ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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戦海にたゆたう歌1

時間は深夜寸前にさしかかり、当直以外の者を除き寝静まった艦内。

そんな中である一室には明かりが灯っていた。

 

加藤、勅使河原、新谷の縦長の机を向かいに座っている蕪木と伊吹艦長の浅倉がタブレットに目を通していた。

 

一通り目を通した蕪木が、ジロリと鋭い視線を加藤達に向けた。

 

「この作戦、俺が許可すると思ったか?」

 

その低い声に加藤は臆することも無く答えた。

 

「司令が私に命じたことは、“あらゆる手段を考慮に入れて敵を確実に殲滅する作戦を立案せよ”です。私はその命令に従ったまでです」

「貴様は屁理屈を言っても、詭弁は言わんと思っていたが」

「屁理屈でも詭弁でもありません。私達がベストであると考えた、正式な作戦案です」

「...水底の王国の人間に、死ねと命じる作戦だぞ」

 

血も涙もない作戦を目にした蕪木は憤慨こそしなかったが、怒りともつかぬ複雑な感情になっていた。

 

「放って置いても、どの道死にます。意味ある死か無意味な死を選ぶなら、私は前者を選択します」

「彼女らにこの作戦を呑めと?」

「信じるしかありません。犠牲もなしに、全てが得られるほど実戦は甘くない。その事は彼女らもわかってるはずです」

「彼女らは我々との協力は惜しまないと言っていました。言質は取ってます」

「それを前提としてこの作戦を突きつけるのは、ただの脅迫だ」

「奴の習性が明らかになった以上、確実に仕留めれる作戦はこれしかありません。それとも、アメノハバヤを使いますか?」

 

新谷の言葉に蕪木は渋い顔をした。

 

「アメノハバヤか...彼女らには黙っていましたね。仮に使うとしても彼女らの生活圏に影響を与えかねない兵器だ。納得させたとしても避難させる余裕もない、生活の場から離れようとしない者も居るかもしれない。殲滅できたとしても、その後の彼女らの生活をサポートしなければならない。今の我々には無理ですな」

 

浅倉は半ば諦めに近い顔と溜息を着いていた。

 

3人は立ち上がり、加藤は必死な表情で詰め寄った。

 

「全責任は私達3人が取ります。2人も了承済みです。司令は反対していると言う立場を貫いてくださって結構です。ですが、まず彼女らにこの作戦が必要であると、私達に説明させてください」

「作戦が失敗したら自決する覚悟はできてます」

「僕もです。相応の処罰を受ける覚悟はできてます」

 

彼らは参謀として、この作戦に全てを掛けるつもりでいた。

ここで折れる訳にはいかない。それこそが彼女らを救うことができる方法だと信じているからだ。

 

加藤達の気迫に蕪木は押し黙る。

 

蕪木から出た答えは...

 

━━「いや、それはダメだ」

 

「ですがっ!」

「組織において、下の責任を取るのが上の者の責務だ。貴様らの責任だけにはできん」

 

加藤は力なく椅子にへたり込んで目を閉じた。

 

「だから、俺からもこの作戦について説明させてもらう」

 

加藤はゆっくりと目を開き、蕪木を見つめた。

いつもと変わらない表情のまま冷めかけのコーヒーをすする蕪木がそこに居た。

 

「ありがとぅ...ございます」

「ふぅ、まぁ、いい。説明までなら構わんだろう」

 

蕪木はパトロールキャップを手に取って被り直し、ゆっくりと立ち上がった。

 

「無茶な作戦を立案する以上、些細なミスは許さん。改めて立案した作戦案を更に練り上げろ。こう言う時の貴様の底力を、俺はなんだかんだ信じている」

 

そう言い蕪木と浅倉は出ていく。加藤は苦笑した。

自分のような変人を理解し、活用してくれる上官がいてくれることを、心底感謝する。

 

加藤達は作戦案に不備がないかを精査し更に改善させていく作業に取り掛かる。

 

 


暗い霧がかかった、曖昧な朝の世界。

各艦から下ろされた6隻の複合艇は神殿へ向け走っていた。

 

複合艇のエンジン音で飛び起きたのか、海面に無数のマーフォークの顔が現れる。

 

「カブラギ将軍、ご予定通りでございますね」

「朝からすまないね」

「と、とんでもございません!すぐに案内致します。こちらへ」

 

1人の若い騎士が、パシャと波飛沫を上げて泳ぎ出し、複合艇を先導した。

 

