ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜   作:匿名

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戦海にたゆたう歌6

「くわぁっ!!ダメだわ!防ぎきれないっ...!」

 

障壁魔法を詠唱していたディアナは苦悶の表情を浮かべた。

クリスティアとレヴィアタンの距離はあまりにも近かくハープーンの爆風をもろに食らってる。

 

「くっ...このっ…魔法騎士を舐めんじゃないわよおぉぉぉぉぉ!!」

 

彼女は若いが優秀な魔法使いだ。

そんな彼女が全てのエネルギーを出し切るため命を懸けながら踏ん張っていた。

 

功を奏したのかハープーンの爆風には耐えれたが、フェーズ3で発射された36発のトマホークとマーヴェリックの爆風を防ぎ切ることができず、ガラス玉が砕け散るような感覚に襲われ障壁魔法が破れた。

 

「あうっ!?」

 

彼女は、その反動で跳ね飛ばされ地面に叩きつけられた。

美しかった彼女の光沢で輝いていた紫の髪は雪のような白に、赤色の瞳も水色に変わり、顔は少しやつれていた。

 

「ディアナ!?」

「ああ、なんてこと!こんな姿になってしまって!」

「しっかりしろ!」

「救護班!」

「カフティア、お前の魔力をディアナに分けてくれ!」

 

水兵と騎士達が慌てて彼女を抱き起こす。

 

変わり果てたディアナの介抱に気を取られる中、加藤がへたり込んで爆炎に遮られた風景を見つめていた。

 

部下と揉め、爆風に煽られ、黒い鉄帽は脱げ、洋上迷彩服はボロボロになっていた。

 

自分の立てた作戦で非戦闘員を死なせてしまった。

レヴィアタンの習性上仕方ない事だった。

理解していたし覚悟もしていた。

苦痛を感じないわけがない。

 

「クリスティアァアアアアアア!!」

 

89式小銃を投げ捨て不安定な岩礁に向けて走った。

 

「クソっ!くそっ!なんでだ!?なんでこんなあっさり…」

 

あれだけの爆風を受ければ誰でも死ぬのは分かってるはずだ。

自分を殴りたい衝動に駆られた。

走るのをやめ、歩くのもやめた。

 

(死体を探したところで、見つからないのは分かってるはずだ…)

 

膝を突きメガネを外した。

 

『加藤中佐!伊吹から通信が…』

 

防弾チョッキに装備している無線機が鳴り立てている。

 

「こちら、加藤」

『加藤中佐、現在そちらに駆逐艦が最大戦速で向かってます!そちらに状況はどうなってます?』

「...目標、頭部を失い沈黙。死亡確認の為、駆逐艦に速射砲の砲撃を要請」

 

フェーズ4の死亡確認の任務を思い出し要請する。

頭部を失ったレヴィアタンは誰の目から見ても死亡してるのが分かる。

頭部を失っても生存してる事例もあるので念の為、砲撃して反応が無いか確認する必要があった。

 

加藤の近くにはクリスティアに着いてきた人魚達が彼を見ていた。

彼女らは、加藤の事を恨むような目で睨んでいた。

彼が考案した作戦でクリスティアは死んだ。

間接的に殺したも同然だった。

 

加藤は彼女らの視線に気づいた。乾いた笑い声で「仕方ないか」と呟いた。

 

「すまなかった…約束だ。僕だけを憎んでくれ..」

 

加藤は力無くへたり込む。

 

「何を謝ってるんですか?」

 

クリスティアの声がし加藤は幻聴ではないかと疑った。

だが、人魚達も同様だった。

クリスティアの声が聞こえ信じられないと言う顔をしていた。

 

ちゃぷんと音がした方を見ると岩礁の波間に、彼女の顔がこちろ覗いていた。

彼女の顔色は死者のそれではなく、生者の顔色そのものだった。

 

外していたメガネを慌てて掛け直す。

 

「くりす、てぃあ…?」

 

加藤は呆けたように呟く。

 

「ク、クリスティア陛下...?」

 

人魚達は彼女の名を呼ぶ。

直後、人魚達から歓声の声が上がり彼女の元に駆け寄る。

 

「クリスティアァァァアアアア!!」

 

加藤は思わず海に飛び込み彼女の元へ駆け寄る。

 

彼女は親衛隊の戦士に囲まれたながら加藤の元に寄る。

 

「ほ、本当に、生きてるのか?」

「ええ、生きてますよ」

 

加藤は彼女の答えを聞き安心感に浸る。

 

その後、加藤は頭の中であることが過ぎる。

 

あの爆風の中から、どうやって生還したのか?

ディアナの魔法障壁が効いていたのか?

謎が深まるばかりだ。

 

彼女は、背後に横たわる動かぬ邪神を振り返る。

 

「ね、見える?」

「え?」

 

加藤は、彼女が“見える”と言うものを探した。

 

「あ、あれは…」

 

加藤が見つけ出し息を呑む。

 

「みんなが、アタシを守ってくれたんです」

 

彼女の頬を涙を伝い海にポタポタと落ちる。

 

空へと昇っていく、レヴィアタンの犠牲になった無数の人魚の魂━━

 

親衛隊の戦士もそれに気付いた。

それを見て泣く者や、思いを馳せる者など様々であった。

あの無数の魂の中に、クリスティアや彼女らと親しかった家族や友人や同僚がいるのだろう。

 

加藤はその光景を見て神秘性を感じていた。

 

彼女の横顔には悲しみと慈愛を浮かべていた。

 

加藤は、ふと我に振り返る。

今、自分は何をすべき立場だ?

