ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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疾走1

「ねえねえ、この乗り物って生き物じゃなさそうだけどさぁ、休ませなくて大丈夫なの?」

「軽油をたっぷり入れてきたんで大丈夫ですよ」

「軽油って何?」

「この乗り物を動かす原動力の事ですよ」

「そのケイユって言うのは、マナか何かの一種なの?」

「そのマナって言うのが何なのか、分からないんですが…」

 

後部座席に座るエルフ美少女──ルーが雨のように質問を浴びせかけてくる。

 

高機動車であてもなく走る。

おそらく内地軍は、広場の騒動に国防軍が関与したとして宿営地周辺の警備を更に強化してるはずだ。

あの攻城兵器も増強してるはずだ。

 

情報収集を取りやめて帰還するのも難しい。

今度検問にぶち当たったらリュミの説得も厳しくなる。

 

いや、もしかしたら海兵隊に要請したら宿営地までエスコートしてくれそうだが、街の一角を吹き飛ばしそうな予感しかしない。

久世としてはそれを避けたい。

 

「…どうやって帰ろう」

「なんか、もう情報収集とか言うレベルの話じゃなくてきたっすね」

市之瀬が外の景色を眺めながら時折写真を撮影していた。

久世はとりあえず宿営地に連絡を取ろうと 無線機の使用を考え電波の届きそうなところをリュミに尋ねる。

 

「リュミちゃん、この辺で少し高台のか開けた場所ってないですかね?内地軍がいないような場所とか」

「開けた場所で内地軍がいない場所ですか…?」

 

「そうですね、ここからだと商工ギルドが集中している“人魚の泉”広場が良いかもしれません」

「そこに内地軍はいない?」

「商人は客以外の軍人を嫌います。それに、マリースアの商人は内陸部の都市国家出身者が多いので独立心が強く、基本的に商人の区画は自治区画化しているんです」

「商人には商人のシマがあるってことか…」

 

利権などが絡んでいそうだし、商人=金や儲け話に目がないイメージがある。

聖職者にさえ騙されている自分達は首を突っ込まない方が良い。

 

「それに戦争のせいで商人が軒並み逃げ出していて、あまり人気がないですし」

「じゃあ、決まりだ。そこに行きましょう」

無駄に走って燃料を浪費せずに済む。

 

「東、聞いての通り、そこに向かうぞ」

「了解しました。ではリュミちゃん、道案内お願いしますね」

「あ、はい。そこの角を右です。あ、その路地に入ってください」

リュミが運転する東に道を指示していく。東は慌ただしくハンドルをキリながらボヤく。

 

「そこのタブレットのナビアプリが使えたらな」

「GPS衛星も情報偵察衛星も使えないから仕方ない」

「ねえねえ、ジーピーエスエイセイとジョウホウテイサツエイセイってなあに?」

(ああ、もう面倒臭い!)

 

そもそもルーの乗車を許可した覚えはない。彼女はここにいるのが当然と言った様子で座っている。

自分のような人間からは想像できないくらいに図太い性格の持ち主だ。

 

「久世少尉!この傭兵、若い男の子ですよ!しかも、女の子みたいな顔立ちで可愛い!」

西本からの声で後ろを振り向いた。

 

そこには目を隠すほど伸び切った髪を上げ、全身を覆っていたローブを脱がせた傭兵の姿が見えた。

顔は女の子のような顔立ちで華奢な肢体を露わにした。

肌は褐色肌で服はボロボロだが元が肌を隠す服だったことがわかる。

 

「あれま…」

「本当に男?」

市之瀬の疑問に少年は頷く。

 

「え、可愛い男の子だって!?見たい見たい!」

運転している東が強く反応して必死に見ようとしてきた。

 

「東、お前は運転しろ!後でたっぷり見せてやる!」

「この変態!前見て運転しろ!」

 

 


彼女は街の中心地に程近い高い建物にいた。

ローブをすっぽり被ってるのは他者から顔を隠すためだ。

 

彼女は商工ギルドの建物の上から“目標”である鐘楼を見つめる。

 

1人でやれるのか?

