ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
久世達はバリケードでそれぞれの配置についた。
89式小銃の二脚を立て安定した射撃態勢を取る。
「聞けえぇい!マリースアの蛮族共よ!」
指揮官らしき羽根飾りのついた兜を被った男が前へ躍り出る。
「我らはフィルボルグ継承帝国南伐混成軍、リヒャルダ将軍が配下である!」
男は、こうした戦場での鼓舞や勧告に長けているようだ。その声は朗々と辺りに響く。
「我らの軍門に下るならば!一族郎党根絶やしだけは免じてやると、リヒャルダ様から寛容なるお言葉を頂いておる!さあ、ハミエーアをここへ引っ立ててくるのだ!さすれば命だけは救ってやろうぞ!」
久世は、異変に気づいてバリケードに戻っていたカルダに目配せをする。
彼女は、この場を久世に譲るつもりらしい。
帝国兵と正対しているのは国防陸軍なので成り行きとしては自然だ。
『我々は大日本帝国、国連軍指揮下の国防陸軍であります。あなた方の一般市民に対する虐殺行為を即刻中止してください。また、こちらへ危害を加える場合、あなた方を殲滅します!』
(あやつ...一体何をほざいておるのだ?)
指揮官の男は目の前に立ち塞がる者に対して失笑した。
奇妙な服装をし、おまけに家具などを並べた即席の陣地をこしらえている。杖のような物をこちらに向けている。
即席陣地は騎兵突撃などの被害を多少は軽減してくれるだろう。
しかし、そこにいる兵の数は話にならないほど少ない。
せいぜい30人程度だ。
その人数で継承帝国騎士団の突進を阻もうと言うのか。
それに我々を殲滅すると言っていた。正気なのか。
あのトチ狂った指揮官の部下達には同情してしまう。
「弓兵、構え!」
100人ほどの弓兵の横隊が一斉に矢をつがえた。
「放てぇ!」
ぶつかる前に、ある程度敵軍を損耗させるための攻撃だ。
対峙する奇妙な服装の連中は矢が飛んでくるや否や無様な陣地の中に尻尾を巻いて隠れてしまった。
矢を雨のように放ったが連中には届いてないようだ。
(ふん、だがそんなおもちゃのような陣地では突撃を阻止できんぞ)
簡単に飛び超えられそうな高さの木箱やベッドに矢が刺さった様は酷く不恰好で笑えてくる。
そんなものの影に隠れて震えている連中など恐るに足りない。
やつらの陣地の後方から微かに爆発音が聞こえた。
そして後ろに控えていた弓兵隊が突如爆発した。
「なっ!?」
爆発で弓や矢や防具や人だった物のパーツが降り注ぎ阿鼻叫喚の惨状となっていた。
先程の爆発が連続し弓兵隊の損害が広がっていく。
「一体、どうなっているのだ!?」
まさか、奇妙な服装した連中達の仕業だと言うのか。しかも前衛の歩兵隊を超えて弓兵隊を正確無比で攻撃してきたのだ。
「だ、団長!先程の攻撃で弓兵隊が全滅、死傷者不明!」
「な、なんだと!?」
「爆発の余波で歩兵隊にも少なからず損害が出ています!」
側近からの報告が次々と上がっていく。
爆発が止んだことで辺りは静寂が支配した。
爆煙は収まり、ようやく弓兵隊の状況が確認できる。
彼らはあまりの惨状を目にすることになる。
横隊を組んでいた弓兵隊の姿が見えない。見えたのは掘り返された土と破損した弓矢や防具、そして無数に横たわる弓兵の死体であった。腕や足が欠如していたりズタボロになってたりと様々である。少なからず生き残りは居たが爆発の影響で戦闘不能となっている。
「なんてことだ...」
「弓兵隊を壊滅させるなんて...」
側近達はそう言うしか無かった。
「生き残った者は負傷者と共には後方へ下げろ!戦闘の邪魔になる急げ!」
「団長、一向に奴らの爆発魔法が飛んできません」
「...もしかしたら魔力切れかもしれない。あれほどの攻撃をしたのだ切れるのも当然だ」
「団長、弓兵隊の撤退が完了しました」
「わかった。奴らの魔力が回復する前に奴らを討ち取るぞ」
「全軍突撃いぃ!」
彼は大きく手を挙げ勢いよく振り下ろした。
重装歩兵が地響きのような声を出す。盾を構え槍の穂先を敵陣に向け前進を開始した。
「迫撃砲弾は全部撃ち尽くしたな?」
