ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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弾薬関係で弾数を修正するかもしれません。



戦火の中で1

フィルボルグ継承帝国南伐混成軍のセイロード攻略戦は概ね計画通りに進んでいた。第2陣である空中艦隊が到着すれば一気に計画が進む。

 

指揮を執る最高司令官である第四階位将軍は余裕な表情である。

陣を取っているのはセイロード王城に続く街道。

 

ここを押さえていれば王を含めたマリースア貴族を1人も逃すことはできまい。

まさか宣戦布告されてから翌日に侵攻されるとは予想は出来なかっただろう。それに城を包囲されるなど思ってもいなかったはずだ。

 

第四階位将軍リヒャルダ・フォン・アードラーは火の手が上がるセイロード城を見ながら報告に上がってくる軽微な敵の抵抗を聞いていた。

 

「輸送用のアルゲンタビスが兵士ごと5騎失ったか...だが、作戦に支障はなしか」

リヒャルダは帝国西方領貴族出身の姫将軍だ。

実力主義の前線部隊とは言え年齢は25歳と若い。

肩までかかる銀髪に透き通る肌は漆黒の甲冑がなければ聖女と表現すれば良いだろう。

 

「報告っ!」

彼女の前に巨大な竜が着陸した。

体表が北方の竜独特の雪に溶け込むような色合いをした氷結竜だ。

開戦初日で城への奇襲を可能にしたのが、この竜騎士団の動員が許可されたのだから。それに彼らと共に戦う将兵も士気も高まっている。

 

氷結竜を主力とする氷結竜騎士団2個、火炎黒竜を主力とする黒竜騎士団2個の4個騎士団が今回の戦闘に参加している。現在参加しているのは2個騎士団だが、残りは空中艦隊と共にこちらへ向かっている。

マリースアのような弱小国家には過剰戦力と言えるがマリースアを橋頭堡にし複数の周辺諸国へ同時侵攻をするために4個騎士団が派遣されたからだ。

 

「何事か?」

リヒャルダは自分の父親ほど年上であろう竜騎士に向かって鋭い声を放った。

全ての竜騎士にはマリースアにあるもの全てを破壊しろと命令している。強く放ったのはその命令をしたにも関わらず持ち場を離れたことへの叱責だ。

 

「急ぎ。お知らせしたいことがあります」

百戦錬磨で知られる竜騎士が酷く動揺していた。

 

「何だ」

「セイロード城にて黒竜騎士団の黒竜1騎が討ち取られましでございます!」

「なっ...!?」

 

リヒャルダは珍しく、怜悧な表情に驚きの顔を浮かべた。

側近たちも同様だ。

 

「マリースアに黒竜を倒すほどの騎士団を保有しているとは...」

「いえ、その事なのですが...」

「何だ?申してみよ」

「黒竜は、たった1人の男に討ち取られたのでございます」

「1人だと!?」

 

リヒャルダ含む側近たちは愕然とした。

3個騎士団と2個魔法兵団を動員してやっとの思いで倒すことができる黒竜1騎を、それが1人で倒すのは現実離れをしている。

 

「リャルダ将軍!報告であります!」

今度は現場に出ていた歩兵団長からの報告だった。

 

「今度は何だ?」

「先程、正体不明の飛行物体1騎に黒竜3騎が討ち取られたという報告が多数上がっております!」

「な、なんだと!?3対1でやられたのか!?有り得んぞ!?」

 

今度は数的有利の黒竜が1騎の正体不明の飛行物体に討ち取られたという報告が上がってきた。黒竜の方が数的有利なのに討ち取られるとはにわかに信じ難い。普通、こんな報告は逆だ。

 

「その正体不明の飛行物体とは何だ!?」

「報告によりますと鉄の箱に風車を付けた飛行物体だったそうです。飛行物体が爆発したかと思うと光る物体が黒竜に向かって討ち取られていたと...」

 

彼女は黒竜が討ち取られた報告を嘘だと思いたかった。

だが、この竜騎士は周囲からの信頼も厚いベテランで命令を決して曲げるような嘘なんかつかない。それに複数の部隊からも同様な報告が上がっている。自分に信じるように言い聞かせた。

 

「竜を失ってからの戦況は?」

「城の半分は制圧しましたが竜が討ち取られてから地上部隊は膠着状態になっております。現在、城に降下した800人の兵士を集結させております」

「竜騎士団も討ち取られるのを恐れてか高空を飛行しながら警戒している状態です」

「そうか、報告御苦労。下がって良い。城の攻略準備を急がせろ」

「「はっ!」」

 