「奥で女王と姫がお待ちです」

「ありがとう」

 

蕪木と加藤、各艦の艦長と勅使河原ら参謀数名が、発電機やプロジェクター、スクリーンなどを持ち神殿へ入った。

奇妙な持ち物を抱えた蕪木らをマーフォークの騎士が不思議そうに見送る。

 

そんな彼らを目を丸くして迎えた女王は、作戦の説明のためと聞き固唾を呑んで待っていた。

徹夜明けで疲労の滲む、鋭さを増した加藤は睨むように女王を睨んでいた。

 

「これから、作戦を説明します。この作戦には水底の王国の協力が不可欠となっています。よろしいですね?」

「はい。貴方の作戦ならば、どんな物でも受け入れるつもりですわ」

 

フランシアの純粋な微笑みに加藤らの胸には罪悪感が過ぎる。

発電機が軽快な音を立て電力を生み出す。

生み出された電力でプロジェクターが起動し、スクリーンに作戦の概要が映し出された。

 

人魚達が発電機の音と映像装置にざわめく。

 

「オペレーション“セイレーン”の説明に入ります」

 

加藤がレーザーポンインターを片手に説明を開始する。

 

「この作戦はレヴィアタンを海上に誘導し、かつ特定の場所に足止めさせ、そこを大火力によって撃滅する作戦です」

 

彼はパワーポイントで作成した作戦の要旨を映し出す。人魚達にも分かりやすいように伊吹やレヴィアタンの写真や攻撃方法を示すアニメーションを使った資料だ。

 

「次にその内容です。いかにして奴を油断させるか」

 

加藤はここで一度、蕪木に視線を走らせた。

蕪木が静かに頷き、それを確認した加藤が切り出す。

 

「━━奴の油断は、生贄を用意することで作り出します」

 

悲鳴にも似たざわめきが起こる。

両手で口を覆ったフランシアの顔が蒼白になるのが見て取れる。

加藤はそれを意に介さず、冷静に続ける。

 

「奴には人魚を食べることへの執念が見受けれます。2ヶ月もの間、この海域に留まり、外界へ出なかったのは偶然とは思えません。奴の執念を逆手に取り、生贄を用意すれば引き寄せられる可能性が高いと判断しました」

「残念ながら、奴の習性が分かった以上、最も確実な方法で奴を仕留められる作戦はこれしかありません」

 

フランシアは加藤と勅使河原を呆然と見つめていた。

何でも協力するとは言ったが、この要請を呑むことは生贄を差し出すことだ。

 

「貴女方には黙っておりましたが、アメノハバヤと言うレヴィアタンを完全に殲滅することができる兵器が我々の手にあります。しかし、この兵器を使う事になると水底の王国を捨てなければなりません」

 

加藤がそう言いスクリーンにアメノハバヤもといそれに搭載されているN2兵器を使用する映像を流した。

 

映像が始まり映し出されたのは、威力がどれほどなのかが分かるように500m間隔で、数棟の木造住宅や鉄筋コンクリートのビル、マネキンや実験動物、退役した戦車や戦闘機や重巡洋艦が人工湖に置かれていた。

 

次に映し出されたのは、空から一筋の線が地上に向けて落ちてくる何か。瞬間画面いっぱい真っ白になったかと思うと爆音と爆風が襲い掛かり巨大なキノコ雲を形成した。

 

「大きい雲...」

「ものすごい爆音ね」

 

見たことも無い爆発に人魚達はざわめいていた。

 

場面が切り替わり映し出されたのを目の当たりにした人魚達から悲鳴にも似た声が上がり始めた。

 

爆心地には直径400m、深さ120mのクレーターが出来上がっていた。

爆心地から5km圏内は文字通り鉄すらも残さず全て蒸発していた。

爆心地の5km圏内から遠ざかるにつれて鉄筋コンクリートのビルや木造住宅は倒壊し、マネキンは溶け、実験動物は悶絶し、戦車は横転し、戦闘機はグシャグシャになり、人工湖の水は干上がり、重巡洋艦が50m先に吹き飛ばされてたりしていた。

上空から撮影された使用前と使用後の比較画像では地形すら変えていた。

 

「なにこれ...!」

「こんな事が人間にできるの!?」

「悪魔か死神に魂を売ったのよ!」

 

ショッキングな映像を見てしまった人魚達は、各々感想を上げる者、泣く者や怯える者、今朝食べた物を吐き出す者、気を失う者も居た。

 

