ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
伊吹の艦内には大小3つの食堂がある。
その中でも大規模なのは下士官達が使う下士官食堂だ。
収容人数300人の二層構造型の食堂で、非番の下士官達が集まり娯楽を楽しむ娯楽室としての機能も持っている。
そんな食堂に場違いな甲冑姿の騎士達が集まっていた。
彼らは一部を除き伊吹に乗艦してから、戦闘以外は割り当てられた部屋で過ごしていた。
食事も持ち込んできた物しか口にしておらず、食堂で見かけるのは滅多になかった。
見かけることはあっても敵意剥き出しの視線で返されたりして、交流には消極的な態度をとっていた。
内地軍と水軍の中心にいるヴィルヘルミーネ神官戦士団長は、伊吹とレヴィアタンとの戦いを騎士達に聞かせていた。
集まっている騎士達は彼女の話を真剣に耳を傾けていた。
「そこでカブラギ将軍はこう言ったのだ」
話は終わりに近づき彼女は締めくくるように言った。
「『残念だ仕留めきれなかった』とな」
その場は静かになり、騎士達は互いに顔を見合わせた。
騎士達は半信半疑な顔をしていたが、彼らも航海艦橋で戦闘の様子を見ていたのだ。
レヴィアタンが傷つき、死にものぐるいで逃げようとしていた
光景を。
暫くしてその場は湧き上がった。
「それにしてもカブラギ将軍の指揮は大胆だったな」
「まさか、航海器具である錨を戦闘で使うなんて...神話の英傑や無双の提督ですら思いつきませんよ」
ヴィルヘルミーネとヒラガルはCICで蕪木の指揮を見ていたので率直な感想を述べていた。
「あの“サンジュウイッセンチデンジトウシャホウ”は凄まじかったな。バリスタや爆裂魔法より高威力でなおかつ高速射性。フィ公の大砲よりも凄いかもしれん。何かこう胸の底からウズウズする」
「“アスロック”と言いましたっけ、最初は自爆したのかと思いましたけど、レヴィアタンへの攻撃方法だと知った時は目から鱗でした」
内地軍と水軍のリーダー格であるユラウスとジュッセンは航海艦橋に居た他の騎士達を代表して感想を述べていた。
彼らは最前線に近い場所で戦闘を目の当たりしていたのでその時の体感も味わっていた。
「ライブラリー室と言う、我が国で言う図書館に相当する部屋で、ルーントルーパーズに関する情報を収集しました」
情報収集を担当していた内地軍の騎士アルシェが声をあげる。
「言ってみよ」
「ルーントルーパーズもとい彼らの祖国である大日本帝国についてです」
「そう言えば、彼らは正規軍だったな」
「彼らの祖国は世界最強の国家である超大国として名を馳せてるようです」
「超大国か...どれほどなんだ?」
「人口約62億人、大陸2つと複数の島を有している大陸間国家と呼ばれています」
一瞬その場が静まり返った。
「「「「はあぁ!?」」」」
全員が一斉に驚嘆の声をあげる。
「人口62億人って嘘だよな?」
「本当です。オマケに彼の国より人口が多い国があるようです」
「フィルボルグですら8億なんだぞ?この世界の総人口ですらそれほど居ないぞ...」
「大陸国家ではなく大陸間国家か...大陸ごと跨いで有しているのか」
アルシェは更に付け足す。
「更にですが、彼らは世界を巻き込んだ大戦を3回経験している戦闘国家です」
「ルーントルーパーズの居た世界はどれほど修羅なんだ...」
「1回目は66年前の第二次世界大戦で旧アメリカ合衆国と旧ソビエト連邦と呼ばれる、隔絶した国力と軍事力を有した国家と戦争をしていたようです」
そう言いながらアルシェは懐から数枚の写真を出し机におく。
そこには
「何だこの精巧な絵は!?」
「写真と言う対象をそっくりそのまま写す道具で映されたものです。この伊吹にしろセイロード湾の巨大船にしろ、66年前からこう言った巨大船を使っているようです」
ユラウスがある事に気付く。
「第二次って事は第一次もあるのか?」
「第一次はヨーロッパと呼ばれる地域が主戦場で距離的な問題から参戦はしませんでした。対して第二次はヨーロッパに加え、太平洋、極東と呼ばれる地域が主戦場でした」
