ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
内地軍の包囲であらゆる支援活動が中止になった陸軍・海兵隊の両部隊の兵士は隙を持て余していた。内地軍の動向に警戒する歩哨と警戒要員や車輌を整備する兵士や司令部要員を除き、ほとんどの兵士は別名あるまで待機とのことで持ち込んでいたゲーム機でゲームをしたり、携帯テレビでダウンロードしていた映画やアニメを鑑賞したり、スマホにダウンロードしていた音楽を聴きながら本を読んでいたりしていた。
寝袋に入って寝ていた市之瀬もその内の1人だ。夢の中に入り込んでいた彼に誰かに起こされた。
彼の上官である久世だった。
どうやら現状を打開するために情報収集と現地住民の協力者確保の少数偵察任務で市之瀬が選ばれたようだ。
「まぁた俺っすか?」
「悪いね、今回の偵察で君が適任だと思ってね。君以外にも西本伍長と東二等兵も任務に着くから」
市之瀬の狙撃の腕、実戦で見せた爆発的な行動力を買われたのだ。
今回の任務ではベテランの部下よりも柔軟な適応能力を持つ人材の方が向いているからだ。
西本伍長と東二等兵に関しては例外で衛生資格を持ってる事、現地住民の警戒心を和らげて協力者確保を円滑にするために女性兵士である2人が選ばれたのだ。
「じゃあ、明日の〇七三〇に集合。質問等は?」
「なし…」
「寝てるところ悪かったね。休んでてくれ」
久世は市之瀬の寝ていた天幕を後にし司令部となっている天幕に戻った。
明日の予定を入力したタブレットのファイルを開き確認した。
部隊は4人編成、移動手段は車輌、武装は機関銃までの携行なら可。ただし厳格な管理の元、威圧感を与える行為は厳禁。都市の東西南北を巡察し可能な限り情報を収集。トラブルが起きた際の証拠資料確保のための小型カメラの携行と車輌各所へのカメラの設置。
「行き当たりばったりの観光みたいだな」
後は板井中隊長や土居准将、各兵科の大尉にサインを入力するのを済ませ準備をするだけだ。
「あとは、あの人の協力を得れたらな」
翌朝、教会の炊事場に近い水汲み場に少女がいた。
深い海色の長髪に白と紺の神官衣を纏ったリュミだ。
彼女は今、陸軍のシンボルマークである桜と陸軍葦原方面管区のシンボルマークである黄色い星が刻印された給食缶を洗っているところだ。
それも大量に、1人で捌ききれないほどに。
前日、最後の配給で配られた使用済みの物で返却するために炊事場に置かれていた。
使用後の給食缶の洗浄も全て陸軍側に任せていた。
これには彼らに対して失礼だと思ったリュミは1人で給食缶を洗っていた。
罪悪感もあった。
陸軍による被災者への給食支援の申し出に教会に協力する様に働きかけたからだ。
純粋な善意と使命感の元だったが当初は教会内部では強い反発が起きていた。
異教徒の作る食べ物を信徒へ配るなど神への冒涜であると…
この話は王都の教区を統括するゲオルド大司祭の耳にまで揺らしながら叫んだ。
『異教徒とは言え、戦後で食糧の供給が心もとない今、食糧を融通してくれるのはありがたい事だ。だが、教会に異教徒へ渡す金など持ち合わせていない!邪悪な異教徒どものことだ。法外な金をふっかけてくるに違いない!』
『大司祭様!それは違います!あの方達は無償で良いと仰ってくれているのです!』
『無償だと!?ダダで異国の人間を助けるとでも言うのか!?何の裏がある?教会に眠る宝物か?文献か何が欲しいんだ!』
「彼らが欲しているのは、救われぬ者達の平穏だけです!私はあの方達を知っています!どうかお任せを!」
リュミの説得に大司祭は最後に折れた。
結果、自分が異界の人々を裏切ったと気づいた時には遅かった。
異界の人々はそれに気づき怒り狂い武器を手にこちらに向かってくるのではないか?
不安、恐怖、後悔など
(私は...命まで救ってもらいながら...!)
彼女はあの戦いの中で異世界の戦士に命を救われた。
黒竜に戦いを挑み討ち倒した勇者を、強大な継承帝国軍を鉄の船と鉄の竜でねじ伏せたのを、神話級の攻撃魔法で滅亡に瀕していたこの国を救った事を。
義に厚く弱者の側に立って戦う彼らの心意気を知っているはずだった。
──国防軍兵士達が場当たり的に戦闘を巻き込まれたこと、全ては国防軍が元の世界に帰還する事を賭けたための行動だった事、国防軍がアフリカに派兵されるため長期間の任務を想定し食糧や医療物資を多めに載せていた事など、様々な要素が重なって今の状況に至る。
彼女はせめてもの償いで必死に給食缶を洗っていた。
白い指先がボロボロになっても構わない。毎日疲れ切った顔で食事を届けにくる彼らの事を思えば苦でもない。
背後に誰かの気配を感じた。
(ファナかしら?)