竜騎士団は氷結竜に乗り空へ、歩兵団長は歩兵陣地に戻っていった。

リヒャルダは順調な戦況の中に生まれた異変に不吉な予感を抱いた。

帝国軍人たるもの不安を表に出すことなど許されない。

現状が順調ならば占領後にでも考えれば良いことだ。

 

「お困りですかな…?」

しゃがれた声が彼女の耳に障った。

うんざりしながら振り返ると本国から督戦を命じられ派遣された魔導師が不気味な笑みを浮かべて立っていた。

名前はゲンフルと言ったか。

年齢も出身も、はっきりとした階級も不明なこの男は軍の中でも浮いていた。

魔導師に督戦をやらせる理由がない。別の任務があってここへ来ているはずだ。

 

「いいや、督戦官殿のお手を煩わせるほどのものではない。未確認の情報であり作戦も計画通りに進んでいる」

「それは重畳でございます」

 

急拵えの天幕の中へ帰っていく後ろ姿にリヒャルダは舌打ちをする。

その忌々しさに先程の報告で感じた微かな不安も消えてしまう。

彼女は炯々とした目を戦場へ向けた。

 

 


「さて、どうしたものか...」

 

ここ伊吹のリモート会議室で蕪木が重々しい声を上げる。

親善に出たヘリが陸軍の小隊を収容せずに急遽帰還したヘリに艦隊は騒然となっていた。

小隊だけではない。4機で出たはずのヘリが3機しか帰還してない。

 

『正体不明の敵性勢力の竜からの攻撃でヘリ1機を喪失、幸いなことに死者は出ていないがパイロット2名は負傷』

『それに小隊が保護したマリースアに属する少女の怪我の度合いが要手術。救出しようにも制空権が喪失した状況での救出にはリスクがかかりますな』

『報告ではその竜を既に4騎やったそうですね、救助と自衛のためで仕方ないと言え、戦争に巻き込まれましたね』

会議に出席していた各艦長からの意見に蕪木は頭を抱えながらため息をする。

 

「無論、彼らを救出する。だが、情報が圧倒的に不足している。情報が集まり次第すぐに救出作戦を開始する」

「加藤中佐、そちらの状況はどうなっている?」

伊吹艦長が音声通信になっている加藤に状況の説明を求めている

 

『現在、中庭に敵地上戦力が集結しているところです。オマケに戦火から逃れたマリースア国民が避難しています。幸いなのは敵航空戦力が我々に牙を向けていないことですね』

「制空権を奪還して君達と負傷者だけを救出する手筈だったが。無理そうだな」

『彼らを見捨てることになったら死にものぐるいで我々に保護を求めるでしょう』

このことに会議に出席している全員が苦々しい顔になっている。彼らも助けれるものなら助けたいのが本音である。

 

『蕪木司令、私としては彼らに救いの手を述べたいと考えております』

加藤からの答えに蕪木達が目を丸くする。

 

「...それは本気で言ってるのか?」

『ええ、本気ですよ』

『だが、彼らは国連加盟国でも帝国の同盟国でもないのよ?助けるにしても政府からの判断がないと大胆には動けないわ』

巡洋艦羽黒の艦長が常識の範疇で反論する。

 

『確かにそうですね。動くにしても難しいのは事実です。ですが、我々はその政府どころか本国との連絡手段が絶たれています。絶たれた状況下で自分達の判断で動くしかないです。それに彼らを見捨てることはデメリットにも繋がります』

「デメリット?」

『ええ、デメリットです。元の世界に帰れる手段の喪失とこの世界での生活基盤が手に入らないまま戦争に巻き込まれて死にます。元の世界への帰還が不可能になったら燃料も弾薬も尽き艦隊は鉄屑艦隊になり果てます。高科学文明で生きてきた我々はこの世界に何の術もなくほっぽり出されることになります』

『考えすぎなのでは?』

『この現状を見て考えすぎないなら、ただのアホです』

駆逐艦116の艦長が不安気な声で加藤に意見するが加藤からの辛辣な反論で押し黙る。

 

「加藤中佐の意見は分かった。諸君らはどうする?」

蕪木は今後の成り行きについて会議に参加している者からの意思を確認する。

しばしの沈黙。天を仰いでたり腕を組みながら悩んでいる。

 

『俺は加藤中佐の意見に支持します』

声にしたのは空母桜龍の艦長の牛込だった。

 