「この様に5km圏内であればレヴィアタンを蒸発する事ができます。しかし、この兵器は地形すらも変えてしまうほど強力です。奴はこの海域のどこに居るのか分からない上、無闇矢鱈に使ってしまえば、水底の王国にどれほどの影響が出るか未知数なのです」

「生贄を使った作戦とは反対に不確実性が多い作戦となります。この作戦が承認されることを前提とした場合はオペレーション“ビキニ”として我々は呼称しています」

 

アメノハバヤを使えば生贄を差し出すことなくレヴィアタンを殲滅することができる。だが、自分達の居場所を捨て新たな場所で今まで通りの日常をおくれるのだろうか。

それに提案者である加藤らの顔は、乗り気ではないように見えた。

フランシアは一国の王として決断を迫られた。

 

「アタシの出番って訳ね!」

 

そんな緊迫した中でクリスティアの歯切れの良い声が響いた。

 

「クリスティア!?」

 

フランシアが止めようとするのを制し、クリスティアは加藤の方へ尾をくねらせた。

 

「アタシはセイレーンの巫女。“セイレーンの呼び声”を歌えば、奴はきっと出てくる」

「セイレーンの呼び声?」

「そう。人間の間では船乗りを死の世界へ導くと言われているの。本来は海の神様に捧げる賛美歌なんだけどね」

 

胸を張るクリスティア。

それに気乗りしない表情をした加藤が問いかける。

 

「良いのかい?」

「何が?」

「生きて帰れない可能性もあるんだ」

「なら、生きて帰れる可能性あるんでしょ?」

 

加藤は言葉に詰まった。

 

「それに被害が少なく済む作戦か、代償が大きい作戦を選ぶなら、アタシは前者を選ぶわ。この国の平和と安堵、民のためなら」

 

フランシアはクリスティアの言葉を聞き覚悟を決めた。

 

「カブラギ将軍、カトウ様、私はこの国の王として、この国の平和と安堵と民のため、オペレーション“セイレーン”に協力します」

「フランシア女王の英断、感謝します」

 

フランシアの英断に加藤は更なる罪悪感に見舞われた。

結果的に脅して作戦を承認させてしまったのだから

 

「大丈夫。信じてるから...」

 

そんな加藤の思いを見抜いたクリスティアが加藤の目をじっと見つめた。

 

「きっと、守ってくれるって」

「自分は伝説の英雄なんかじゃない。確約は、できない」

 

加藤は彼女の純粋な瞳を直視出来なかった。

 

「だが、最善は尽くす。それは確約しますよ」

 

クリスティアがニッコリと蕪木の言葉に笑う。

 

「そうそう、カトー様。人魚の肉に執念があるって話、その通りだよ」

「え?」

「人魚のにくはね、万能薬の素にもなるし、その口を肉にすることで不老不死になることだってできるの」

「な...!?」

 

海軍将校達は、あまりの突飛な理由に息を呑んだ。

 

「...我々マーフォークが、何者も寄せ付けないこの海に国を作ったのは、そのためなのです」

 

フランシアの力ない言葉に、海軍将校達は背筋が冷たくなった。

彼女らが、その体質故に“乱獲”されていた過去の光景を。

 

「奴は今、貴方達との戦いで傷を負っている。だからそれを癒すためにも、絶対にまた人魚を食べにやってくるわ」

 

クリスティアの声には確信があった。

 

「カブラギ将軍、それにカトー様...」

 

彼女は優しげな表情で2人を見る。

 

「アタシが死んじゃったら、その肉、皆さんに差し上げます」

 

それは伝説の英雄に対して、巫女が見せた最後の礼だった。

傷ついた英雄に、巫女は瀕死の自分の身体を差し出す。

 

「司令、不老不死になれるそうですよ」

 

加藤が引きつった顔で隣の蕪木に言う。

 

「...あいにく、いらんね。それは」

 

蕪木は苦笑する。

 

クリスティアは目を丸くした。

 

人魚の肉は、不老不死を夢見る者にとっては渇望する代物だ。

ひとかけらだけでも国が傾く程の高額な値がつく。

 

そんな人魚の肉を欲さず、困った表情を浮かべてる人間など想像もできなかった。

 

クリスティアを含め、人魚達には疑問が浮かんでいた。

蕪木は溜め息をついた。

 

「そんな、いつまで経っても退役出来なくなりそうモノは、お断りだ

 

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