彼女は振り返りリュミは息を呑んでしまった。
ファナではなく異世界の戦士の服を着た青年…それも知っている顔だった。
「やぁ、おはようございます」
「ひぁっ!?」
リュミは小さな悲鳴を上げてその場に尻餅をついた。
他でもないこの青年に話を持ちかけ、この状況を作り出してしまった。
彼に顔に怒りの色は見えないが異世界の人間の考えている事は不可解なものが多い。
何を意図してここへやってきたのか分からなかった。
「大丈夫ですか?すみません、こんな朝早くに訪ねってしまって…」
「ど、どうして…」
「え?」
「私は…あなたを裏切ってしまうような事をして…」
「まぁ、受けた自分としては手痛い失態でしたけど」
久世は苦笑した。
「君みたいな女の子がやらかした事にいちいちめくじらを立ててちゃ、国防軍人なんざやっとれませんよ。それに王国側でも食糧の補給が流れたりしてリュミちゃんだけの問題じゃないですしね」
久世は照れ隠しに少し強引に彼女の手を引っ張って立ち上がらせた。
「い、いけません!」
「わっ!!」
久世はリュミの必死に拒否反応に驚き後ずさった。
彼女は尼僧で、未婚の男性…特に若い男性と身体を触れ合わせるには禁じられているからだ。
「す、すみません、驚いてしまって…」
「いいんですよ。こちらこそ無遠慮で申し訳ない」
「そ、そうですか?あ、ありがとうございます」
久世の柔和な笑みにホッと息をついた。
とりあえず彼が怒りを訴えにきたのではない事が分かり胸を撫で下ろした。
(そうなると、この方は何のために私の元へ来たのでしょうか?)
「そうだ。ちょっと頼み事がありましてね」
「頼み事?」
(これ、大丈夫かな?未成年略取に問われないかな?)
彼はそれを心配しながら彼女に話を持ちかけていた。
「みんな揃ったか?」
「うーす...」
「はい!」
「全員揃ってます!」
宿営地の外れ、車輌の駐車場で4人の国防軍兵士が集まっていた。
「僕が運転するから、他の者は周囲を警戒してくれ」
「「「了解(!)」」」
「あと、リュミちゃんも同行する事になったからよろしく頼む」
「よ、よろしくお願いしましゅ!」
リュミは緊張感から思わず噛んでしまった。
(噛んじゃったか)
(噛んだな)
(可愛い)
(妹にしたい)
「気を取り直して行こうか」
「はい...」
久世達は武器や調査に必要な機材を手に持ち今回乗る車輌の元へ足を運んだ。
「これだ」
「60式8型ですか...」
「てっきり
「エムラップは、大柄すぎて威圧感を与えてしまうし、LAVは乗員数的にギリギリだったからな」
60式高機動汎用装輪車8型。
くろがね四起シリーズの1つ95式中型軍用車の後継として開発された60式の海外派兵仕様である。
非装甲型の7型とは違い、対小銃弾対爆風で全周が装甲・防弾化が施され3連装発煙弾発射機を2基搭載している。
今回の派遣では両軍の複数の兵科に60式8型が配備されており、久世達が所属する歩兵科でも戦場での兵員輸送・物資輸送で用いられる。
「荷物載せてってくれ。リュミちゃんはどこに座ってもらおうかな」
「隊長、後ろに座ってもらうのはどうでしょうか?」
久世に提案してきたのは黒髪ロングの眼鏡をかけた東二等兵だ。
住民への警戒心を和らげるため、普段は結んでる髪を下ろしている。
「そうだな、後ろは君と西本伍長が座るし女性同士ならリュミちゃんも安心するから良いだろう」
久世の賛同を得た東はパァとした表情をした。
「わかりました!早速リュミちゃんを乗せますね!」
「くれぐれも変な気を起こすなよ?」
「はい、善処します♪」
久世は先行きが不安になるが、今は彼女の理性を信じるしかなかった。
「それじゃあ、リュミちゃん乗ってくださいな♪」
「あ、あのう...これはどうやって開ければよろしいのでしょうか?」
この世界に自動車は存在しない。
運転席や助手席や後部座席なんて物は分からず、どうやって乗り込むのかさえ知らない。
東がどうするべきかと焦ってる中、市之瀬が気を利かせて後部座席のドアを開けて座るように促した。
「はい、ここ座って」
「ありがとうございます、イチノセ様」
「い、い、市之瀬ちゃんありがとう〜」
「別にいいよこれぐらい...って、何どさくさに紛れて抱きつこうとしてんだ!離れろ!」
「ブゲラッ!?」
東は涙目になりながら市之瀬に感謝しながら抱きつこうとしていたのを市之瀬が顔面に蹴りを入れていた。
彼女はリュミのような幼い子や市之瀬のような童顔の人物が好きな女性兵士だ。彼女は時たま暴走することがあるが先程のケースはまだ序の口。最高潮に達すると自分が作った衣装を市之瀬に着させようとして数人がかりでないと暴走が止めれないからだ。過去に駐屯地祭で自作のメイド服を市之瀬に着させようとした前科があった。
少々、話を長くして申し訳ない。作者も暴走してしまったので許して欲しい。
リュミは市之瀬とも王城防衛戦で出会っていたため面識があるり、知り合いに頼んだのもこちらの都合だ。
リュミも自分に役立つことがあればと快く引き受けてくれた。
(彼女、悪い奴に利用されやすそうなタイプだな...)