「ええ、ありったけの量を奴さんに贈り物の矢のお返しでプレゼントしました」
久世達は飛び道具である弓を扱う弓兵達を優先脅威目標と定め60mm迫撃砲を全力で撃ち込んだ。8発あった迫撃砲弾は全て撃ち尽くした。
敵の弓兵がやられた影響か陣形を建て直しているところだ。
陣形を建て直した敵は前進する。
前方から小隊の倍以上の帝国軍が迫り来る。第一波の重装歩兵200に照準を合わせる。
「小隊、射撃準備」
「1班射撃用意!」
「2班射撃用ぉ意っ!」
「3班射撃よぉーい!」
「4班射撃用意!」
89式小銃を手にした兵士達が一斉に安全装置を解除し前進を進めた帝国兵に狙いを定めた。
「早駆けぇ!」
敵の指揮官の声と共に突撃発起の号令であろう角笛の音が辺りに響く。
黒い甲冑に身を包んだ兵士たちが突撃を開始した。その迫力に実戦経験なのない若手兵士達は身を竦んだ。
「太陽系戦争の時の宇宙軍はこんな気持ちで戦いに挑んでたのか...」
「あの時が懐かしいな」
彼我の距離が縮み200を切ろうとしていたところで久世が号令をかけた。
「撃てえぇっ!」
ほとんど絶叫に近い声に弾かれるように引き金を引いた。
銃声とともに重厚な甲冑に身を固めた帝国兵が次々と倒れていく。
彼らの鎧など諸外国標準のケブラー繊維すら貫通する6.8mm高速ライフル弾にとっては紙同然だった。
「がはっ!?」
「うぐっ」
中庭には隠すようなものがない開けた場所だった。
兵士たちにとっては射撃場とは変わらないぐらい狙いやすい環境だった。
一方の帝国軍は自動小銃の存在を知るはずもなく甲冑姿ではその場に伏せることもできず、為す術なく小銃によって倒れていった。
「こ、今度は一体なんだと言うんだ!?」
帝国軍の前線指揮官は自分たちの身に何が起きているのか全く分からなかった。
ここまで来れば、あとは女王を引っ捕まえるだけのはずだった。
だが、奥に何者かが立ち塞がっている。マリースアの近衛兵だろうか。しかし、精鋭の騎士100人以上を一瞬で倒す戦士など存在するはずがない。
自分たちは今なにか恐ろしい物と戦っているのでは無いか。
「矢だっ!見えない矢が飛んできてるんだ!」
「奴らは魔法を使っているんだ!」
仲間が穴だらけになって倒れていくのを見た兵士が叫ぶ。
既に半数以上の物が敵の攻撃で倒れていく。
「重装歩兵!盾を構えろ!継承帝国軍に撤退の2文字はない!前進あるのみだ!」
指揮官は果敢に攻勢を命じる。
それは勇猛さからではない。帝国軍では致命的な失敗をした指揮官は斬首されることが多く、それに恐怖したからである。
陣を退いても構わないとリヒャルダに言われているが、ここまで一方的な敗走は許されないはず。
自分達が正対している敵が一体何なのか考えるよりも生き残るために前進しなければならない。
両翼に配置された兵士は02式分隊支援火器の二脚を立て掃射を開始した。毎分1200発の6.8mm高速ライフル弾が雨の如く敵を襲う。
凄まじい銃撃音に加え敵兵の悲鳴や命令が飛び交う中、普段温厚な久世が吠えるように叫ぶ。
「白兵戦距離に接近させるな!弾幕を張れ!グレネード用意!」
「射撃準備よし!」
「撃てぇ!」
盾を構えてじり寄ってくる敵に向かい、99式グレネードランチャーの銃口から毎分18発の対人榴弾が発射される。
いわゆる擲弾銃で帝国重工製の回転弾倉式グレネードランチャーだ。対人・対戦車・徹甲弾の3種の弾頭を発射可能である。
盾を構えた敵の目前で対人榴弾が炸裂、内部に封されてた破片と爆風が盾を砕き兵士の体を抉り陣形が瓦解していく。
久世としては接近戦になれば数の差から鎧袖一触でこちらが皆殺しになる。こちらはたったの35人、その半数以上がまとも装備を身につけてない。
主導権を奪われないように徹底的に叩く必要がある。
「クソ!あいつら、味方の死体を踏み越えてきやがる!」
「狂ってる!」
「隊長!敵の死体が積み重なって弾が通りません!」
「西本おぉ!M2で敵の死体ごと吹き飛ばせ!」
「りょ、了解!」
軽装甲機動車の上面ハッチから89式小銃で射撃していた西本がM2重機関銃に手を取る。
