ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
内地軍の迎撃陣地に白と紺を基調にした神官戦士服と軽装の鎧を着込んだ集団が居た。
それは聖光母教会の神官戦士団だ。
聖職者でありながら戦士でもある彼らは、ここに向かっているゴーレムを迎撃するために内地軍と共同戦線を張っていた。
大通りの見通しの良い場所に、内地軍のバリスタやカタパルトを布陣していく。
対ゴーレム戦法であるカタパルトとバリスタの波状攻撃をするためだ。
内地軍が公園に居座る異世界の連中もとい国防軍に警戒して大量の攻城兵器を搬入していたおかげで布陣に手間はかからなかった。
「バリスタ・カタパルトの布陣、完了しました」
「ご苦労」
内地軍の兵卒の報告に鷹揚に頷く1人の神官戦士。
蒼い長髪に白い肌、華奢でしなやかな肢体。聖少女と言われても信じてしまいそうな美青年。
彼の名はレフィティス。
セイロード聖光母教会神官戦士団副団長だ。
彼の美貌は、この都の女性達から絶大な人気を誇っており彼をモチーフにした演劇も途切れることなく演じられる。普段あまり教会に行かない娘達ですら、彼が神の教えを説く際には熱心な信者として足を運ぶ程だ。
「私の合図で一斉に射かけよ」
レフィティスは愛用しているハルバードを片手に内地軍の兵士に命じた。
今回の迎撃はレフィティス指揮の元で行われる。
そのハルバードを持った姿は軍神、戦乙女のような輝きを放っている。
「レフィティス様が来てくださったのね!」
「もう大丈夫だ」
周囲には民衆が期待に満ちた表情で見つめていた。
まるで崇拝に近いような信頼で寄せていた。
(せいぜい、教会での僕の株をあげたまえ、愚民どもが)
彼は内心民衆を蔑んでいた。
自身の行いが功名にならなければ、民衆のために命を捧げるつもりはない。
民衆が言う神のご加護がその1つだ。
(史実に残っている勇者英雄とて、実際は姫君との結婚、つまり王族にれるという確実な報酬を手に入れるために命を懸けたに過ぎん。それが利益になるのだから)
──守ってやろうじゃないか。それが自分の利益になるのなら。
ゴーレムが現れたのは好機だった。
自分が事を収めれば、教会の信頼が回復するし自分の名声も上がるのだから。
「ところで、後ろの奇妙な物体は何だ?」
「あれは、公園に居座る蛮族共の道具です。奴ら、我々がゴーレムを迎撃するから引っ込んでろと申してきました。奴ら、我々が失敗したら迎撃すると抜かしてました。全く、これだから何も知らない蛮族共は」
レフィティスは後ろの奇妙な物体をマジマジと見ていた。
2つの箱を積み重ね長い棒をくっつけた何か。
棒が着いた箱がこちらを向いている。
上には人らしき影がこちらを見ていた。
側面には丸い何かが4つ着いていた。おそらくあれは荷車の車輪と同じものだ。
それと同じ物体が4つもあった。
表現するなら“戦象”。
あの長細い棒で何が出来るというのか。そう言えば継承帝国には大砲なる武器が軍に広く普及していると聞いた。
あれは大砲なのかもしれない。
だが、大砲は継承帝国にしかない技術のはず。蛮族共が持っているとは考えにくい。
それに内地軍の指揮官から、彼らが迎撃すると言ってきたが、我々よりも早く迎撃体制を整えたことになる。
情報伝達技術が高いかゴーレム騒ぎの張本人のどれかだ。
答えは後者だ。
彼らは、ゲオルド最高司祭の企みに利用されてるからだ。それが原因で民衆から邪教徒扱いされてる。
邪教徒扱いから抜け出すために自演でゴーレムを出し暴れさせ、後ろの戦象でゴーレムを撃破し名誉回復を狙う算段だ。
何ともずる賢いと思ったがレフィティスは思いついた。
彼らと共同戦線を張れば良いのだと。
彼らに先に迎撃させ、失敗したら我々が迎撃する。
そうすれば、自分への株が更に上がるし、彼らの立場も更に厳しくなり教会に泣きつき改宗してくるはずだ。
利用できるものは何であれ利用する。最高司祭がいつもやっている事じゃないか。
そうと決まれば彼らに共同戦線を張る交渉をしよう。
行動に移そうとした時に、側近の神官戦士が何かに気づいた。
「レフィティス様、何かおかしな音が近づいております」
「ん...?」
ブロオオオオオオン!
