ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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流星の目4

その頃、伊吹分遣隊では蕪木の命令で伊吹と初音で弾道ミサイル迎撃(BMD)モードが起動していた。他の2隻は周囲の警戒を実施している。

「スタンダーⅢ、発射用意」

「りょ、了解!スタンダードⅢ、スタンバイ!」

砲雷長は焦りながらもスタンダーⅢ型Cの発射準備に取り掛かっている。

「弾数は?」

「伊吹は8発、初音は4発だ」

「了解!スタンダードⅢ、弾数8発!」

「こちら伊吹、初音はスタンダードⅢを4発発射せよ」

『こちら初音、作業は既に終わってる』

スタンダーⅢこと60式弾道弾迎撃ミサイルは帝国のBMD構想の1つである洋上艦等のプラットフォームからの弾道弾迎撃ミサイルによる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃するために開発された超高高度迎撃ミサイルである。銀河システムとアイアースシステムに組み込まれているBMDソフトウェアを搭載した対応艦のみに発射が可能なミサイルだ。派遣艦隊には伊吹と初音の他に羽黒、青葉、矢矧、川内、時雨がBMD対応艦である。中でも羽黒と青葉は防空戦闘に特化した軍艦でありスタンダードⅢの最大発射数も他艦より多い12発の発射を可能している。しかし、国防軍内では隕石などの重量物に対しては大口径迎撃レールガンか弾道ミサイル改造迎撃ミサイルによる迎撃が基本とされている。スタンダードⅢはあくまで弾道ミサイル迎撃を想定したミサイルと言う位置づけなのだ。命中率に関しては申し分ないが隕石を破壊できるかが懸念材料となっている。

『司令、隕石を迎撃するつもりですか!?』

伊吹の副長が無線越しで蕪木に思ったことをぶつける。

それに対して蕪木は無言で肯定する。

「君も知ってるはずだ。我々には今7隻のBMD対応艦が手元にある。7隻から発射されるスタンダードⅢの数は合計で44発。完全に破壊できなかったとしても、我々が完全に消滅する可能性は低くなる。私はそれに賭けている」

『...司令はギャンブラーですかな?』

副長からの問いに蕪木は苦笑する。

「そうかもしれんな...主砲全門、最大仰角で落下する隕石に向けろ。全門、交互斉射にて砲撃。弾種徹甲榴弾を装填。羽黒、青葉もだ」

「了解!」

伊吹の前部2基、後部1基に配置されている31cm3連装電磁投射砲が重い音を立て少しはやく旋回し主砲の最大仰角である75度で隕石に向けた。

「隕石が破砕したら隕石片に照準を合わせろ。攻撃モードは自動モードに切り替え」

31cm3連装電磁投射砲各砲塔にの弾薬庫からエレベーター式の揚弾機に9発の90式徹甲榴弾が載せられ各門に装填されていき閉鎖機が閉められる。

「徹甲榴弾装填よし!」

「99式、発射用意よし!」

伊吹は全ての迎撃体制を整え、あとは発射するだけだ。

「発射せよ!」

蕪木は伊吹を初めて目にした時の記憶が蘇った。進水する前の命名式でのことだった。

『伊吹か』

『これまた不運な名前が付いたな』

『日米大戦が開戦してすぐに沈没した船の名とはね...」

伊吹の名の由来は、滋賀県と岐阜県に跨る伊吹山地の主峰である伊吹山から、鳥海級重巡洋艦番艦8番艦伊吹と同名である。

日米大戦が開戦してすぐに中ノ鳥島方面艦隊所属の伊吹含めた4隻の哨戒艦隊が旧アメリカ海軍中ノ鳥島攻略艦隊と接敵しアイオワ級戦艦4隻による一方的な艦砲射撃で伊吹を含む哨戒艦隊は全艦沈没し1300名の海軍将兵を失った。開戦してから弾や魚雷を1発も撃てずに生涯を終えた悲劇の船である。時が経ち人類と地球外知的生命体との戦争“太陽系防衛戦争”で航宙艦隊の迎撃を掻い潜り地球に侵攻してきた上陸艦隊を迎撃する、バトル・オブ・アースで防衛戦をを掻い掻い潜った揚陸艇に対して伊吹が全ての兵装を用いて全力で迎撃するも完全に破壊できず、中ノ鳥島市街地内の避難所に墜落し避難していた一般市民300名が死亡、1200名が負傷した中ノ鳥島の悲劇を起こすことになる。

