ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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戦海にたゆたう歌2

霧が晴れず、視界の悪い海にポツンと存在する岩礁。

その上に少女達はいた。

 

巫女装束を纏い、身体に蒼い塗料で巫女を表す紋様が描かれた少女達。

 

そんな彼女達を。同じ岩礁から少し離れた場所から、高倍率の双眼鏡と赤外線探知装置で見守る一団。

 

「クリスティアちゃん、聞こえるかい?」

 

一団の1人、加藤が無線機で呼びかける。

 

地上部隊の指揮官として同じ岩礁に潜み、危険を背負い込ませる少女達に対する、加藤が考えた責任の取り方だ。

 

『カトー様?すごい、本当に側にいるみたいに声が聞こえるね』

 

双眼鏡の向こうでは、おずおずと無線機を手にするクリスティアの姿が確認できた。

 

「ああ、そっちから見えないだろうけど、ちゃんと見守ってるよ。だから...」

『分かってる。寂しくない。皆がいるからね』

 

加藤はそんな健気な彼女に少し躊躇い「ああ」と答えた。

クリスティア以外にも王国親衛隊から、傷着いていない戦士数名が着いていた。

彼女らは自ら志願し生贄として協力している。

 

「そろそろ、“伊吹”らがスタンバイが完了する。そうしたら、“セイレーンの呼び声”を頼む」

「うん、任せて!歌だけは得意なんだ!」

 

オペレーション“セイレーン”

クリスティアら生贄役が“セイレーンの呼び声”でレヴィアタンを誘き出すフェーズ1、“セイレーンの呼び声”でおびき寄せたレヴィアタンに、動きを封じるため伊吹から4発の対艦ミサイルが撃ち込まれるフェーズ2、対艦ミサイルで動きを封じられたレヴィアタンに対して計16発のトマホーク巡航ミサイルを撃ち込みとどめを刺すフェーズ3、地上部隊による協力者の救出とレヴィアタンの死亡確認又は死亡してなかった場合の更なる火力支援を要請するフェーズ4の、4段階に分かれた作戦だ。

 

これだけの火力を投射するのはレヴィアタンの大きさが400mと言う巨体だと言う事、人魚の肉を摂取し治癒能力を備えてる事を考慮しての火力投射量だ。

 

今回はセイロード湾の居残り組にも火力投射が実施される事になっている。

 

そうして加藤はやり取りを終え、岩礁に背中を預けた。

今の彼の姿は、洋上迷彩服の上に黒い鉄帽と防弾チョッキを着込んでいた。

加藤と一緒に居るのは、同様に武装した水兵とカラフルな甲冑を着込んだ内地軍の騎士達。

 

「にしても、話がややこしくなったな、おい」

「そう邪険にしないで頂きたい、カトー殿」

 

呆れたようにボヤいた加藤に、困った表情で言うユラウス。

 

「わかってるよ、もしもの時は、彼女を頼む」

 

加藤は慣れない手つきで89式突撃小銃を手に抱える。

他の水兵同様で89式突撃小銃やM2重機関銃を銃架なしで手で持っていたりしていた。

 

デスクワークばかりな上、国防海軍で銃が必要な場面は限られてる。

協力を申し出てくれた内地軍の騎士達の方が頼りそうに思えた。

特にクリスティアらを守る手段として。

 

「ディアナ、障壁魔法の準備は出来てるな?」

「ええ、彼女らが居る場所に即座に展開できるように陣を描いておいたわ。もしもの時は任せてちょうだい」

 

ディアナが自信に満ちた表情で胸を張った。

 

障壁魔法は、防護対象の周囲に不可視の壁を作り敵の攻撃を防ぐ魔法だ。爆風や破片程度なら十分にクリスティアら守ることが出来る。

ちなみにディアナとは別の魔法騎士が肉体を強化する強化魔法をM2重機関銃を手にしている水兵にもかけている。突撃小銃の要領で重機関銃を振り回すことが出来る。

これを見た加藤は「陸軍と海兵隊が欲しそうな代物だな」と思っていた。

 

「ありがとう、正直、奴に食われそうになるにせよ、攻撃に巻き込まれるにせよ、彼女を守る手段は手詰まりだったんだ...」

「確か、貴方達の世界には魔法はなかったのよね?」

「魔法なんてフィクション...創作物の中での話ぐらいと言う認識でしたからね」

「それを知った時は信じられなかったわね。この世界では魔法が全てだから」

「僕達もこの世界に来て最初は、巨鳥だとかドラゴンだとか信じれませんでしたよ...って今こんな話をしてる場合じゃないや」

 

加藤は再び双眼鏡を覗き込んだ。

まもなく彼女らが歌い始める。

どれぐらいの時間でレヴィアタンが現れるか分からないが、歌い始めたら、いつ現れてもおかしくないのだ。

 

『...ラ...ラ...』

 

霧の中、旋律が静寂で支配する海で響いていく。

人間からは、船乗りを死の世界へ誘う歌声。

 

勝利の女神が微笑むのは自分達か、果たしてレヴィアタンなのか、加藤は考えた。

 

 


「歌が聞こえます。オペレーション“セイレーン”フェーズ1を開始した模様」

 

伊吹のCIC内で、ソナーマンが聞き耳を立てている。

蕪木はその報告に頷き、水兵らの顔にも緊張の色が浮かぶ。

 

「総員、作戦開始」

 

蕪木の声を聞きCIC内では復唱の声が上がった。

 

「作戦開始!」

「作戦開始ぃ!」

 

蕪木は士気旺盛な部下を信じると同時に、肩に力を入りすぎている部下も居ることに気づく。

確認の意も兼ねて、砲雷長の席に座る勅使河原に声をかける。

勅使河原は加藤と同様に今作戦の考案者の1人だ。

勅使河原も加藤とと同じく、ミサイルの発射ボタンを押すと言う責任の取り方だ。

 

「勅使河原、今回の作戦において、伊吹は純然たる射撃プラットフォームに過ぎない」

「ええ、分かっています」

「我々の任務は、射撃プラットフォームと化した伊吹から、指定した目標に火力を投射することのみを、確実に行うことだ」

「はっ!」

「お前は、砲雷長時代に正確無比な射撃精度で、演習で高スコアを叩き出したと聞く。絶対に外すな」

 

勅使河原は伊吹で作戦参謀に着く前はミサイル巡洋艦で砲雷長を務めていた。その腕は神業と言っても過言ではなく、標的艦の重要部分に空いた直径にして17cmの亀裂に15.5cm徹甲砲弾を連続で撃ち込み沈めさせた逸話を持っている程だ。

 

蕪木は勅使河原の肩に手を置き微笑んでいた。

 

(この人、こんな俺を信じてるのか)

 

勅使河原はそう考え肩の力を抜いた。

砲雷長時代の顔付きに戻る。

 

「さぁ、人魚姫をお守りするぞ。これでこの艦は“死神に魅入られた軍艦”から白馬の王子様に格上だ」

「海軍省の背広組に見せてやりたいな」

 

水兵達が笑いながら互いに顔を見合わせ頷きあった。

 

先刻から、スピーカーに乗って微かに聞こえる美しい歌声。

劇場でコンサートを開けば著名な批評家ですら頷きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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