのか戸惑っているようだ。
久世の顔を見つめ少し恥ずかしそうにしていた。
久世は自覚してないのか、そこそこ美青年と言っていい容姿なのだ。
少女が恥ずかしがったのは、そんなに彼に間近で話しかけられたせいであった。
「久世少尉」
加藤がそれを横目に捉えていた。
「なんでもない」
加藤が、プイとそっぽを向き眼鏡を反射させた。
「これだからイケメンは…!」
怨嗟の言葉を呟いた。
どうやら女の子と良い雰囲気になったのが妬ましかったらしい。
「できれば次からは、酒じゃなくて水とかジュースにしてくれるかな?」
「かしこまりました」
「さて、酒も行き渡ったようじゃの」
「ハーミエア陛下その前に、今回来訪した理由である先日の我が艦隊所属の艦載機が領空侵犯をしてしまい不安に陥れたことに謝罪します」
加藤が本来の目的である事を伝えた。
「そういえば其方らが来た理由はそうじゃったのう。別に良いぞ異常事態な故なら仕方ない。妾としては楽しませてもらったぞ」
すんなり謝罪を受け入れてくれたことに加藤らはホッとした。
「して客人よ。貴公らの来訪を祝う前に、一つ聞かせてもらえんじゃろうか?」
「答えられることなら何なりと、陛下」
加藤が応じる。
「貴公ら、ダイニッポン帝国と言う名の国から来たと言うが、その国は一体どこにあるのじゃ?いや、単刀直入に聞く」
ハミエーアは、どこか試すような表情を浮かべた。
「貴公ら、一体どこから来た人間じゃ?」
その場が水を打ったように静まり返った。
加藤は、参ったなと困った顔をするが女王と同じく立ち上がると、真摯な表情で答えた。
「この世界とは別の、もう一つの世界から」
中庭では珍しい色の蝶が舞い、小鳥がさえずっていた。
ヘリのエンジンが止まれば噴水の音以外に大きな音のない長閑で優雅な場所である。
飛行軽甲戦士団のアルゲンタビスが10羽ほど翼を休めているが、訓練された軍用アルゲンタビスだけあって花壇を踏み荒らしたりはしない。
静かに、そっと丸まって眠っているアルゲンタビスも居た。
ブラックホーク、オオトリ、チヌークとアルゲンタビス達が静かに佇む光景はどこか微笑ましささえ感じられる。
「へー、なんだかこうして見ると結構可愛いんだな」
ヘリの周囲で立哨を行なっていた市之瀬は無造作にアルゲンタビスの1羽に近づいた。
ポケットからスマホを取り出しカメラを起動し、その巨鳥の撮影に試みた。
「アタシの相棒に何してんだ!?」
突然の声に彼は飛び跳ねるようにして驚いた。
「うわわわ!?ご、ごめん、ちょっとだけ写真撮りたくて...」
市之瀬は目の前に現れた人物の剣幕にたじろぐ。
燃えるようなショートの赤髪、蒼い瞳がこちらを睨んでいた。その迫力と気の強そうな顔つきに一瞬、少年かと思ったが声からすると女の子のようだ。
よくよく見ると胸元も控えめながら10代の女性のそれだった。腰には剣がある、今にもそれを抜いてこちらに突きつけそうだ。
「シャシン?何だそれ?まさか変な呪いをかけようとしているのか!?」
益々不審な奴めとばかりに腰に手を当て、ジロリとこちらを見据える。
「キューイ」
「わっ!?」
市之瀬の被っていたブッシュハットが取られてしまった。
慌てて振り返ると寝ていたはずにアルゲンタビスが、彼のブッシュハットを嘴に咥えていた。
市之瀬は必死になってブッシュハットを取り返そうとする。
「ダメだよテール!そんなやつのもの!」
「ひー!官品紛失は始末書だから勘弁してくれ!マジでぇ!」
「キュゥーィ」
勘弁してやると言わんばかりの仕草でアルゲンタビスはブッシュハットを彼に返してやった。
「い、悪戯だったのか」
思ったよりも頭が良い巨鳥に市之瀬は目を丸くした。
拾ったブッシュハットには、涎がベッタリとついていてゲンナリする。
「これを被れと?」
途方に暮れる彼に、プッと少女が笑った。
「あっはははっ!」
「な、何だよもう」
市之瀬はバツが悪そうに涎を振って落とす。
「気難しいアタシの相棒に気に入られるなんて珍しい奴だと思ってさ」
少女は楽しくもどこか不思議そうに言った。
「えっ、気に入られてんのこれ?」
「ああ、とってもな」
彼女は擦り寄ってくる巨鳥の頭を優しく撫でてやっている。
市之瀬は彼女の間には特別な絆があるように感じた。
その光景に見とれていると不意に少女が顔を上げる。
「あっちに綺麗な湧き水を引いている水路がある。そこで洗うといいよ」
「え?あ、ありがとう」
「でも1人でうろつかれちゃかなわないから、アタシが案内するよ。ついて来て」
