ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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流星の目1

戦場は静まり返っていた。

いや、その場に居た者達全員が絶句していたと言えば良いだろう。

「こ、この...」

そんな中でリヒャルダだけは声を出そうとしていた。

「化け物めっ!」

彼女は頼みの竜騎士団の攻撃を跳ね除け、傷1つを負うことなく竜騎士団を1騎残らず殲滅し海に悠々と浮かんでいた異形の船群に対して、それ以外の表現が出てこなかった。

戦闘のあった海域には黒焦げの竜が煙を上げながら波間を漂っていた。そこに異形の船群の中でも一回り小さい船と鉄虫が何かを探しているような行動をとっていた。

頼みの竜騎士団が壊滅した今、このマリースア攻略戦は完全に失敗したと言っても過言ではない。輸送用の巨鳥さえも失った南伐混成軍は完全に孤立した状態となっていた。本国への連絡が取れない以上、援軍を望むことも撤退することも叶わない。戦いに勝利した後は、この地を統治し侵攻の橋頭堡として築く予定だった。

「しょ、将軍...我らは...我らは一体何を戦っているのですか!?」

「飛行艦隊や竜騎士団を赤子の手をひねるが如く破られるなど...や、奴らは何者なのですか!?」

幕僚達は混乱しリヒャルダにすがるように答えを求めていた。

彼らもリヒャルダがその答えを持ってるはずもないことを理解しているはずだ。

「...許さぬ」

「え...?」

リヒャルダは眼前の城門を睨んだ。

城の半分はこちらの手に落ちているはずだ。女王ハーミエアの首を取るまであと少しのところだ。

撤退の望みは絶たれている。謎の敵により勝ち目もなくなった。戦士として戦場で倒れることこそが最後の誇りだ。

例えこちらが結果的に全滅しようと、このマリースアが滅ぼすことこそができるのなら、自分たちの死に意味がある。

「とうとう、これを使う時が来たのか...」

リヒャルダは腰から剣を抜いた。

彼女の家に代々伝わる魔力の封じられた剣。

「先祖よ...どうか我らをお導きください」

まるで聖女のように彼女は瞑目した。

そしてこの剣を空に向けて高らかに掲げると残存する兵士に宣言した。

「総員、我に続け!狙うはハーミエアの首一つ!!」

リヒャルダはこの絶望的な状況でも色褪せないカリスマ性を持っていた。

彼女の声に部下達は奮い立つ。

士気が崩壊寸前であった部隊が彼女のかけた声だけで立ち直った。

「しょ、将軍に続け!」

「わ、我ら継承帝国軍に後退の二文字はない!」

リヒャルダは集結した残存兵力を率いり城の中へ進軍していった。

 

 


「重傷者が優先だ!急げ!」

久世は両翼端に載せたローターが上を向き灰色の機体にN.D.M.C(国防海兵隊)の文字と日の丸が入った86式輸送機オスプレイ4機が中庭へ着陸するのを確認すると猛烈なダウンウォッシュの中で叫んだ。