彼女は心に湧いた不安を慌てて打ち消した。

失敗…自分の死と部族の死を意味する。

 

(弱気になってはダメ…)

 

大きく深呼吸し懐の中から“巻物”を取り出した。

 

未熟とは言え族長の娘である自分の魔力は並の人間の魔導師よりも強い魔力を備えている。

 

(父様…母様…私に力を…)

 

祈ること自体、恥ずべき弱さだと理解しているが、1人でいることが心細く、恐ろしいものだとは思わなかった。

部族再興のため、家族の命のため、自分はやり遂げなければならない。

 

「まずは陽動からです」

 

彼女は巻物に書かれている古代語を目に通し魔力を集中し呪文を唱える。

地面に向かって巻物を放り投げ、淡く発光しながら落ちていく。

 

「エメス!」

 

 


爆音と地響きが起き、巻き上がった土煙が高機動車の行手を遮る。

 

「きゃあっ!?」

 

甲高いブレーキ音が響き、ハンドルを無理矢理切り発生した遠心力でシートベルトをしていない者がひっくり返る。

 

「な、何が起きたんだ?東二等兵!」

「いえ、分かりません!爆音と土煙が起きて...」

「奇襲か!?内地軍め、俺達を指名手配でもしたのか?」

「それにしてもやりすぎっスよ!?」

「攻城兵器を向けたり、矢を撃ってくるような連中よ?アイツらならやりかねないわ」

 

土煙を避け広場の端に停車した。

 

「...いいや、違うわ」

 

広場の中に“それ”が現れた。

 

「石造!?」

 

全高20m近くある人型の石造だった。 

広場の石畳と同じ灰色。顔らしき部位には目鼻らしきものが見当たらない。体型も流麗な人間タイプではなく、無骨な重機タイプだ。例えるなら空間騎兵隊で採用されている10式陸戦型歩行戦闘車のようだ。

 

何故そんな物が突如として現れたのか皆目見当もつかなかった。

 

答えは──そのヒントを与えてくれるのはこの世界の人間だ。

 

振り返り、エルフ女の“ルー”と目が合った。

彼女が勝ち誇ったかのような表情を見せていた。

 

「助けが必要かしらん?異世界から来た勇者サマ」

 

 


「あれは一体?」

 

彼女は石造の足元を走り抜けていった謎の物体に目を丸くした。

追っ手ではないようだ。進路上で突然生成されたゴーレムを避けようとしていたからだ。

あの奇妙な緑色の鉄の箱は馬や陸鳥が引いていないのに動いていたことに不思議に思った。

 

(人が乗っている?)

 

あれの正体が何であれ、目の前にある物は全て障壁であり敵だ。自分にとっては味方でなはい。

 

「命令します。この街を蹂躙すること」

 

ヴン、と口なき口でゴーレムは応えた。

 

「壊してもいいけれど...でも、殺してはダメ」

 

ヴヴン

 

「あとは、そうですね」

一刻も争うと言うのに自分に中で迷いが生じてしまう。

 

「攻撃してくる者に優先して向かうこと。怪我させても良いけど、命は奪ってはいけません。分かりましたか?」

 

ヴーン...

 

ゴーレムはその命令の遂行が困難だと言わんばかりに唸った。それでも主の命令であれば異を唱えたり不服を態度で表したりはしない。

 

「良い子。ごめんなさい。私はあなたとはこれきりで一緒に居てあげられないんです」

 

ブゥン

 

「そうですね。手始めに...“あれ”を破壊してください」

 

こちらの姿を見られた以上、ただで返すわけにはいかない

 

「では、後は頼みます」

 

彼女はゴーレムの肩から建物の屋上へ飛び移り、屋根伝いに駆けていく。

視線の先には教会の鐘楼が威光を知らしめるように鎮座していた。

 

 

 

「「「「ゴーレム?」」」」

89式小銃を手にした久世と市之瀬、02式分隊支援火器を手にした西本、ハンドル握った東がルーの説明を聞いていた。

 