そのせいで海軍内部では“死神に魅入られた軍艦”と言われ煙たがられていた。

この船への転属が決まった時、蕪木は不思議な運命を感じた

彼は物言わぬ鋼鉄の塊を、まるで神にすがるように信じた。

「発射ぁーっ!」

砲雷長が叫ぶ。

この艦だけではなく、この世界に居る全ての命をかけた戦いだ。

 

 

派遣艦隊臨時旗艦羽黒

「隕石...か」

「それも国防軍の最新鋭戦略N2弾頭に匹敵するとのことです」

「白旗あげますか?」

「なーに言ってんのよアンタは」

「艦長、伊吹からBMDモード起動の命令が出ました」

「わかった。BMD対応艦はBMDモードを起動せよ!それ以外は対空・対水上・対潜警戒を厳とせよ!全艦隊、戦闘配置!」

伊吹の代役として臨時旗艦を任された羽黒では艦長の森脇美代が凛とした声で戦闘配置の命令が下った。

「青葉、矢矧、川内、時雨BMDモードの起動を確認!」

「目標高度、現在200km。本艦の迎撃範囲内に入ってます」

「艦長、弾数は?」

「本艦と青葉が12発、矢矧と川内と時雨は各艦4発とします!」

『こちら青葉、既にやってますよ』

『矢矧以下も同じく。鬼の森脇殿のおかげですね』

各艦の艦長は森脇に対して軽口を叩いていた。それは仲の良い先輩後輩のようだった。

「全く、アンタらは...」

「艦長、スタンダードⅢの発射準備完了しました!」

「青葉、矢矧、川内、時雨もです!」

「伊吹から電磁投射砲の射撃準備の命令が来ました!」

「青葉にも通達。主砲全門、砲は最大仰角にせよ!砲撃は羽黒と青葉との交互斉射!徹甲榴弾を装填!」

「こいつの力が発揮されるのか...」

羽黒と青葉は“主力艦隊の艦隊防空のリーダー”をコンセプトに建造された摩耶級防空重ミサイル巡洋艦の姉妹艦である。搭載されている銀河システムも迎撃能力は他の銀河システムを圧倒する性能である。他に主砲である20.3cm単装電磁投射砲は毎分12発、射程距離400km、高度200kmの対空目標の迎撃を可能としVLSに搭載している対空ミサイルの6割が艦隊防空ミサイルを占めている。その高い防空能力から“防空番長”や“防空組組長”と呼ばれている。

「攻撃モードは自動に切り替え!」

「徹甲榴弾装填完了!」

「全艦、スタンダードⅢ発射用意よし!」

羽黒でも全ての準備が整った。あとは神に祈るだけだ。

「今一度、ここに居る全ての生物の命と未来、貴方に託すわ」

森脇は目をそっと閉じ無機質な灰色の鋼鉄の塊に願いを込めた。

「伊吹から迎撃開始の合図来ました!」

それを聞き閉じていた目がカッと開く。

「スタンダードⅢ、発射!」

「発射っ!!」

破滅の神に抗う力が解き放たれた。

 

 

 

伊吹の艦橋前部に配置されているVLSが開きスタンダードⅢが空へと飛び立っていく。

初音でも、ひな壇式の前部甲板に配置されているVLSが開きスタンダードⅢが飛び立っていく。

数は12発。すぐに音速の壁を超え空を駆け上がる。

水平線の彼方からも羽黒、青葉、矢矧、川内、時雨が発射した計32発のスタンダードⅢが白い線を引きながら空を駆け上がった。

「スタンダードⅢの発射を確認、目標到達まで二百十(フタヒャクジュウ)秒!」

「スタンダードⅢ第一段をパージ!」

スタンダードⅢは打ち上げブースター用の初段、巡航用の第二段、キネティック弾頭の三段で構成されている。射程距離500km、上昇高度400km。宇宙空間まで届く性能だ。

レーダースクリーンに44発の迎撃ミサイルと迫り来る隕石の双方が表示されていた。

「第二段ロケット切り離し!弾頭保護カバー(ノーズコーン)、解放!全基、キネティック弾頭起動しました!」

第三段のキネティック弾頭は、目標到達の30秒前に巡航用の第二段を切り離し起動する。弾頭内に内蔵されている高精度シーカーは相手の赤外線を探知し、確実に迎撃できるようにコースを微調整している。

あと30秒後に全てが決まる。

「迎撃10秒前!」

射撃管制員は緊張した面持ちで報告した。

スクリーン上に映し出されている二つは重なる寸前だった。

「5、4、3、2、スタンバイ!」

蕪木達の、この国に居る数千数万、数百万人の運命を決する瞬間が。

「「「「━━━迎撃、今(マーク・インターセプター)!!」」」」

各艦の射撃管制員の叫び声と同時に空が光った。

 

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