「久世少尉、荷物の積み込み終わりました」
「分かった。さてと出発するか」
久世はキーを回し60式8型の水冷V型8気筒ディーゼルエンジンに点火。爆発音の後に軽快なエンジン音と振動を奏でていた。
バックミラー越しに突然の音と振動に驚いた彼女が確認できた。
「きゃっ!?う、動いた?」
次に60式8型が前に動き出し、彼女は目を白黒させて周囲を見渡した。
「引く馬も陸鳥もいないのに動いた?」
「先ずは内地軍の検問を突破するか」
彼女を連れてきたのは内地軍の検問を突破するためだ。
彼女は光母教会の関係者。この国で1番信仰されている宗教の関係者なら詮索も受けずに突破できるはずだ。
60式8型は宿営地の出入口に辿り着いた。そこには内地軍の動向に警戒している国防軍兵士数名が銃と治安維持装備であるテーザー銃を持っていた。それだけではない。地面に銃架で設置された重機関銃や多銃身機関銃、車載機関銃を搭載した60式8型やLAV、昨日まではなかった海兵隊の80式装輪戦車までが鎮座していた。いつでも撃てるように弾が装填されている状態で。
「て、鉄の像...」
リュミは初めて見る装輪戦車の事をそう呼んでいた。
国防陸軍兵士に止まれを意味するハンドサインを確認した久世はそれに応じるように60式8型を停車させた。
「現状打開のための情報収集と現地住民協力者確保の任務で宿営地を出る」
「久世少尉でありましたか。分かりました、話は聞いております。どうか気をつけて行ってください」
「ありがとう」
すると80式装輪戦車の砲塔のキューポラから上半身を出していた車長らしき海兵隊隊員が久世に声をかけた
「久世少尉!気をつけて行ってこいよ!内地野郎共に酷い目にあったら俺たち海兵隊が奴らを蹴散らすからよ!」
「協力感謝します!でも、そんな事態に陥るのは正直御免です!」
「はははっ!違ぇねぇ!」
内地軍の動向を警戒にあたっていた両軍兵士から見送られながら久世達が60式8型が進み出した。
20m程進んだ所で件の検問所にぶち当たる。
「と、とまれ!」
中世の騎士を思わせる甲冑を着込んだ内地軍の兵士達が殺気を立たせて睨みつけ、長槍や剣をこちらに向けていた。兵士達の後ろには
(そろそろ戦車を引っ張ってきてもおかしくないなこれ)
久世はそう考えながら東にリュミが座る後部座席の窓を開けるように指示した。
「ご苦労様です」
「なっ!?神官殿、なぜ此奴らの乗り物に!?」
内地軍の将校らしき男の顔に戸惑いの色が浮かんでいた。
リュミは柔和な笑みで話しかける。
「こちらの方々が沖合に停泊している巨大船に帰ると言うので、私が責任をもって港まで道案内を」
内地軍の末端の兵士に、国防軍の復興支援活動で市民を手助けしている事を把握していない。
その逆手を取ろうと久世とリュミは示し合わせていた。
「なんと!貴女のような乙女が此奴らの監視を!?」
「とんでもありません。聖職者としての義務です」
リュミは自分の身分を利用しているのに内心ヒヤヒヤしていたが平静を装う。
「それならば、我が軍からも1人同行させましょう。騎士として、乙女1人を蛮族の中に置いておく事などできません」
信用がありすぎるのも考えものだった。
蛮族と言われた事に気が触れたのか、後ろの東と西本がゴミを見るような目で内地軍の兵士を睨んでいた。
「私は前の戦いで王城に立て籠った神官戦士の端くれ。戦友は皆ヴァルハルへ旅立ちました。私の戦士としての力量に疑問をお持ちだと?」
リュミの普段見せない鋭い表情と口調で内地軍尾騎士を睨んでいた。
聖職者の不興を買うのは神への不興を買うのと等しく、それが自分より歳下の少女に対してでもだ。
「と、とんでもありませぬ!」
「貴官には貴官に与えられし任がある。私への助力は不要にございます」
(今です!)
