ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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戦海にたゆたう歌4

「蕪木司令、桜龍から先ほど攻撃部隊が発艦し、こちらに向かっています」

「発艦予定時間より5分遅れてないか?」

「それが、桜龍の空域に内地軍の巨鳥部隊が群がっていて安全に発艦できるまで無理だったようです」

 

蕪木は通信長からの信じられない言葉に耳を疑った。

同席していた内地軍の騎士が気まずそうな顔をし、水軍の水兵が「嘘だろ?」と言う顔をする。

 

「ベレンゲル将軍め…現場に居る同胞を殺す気か?」

 

同じくヴィルヘルミーネは怒りを通り越して呆れていた。

 

「それは本当か?」

「はい、桜龍から巨鳥を離すため臨時旗艦羽黒が弾幕で退かしました」

「そうか…賢明な判断だ、森脇艦長」

 

アクシデントはあったものの最悪攻撃部隊にアフターバーナーを使って現場に急行するようにしてもらう手がある。

彼らの事だから、言わなくてもアフターバーナーを使って急いで来てくれるだろう。

 

「念の為、攻撃部隊にアフターバーナー使って来るように伝えてくれ」

「了解しました」

 

スピーカーからは人魚達が奏でるあの美しい歌声が聴こえる。

 

「...っ!?ソナー感ありっ!」

 

ソナーマンが叫ぶ

 

作戦が開始してから15分、遂に動き出した。

 

「防護対象との距離は?」

「およそ12マイル!ゆっくりとですが、接近しつつあります!」

 

傷を負っているからか、あるいは警戒しているからなのか動きがゆっくりだ。

 

『今作戦では討伐艦隊は前線から外します。奴は自分に深手を負わせた伊吹らを警戒するでしょう。憎んで向かってくる可能性も捨てきれませんが、どのみち今作戦の目的からすれば、奴には油断してもらわなければならない。よって討伐艦隊は即座に火力を投射できる位置まで、後退させます』

 

加藤の立てた作戦の読み通り後者のようだ。

伊吹がいては警戒して寄って来なかったはずだ。

 

「加藤中佐に連絡。目標、活動開始」

「了解!目標の接近を報告します!」

 

 


「加藤中佐!伊吹より通信が入りました!目標、活動開始。現在微速にて防護対象へ向け接近中」

 

伊吹との交信を任されていた部下が加藤に呼ぶ。

 

「フェーズ1が開始してから15分か、早いな。執念があるとは思ってたけど、ここまでのものとは」

 

加藤は緊張すると共にレヴィアタンの早さに首を捻る。

クリスティアの言ってたことが本当なら、傷を早く癒やすためには人魚を捕食する必要がある。

奴は少なからず追い詰められてるようだ。

 

「クリスティアちゃん、歌ったままよく聞いてくれ。奴が動き出した」

『っ!』

「奴をギリギリまで引きつけて欲しい。それこそが君達を食べようとするくらいに接近するまで」

 

加藤の非情とも言える指示に水兵は耳を疑う。

 

「大丈夫、精鋭の騎士さん達もいるんだ。魔法で守ってくれる。君の安全は万全だよ」

 

加藤は一息付き自らの願いを伝える。

 

「それでも、もし君を守りきれなかったら、僕を恨んで欲しい。僕、ただ一人を」

 

双眼鏡の先で薄く霧がかかった風景の中、加藤の方を振り向いたクリスティアは微かに笑ったように見えた。

 

「き、来ました!!十時の方向からです!」

 

海を監視していた水平が叫ぶ。

 

加藤も慌てて確認すると、そこには海面が不自然に盛り上げながら岩礁へ接近してくる何かがあった。

あまりにも巨大だった。

加藤を含むその場に居た全員が本能的な恐怖に襲われた。

 

「まだか....早く面ぁみせろ」

 

加藤は赤外線暗視装置で前方を睨んだ。

 

加藤達のもう一つの役目、レヴィアタンを観測し伊吹に正確な位置を伝える事だ。

岩礁が多く対艦ミサイルを撃ち込むには火器管制レーダーの照射が難しい。

観測部隊による観測で座標を絞り込み伊吹に伝える。

 

伊吹の搭載する92式艦対艦ミサイル“ハープーン”は99式空対艦ミサイル“グングニルⅡ”と同じ誘導方式を採用している。

搭載している慣性航法装置に観測部隊が観測した目標方位や距離データを入力し、発射後にはそれらのデータに従い中間航程まで独立して飛翔。終末航程で弾頭に搭載されているアクティブ/パッシブ・レーダー・ホーミングが目標を識別し突入する。

