ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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セイロード湾の居残り組を妨害した内地軍ってよくよく考えると人魚の海のそれも最前線に居る内地軍の騎士達を間接的に殺そうとしてたよな。
真に恐れるべき敵は無能な味方とはこの事か


戦海にたゆたう歌5

「加藤中佐、伊吹からハープーンが発射しました!」

「分かった!奴の動きに変化があれば座標修正だ!」

「了解!」

 

加藤はキルゾーンを記した海図とレヴィアタンの位置を見比べた。

 

「そこは今までお前が食い散らかしてきたエサ場じゃあない…」

 

目の前に広がる、死後の世界のような海を睨み呟く。

 

「そこは伊吹の予測攻撃圏内(キルゾーン)。そして、ここがお前の墓場だ」

 

 


クリスティアも恐怖に戦っていた。

レヴィアタンが現れクリスティア以外の人魚達は歌を途中で辞め怯えていたが、クリスティアがそれでも尚歌い続けている姿に勇気つけられ再び歌い出した。

 

楽園であったはずの故郷を破壊し、かけがえのない家族や友人や国民を食らい尽くした恐怖の象徴に憤怒が込み上げる。

 

「同胞の魂がお前を止める!異世界の英雄が、お前を滅すわ!」

 

最後の歌詞を歌い終え、彼女は怒りと悲しみをもって叫んだ。

 

目の前の邪神は、自分の大切な人達を食らい、正気を失い不死の存在になろうとしている。

人魚の肉を食らい心臓を射抜いても蘇るレヴィアタンを滅するには、首を落とすか頭を潰すしかない。

 

ふいに気付いた。

 

(そう、そうなのね...)

 

彼女は微笑む。

 

(ずっと退屈だと思っていた)

 

でも今は違う。

生きてきた意味も、死んでいく意味もある。

 

(アタシ、英雄と共に邪神を倒す宿命だったのかな?ふふ、なんだか伝説の巫女よりも凄いことしちゃってる)

 

悲しみや怒りで昂っていたはずが、今は不思議と心が澄んでいた。

 

例え奴に食べられて死んでも、異世界の英雄達が仇を取ってくれるだろう。

母なる海に還ることができそうだ。

 

ゆらゆらと焦点の合わない目で睨んでいるレヴィアタンに、彼女は戦いを挑むように毅然と向き合う。

 

「貴女達は彼らの攻撃が見えたら直ぐに海に飛び込んで」

「え、は、はい、クリスティア殿下!」

「生きて帰りましょう!」

 

クリスティアの言葉を聞き明るい顔する親衛隊の戦士達。

 

「カトー様!奴の頭を狙ってぇ!」

 

 


風を切る鋭い音が辺りに響き何かが頭上を横切る。

 

それの正体を加藤は即座に理解し無線機に叫ぶ。

 

「まずい、クリスティア!避けろぉおおおお!!」

 

同じく頭上を横切った物体の正体を悟った部下の一人が叫ぶ。

 

「ハープーン飛来っ!」

 

闇の霧を切り裂き、終末航程のマッハ5の速度で突入しホップアップするハープーンの姿が。

 

68式艦対艦ミサイルの後継として開発された主力艦対艦ミサイル。

弾頭重量260kgの榴弾を充填しており強力な破壊力を有している代物だ。

飛翔する4発のハープーンの合計弾頭重量は1トンに達する。それがマッハ5の速度で突入するとなればそれ以上の破壊力に匹敵する。

着弾地点に近いクリスティアらにとっては、起爆時の衝撃波でも即死しかねない危険性があった。

 

 


「今よ、飛び込んで!」

 

クリスティアの掛け声で親衛隊の戦士達は死にものぐるいで海に飛び込んだ。

 

「あ、あれ、クリスティア殿下?」

 

クリスティアの腕を握ってたはずの親衛隊はクリスティアがいない事に気づく。

 

「い、いけない!」

 

時は既に遅かった。

 

 

親衛隊の戦士を逃したクリスティアは目の前の光景を夢のように見つめていた。

時間の流れ方が遅く、目に映るもの全ての動きが緩慢だった。

巨大な顎を開き、自分を食らおうとする正気を失った邪神の顔。

クリスティアが逃した親衛隊の戦士に気付いてないのか、とにかく早く食らいつきたがってるようだ。

 

その顎の中に飛び込む天空から降ってくる1本の神の銛。

それに続き3本の神の銛が体に突き刺さる。

光の尾を力強く滾らせた神の銛は、レヴィアタンは狩れれた魚同然の姿だった。

 

クリスティアに閃光と衝撃波が襲い掛かる。

 

目標を貫徹したと判断したハープーンは弾頭の信管が作動し1トン近い榴弾が起爆した。

1トン近い榴弾の炸裂が起こす衝撃波と爆炎が、あらゆるものを破壊する凶器となった。

 

 


「ハープーン着弾を確認!」

「フェーズ3移行!マイヒメ隊に攻撃開始!トマホーク発射!」

 

「トマホーク発射!」

勅使河原は操作パネルの発射ボタンを押す。

 

伊吹の前部VLSから8発のトマホーク巡航ミサイルが飛翔した。

 

潜航している伊203のSLCM用VLSから、専用のキャニスターに包まれていた水中発射改造型のトマホーク8発が、水中から姿を現しロケットブースターに点火。

ブースターを切り離し安定翼と垂直尾翼を展開し16発のトマホークがレヴィアタンに向けて飛翔した。

 

 


『フェーズ3開始!マーヴェリック、2発発射!全機、攻撃開始!」

 

マイヒメ隊こと第30戦闘攻撃飛行隊の流星10機はレヴィアタンへの攻撃を開始しようとしていた。

 