大通りから異形の物体が凄まじい速度で現れた。
「な、何だあれは!?」
「聖光母公園に居座る蛮族共の乗り物です!」
「あれが、異世界の連中か!?」
異世界の乗り物は、キキィー、と甲高い音を立てて迎撃陣地の前で停止した。
「久世少尉!封鎖されてます!」
久世達が乗る高機動車の行く手を阻むようように物々しい陣地が構えていた。
板井大尉が言ってた内地軍の迎撃部隊のようだ。
後ろには海兵隊の80式装輪戦車4両と陸海・海兵隊の歩兵が布陣していた。
「あ、あれはレフィティス様率いる神官戦士団ですわ!!」
リュミが言う神官戦士団は件の教会の武装集団の事だ。
(動きが速い。アイツらの指揮官、かなりできる)
国防軍よりも一歩遅いとは言え、この短時間で迎撃準備を終えているのは中々の速さだ。
「市之瀬、あと何分だ?」
「8分と43秒っす!」
「西本、僕と来い。短機関銃を携行しろ」
「了解!」
久世と西本は93式短機関銃の残弾数を確認し車外に出る。
身構えている内地軍と神官戦士団の方へ歩み出した。
「何者だぁ!貴様ぁ!?」
「緊急事態につき貴部隊の指揮官と話がしたい!」
久世は毅然とした態度で叫ぶ。
異世界とは言え、相手も同じ軍事組織に身を置く者らしく、そこ声に何かを感じた。
一部の兵士達は一瞬言葉に詰まる。
「な、何だと!?怪しいヤツめ!その奇妙な乗り物は何だ!?」
「この騒ぎも貴様らが仕組んだものなのだろう!!」
「殺しちまえ!」
内地軍の兵士達は反発し各々の武器を久世達に向ける。
西本は同じく93式短機関銃を内地軍の兵士達に向ける。
様子を見守っていた国防軍迎撃部隊も装輪戦車搭載の重機関銃に、突撃小銃を向けていた。
一触即発の状態だ。
(強硬突破するしかないか)
彼らの制止を無視して強硬突破する選択肢が浮かぶ。
「やめよ」
「レフィティス様!?」
涼やかな少女のような声の主に兵士達が仰ぎ向いた。
(何とまぁ、嘘みたいな美少年だこと)
(東が好きそうな子だな)
久世と西本が目を丸くする。
軍の指揮官と言うより、王子様や天使だとかの神々しい存在のようだ。
同時に、違和感のような物が湧き上がった。
「私が指揮官です。名はレフィティス。マリースア光母教神官戦士団副団長。貴公の名は?」
「大日本帝国国防陸軍、陸軍第2遠征旅団所属、久世啓幸陸軍少尉です」
「同じく、陸軍第2遠征旅団所属、西本陸軍伍長」
久世と西本は、陸軍式の敬礼で相対した。
レフィティスは、手の平を額の前に水平でかざす奇妙な動作をする久世と西本を見下ろす。
久世らの動作を見た周囲の兵士から嗤い声が上がる。
(間違いない。異世界の軍勢はゴロツキでも蛮族でもない。れっきとした正規軍だ。この男は将校だな。女の方は部下と言ったところか)
レフィティスは人間の纏う臭いを嗅ぐ力に長けている。
その者が持つ社会的な地位に関しても異様なまでの理解力がある。
久世の振る舞いと言動を見抜いていた。
(だが、ちょうど良い。提案を持ちかけるか)
「あなたは公園に居座る異国の方ですね。継承帝国襲撃の際に我らマリースアに味方してくれたと、噂がありますが?」
内地軍兵士とマリースア市民達がざわつき始めた。
教会からは国防軍を肯定するような発言をしたことがないからだ。
(さぁ、どうだ?少なくとも、お前達の事を教会がある程度認めているアピールをしてやったぞ)
久世から返ってきた答えは──
「味方はしておりません。あくまで脅威から自分とこの国の市民を守るために行っただけです」
国防軍は味方をしたのではなく、自分達に降りかかる火の粉を払い退けた事と一般市民を守るために武力を行使しただけだ。
(こいつ、義の心からこの国のを救ったと言うのか!?)