 

入力するデータが粗い目標外へミサイルが飛んでしまったり弾頭に搭載されているレーダーが目標をロストしてしまう危険性もある。

ミサイルのレーダーが目標を捉えれるように、レヴィアタンをおびき出し、動かさず潜水させない事も重要だ。

 

「頼む...クリスティア」

 

彼女は屈さずに歌い続け、加藤にはそれが悲鳴に聞こえた。

海面は不自然な盛り上がりから激しい水飛沫を上げ、凄まじい水音を滝のように響かせた。

 

ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

歌声さえもかき消し、全てを食らい尽くす雄叫び。

空気がビリビリと震える。

岩陰に隠れた加藤達も、一瞬身を伏せ恐怖に震えた。

こんな怪物を倒せるのか?

ここに居る場の全員がそう感じた。

 

勝てると理論上は確信している加藤でさえ、逃げ出したい感情に負けそうになる。

 

「彼女、まだ歌い続けている!?」

 

誰かの呟きを耳にした加藤は顔を上げ、ズレたメガネを直しクリスティアを見た。

怯えた顔し今にも逃げ出したい表情をしている人魚達の中で、クリスティアは歌い続けていた。

徐々に迫る邪神の咆哮に負けまいと必死に歌っている。

歌うのを途中で辞めていた親衛隊の戦士も、彼女の歌う姿を見て勇気つけられ再び歌い出す。

 

「させない!」

 

加藤は交信担当の部下から通信機をひったくるように手に取る。

 

「こちら観測チーム!目標インサイト!フェーズ1からフェーズ2に移行!討伐艦隊に火力支援要請!ポイント、アルファ、ブラボー、チャーリーの三角内!キルゾーンのど真ん中!効力射で頼む!オーバー!」

 

伊吹に火力支援を要請する通信を終え伊吹から返信が来た。

 

『伊吹了解、こちらのレーダーでも微かだが反応を捉えた。これより火力支援を行う。発射弾数4発。目標の動向を引き続き監視せよ。オーバー』

 

加藤はまだ距離があり霧に覆われているレヴィアタンに違和感を覚えた。

どこかふらついているように見えた。

 

双眼鏡の倍率を上げて確認する。

所々伊吹の砲撃や雷撃で付いた傷痕があるが、すでに治癒しかかってるのがわかった。

レヴィアタンの顔を見て愕然とした

白目を剥き、口から汚らしい涎を垂れ流している。

 

「まさか、こいつ!?」

 

クリスティアが言ってた、人魚の肉は万能薬の素となり、食せば不老不死になる。

そんな凄まじい効果のある肉、常食するようなものではない。

その肉の味に溺れ、たらふく食べ続けたら、一体どうなるのか。

 

「あいつ、人魚の肉の中毒になってるのか!?」

 

今のレヴィアタンには中毒症状と似た症状が見てとれる。

 

レヴィアタンは目の前で歌う何かが、自身の欲している“モノ”であると認識し狂喜の雄叫びを上げた。

 

 

加藤からの交信を受け取った伊吹CIC内では火力支援の準備に取り掛かってる。

「作戦フェーズ2に移行!ハープーン発射用意!」

 

勅使河原はハープーンにレヴィアタンの位置と距離のデータを入力していく。

 

「トマホーク発射用意!ハープーンが着弾後に発射!」

 

勅使河原は引き続きトマホークにもレヴィアタンの位置と距離のデータを入力していく。

 

「ハープーン4発、トマホーク8発、データ入力完了!いつでも発射できます!」

「伊203からトマホーク8発の発射完了との事です」

「マイヒメ隊、あと5分で海域に到着します!」

「マイヒメ隊はトマホーク発射と同時に攻撃を開始せよ!」

 

レヴィアタンをこの世から消し去る準備が整った。

あとは発射ボタンを押すだけだ。

勅使河原は震えていた。

一旦深呼吸をし覚悟を決める。

 

「ハープーン発射!」

「発射!」

 

勅使河原は操作パネルの発射ボタンをタッチする。

 

伊吹の艦中央の上部に位置するSSMVLS(艦対艦ミサイル用垂直発射装置)の蓋が解放された。

強烈な燃焼ガスと発射煙が立ち上がる中、92式艦対艦ミサイル“ハープーン”が姿を現す。

インテグラル・ロケット・ラムジェット(IRR)に点火し、レヴィアタンのいる海域に向けてマッハ3で飛行する。

 

「IRR点火を確認!慣性装置作動を確認!」

 

 

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