『私も加藤中佐の意見に支持致します』

『自分もです!』

『私も支持します。僅かな希望が残っているなら、全力でその希望を勝ち取りましょう!』

『こんなところで魚雷撃たずに死にたかぁねぇですな』

『陸軍も着いてきます』

『異世界で海兵隊魂を見せてやります!』

会議に参加している者の意思を確認した。

 

「私も加藤中佐の意見に支持しよう。例えそれが残酷な結末になろうとやらないよりはマシだ」

「本艦隊は城に取り残された小隊の救出とマリースア南海連合王国の救援を行う!各艦、各部隊は第一種戦闘配置につけ!」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

「作戦参謀と情報参謀はヘリ部隊が持ち帰った情報と偵察に出ている部隊の情報を精査して作戦を立ててくれ」

「「は!」」

 

画して国防軍平和維持軍派遣艦隊は久世小隊の救出とマリースア南海連合王国の救援を決定した。艦長たちは即座に退席し各艦・各部隊の指揮を執っている。

 

「加藤中佐、久世少尉を出してくれ」

『了解しました』

蕪木はもう1人の指揮官である陸軍の久世少尉と連絡を取る。

 

『加藤中佐から変わりました、久世少尉であります』

声からしてまだ若い。

若くしてこの複雑な状況下に置かれるとはなんとも理不尽なことだろう。

それでも彼は彼なりに敬意を払って久世に命令した。

 

「久世少尉、本艦隊は君達の小隊とマリースアに降りかかる火の粉を払うために実力行使を執ることを決定した」

『ほ、本当でありますか!?』

『本当だ。よって久世少尉、君達小隊に命令を発する。負傷者の保護、一般市民の防護、ヘリポート確保を命ずる。小隊の全戦力を持って敵を排除せよ』

通信機の向こうで久世が息を呑むのが分かった。

 

『りょ、了解』

「情報を精査し作戦を立案次第君達を救出する。それまで持ち堪えてくれ」

『わかりました。小隊の全戦力を動員してここを死守します』

 

 


「ヘリの残骸から集めた使える武器弾薬はこれだけです」

「手持ちと合わせたこちらの戦力は?」

久世は思案顔顔で班長達に尋ねる。

 

「隊員35名、突撃小銃34丁と弾薬が各自120発、分隊支援火器2丁と弾薬が1200発、手榴弾各自2個です」

「重火器は重機関銃1挺と弾薬が900発、グレネードランチャー1挺と弾薬が24発、90mm無反動砲1門と対戦車榴弾が3発、60mm軽迫撃砲1門と弾薬が8発といったところです」

「対人狙撃銃1挺と弾薬が50発、対物狙撃銃1挺と弾薬が20発、短機関銃2挺と弾薬が80発、拳銃37挺と弾薬が各自40発、銃剣34丁、汎用ナイフ35丁です」

「...アレを相手にして保つと思うかい?」

「やってみんことにはなんとも...」

 

大塚は双眼鏡を構えて庭の先を見る。

「ざっと400、いや500はいますな。未だに増えています」

 

久世達は玉座の間に続く回廊の入り口を中心に防御態勢を敷いていた。

中庭の向こうに継承帝国軍が兵力を集結させているところだ。距離にして300m、竜の死骸を緩衝地帯に城の向こう側は敵の手に落ちている。

戦旗が翻り、槍が穂先を天に、槍兵と弓兵ががそれぞれ横隊を作り、こちらをじっと見据えている。

陣立ては整っているが竜が討たれた事で警戒しているのか襲ってくる気配がない。

 

「制空権奪還と救出部隊はまだなんですか?」

「情報を精査でき次第制空権の奪還を図るそうだ。救出部隊はその時に派遣する」

不安がる部下に久世はそう答える。

 

久世が背後を確認すると回廊は避難民で一杯だった。ここは長く幅広いにも関わらず玉座の間の近くまで埋まっているようだ。ざっと見て3000人以上は居るようだ。

街にも帝国兵が攻めて来て混乱の中で必死になって街を脱出し城内でも帝国兵に襲われながら退避して来たようだ。

そのためか負傷者も多い。

 

「お兄ちゃん…お姉ちゃんが…」

久世の袖を誰かが引っ張った。

見ると、あの小間使いの子供達がじっとこちらを見上げている。

久世よりも前に子供達から報告を受けていた西本が彼に耳打ちをした。

 

「一刻も早く医療設備が整った艦隊に移送しないと、あの少女は...」

久世は無力感と罪悪感で子供から目を逸らしそうになった。

「ごめん…僕にはどうすることもできないんだ」

 

「貴方があの竜を討ち果たした勇者ですね!」

 