さっきの剣幕はどこへやら、すっかり毒気を抜かれたらしい彼女の案内で市之瀬は汚れた帽子を洗いに行く。
『何してんだ市之瀬、他人様に迷惑かけちゃダメだろ』
子供を叱るような口調が無線に入ってきた。
「すいません...」
班長の八重樫伍長に報告すると向こうで手を振っているのが見えた。他の兵士も同様に手を振ったりニヤニヤした目で見送られている。一部始終を見られたらしい。
早く帰ってこいよと釘を刺され市之瀬は隊を離れる。
「名乗っていなかったな。アタシはラロナ。飛行軽甲戦士団練戦士。ようこそマリースア南海連合王国へ」
先を歩く少女が振り返らずに言った。市之瀬は自分も言わなければと口を開く。
「お、俺は市之瀬。帝国国防陸軍第2陸軍遠征旅団の二等兵。よ、よろしく」
「ニトウヘイ?」
「下っ端だよ」
「なんだ」
彼女は無邪気に笑う。
「アタシと同じか」
「そうなん?」
「ああ、ところで第2陸軍遠征旅団ってのは何だ?」
「海外派兵の部隊だよ」
ラロナはキョトンとして首を傾げた。
「海外派兵?戦争に行くところだったのか?」
「アフリカって言う大陸で戦争が起きてるんだよ。連合軍を組んでそのアフリカ大陸へ派兵されることになったんだ。で俺たちはその第1陣と派兵されたんだ」
「そ、そうなんだ」
「アフリカってどこにあるんだ?」
「アフリカは地球の...君達から見たら異世界に存在する大陸のことだよ」
市之瀬からの問いにラロナは素っ頓狂な声を上げた。
「異世界?お前たちは異世界から来たのか!?」
「そうらしい。眼鏡かけた加藤中佐って居ただろう?あの人の見解ではそうらしいだと。今頃君んとこの女王陛下に事情を話してると思うけど、どうなんだろうね」
ラロナはあの船や鉄の虫がこの世の物ではないと聞き信じ切れないものの、ある程度は納得したあの巨大な船団の異様で圧倒的な存在感を直に感じたからだ。
「お、ここだぞ」
目的に場所に到着したようだ。
市之瀬はすぐにブッシュハットをじゃぶじゃぶと洗いはじめた。
「こんなもんかな。この国暑いしすぐに乾くっしょ」
市之瀬はまだ濡れているブッシュハットを被った。
「大変だな。遠い国いや遠い世界へ来てしまって」
「いや、それを言うなら君の方こそ大変でしょ?」
「何がだ?」
ラロナはキョトンとする。
「まだ子供なのに兵隊やってるなんてありえないんじゃね?」
「...国を守る戦士であることが、どうしてありえないんだ?」
「えっ、普通君ぐらいの歳なら学校に行ってるんじゃ...」
「学校なんか貴族か富裕層が行くような所だぞ?」
市之瀬は驚いた。
帝国だと彼女ぐらいの歳の子は義務教育で中学校に通ってるからだ。この歳で軍事に関わるなら一部の中学校の選択教科で採用されている国防学で近隣諸国の軍事情勢や帝国の国防情勢、それか国防高校か海上保安高校へ入学する学生の予習で学ぶくらいだ。
この世界では彼女のような少女兵士が当たり前らしい。
「それに軍には仲間も居るし相棒だって居る。3度の飯も出る。オマケに国を守る名誉だってある。ただの山岳民だったアタシにはできすぎた場所さ」
ラロナは楽しそうに言った。
市之瀬は信じられない様なことを聞いてしまった。
「ま、まぁ本人がそれで良いって言うのなら良いのかな?」
市之瀬は釈然としない気分のまま、ヘリの元へ帰ることにした。
「それにしても人を乗せて空を飛ぶ鳥って凄いよな」
市之瀬は羽を休めるアルゲンタビスを見ながらラロナに言う。
市之瀬の凄いと言われたことに嬉しかったのか、ラロナはそのボーイッシュな顔を余計に少年ぽくようにして笑う。
「へへ、そうだろ?選ばれたものしか乗りこなせないんだ」
「選ばれた者か...あ、あそこを飛んでいるのも君の仲間?」
市之瀬は不意に海の向こうから何かが飛んでくるのを見つけて聞いた。
「えっ?」
ラロナは彼が指した方角を凝視した。
今の時期に商用アルゲンタビスは海の向こうからはやってこない。偵察に出ている仲間はアルメナら哨戒部隊3騎のはず。
「そん、な...まさ、か...」
「どしたん?知っている人達じゃないわけ?」
ラロナのただならない表情を見て市之瀬は雑嚢に入っている狙撃手の必須アイテムである狙撃用双眼鏡を取りだしレンズを覗く。
「え?」
彼は海の向こうから飛んでくる何かが、凄まじい数であることに気づいた。
10匹や20匹所ではない。もっといる。
山岳育ちのラロナは視力は常人の倍もあり、その正体に気づいた。
「帝国軍だ...!」
彼女は恐怖を顔に張りつけたまま絞り出すように言った。