久世小隊は奇跡的に中庭をかろうじて確保していた。

久世の声を聞き、待機していたマリースアの兵士が担架に乗せられた重傷者達を運んでくる。

「急げ!民の命がかかっている!」

ヘリの音に怖気付いている様子の兵士達をカルダが叱咤した。

「おねえちゃん!」

「み...んな...」

久世は運び込まれる重傷者の中に、あの少女と子供たちの姿を見た。意識は朦朧としているようだが命は繋がっていた。

リュミの治癒魔法が間に合ったのかもしれない。

少しだけ救われた気分になる。

「大丈夫ですよ。神を諦めぬ者を見捨てることはありません」

リュミは治癒魔法の長時間詠唱で疲れた様子だった。それでも優しげな表情で子供達の頭を撫でていた。

それに続き負傷したブラックホークのパイロット2人と久世の部下3人の姿を確認した。パイロット両名は担架に載せられ部下たちは無傷の仲間に肩を貸されながら進んでいた。

「久世少尉、君のおかげで助かった。ありがとな」

「いえ、自分は当然のことをしたまでです」

「久世少尉、すみません」

「今は治すことに専念します」

「し、資料が...」

「あぁ、怪我を治して元気になって復帰してくれ。って米井、お前は自分のことを心配しろ」

パイロット2人と久世の部下たちはそれぞれ別の機に搭乗するためその場を別れた。

重傷者達を載せたオスプレイは離陸し手術体制が万全を期した桜龍に輸送される手筈になっている。

「久世少尉、よく耐えてくれたな!俺だったらブルって小便チビちまう!」

「えぇ、今回は奇跡が起きてくれて良かったです」

「久世少尉、破損した装備を一通り見たんだけどLAVは桜龍の艦内工廠で応急修理をすれば動かせそうだ。重機関銃は直すより新しく買った方が安上がりだから廃棄だな」

「...始末書書かされるのか?」

「状況が状況だし問題ないだろう」

久世に対してヘリが起こすダウンウォッシュの中で大声で話しかけてきたのは増援で派遣された板井大尉の中隊隷下の小隊の坂東和夫小隊長と柳原辰子小隊長だった。坂東は久世より6つ歳上だが新入りの久世に部隊指揮官のノウハウを教えてくれる良き先輩、柳原は工業系の知識が豊富な少々男勝りな久世の同僚である。

「そうだ、増援で派遣された部隊と武器弾薬に関してだが目に通してくれ!」

坂東から部隊間での情報を共有する端末が久世に渡された。

「把握した。これなら敵が来ても大丈夫そうです」

「了解した。俺らはあっちで指揮を執る。いくぞ!」

坂東らは自分達が指揮する小隊の元に戻った。

陸軍のチヌークが破損したLAVを胴体下面にロープで吊り下げてスリング輸送を行っている。桜龍の艦内工廠に直行するようだ。

「化け物めぇ!覚悟ぉ!」

仲間の死体に紛れていた帝国兵が4人ほど起き上がるとブロードソードを手に久世に襲いかかってきた。いきなりのことに久世は小銃を向け帝国兵で発砲する。3人は倒したが残った1人が迫ってきた。発砲しようとするが弾切れを起こしていた。弾が十分に装填した弾倉に取り替えとけば良かったと後悔しながら弾倉を交換する余裕もなく拳銃に手を伸ばすが間に合いそうになかった。

「うっ!?」

目を見開き自分の運命はここまでなのかと悟る。

次の瞬間、目にも止まらぬ速さで帝国兵の胸を槍が突立つ。

「がはぁ!?」

帝国兵はその場で崩れ落ちる。

久世は帝国兵の胸に突立つ槍に見覚えがあった。

見事な装飾が施されており赤い宝石のような物が切っ先に埋め込まれている。

カルダの獲物だった。

その槍を引き抜いたカルダは久世を鋭く睨んだ。

「戦場で油断するな!貴公の死は部隊の指揮と同意義なんだぞ!!」

「あっ、すまない...」

返す言葉もなかった。完全に自分の不注意だ。

カルダには命を救われた形になった。久世は彼女に対し申し訳なさそうな顔をする。

そんな顔を見て、カルダはふっと微笑んだ。

「死なないでくれ。異世界の人間である貴公が、本来この国と関わりなき貴公が...ここで死んではいけないのだ」

久世は思わず彼女の顔を見つめてしまった。

優しげな表情だった。

どうやら、彼女なりにフォローしてくれてるらしい。

久世は銃を構え警戒しつつ陣地へ戻りながら彼女に言った。

「個人的な事を1つ言わせてもらっていいですか?」

「えっ?」

バリケードに入り台に置いてあった30発入の6.8mm弾弾倉を手にし身を潜める。

カルダもその横に中腰で待機していた。

「関わりないわけじゃないですよ、カルダさん。短い時間だけれど、あなたや、あの侍女の娘やリュミさんに出会った。僕は帝国の軍人の立場として抱いてはいけない感情だとしても、僕は違う世界の違う国の、あなた達を助けたいと思いました」

