ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
暗い夜の海を走るの6隻の複合艇。
操舵員を除き、その内の4隻には蕪木、加藤ら参謀、各艦の艦長に加えて武装した水兵8人。
残りの2隻には武装した水兵が8人乗っており、複合艇には64式多銃身機関銃通称“ミニガン”が搭載している。
複合艇は隊列を組み岩礁地帯を縫うように進み目的地へ到着する。
遠くから篝火のような物が見えた。
その篝火のような物の正体は発光性のある海草を束ねた物だ。
彼女らマフォークは海の中で生活する民族だ。
海の中では火を起こせるはずもなく代用品として発光性のある海草が使われている。
複合艇は岩礁に接岸し蕪木達は降り立つ。
そこにはセイロード王城地下で見た神殿によく似た建築物が建っていた。
あの地下神殿はこの神殿をモデルにした物のようだ。
この神殿の方が古いように見えるからである。
「またお会いできて光栄ですよ。フランシア女王陛下」
「えぇ、ほ本当に...」
神殿の奥にある人魚と人間が話し合う場で蕪木とフランシアが互いに向かい合っていた。
「本当に助けに来てくれたのですね」
「ま、約束しましたからな」
蕪木は鉄帽と作業服の上に着ていたライフジャケットを脱ぎ用意されていた椅子に座った。
フランシアはそんな蕪木に微笑んだ。
「そうですわ、カブラギ様。兵がこれを拾ってきました」
フランシアの目配せでマフォーク戦士がある物が置かれた盆を持ち、恭しく蕪木の前に置く。
「これは?」
盆の上にあった物体は、手の平程の大きさの鱗のような物だ。
「レヴィアタンの鱗です。先の戦いで傷つき剥がれ落ち物です。」
マフォーク戦士の1人が蕪木に平伏して答える。
彼女達から神殿で会った時のような警戒心は感じなかった。
神殿の周辺にはレヴィアタンと戦った人間を一目見ようと、無数のマフォークとマーマンが集まっていた。
そんな状況で蕪木は1枚の鱗を手に取る。
厚さは7cmで厚くて重いが、かなりの硬さであることが分かった。
対潜駆逐艦の12.7cm徹甲榴弾を弾き返した痕跡があるのが見て取れる。
「こっちは大部分が損壊している。おそらく伊吹の31cm徹甲榴弾によるものだと思われます」
「これなんか溶けてますね。魚雷の成形炸薬弾頭でぶち抜かれたんだ」
加藤と伊吹艦長が鱗を手に取り何の攻撃で破壊されたのかを考察していく。
「12.7cm徹甲榴弾を弾き返す鱗...装甲技術研究部が喉から手が出る程美味しいですよこれは」
「お土産にしたら喜ぶだろうなあいつらは」
そんな彼らに、フランシアは安心しきった表情をしていた。、
「何とお礼を申し上げたら良いのか、私は分かりません」
周囲に居たマフォーク戦士達もフランシアに続き頭を下げた。
「我らマフォーク戦士、同胞の無念を晴らして頂いたご恩、永遠に忘れませぬ」
彼女らの武器であり象徴でもある銛を地面に置き礼を述べた。
「亡くなられた方々には、お悔やみ申し上げます」
「もったいなきお言葉です。カブラギ閣下」
「これでこの国も平和なりますわ」
フランシアの楽観的な考えを蕪木は否定する。
「奴はまた来るでしょう」
その場は一瞬で凍りついた。
恐怖を煽るつもりではなかったが、現実を伝えるにはこうするしかなかった。
「奴は人魚の味を知っている。確実にまたここに襲い来る。生贄なんかでは効かないくらい暴れるでしょう」
━━「とどめを刺す必要が、あります」
蕪木はそう断言し、人魚達を見渡した。
人魚達の顔には不安そうな表情が出ている。
同時に希望を捨ててないように見える。
まだ諦めてはいない。
「で、では、また、皆様に戦って頂けるのでしょうか?」
彼女も他力本願だった。
だが、絶望的な状況下で、彼女は1人で国を守るために奔走してきた。
蕪木は彼女を批判する気はなかった。
「もちろん、そのつもりです」
蕪木の返答に彼女は安心した表情を浮かべる。
「奴の撃破が今回の航海の目的ですから。ですが...」
「ですが?」
「次に正面切って戦ったら、我々は奴に勝てないでしょう」
レヴィアタン討伐艦隊は辛勝に近い形で勝った。
「大量の、それも理論上では奴を倒せる威力を持った魚雷全て躱すような相手です」
「奴は伊吹の31cm徹甲榴弾で痛い目にあった以上、先の戦いのような事をするのは無理です」
「海上へ誘導する方法はあるにはあります。ですが、いつ、どこに奴が現れるか分からない上、この海域は我々にとっては不利です」
「我々の力で奴を倒す事はできます。ただ、倒すには今の戦力の10倍以上を寄越さなければなりません。我々はその戦力がある本土とすら連絡が取れない」
蕪木、加藤、作戦参謀、五十嵐がそれぞれ言葉を継いだ。
「奴を仕留めれない上に戦力不足、正攻法でははこちらが危ない。それが現状です」
蕪木達が出した結論だった。
重い沈黙がその場を支配する。
「で、では...どうすれば」
フランシアが青い顔をして呟く。
「奴を海上におびき出すこと。これが最低条件です」
「次に無防備であること。これは難しいかもしれない」
加藤と作戦参謀が答える。
「その策を考えるために、今夜はここへ参りました」
蕪木がここに来た理由を答える。
「情報でも何でも、とにかくある物全てを考慮に入れて、作戦を立てる必要があります」
蕪木が切り出すと、マフォーク戦士達が大きく頷く。
「我らの命、カブラギ閣下に預けまする。必要とあらば、好きに使ってください」
「みんな...」
「フランシア陛下、我らは義を報いねばなりません。約束を果たしにこの死の海へ飛び込み邪神と戦った勇者達に対して」
フランシアは戦士達の決意に時間を置き首肯した。
「私も、国を負う者として協力を惜しみません」
「感謝します」
蕪木が感謝の意を伝えると、海面の方から激しい水音が上がった。
海面から顔を覗かせた人魚の少女が陸へ這い上がる。
「クリスティア!」
フランシアは、勝手に抜け出したことで自宅謹慎させていた我が子が姿を現したことに度肝を抜かれていた。
「あ、アタシも」
「え?」
クリスティアは目を丸くしている蕪木達の方へ近づき、濡れた手で蕪木の手を握りしめた。
「アタシ、何でもする!命だって懸けてやるわ!セイレーンの巫女としての務め、今こそ果たす!」