女性の声が横から割って入った。

避難民だろうか長く深い海色の髪をした少女が立っている。歳の頃は15、純白と紺色が基調のゆったりとした祭服を着ている。

楚々とした雰囲気からすると聖職者だろう。

 

「ちょ、ちょっとリュミ、放っておきなさいよそんな連中…」

「私達を救ってくれて、今もこうして侵略者と対峙してくれているじゃありませんか。子供達に対してこんなにも優しい目を向けてるではありませんか。きっと悪い人じゃありません」

リュミと呼ばれた少女は同僚の制止を聞かず、そう言いニッコリと笑う。

 

「どこから来られた方かは存じませんが私に出来ることがあれば何なりとお申し付けください。私、これでも光母教の神官戦士ですし治癒魔法の心得もありますの」

彼女の言葉で聞き慣れないものがあった。

 

「治癒魔法?」

「はい。神奇跡を少しばかりお借りするのです。見たところ、お怪我されている方が多くいらっしゃいますわ。私も、お手伝いしたいと思います。癒しの魔法、それなりに得意ですので」

祈るように両手を絡める少女を目の前にし久世は周囲の部下と顔を見合わせた。

 

「えっ、魔法?」

「ハリーポッターとかこのすばとかの?」

「冗談だろう」

 

久世は藁にもすがる思いで彼女に尋ねた。

 

「助けてもらいたい人が居る!」

彼と西本はリュミを連れ、少し離れたところに寝かせてる、あの侍女の少女の元へ行った。

矢を背中に突き立てられた彼女の姿にリュミは息を呑む。

ピクリとも動かないので、もう死んでしまったのではないかと思ったようだ。

 

「モルヒネを投与して眠らせているんだけど容態が悪くなる一方で…」

「もるひね?」

 

首を傾げる彼女に、久世はモルヒネが鎮痛作用の薬であると説明し、それに納得したリュミは少女にそっと近づき、その体に触れる。

静かに目を閉じ何か呪文らしき言葉を呟き、淡い光が彼女の手から溢れ少女の身体に移っていく。

青白かった少女の肌に若干だが生気が戻る。

 

「しばらく癒した後で矢尻を抜きましょう」

リュミは治癒に集中したまま久世達にそう言った。

久世が信じられないものを見た思いで隣の西本と顔を見合わせた。

 

「助かる、のか?」

「神のみぞ知るところです…フレーナ、あなたも手伝って」

「ああもう、知らないわよ?」

同僚も加わり2人で少女の治癒にあたる。

時間がこれで少し伸びた、と久世は考えた。

 

「ですが、治癒魔法を続けるには安静にしていなければなりません。敵がここへ来るようなことになれば…」

中庭の向こうで布陣が完成しつつある800の帝国兵が、こちらへ雪崩れ込んでくるのでを彼女が危惧していた。

「安心してください」

 

久世はそう言い小銃を手にし決然と言った。

 

「一兵たりとも、ここへは絶対に通さない」

彼はリュミに少女を任せると作戦指揮に戻った。

 

「加藤中佐、後方で艦隊との通信を保持してください。小隊は総力戦になることが予想されます」

「分かった。戦況報告や艦隊との連絡は僕がやろう」

加藤は長距離通信機を背負っていた兵士から受け取る。

 

「カルダ団長、ちょっと良いですか」

「うむ、なんだ」

壁に背中を預けて、じっとこちらを窺うように立っているマリースア軍の将校の名を呼んだ。

 

「少しばかり、家具や調度品を手荒に扱わせたいただきたい」

「何のために?」

「帝国軍を迎え撃つためにバリケードを構築します」

「まあ、この非常時に断る理由はないが…」

 

彼女からの許可を取り付けると久世はすぐに部下達に命じて作業に取り掛かる。

35名が身を潜めるための即席陣地を構築していく。

兵士らは寝台や棚などの矢を防ぐ板になりそうなものを中身をぶちまけてから運び出す。

高価そうなものばかりで被害総額がえらいことになりそうだった。

 

「アタシらも手伝うよ」

「ラロナ?」

市之瀬が驚いている間にも飛行軽甲戦士団と衛兵の生き残りが続々と加わってきた。

なぜか兵士達に協力するのが嬉しそうだった。

「30人ぽっちじゃ無理だ。継承帝国軍と戦おうってんなら手伝うのは道理だよ」

彼女はそう言い少年のような笑顔で白い歯を見せる。

 

「ありがとう、イチノセ。これだけの避難民を助けることができたのは、お前たちのおかげだ」

「…俺、何もしてねえよ」

 

 

 

 

 

 

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