ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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流星の目3

「惨めな最期でしたな、リヒャルダ将軍」

ローブの男が心底嬉しそうな口調で横たわる死体に言った。

そして1本の剣を見る。

リヒャルダが持っていた青い宝石の埋め込まれた剣、魔剣バルムンクだ。

彼━━ゲンフルは笑った。

そんな武器と圧倒的なカリスマを持ったリヒャルダでさえ、あの存在には敵わなかった。

「異界の化け物目、やりおるわ」

彼は湾内に浮かんでいる異形の船群を見る。

「クク…だが貴女の死は無駄にしませんよ」

ゲンフルは、懐からある物を出した。

それは古びた水晶の珠だった美しく磨かれた完全なる球体。

「私が身を置いている教団はですな、将軍」

世間話でもしているかのように言うと彼は煤にまみれた剣を拾い上げる。

剣の魔力の鼓動を感じる。まるで自分を拒絶しているように思えた。普通の人間ならば、つらくて持てないかもしれない。

普通の人間ならば━━彼は魔術師だった。それも、かなりの高位の。この程度の耐性は心得ている。

「プロミニア陥落の際、あの馬鹿共がとんだ置き土産をしてくれたのを発見したのですよ...玉座を奪うことに固執して、宮廷魔術師達を丸々逃がした騎士団のおかげです」

彼は一息置いて話を続ける。

「奴らは自分達が世界の中心だと思ってましたからな。自らが滅ぶぐらいなら世界が滅んでも構わないとでも考えたのでしょう。古文書を頼りに“有翼の民”の魔法使い、あの怪物をこの世界に呼び出した」

ゲンフルは水晶玉を掲げて見せた。

「あやつらは...この世界の存在では無いのですよ、将軍。私は貴女方、南伐混成軍が壊滅した場合、その後始末を命じられているのです」

魔剣をリヒャルダそのものであるかのように語りかけた。

「我らは、この世界の均衡を保たねばなりませぬ。この世界に、あやつらは存在してはいけない。この世界を歪ませ、混沌を呼ぶ存続なのです」

ゲンフルは折り重なった味方の死体をの山を見た。

「貴女では結局、あやつらを止めることはできなかった。だから私が全てに決着をつけて差し上げましょう」

水晶玉を愛おしげに見つめていると、魔剣が震えていることに気づく。

強く恐ろしい魔力が、その水晶玉には込められていた。魔剣はそれを感じ取ったのだろう。

「ククク...“流星落とし”を御伽噺で耳にしたことはおありですかな?太古に滅んだと言われる有翼の民は、“流星落とし”と言う制御器を使い星を降らせ、反逆者や蛮族共を討ったと伝えられております。誰もが御伽噺だと信じておりますがな...我が教団ではそうは思っておりません。なぜなら...ここにあるからですよ...その“流星の目が”!!」

空にかざすと水晶の中に何かが見えた。

それは単に空の景色が屈折して映りこんだ訳では無い。

水晶の中に、宇宙があったのだ。

燃える都を見下ろした。

「世界の安寧が、国一つ消える程度で得られるものなら安いもの」

そして手にしていたリヒャルダの魔剣を地面に突き立てた。

「私は嬉しい。自分は今、世界を救おうとしているのだから」

彼は自らの胸の内をさらけ出した。

「貴女は私を軽蔑してましたが...私も守ってるのですよ?帝国を、世界をね!」

水晶を両手に持ち、彼は精神を集中し始めた。

額に汗をかいているのは、この土地が温暖であるからだけではない。

この魔導兵器は彼1人で扱うには強力すぎるからだ。彼はそれを理解した上で扱おうとしている。

「制御器には代償がある。それは私の命だ。だが、構わない。私の名が教団の中で永久に語り継がれるなら...帝国の精鋭でさえ倒せなかった異世界の敵を、私の命と引き替えに葬った殉教者としてね!!」

彼は生還するつもりはなかった。望むべき死、名誉の死なのである。

「貴様、何をしている?攻撃ではないだろうな」

彼に声をかけたのは黒い物体をこちらに向けていた4人の異界の敵兵であった。その内の彼と距離が近い兵士には顔には大きい傷があり歴戦の強者と言う風貌をしていた。

「攻撃でないなら手を頭に乗せ地面に伏せろ!早くしろ!」

その兵士が大声で彼に向けて地面に伏せろと言っている。

地面に伏せろだ?冗談じゃない。地面に伏せるなど屈辱の極みだ。

「...うるさいぞ」

「何がだ?」

「うるさいと言っておる!私は今から、この世界を救うための行動を起こしているのだ!貴様も道ずれにしてやる!」

彼はそう言い怒鳴ってきた兵士に胴に抱きつこうとしていた。

タタターン!!

乾いた音が響いた後にゲンフルの体に何かが入り込むのを感じた。敵の見えない矢の攻撃だった。抱きつこうとしていた兵士からの攻撃だ。

「グフッ!?」

彼は前かがみになり倒れ込む。

「何をしている!大塚軍曹!?」

「久世少尉、あの男が何やら怪しげな行動を取っており正当な手法で対応していたら、私に抱きつこうとし抵抗と見て発砲しました」

「それは本当か?」

「はい、軍曹の言う通り我々も1から目撃していました」

彼の上官であろう若き青年将校がこちらに駆け付けて彼に問いただしていた。

━━まだだ...