逆Y字型のトリガーを指で押し込み銃口から毎分1200発の14.5mm徹甲弾が発射される。
1933年旧アメリカ合衆国で開発されたM2重機関銃を12.7mmから14.5mmにまで大口径化した物である。信頼性や完成度の高さから半世紀以上に渡り継続されて配備されている。
発射された14.5mm徹甲弾は積み重なっていた敵の死体をに吸い込まれていく。人の死体だった物は肉片や鮮血に変え雨の如く降り注ぐ。
味方の死体の肉片や鮮血が降り注ぎ敵それを目の当たりにした敵兵は恐れたのか進軍が一時停滞する。さらに跳弾した14.5mm徹甲弾が進軍する敵兵に直撃し胴体が真っ二つになった敵兵や四肢や頭部がさよならをした敵兵とさまざまである
久世達はそれでも手を緩まず攻撃していく。
「敵機接近!」
久世達に最も脅威である兵士を乗せた航空兵力の飛来の報告が悲鳴のようにあがった。
「詳細は!?」
「兵士を乗せた巨鳥が8!兵の数はおよそ120!」
「79式かスティンガーさえあれば…!」
「無いものねだりを言うな!」
「どうしますか?」
「2班、4班!対空弾幕を張れ!敵を近づけさせるな!」
敵地上兵力に銃火器を向けていた2班と4班は接近する敵航空兵力に目標を変えた。
空に向け6.8mm高速ライフル弾や14.5mm徹甲弾が発射される。
敵は油断したせいか8騎の内4騎が被弾し墜落していく。久世達が陣取るバリケード内にも墜落した騎があり運良く生き残った敵兵は剣を抜くがカルダが槍を構え目にも止まらぬ速さで敵兵を貫く。
「敵を一歩もここに通すな!総員抜刀!」
カルダの声に衛兵達も剣や槍を手に取り敵兵を各個撃破していく。
久世達の攻撃が別の方向に向き敵地上兵力への攻撃が弱まってしまう。
「無反動砲前へ!」
久世の命令で90mm無反動砲を担いだ兵士が残存した重装歩兵の一団へ狙いを定める。
装填手が後方から対戦車榴弾を装填、閉鎖機を閉め、発射時の
射手が引き金を引き、激しい発射音の後、耳を劈く炸裂音と共に盾もろとも敵兵達が吹き飛んで飛んだ。
それでも敵の勢いは止まらない。勢いは衰えるどころか増しているようだ。
「このままではバリケードを突破される...」
「久世小隊長!狙撃で敵の指揮系統を破壊しましょう!」
「分かった!市之瀬!あの塔に上って援護しろ!M82も持っていけ!」
命令を受けた市之瀬は愛銃のM24対人狙撃銃とM82A4対物狙撃銃が収まっている収納ケースを手に取り、久世の指が示す塔に向かって駆け出した。
「アタシに任せて、案内するから」
「その箱、持つよ」
市之瀬と一緒に走り出したラロナとアルメナが言った。
「た、頼むぜ。あっ、これ重いから気をつけて」
市之瀬は戦場の緊張感に表情を険しくしながらも、特にラロナの存在感にどこか安心感を抱く。
「行こう!」
3人は城にある4つある尖塔の1つに向かい走り出す。
朝からずっと身体を酷使し続けた市之瀬は本心で倒れ込んでしまいたいと思った。だが、自分より幼く妹と変わらない年頃の2人の少女を見ると、そんな泣き言は口に出せなかった。
途中あちこちにいる避難してきた一般市民の視線に晒された。
市之瀬を見て一様にギョッとし、兵士だと分かるラロナとアルメナに向かって口々に質問を投げかける。
「敵にどこまで突破されたのですか?」
「さっきから聞こえるあの音は一体?」
ラロナは無理矢理自信ありげな表情を浮かべ彼らに答えた。
「大丈夫、アタシ達が食い止めるから!」
その言葉には自分達にできる限りのことを果たすと言う意志に満ちている。
市之瀬は、そのアタシ達の中に自分も含まれていることに気づいた。
自分のことを戦士として認めてくれているのだ。尖塔の螺旋階段を駆け上りながら、これまで経験したことのないほど昂揚していることに気づいた。
「ここだ!ここから中庭全体を見下ろせる。」
ラロナは尖塔の最上階にある窓から下を確認した。
中庭では激しい戦闘が続いていた。曳光弾が鋭い光跡を残しながら地上と空に敵に向かって吐き出される。時折、手榴弾の炸裂する爆音が響き渡る。
機関銃の射撃の激しいさから考えて、そう遠くない内に弾切れを起こしそうだ。