リュミの目配せを見た久世は、相手が怯んだ隙を突きアクセルを踏み検問所を突破しようとする。
槍や剣を手にした兵士達が悲鳴を上げて向かってくる60式8型から飛び退いた。
「何とかなった」
「リュミちゃんすげーよ!俺より歳下とか信じられねー」
「リュミちゃんカッコよかったよ!」
「あわわわ…私、何てことをしてしまったのかしら...」
市之瀬と東から褒められながらリュミは目を丸くしながら青い顔をしている。
「2人ともそこまでにしとけよ…すみません、何かあったら責任を取りますので」
久世は市之瀬と東に注意しながらリュミに謝罪をしている。
「久世少尉、ここ最近責任取らされてばっかりで大変ですね。心中お察しします」
「ありがとう西本伍長。遠征部隊に入るぐらいだったら地域配備型師団の配属願いを出すべきだったよ」
久世は自分の運命に呪いながら異世界の街へ進入していった。
「久世少尉の偵察班、状況に入りました!」
通信兵からの偵察班の潜入成功の吉報を聞いた司令部となっている天幕では両軍の将校達が安堵した表情をしていた。
「包囲を突破できるとは、おめぇの部下なようだな」
土居は眼鏡をかけ手にした軍用タブレットをスクロールしていた。
「彼は、前回の王城での戦いで最悪な状況下でも、常に人として最良だと思われる判断をしました」
板井は隣にに座る土居に対してそう答えた。
「人としてか...軍人としての最良な判断ではなくか?」
「その通りです」
「土居准将の目には彼がどう映ります?」
「無難な国防軍人として歩もうとしている若者に見える。努力家だとは何度も耳にしたことはあるが、悪くは思ってない」
土居の答えに板井が珍しく含みのない純粋な笑みを浮かべた。
「私もそう思ってました」
「違うのか?」
「ええ、国防大学校時代から彼を見ていて、わかったことがあります」
「何だ?」
目を伏せていた彼女が目を細めに開き語った。
「彼の行動には確かな確信があります。ですが、彼自身がその事にまだほとんど気づいていません」
「ほぅ」
「自分自身が把握しきれてない信念であっても、誰かのために命を賭けることに躊躇いがない。彼はそんな男です」
土居は感心し軍用タブレットを脇へ置き眉間に皺を寄せて口を開いた。
「だが、奴は国防大学校卒業前に任官拒否を考えてたそうだが?」
「はい、それも間違いではありません」
捉えようによっては汚点になりかねない久世の過去を隠さなかった。
「“軍人になって、本当に誰かを守ることができるのだろうか”──彼はその時、私にそう言いました」
「青いな」
「はい。だから私は彼が羨ましかった」
土居の目に彼女がどこか悔しげな思いを浮かべているように見えた。
「お前は青くなかったのか?」
「彼ほど、本気で誰かを守ろうと気概を持った男を私は知りません。それに私は、国防軍は国家の主権と帝国臣民を守る組織であって、“誰か”と言う人間を守る組織だとは思ってません」
土居はこれまでの彼女の評判を聞いていた。自分の目でその行動を見ているため彼女が冷めた感情を持っていることに納得していた。
「──だから、彼は信頼できます」
やはり彼女の顔にはほんの一瞬で悲しげな陰が過ぎる。
「上等、と言いたいところだが」
「使命感や正義感がない方が幸せな時もある。特に俺達国防軍がな」
「それは土居准将の経験ですか?」
「まぁな」
土居は胸ポケットをまさぐりライターとタバコを取り出した。
タバコは派兵前に大量に買い込んだが、あとどれぐらい保つか分からない。だが、この世界のタバコを吸うのも悪くは無い。
「久世とか言う若造のことはよくわかった。吸うか?」
「遠慮しておきます。それに屋内禁煙です」
土居は愉快そうに笑い、分かってると言いながらな外に出ようとしていた。
「ああ、そうだ。久世に言っておけ。何かあったら今回だけはケツを拭いてやる。貴様がそこまで評価する若造ならしょうがねぇ。遠慮せず思いっきりやってこい。伝えておけ」
原作での土居一佐のその後ってどうなったんだろう。