だが、彼は起き上がった。彼を突き動かす名誉の死を叶える力で起き上がっのだ。

「至近距離で6.8mm弾3発を浴びても立つと言うのか!?」

「どう言うことなんだ...いや、それより、誰か!担架持ってこい!」

「私はタダでは倒れぬぞ...この世界を救う殉教者になるめに!」

そして彼の身体が震え始める。

心臓に早鐘を打ち、皮膚に血管が浮き出ていた。

限界まで集中力を高めていく内に、流星の目は彼の体内へと入っていった。そしてゲンフルの命を直接吸収し始める。

それでも、これを扱うにはこれだけでは足りない。足りないものは補う。

ゲンフルは闇に包まれた。

「久世少尉!こいつはまずいです!死の予感しかししません!」

「急げ!退却しろ!死にたくなければ急げ!」

異世界の敵兵達は蜂の巣をつついたかのように退避していく。

闇は周囲に散らばる死体を貪るように取り込み始めた。新鮮な血と無念を喰らうことで闇は肥大化した。

「何だ!?何が起こっているのだ!?」

異世界の青年将校が再び叫んだ。ゲンフルは優越感に震えた。

━━今、自分は全ての人間や全ての生物を超越したのだ。

ゲンフルは闇に呑み込まれ、闇そのものになった。

何とか制御には成功する。無上の達成感が湧いてきた。

「はは、ふはははははは!さぁ、異世界の怪物共よ、この国と共に消えるが良い!」

 

 

 

伊吹分遣隊の艦艇では敵が降伏し、緊張が解けていた。

「司令!」

「どうした?」

レーダーを担当していた電測員からの声に蕪木は緊張感を取り戻した。

「微弱ながらレーダーに感あり!大気圏外から飛来物体の可能性あり!」

「何だと!?」

「駆逐艦初音からも同様の報告が来てます!」

「後方に待機している臨時旗艦羽黒にも確認をさせろ!」

「精密にその目標を測定しろ」

「了解!」

「ほかの3隻は引き続き周囲を警戒せよ」

CIC内では騒然となりながら情報収集を行っていた。

全方位に向けてられていた三次元レーダーの電波照射を指定した方向に向けて集中させる。

「こ、これは...」

飛来物体のデータ解析の結果に水兵が青ざめた。

「い、隕石です!巨大な隕石がこちらに向かって落下して来てます!」

「隕石だとっ!?」

誰もが自然現象にしては出来すぎだと思っていた。

隕石がこのタイミングで、自分たちに向けて落下している。手段は分からなくても、これが人為的な攻撃であると理解した。

「隕石落下時の予想威力と範囲の結果が出ましたた!」

銀河システムのスーパーコンピュータが導き出した結果が表示されていた。

「TNT換算475kt!推定被害範囲200km!これは国防軍が保有するN267戦略N2弾頭に匹敵します!」

電測員からの答えにCIC内に居た者達は言葉を失った。

核攻撃に匹敵する範囲で国防軍が保有する最新鋭の戦略N2弾頭と同等だと言うことを。

「銀河システムのスーパーコンピュータが隕石衝突で舞い上がった粉塵による太陽光遮断、気候の寒冷化による“隕石の冬”の到来の二次被害も示唆されています!」

電測員からの悲報は更に続いた。

しかし、CIC内では別の感情が生まれていた。

あの時の悲劇を繰り返さないと。

「ここへの到達時間は?」

「お、およそ20分程度かと思われます!」

一瞬の沈黙の後に蕪木は口を開いた。

「全艦に通達。弾道ミサイル迎撃(BMD)モード起動。目標、伊吹分遣隊に向けて落下する隕石!派遣艦隊は全戦力を持って迎撃せよ!」

 

 

異変を感じ、城のテラスへ駆け出したハミエーアは朱に染った空を見て愕然した。この世の終わりが存在するのなら、きっとその時の空はこんな光景だろう。

正しく、その光景が眼前に広がっていた。

ハミエーアは褐色の額に汗を浮かべる。

博識な彼女には、この景色が何を意味するのか理解していた。

古代有翼人伝説の文献に、しばしばその存在を匂わせる記述を目にすることがあった。

「“流星落とし”じゃと!?帝国め、そこまでしてこの国を滅ぼしたいのか!?」

「陛下!ここでは危険でございます!地下室へご避難を!」

「...城なぞ地下ごと吹き飛ばす程の隕石が降ってくるのじゃぞ?」

ハミエーアの顔は年相応の少女の顔になっていた。“流星落とし”はどう足掻いても助かる手段がない攻撃だから。

「異世界からやってきた軍勢でも、“流星落とし”は無理じゃろ...」

彼女は膝を力なく折ってテラスにへたりこんだ。

 

 

同じ頃、加藤も赤い空に目を見張っていた。伊吹からの連絡によって、隕石が降ってくることは知っている。

“科学”的常識の世界に居た彼にとって、その光景は信じ難いものだった。

しかし、才能と呼んで良いほどの順応性の高さから、それは現実のものとして受け入れる。

「どうやって隕石をピンポイントでここに落とそうとしているんだ?」

加藤が疑問に思ったのは隕石の誘導方式だ。

海軍の軍艦乗りと言う職業柄で国防軍が情報を掴んでない兵器の威力よりも、誘導方式が気になるところだ。

魔法による物だとしても、隕石を自分で願った場所に落下させるなど帝国の科学力を持ってしても不可能に近い。

何か誘導方式なり魔法による何かが存在するはず。

「いや、きっとそうだ」

彼は、空の異変と同じく現れた自分達をこの国諸共消し去ろうとしている黒い物体を睨んだ。

「やるしかないな」

「国防軍人らしくない」と周囲からは奇怪な目で見られている変人ではなく、使命に燃える艦隊首席参謀の姿だった。

絶対に諦めない。

彼も伊吹のCICに居た者と同じく、あの時の悲劇を繰り返してはならいと。たとえその行いが無駄だったとしても、少しでも被害を減らせるなら。

「蕪木司令...頼みますよ」

彼は湾内に浮かぶ伊吹分遣隊を見つめた。

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