ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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今更ですが、ブックマーク、評価ありがとうございます。
一応、1巻の物語としてはこれで終わりです。



平和の風

「お招きいただき、ありがとうございます。ハーミエア陛下」

海軍の純白な制服に身を包んだ蕪木が玉座の前で敬礼した。

100人を超える女官や文官達が恭しく頭を垂れ、儀仗隊が、異世界からやってきた軍隊の将軍に対して高らかに栄誉礼を捧げる。華やかな鐘の音が城に響いていた。

蕪木は目の前にいる女王があまりにも幼いことに少し戸惑っていた。

「なあに、逆に申し訳ないと思っておるわ。こんな簡素な式しかやれぬでの」

蕪木の隣にいた加藤が苦笑する。

これで簡素なら、盛大に行ったらどう言う光景になるのだろうか。出席した陸海・海兵隊の将校は、女王の言葉に目を丸くした。

「戦後ですからね。仕方ありませんよ」

加藤がそう言うと、ハミエーアはやや表情を曇らせた。

王都守備隊の壊滅、小隕石落下の爪痕。この国にはまだまだ苦難が続くことだろう。

「そうじゃの…じゃが生き残った者がいつまでも沈んでいたのでは誰も浮かばれぬ。ささやかじゃが、今日は晴れやかな気持ちで生きていられる今を祝うぞ」

「そうですな」

蕪木達国防軍将校は“戦勝式典”の賓客として招かれていた。

式典においてハミエーアは義勇軍として戦った国防軍兵士達に対して最大級のもてなしを約束した。勲章の授与なども予定している。国防軍からもスーパーホーネット4機、トムキャット4機、ホークアイ1機の祝賀飛行も予定している。

だが、国防軍兵士達にとって最も重要な関心事は、やはり元の世界に帰還できるかどうかだ。

式典パーティーが始まると蕪木はそのことについて改めてハミエーアに尋ねた。

「ふむ….それなんじゃがのう…」

蕪木の問いに彼女は少し困った表情を見せる。

「手立てがないわけじゃないのじゃ。しかしの、我が国だけではカブラギ殿らを元の世界に返してやることは難しくてのう」

「そりゃあ一体どう言うことなんです?」

「うむ、あれから調べてみたのじゃが、お主達をここへ召喚した魔法はのう、あの“流星落とし”同様に古代有翼人文明の遺産によるものじゃと思う」

「あの翼の生えた少女が…」

加藤は、この世界に来る前、士官室に現れた少女のことを思い出しているようだ。

「じゃから、古代有翼人文明発祥の地として、その多くの遺産を保有しておる国の協力が必要なんじゃ」

「それじゃやあ、その国にすぐに協力を要請しましょうよ!遠い国なんですか?」

「…遠いのう、確かに」

蕪木が笑った。

「大丈夫ですよ。空飛ぶ乗り物もありますし」

加藤も楽観的に彼女に言う。

「そうそう内陸すぎてヘリが無理なら、車輌を出してもいいですから。どこなんですか?その国」

「遠く、この海の向こうじゃ…」

彼女はテラスの向こうに広がる海原を見つめ、彼らに残酷とも言える事実を伝えた。

「━━━古代有翼人文明の発祥の地は、今はフィルボルグ継承帝国の帝都じゃ」

今、何と言った?

将校達が顔を見合わせる。

ややあって、ハーミエアが口にしたことと、その意味を理解した。

この国に攻め込んだ国。自分達がミサイルや砲弾を舞い、銃弾の雨を浴びせてしまった国。

この世界の常識で言えば、もはや歩みよりなど望めない状態になってしまった相手。

「すまぬ、カブラギ殿。仕方なかったんじゃ…」

ハーミエアは目を伏せた。

彼女は全てを分かっていた。嘘をついてはいない。ただ、教えなかっただけである。

いっそ嘘だったら、素直に彼女を非難することができただろうに、と蕪木は思った。

彼らは既に、この世界の混乱から抜け出ることができなくなっていた。

重い空気が場を支配した。

だが突然、加藤が明るい表情でその場の沈黙を破った。

「…どうするかは、まあ後にしましょうよ!全く打つ手なしと決めるにはまだ早い」

ハッとした表情で蕪木は加藤を見た。

飄々として掴みどころのない、いつも通りの加藤がニッコリ笑っていた。

「今は、祝いましょう!」

そう言ってグラスを掲げて見せた。

 

 