「クゼ...殿...」

カルダは久世の言葉に息を呑んだ。

“ 君を守りたいんだと思ったんだ。カルダ”

彼女の脳裏に過去の記憶が過る。

婚約者と最後に出会った時の記憶だ。

武勇に秀でていなかったが文学を愛していた。

会う度にカルダの領地の花々や民話の由来などを教えてくれた。

そして貴族であることを鼻にかけず領民と打ち解け合おうとする優しさを持った人だった。

そんな彼に対し自分はあまり感情を表に出さなかった。

端からすれば情けない地方貴族の坊っちゃんが、良家の許嫁に冷たく扱われているように見えたことだろう。

ガルダはそれでも幸せだった。

政略結婚だとしても彼なりに許嫁の自分を幸せにしようとしていたことに。彼女はそんな彼の誠実さが好きだった。

彼と最後に会った時。

国境で隣国との小競り合いが発生し、その兵の招集に彼が応じると打ち明けた時。

“ あなたを守りたい”と言ったのだ。

目の前にいる異世界からやってきた、クゼのように。

武勇のためでも、貴族のためでもなく。

ただ守りたい、と。

「大丈夫ですよ。どうも僕はついてるみたいだ。カルダさんにこうして守ってもらえたし」

「え...?」

久世の言葉によってカルダは現実へと引き戻される。

「死にませんよ、僕は。死ぬつもりはありません」

彼女は自分が涙を流しそうになっているのに気づいて咄嗟に顔を背けた。

誰に対しても優しく、他人の幸福を優先し、我が身の犠牲に顧みずに誰かを守ろうとする。

国も身分も顔も人種も着ている物も何もかも違う。

あまりにも彼に似ていた。

「どうしました?」

「いや、すまん。どうも貴公らの乗り物に煽られたゴミが目に...」

見え透いた嘘だが久世はそれを大真面目に受け取った。

「そりゃまずい。しまったなぁ。飛沫防止のために普通はゴーグルを着けるんですが...西本!目薬あったらこっちによこしてくれ!ちょっと目を見せてください」

彼は腰をあげるとカルダの顔を覗き込んだ。この辺りの微妙に空気が読めないところが、元カノと別れる要因になったのかもしれない。

「きゃっ!」

泣いた顔を見られたくなかったカルダは短い悲鳴あげて彼の手を振りほどいた。

久世も戦場でもほとんど動じなかった指揮官であるはずの彼女が、まるで少女のような声をあげたのに動揺した。

「わ!?あ、す、すいません」

「い、いや、こちらこそ失礼した」

そんな2人に目薬を持った西本が来た。

「熱いね〜お二人さん」

そんな2人を西本がニヤニヤ顔をしながらからかって来た。

「西本、これは誤解だ!俺は単純にカルダさんの目を心配しただけなんだ!」

「そそそそ、そうであるぞ!クゼ殿の言う通りだ!」

2人は西本に対して必死に弁明しようとしている。

だが西本はそんな2人に対して意地悪な笑いをした。

「イチャイチャするのは結構ですけど、ここは戦場であることを忘れずにお願いしますね。あ、少尉、目薬持ってきたのでどうぞ。では、ごゆっくり〜」

そう言うと西本は去っていた。

あらぬ誤解を与えてしまった2人は顔を見合せた。

「ど、どうやら私の勘違いだったようだ。も、もう大丈夫だ。問題ない」

カルダは顔を赤らめながら槍を手にし逃げるようにバリケードから立ち上がった。

「ちょっと待ってください」

「い、いや、だから大丈夫なのだ!」

「違います!本当に目は大丈夫なんですか!?」

その時、無線機から声が入った。

声の持ち主は尖塔にあがっていた市之瀬の声だった。

『久世少尉!正面に敵影!大勢の歩兵がこちらに向かってきております!』

久世は双眼鏡を手にバリケードから身を乗り出した。

「...敵の主力か?」

隣でカルダが呟いた。

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