そんなことして何になる?見ず知らずの国の人間を救い、教会に利用されて窮地に立たされていながら、差し伸べたこの手を払ってでも義の精神を捨てようとしない。
国防軍は元の世界に帰るために動いた手段の一つでしかないと言うのは知る由もなかった。
(真の英雄を目指そうとでも言うのだな?)
(正義なんて反吐が出る..良いだろう、乗ってやる)
「…これは驚きました」
「え?」
久世はレフィティスの微かだが恐ろしいまでに歪んだ笑みを見た。
「傭兵のように報酬目的でもなく、功名が目的でもないと仰るとは」
「レフィティス様、それではこやつらは…」
「そう、まさに英雄だ」
レフィティスは大げさに久世を讃える。
兵士と市民はレフィティスの言葉にどよめく。
「異世界から召喚されし、英雄達。おお、まさに
レフィティスは神話に登場する異世界からの軍勢の名を口にした。
「ルーン...トルーパーズ...!?」
「聞いたか?異世界から来たんだと!」
「う、嘘でしょ?あ、でもあの変な服や乗り物とか、異世界のものって言われりゃ納得できなくもないな...」
久世は、レフィティスがここまで自分達を持ち上げているのかが分からない。
確かなのは、戦場で分かり合ったリュミやラロナ、アルメナ、カルダのような心からの共感や純粋な好意からではないようだ。
(こいつは危険だ)
「そこで、真の英雄たらんクゼ殿に提案がある」
レフィティスは見下すような目でこちらを見ている。
──「我々とゴーレムを倒さないか?あの後ろにある戦象と一緒に」
予想もしない提案に久世は面を食らっていた。
それは内地軍の兵士とレフィティスの部下も同じだった。
「レ、レフィティス様!?」
「こやつらと手を組むのですか!?」
「...何故、我々と手を組もうと?」
「理由も何も、かの強大な継承帝国に打ち勝った貴公と手を組めば百人力。それに貴公らは今厳しい立場に立たされている。名誉を回復する良い機会だ」
レフィティスのは自分の株を上げるために久世らを利用しようとしているに過ぎない。
(どうするべきか。司令部に指示を仰ぐか。いやそんなことをしてる暇はないが)
久世は悩む。
司令部に指示を仰ぐか。
だが、国防軍と内地軍との関係は最悪の一言に尽きる。
それに国防軍と内地軍とではドクトリンいわゆる戦闘教義や兵器の質・技術差などあらゆる面で異なっている。
機械化部隊による機動戦の国防軍、歩兵・騎兵による運動戦の内地軍。
そんな状態で内地軍と手を組もう物なら国防軍にとって内地軍はただの足手纏いになるだけだ。
恐らく司令部からの答えは“NO”だ。
ここは丁重に断るしかない。
その事を独断で決めて良いのか悩んだが、板井大尉から土居准将がケツを拭いてくれると言ってたから問題ないはずだ。
「申し訳ありませんが、レフィティス副団長の提案は断らせて頂きます」
「なっ!?」
「こいつ、レフィティス様の提案を断っただと!?」
「やはり邪教徒だ!」
兵士達はレフィティスの提案を蹴った久世に狼狽していた。
「何故ですかな?貴公らにとっては美味しい話だと思うが?」
「国防軍と内地軍とでは戦い方が違うからです。そんな状態では上手く機能できるのか難しいからです」
「先の戦いで貴公らと王城守備隊と教会が連携して戦ってたと聞くが?」
「あれは、偶然に過ぎません」
予想外の答えにレフィティスは困惑したが、久世に哀れな目を向けた。
(ふっ、せっかく活躍の場を作ってやったのに自分の首を絞める気か)
「来たぞおぉ!」
兵士の叫び声を聞き久世が振り向くゴーレムが近づいていた。
「西本、ここで時間を潰してる暇はない!戻るぞ!」
「了解!」
久世と西本はレフィティスとの交渉を打ち切り高機動車に戻る。
「おいおい、天下の英雄様が逃げやがってるぜ!」
「何が英雄だ!腰抜けめ!」
「レフィティス様の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ!」
久世らを馬鹿にする部下と兵士に対しレフィティスは聞こえない声で「無能が」と呟く。
「バリスタに矢を装填せよ」
数人がかりでバリスタに巨大な矢をつぎ、弦を引き絞る。
カタパルトにも人の頭並みの大きさの岩を装填する。
「魔法戦士、矢に貫通の呪文を」
矢の力に加え神官戦士団と内地軍から魔法戦士を動員し矢尻に貫通力を高める魔法を施した。
──「放てっ!」