早く敵の指揮系統を破壊して敗走させなければならない。
市之瀬は狙撃銃を構えるが肝心の敵指揮官の姿がどこにあるのかわからなかった。
「あそこだ!軍旗を持っている従卒がいる。隣のマントを羽織っているのが騎士団長かも!」
「よ、よくこんなことから見えるな?」
「山育ちだかんな!」
山育ちすげぇ、と呟くと市之瀬はラロナに指示された目標をスコープのレティクルに収め3秒ほど狙いを定め引き金を引いた。
銃声が響き400m前方にある従卒が撃たれ軍旗が倒れた。
ラロナとアルメナが度肝を抜かれたような顔をする。たった1発で仕留めるとは予想していなかった。
「こ、この距離から当てたのか!?」
「一応、準特級射手だかんな」
そう言いながら市之瀬は狙撃銃の機関部にある槓桿を引き空薬莢の排出と次弾の装填を行う。
国防軍の射手レベルは初級、中級、上級、準特級、特級の5つに分かれている。市之瀬は上から2番目の準特級を持っている。
「クゼ殿や鉄の虫、次いでこの男もバケモノだったのか」
「イチノセ、お前どこで腕を磨いたんだ?」
ラロナはさぞ有名なアーチャーに師事していたのでだろうと想像する。
市之瀬は苦笑して答えた。
「学校帰りのゲーセン」
今度は派手なマントを羽織った指揮官に狙い撃ちする。
指揮型なを振り回し部下達を怒鳴っていた敵指揮官は胸を撃ち抜かれ倒れ込む。
これで終わりと市之瀬は思ったが、そううまくいかなかった。
倒れ込んだ敵指揮官は指揮を副指揮官に引き継がれ軍旗も後続の者が拾い再びかざした。
「旗を何で拾ったんだ?」
「旗は部隊の象徴。旗が倒れるのは部隊が全滅した時だから。帝国軍は特にそうらしい」
「なるほどな。はぁ...しゃらくせえ!」
市之瀬は再び軍旗を持つ兵士に狙いを定め少し息を吐いてから、ピタリと息を止め引き金を引いた。
反動と銃声が尖塔に響き旗を持っていた兵士が衝撃でその場にひっくり返る。
自分が手にしている旗を呆然と見つめた。
旗は竿の部分を真ん中で撃ち抜かれへし折られていた。
「これでどうだ!」
市之瀬は槓桿を引きながらさけぶ。
「さすが、イチノセ!ゲーセンで鍛えた腕だな!」
バンバンと背中を叩かれた市之瀬は横のラロナを凝視した。
ニコニコと心底嬉しそうにしている。
ゲーセンをアーチャーが入る修練所か何かだと思っているらしい。
「お次はどいつだ!?」
「魔法騎士隊が攻撃魔法を準備している!」
「食らえ!」
市之瀬は魔法騎士隊の指揮官であろう老齢な魔法騎士に狙いを定め引き金を引いた。
カキイィィーン!
6.8mmライフル弾が魔法騎士に到達する前に見えない壁に阻まれあらぬ方向へ跳弾していった。
「は?」
信じられない出来事に市之瀬は驚いていた。
「な、なんで...」
「あれは、障壁魔法だ」
「障壁?」
アルメナからの言葉に市之瀬は首を傾げる。
「防御魔法の1つよ。剣や槍や攻撃魔法から魔法で障壁を展開して身を守る魔法のこと。装いから見て、あの指揮官は魔導師よ」
「...こいつを使うか」
アルメナからの説明を聞き市之瀬はケースから分解収納されてたM82A4対物狙撃銃を取り出し手慣れた手つきで組み立てていく。組み立て上がったM82A4はラロナやアルメナより大きい。
「さっきのやつより大きいな」
「なんたって、こいつは人以外の硬いものも容易く狙える奴だからな」
市之瀬はそう言いながら14.5mm徹甲弾が10発装填された弾倉を装着し槓杆を引き薬室に14.5mm徹甲弾が装填される。市之瀬はスコープを覗きレティクルにに敵の魔導師を収める。
対人狙撃銃とは比べ物にならない程の反動と銃声が尖塔に響く。発射された14.5mm徹甲弾は1秒も経たない内に障壁に直撃しガラスが割れるような音を立て砕け散る。魔導障壁が砕け散ったことに戸惑いを見せている魔導師に2発目の14.5mm徹甲弾が胸に大きな穴を開け後ろに倒れ込む。
魔導師の胸に大きな穴が空いたことに部隊は恐怖に陥り混乱する。
「魔導師が為す術なく葬られた...」
「大きな穴が空いてる...」
ラロナとアルメナは絞り出すように声を出した。
「...20mmなら一撃だったのにな」