王城で式典が開かれている頃━━━

戦火で徹底的に破壊された街で復興作業が始まっていた。復興支援の名目で国防陸軍と国防海兵隊が派遣されていた。

特に災害派遣が多い葦原管区出身の国防軍兵士も乗り気なので、2000人規模の部隊が上陸し展開していた。

街では工兵部隊の重機と各兵科の兵士の人力で瓦礫を撤去し、負傷者を治療する野戦病院が展開し、あるところでは野外炊具車で炊き出し作業をしていた。。

その中で久世小隊は炊き出しをしていた。

「あれ?」

三角巾を頭に巻き、エプロンを着た久世は誰かに呼ばれたような気がし周囲を見渡す。そこに1人の女性が立っていた。

「久しぶり、と言うほどではないな、クゼ殿。それにしても、これは一体?」

その女性━━━カルダが見慣れない機械をしげしげと観察する。

「ああ、どうも。これですか?炊き出し作業をやってましてね」

今の彼らの任務は救国の英雄から災害派遣の炊き出しへと変わっていた。

こうして作られた食事は、家を失った被災者などに配給していた。

その献身的な態度は、少しずつこの国の人々にも受け入れられるようになった。

だが、見たこともない魔法を使う得体の知れない外国人、と言う認識がまだまだ強く、今彼らの周囲には人気がなかった。

国防軍はマリースアに3つの活動拠点を構築し展開している。

1つは揚陸艦や輸送艦から地上部隊を揚陸させる浜辺に、2つは都市の中央部にある公園に、3つは守備隊の駐屯地だった跡に野戦病院が展開している。

久世達が展開しているのは都市の中央部にある公園だった。

すぐそばに、リュミが働いている教会の鐘楼が見える。

以前は、緑豊かで市民達の憩いの場であったはずの場所である。だが、帝国兵に荒らされ現在は見る影もない。

多くの市民が復興に向けて歩み始めた。彼らの立ち止まらない力強さに純粋に国防軍兵士達は感心する。

「リュミさんにも協力してもらいましてね、戦争が原因で食糧の供給が滞っているようなんで、市民の皆さんには我々が繋ぎで食事を作っているんです」

「相変わらず、地味な仕事が好きな騎士なのだな、貴公は」

「まあ、戦争より災害派遣の方が多いですからね」

この国のを照らす陽気に汗を拭い、彼は腰の水筒から水分を補給した。

「あれ、カルダさん、その服…」

今の彼女は、黒い軍服姿ではなく白いノースリーブのドレス…一見するとチャイナドレスに似ている服を身につけている。スリットからは彼女の長く程よい肉付きの美脚がのぞいていた。

軽装の胸当てがなければ夜会に出るようなレディだった。

「うむ、もう喪に服さなくてもいいと思ってな」

彼女はそれだけ言うと空を見上げた。小鳥がさえずりながら飛んでいる。

「…自分は、愛している人を亡くしたことはありませんけど」

「ああ」

「もし自分が死んだら、愛する人には幸せになってほしい」

水筒を腰に戻しながら彼は苦笑して付け加えた。

「まあ、たまに思い出して欲しいと願うんじゃないかと思いますけどね」

「忘れないさ…」

「でしょうね」

「でも、あの人を言い訳にして前へ進まないのは卑怯だと思った」

久世は彼女の顔を見つめた。

「…で、その、どうなのだ?」

「え…?」

「に、似合うかな…?舶来品らしいのだが」

久世は思わずポカンとしてしまう。

彼女からそんな言葉が出るとは想像すらしてなかった。

「え、ええ。すごく似合ってますよ」

「そ、そうか!?本当に?」

「は、はい。本当に」

どうやら彼女は嬉しかったらしい。同時に気恥ずかしかったようで俯いてしまった。

カルダにどう声をかけようかと悩んでいた久世は、ふと背後から気配を感じた。

見ると、久世の部下達がニヤニヤしながらこちらを見ている。中には双眼鏡を手にしている者までいた。

「こらぁ!持ち場に戻れぇ!市之瀬ぇ!てめぇ双眼鏡まで持ち出してんじゃねぇぞ!」

「…つ、つまらん話をした、本題に入ろう」

「これは?」

差し出された羊皮紙を見つめる。しかし羊皮紙に書かれている文字が読めなかった。この世界へ召喚される時に備わったのは会話能力だけらしい。

「女王陛下からの直々の勲章授与の通達だ。名誉なことだぞ、クゼ殿」

カルダが目を細めた。

「そのために迎えに馳せ参じた次第だ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、せめたエプロンぐらいは外していかなきゃ…」

慌てて身支度を始める彼の手を、カルダは握りしめた。

「ちょ、ま!」

「待ってられんな!他でもない、君たちへの勲章なのだぞ!」

「あわわわわ…」

彼女に連れられ、アルゲンタビスの休んでいる場所へ行くと、そこにはもう1人の少女が立っていた。

紺と純白の神官服を着た髪の長い少女。

彼女は、久世の姿を認めると、パッと表情を輝かせた。

「お待ちしておりましたわ、クゼ様!」

「リュミちゃんまで!?」

「ええ、お陰様で。今日は陛下から勲章を賜ると言うお話でしたので、いても立ってもいられずに、カルダ様とご一緒させてもらいました」

リュミは「さあさあ、こちらへ」と恭しく彼をアルゲンタビスの鞍に乗せる。

「あ、え、ちょ、ちょっと待って」

久世は慌てて掴むところを探す。

すると、カルダが軽やかな身のこなしで鳥の首の付け根辺りに飛び乗った。

「よし!行くぞ!」

彼女が額のゴーグルをおろし手綱を握って叫ぶ。

力強く、身を起こし、地面を疾走する。

「のうわぁあああああ!?」

鳥に乗る経験などしたことがない久世は荒々しく地面を飛び立つ鳥の上で悲鳴をあげた。

情けない声が、南国の青い空へと吸い込まれていく。

涼やかな平和の風が、彼らを包んでいた。

 

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