「そ。あれって石像は石像だけど、マスターも命令を忠実に守るマジックモンスターよ」

 

「マスターって、あの肩に乗ってる?あ、こっちを指差した」

「そうね。あら、屋根に逃げた」

「誰なんすかね?なんか全身を覆った服を着てましてけど…」

「女の子?」

「ゴーレムですか。錬金術の本で目にしたことがありますが、あれが…」

 

魔法や錬金術、怪しげな単語が出てきたが、今起きていることを目の当たりにし現実感が湧き久世は呆然としていた

 

「魔法って何でもありなんですね」

 

「そーでもないわよ。ゴーレムって忠実な分、融通利かないし、弱点も結構あったりするから、案外弱っちい分類の…」

 

「ま、まずい!?」

東の声と共にギアをバックに入れて急発進した。

 

「うわっ!?」

突然に急発進に久世らは振り飛ばされそうになるが取手を持ち堪えた。

しかし、ルーが額をぶつけて「ぶえっ!?」ちと声を上げる。

さっきまで居た場所にゴーレムの鉄球(モリケーン)にような拳が地面にめり込み地響きと粉塵を上げた。

 

「やっぱり敵なのか!?」

 

東はギアをドライブに入れアクセルを踏み込んだ。

タイヤが甲高く地面にを蹴りゴーレムの脇をすり抜けた。

 

「久世少尉!追いかけてきますよ〜!?」

東は涙目になりながら久世に訴える。

 

「わぁってるよ、んなこたぁっ!」

 

「総員戦闘配置!西本は天蓋から、市之瀬は座席の窓から射撃しろ!」

「「了解!」」

 

久世の命令を受け、鉄帽を被った西本が高機動車の天井の天蓋を開け02式分隊支援火器を10秒間隔で射撃を、西本と同様に市之瀬が左の後部座席の窓からから乗り出し89式小銃で、ゴーレムに向かって射撃を開始した。

6.8mm高速ライフル弾がゴーレムに吸い込まれていく。

しかし、ゴーレムに着弾した弾全てが甲高い音を立て跳ね返す。

 

「リュミちゃん!出来るだけ大きな道で、人気が少ないルートを教えてください!」

「こ、ここからだと...え?良いんですか!?」

 

車酔いをしたリュミが青い顔をしながら応じた。

 

「何がです!?」

「1番広い道で、人気が少ない道って言ったら...」

「言ったら?」

「聖光母公園...皆さんの宿営地へ辿り着くところです!!」

「上出来ですよ!リュミちゃん!東、聞いたな?」

「聞きました!宿営地に向け走らせます!」

 

久世は今度はルーに顔向けた。

ルーも久世が言いたいことは何となく察していた。

 

「ゴーレムって弱っちいんじゃなかったんですか!?」

「いやーあはは...歳を取ると、どうも正確な記憶が出てこなくってねぇ」

「僕とそう変わらん歳で、何を言ってるんですか!」

「え、いや、ほら、アタシってエルフだし...」

「エルフだから何なんです!?」

「アタシ、お兄さんの5倍以上は生きてるけど?」

「ご、5倍!?」

 

 


国防軍が宿営地にしている聖光母公園の折り畳み式のプレハブ小屋で構成された簡易監視塔の見張りの兵士が異変に気づいた。

 

遥向こうの区画で土煙と爆音が起き、巨大な人型の何かが出現した。

 

双眼鏡で確認すると陸軍の60式高機動車が巨大人型物体から逃げているところだ。

巨大人型物体に向けて曳光弾らしき光跡が見えた。

 

街に出ている陸軍車両と言ったら久世少尉の偵察隊だけだ。

 

「こちら、監視塔。12時の方向で久世少尉の偵察隊が巨大人型物体に襲われている。送れ」

 

『こちら、司令部。カメラを回してデータを共有されたし』

 

「こちら、監視塔。了解」

 

監視を担当している部隊がカメラを回し司令部と情報を共有したり、備え付けている分隊支援火器などの銃火器を手に取る。

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