「2回目は第三次世界大戦です。この戦争は空を支配する天空国家がヘルヴォルカ帝国の地上支配を阻止するため、大日本帝国を含めた地上国家が連合軍を結成しました」
次に置かれたのは水没した
「この水没した都市は?」
「水没した都市は横須賀と言う都市です。何でも、短時間に都市を水没する人為的に作られた雨の攻撃で、横須賀以外の60都市に同様の攻撃を受け1億人の死傷者を出しました」
「天候すらも操れるのか...ルーントルーパーズの世界は神々の世界なのか?」
「3度目は太陽系防衛戦争。この戦争に関しては今までの戦争とはスケールが違います」
「どう言う意味だ?」
「空よりも上の空間━━宇宙で別の星の侵略者との戦いです。これも第三次世界大戦と同様に連合を結成しました。この戦争は彼らの命運を賭けた防衛戦争です」
青く輝く星をバックに集結する
「この巨大船は...」
「星を行き来できる船です。この船には星を破壊する事が出来る兵器を載せており今戦争で活躍しました」
他にも日清戦争、日露戦争、日中戦争、ベトナム戦争、第2次日ソ戦争などの絵画や当時撮影された写真も併せて説明が続く。
一通りの説明が終わり騎士達は驚きすぎて疲れきっていた。
「誰よ、ルーントルーパーズが腰抜け揃いとか言ってたのは。腰抜け揃いどころか、数多くの戦いをくぐり抜けた歴戦の猛者じゃないの」
「それも神の御業のような技術を有している」
「父上から聞いた噂とは丸っきり違うじゃないか」
妖艶さを纏った魔法騎士ディアナをきっかけに、それぞれが事前に聞いていたルーントルーパーズの姿が崩れ落ちるような感覚を感じた。
「我々は考えを改めるべきだ。このままの調子ではマリースアは亡国への道を辿る事になる」
「将軍達はこの話を信じてくれるのだろうか…はぁ、気が滅入る」
ヴィルヘルミーネの結論にユラウスが腕を組み天を仰ぐ。
やがて食堂内に腹を空かせた伊吹の水兵がチマチマと集まってきた。
水兵達は交流を拒んでいた彼女達が食堂にいるのを珍しげに見ていた。
水兵達は交流を拒んでいた彼女達にどう接すれば良いのか分からなかったり、彼女達に嫌悪している水兵達は距離を置く事にした。
「さっきより人が多くないか?」
「ここは水兵の食堂です。食事をしに来たのだと思います」
「そろそろ食事時か。我々も部屋に戻って食事をしよう。ヒラガル達はここで食べるのか?」
ユラウスはヒラガルとその同僚、情報収集を担当していた騎士に尋ねる。
「あっ、はい私達はここで食べます。皆さんも一度はここの物を食べてみた方がいいですよ。すごく美味しいですよ」
「そうだな。持ち込んでいた食料がなくなったら考えようかな。ヴィルヘルミーネ殿はどうしますか?」
「私は...」
ユラウスの問いにヴィルヘルミーネは言葉を詰まらせる。
「ヒラガルちゃん〜」
ヴィルヘルミーネ達はヒラガルの名前を呼んだ声の主に振り返った。
そこ居たのは短髪ボーイッシュな女性水兵だ。
女性水兵の後には連れらしき水兵達が様子を見守っていた。
「あれ、お取り込み中だった?」
「アヤさん!えっとなんと言いますかその...」
ヒラガルはどう答えれば良いか迷っている。
女性水兵は食堂を利用してこなかったヴィルヘルミーネ達の姿に目を丸くしていた。
「えっと、今日はここで食事ですか?」
「あっ、いや、我々は部屋に戻って食事を...」
女性水兵の問いにユラウスは焦りながら答えようとしていた。
「うむ、今宵はこの船の物を頂こうと思っている」
「な...」
落ち着いたヴィルヘルミーネの答えにユラウスは言葉を失う。
「それに、カブラギ将軍やルーントルーパーズ、大日本帝国についての話も伺いたい」
ヴィルヘルミーネの言葉に騎士達はハッとした。
彼らならカブラギ将軍の逸話はもちろんのこと、我々の知らないルーントルーパーズや大日本帝国を知れるかもしれない。
「そ、そうだ。今日はここで晩餐させてもらう。いや、させていただきたい」
「それじゃあ、あっちの列に並んでください。今夜は伊吹特製のカレーですよ」