51式空対地ミサイル“マーヴェリック”は地上の固定目標を攻撃するミサイルだ。

射程300km、堅牢な建物を確実に破壊するため、弾頭重量115kgに相当する成形炸薬タンデム弾頭を搭載している。

流星にはマーヴェリックが4発搭載されており、その内2発はフェーズ3で発射され、残りの2発はフェーズ4で発射される事になっている。

 

マーヴェリックには、現地の観測部隊からもたらされたレヴィアタンの位置と距離が入力されている。

後は発射すれば、入力されたデータを元に自律してレヴィアタンに向け飛翔するだけだ。

 

『マイヒメ1、FOX3!』

『マイヒメ2、FOX3!』

『マイヒメ3、FOX3!』

『マイヒメ8、FOX3!』

 

マーヴェリックのターボジェットエンジンが点火し、流星10機の翼から20発が発射された。

マッハ2.7にまで加速したマーヴェリックは100km先に居るレヴィアタンに向け一直線で飛翔する。

 

『こちらマイヒメリーダー。マーヴェリック発射。現場空域にて飛行待機する』

『こちら伊吹。了解した』

 

 


ハープーンの着弾によって頭部の大半と体を抉られたレヴィアタン。

レヴィアタンは逃げようとしていたが体が思うように動かない。

 

抉られた頭部には辛うじて残った焦点の合わないレヴィアタンの目に空から飛来するオレンジ色に光る物体が映った。

 

トマホークとマーヴェリックに搭載されている赤外線誘導で、ハープーンの着弾で高温化したレヴィアタンを探知し突入してくる。

双方合わせて36発のミサイルがレヴィアタンの息の根を確実に止めようとしていた。

 

最初に着弾したのは流星から発射された20発のマーヴェリックだ。

ハープーンの攻撃で既に傷ついたレヴィアタンの体に次々と着弾し高温高圧のメタルジェット噴流と爆発が襲い掛かる。

 

マーヴェリックに遅れて16発のトマホークが着弾し、辛うじて残っていたレヴィアタンの頭部にも着弾し完全に粉砕した。

 

 


クリスティアの眼前で邪神が炎に包まれた。

異世界の英雄が放った神の銛が全てを焼き尽くさんとばかりに浄化の炎を出していた。

邪神の頭が完全に消し飛び、巨大な炎と衝撃が彼女に襲い掛かる。

 

自分は死ぬのだと彼女は理解した。

恐怖はなく役目を終えることができ安堵感だけが胸に残る。

 

(良かった...)

 

彼女は心の底からそう思った。

 

(みんなを逃すことができたし、先に逝ったみんなのところへ胸を張って行ける...)

 

そんな事を思いながら目を閉じようとしていた。

ふと、燃え上がる炎の塊と化した邪神を目にした。

中から溢れて来る“何”か。

 

(...え?)

 

天に向かって昇る、淡く儚げに光る無数の光の筋。

 

(あれは...あれは...!)

 

クリスティアは身を乗り出し光を見つめた。

 

「レヴィアタンに食べられた人魚達の魂の灯火...!」

 

天へ昇っていく魂の灯火に向かってクリスティアは叫んだ。

 

「待って!もう少しで私も一緒に行くからっ!」

 

あそこには皆がいる。

子供の頃遊び相手になってくれたお姉さん、自分の頼みで武芸の稽古をおっかなびっくりつけてくれた戦士、幼馴染だった同い年のあの子...

 

『━━いいえ、我らは姫様とはご一緒できません』

「え...?」

 

誰とも知れぬ優しい声が、彼女の脳裏に直接語りかけて来た。

邪神から溢れ出る光の筋が、一つの光となって彼女を包み込む。

 

「待って!!私は━━」

『諦めるのですか?』

「え...」

『あそこまでして貴女を守ろうとしている人達を、貴女に着いてきた人達を置いて、諦めるのですか?』

「え...?」

 

クリスティアは促されるように振り返る。

 

「…カトー様?」

 

振り返った先には仲間に取り押さえながら戻ろうとする親衛隊の戦士。

そして、部下に取り押さえながら、必死になって叫ぶ男の姿。

 

声は聞こえないが、彼は何を言ってるのかは分かった。

 

“クリスティア”

 

自分の名を必死になって呼んでいる。

 

自分捨て駒やエサとしてここに置いた訳ではなかった。

レヴィアタンを倒すためにそうするしかなかったのだ。

 

そんな彼が自分の作戦のせいでアタシが死んだと知ったら…

 

あの人達は見ず知らずの自分達の為に来てくれた。

逃げたい気持ちを抑え、自分と一緒に歌を歌った。

 

見返りも求めず、至宝である人魚の肉さえ断り、命を懸けてくれた。

自分が死んだらきっと悲しむのだろう。

守るべきものを守れなかった。

悔いるだろう。

 

「ねえ…」

 

包み込んでいる仲間達の魂を抱くようにして彼女は呟いた。

 

「私は、生きていいの…?」

『我らが死したのは、ただ貴女に生きて欲しかったからです』

「そう…」

 

時間がないのを分かっていながらも、沈黙せずにはいられなかった。

全てを振り払う決意を胸に顔を上げた。

 

「英霊達よ、あなた達の死は無駄ではなかった。私は巫女として永遠にあなた達を悼み続ける」

 

彼女は伝説の巫女のように毅然とし、仲間達の思いに応える。

今度は自分の番なのだ。

自分はあの人と同様に過酷な命令を下す。

 

「だから最後に、あの人達のために…」

 

部下に止められ、子供のように叫ぶ彼の姿を見る。

あの人のために、自分は生きなければならない。

小さな息をつき、吐息と共に言った。

 

「私を守ってください」

 

 

 

 

 

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