 

(そうだ、そうだった)

 

クリスティアに支えられながら姿勢を正す。

 

(国防軍軍人らしくない事で有名な僕だけどさ…)

 

加藤は海軍式敬礼をする。

 

(今くらい、国防軍軍人らしくいなきゃなあ)

 

守るべき者を守った者達へ、軍人として、同じく海に関わる者として礼を尽くす。

クリスティアが魂に向け、静かに鎮魂歌(レクイエム)を歌い始める。

 

 


「DDS139から通信!」

 

伊吹CICで通信長が周りに聞こえるように叫ぶ。

その場に居る水兵や騎士達は息を呑む。

 

「レヴィアタンの死亡を確認。地上部隊、協力者双方に死者はなし!」

 

蕪木はそれを聞きニヤリと笑う。

 

「フェーズ4の終了を確認。オペレーション“セイレーン”の終了を宣言する」

 

蕪木の作戦終了宣言を聞き、CICは歓喜の声で沸き上がる。

伊吹の水兵は階級や年齢を忘れて喜び合ってた。

 

「勝ったんだ、俺たち勝ったんだ!」

「今日は晩餐だぁ!」

「いつもより飯が美味いぞ!」

「艦長!祝杯の酒を挙げたいです!」

 

勅使河原は作戦の成功と全員生還の報告を聞き嬉し涙を流す。

 

同席していたヴィルヘルミーネと内地軍・水軍の騎士と水兵も喜び合ってた。

 

「やりましたよ!ヴィルヘルミーネ殿!」

「ああ、全員生還して何よりだ」

 

ヒラガルとヴィルヘルミーネが抱き合いながら喜んでいた。

 

「なお、内地軍から負傷者が1名出ており、伊吹へに収容を要請しています」

 

それを聞いた内地軍の騎士が「えっ!?」と言う顔をしていた。

 

「分かった、すぐにヘリを飛ばすように飛行小隊に伝えろ!」

 

負傷者である内地軍の魔法騎士ディアナを伊吹に収容するため、格納庫から1機の79式哨戒ヘリコプター“シーホーク”が離陸準備に取り掛かる。

 

「負傷者以外の地上部隊はDDS139で帰還します!」

「分かった。終了宣言を全艦内、全艦隊、全部隊に伝えろ!」

 

通信長は嬉嬉しながらマイクで全艦隊全部隊に伝える。

 

 

伊203発令所

「レヴィアタンの死亡を確認!オペレーション“セイレーン”終了!」

 

攻撃型潜水艦伊203の発令所で作戦終了の方向を受け取った通信長が叫ぶ。

伊吹同様、歓喜の声で沸き上がっていた

 

「やったな」

「ええ、艦長。やりましたっ…!」

 

伊203艦長の五十嵐が静かに喜んでいた。

 

「今日の晩飯にケーキ追加決定だな」

「やったあああ!!」

「勝利のケーキだあああ!!」

 

 

第30戦闘攻撃飛行隊マイヒメ

『マイヒメリーダーより全機へ。レヴィアタンの死亡を確認。作戦終了、帰投するぞ』

 

飛行隊でも伊吹同様、歓喜の声で沸き上がっていた。

 

『よしっ!!』

『やったぜ!』

『ヒャッホウウウウ!!』

 

流星の狭い機内でガッツポーズを決める者や、喜びのバンクをする者などで喜んでいた。

 

『作戦成功の暁に貴様らに、嗜好品のスタドールのコーヒーを奢るぞ』

『飛行隊長の奢り!?やったぜ桐生ちゃん!』

『ゴチになります!』

『隊長の財布を空っぽにするぞ!』

『こちろマイヒメ。桜龍PFC、聞いての通りだ。これより桜龍に帰投する、RTB!』

 

第30戦闘攻撃飛行隊の流星10機は、母艦である桜龍に向けて帰投する。

 

 

伊吹の艦橋内ではCICからの艦内放送を聞き、情報参謀である新谷が拡声器を手にウィングに出る。

新谷もオペレーション“セイレーン”の考案者の一人だ。

 

ウィングから見える眼下には、水底の王国の人魚達がじっと待っていた。

クリスティアの母であるフランシア女王が作戦開始からずっと、祈りの言葉を唱えていた。

 

新谷は作戦の成功と失敗、クリスティアらの生存と死亡を彼ら彼女らに、直接伝える事が役目だ。

 

ウィングに現れた新谷の姿を見た、水底の王国の人々が緊張の面持ちになる。

 

『DDS139からレヴィアタンの死亡を確認!クリスティア姫含む地上部隊全員無事です!蕪木司令よりオペレーション“セイレーン”終了を宣言しまぁすっ!』

 

新谷の報告を聞き水底の王国の人々が歓喜の声を上げた。

フランシアの憑かれたように口にしていた祈りの言葉も途切れた。

これほどの純粋な感動を一つに国が共有する事などそうそうない話だ。

 

『現在、クリスティア姫らはDDS139に搭乗してこちらに帰還します!しばしお待ちください!』

 

新谷は報告を終わった直後、事切れた人形のように倒れかけ、水兵が彼を支える。

新谷も、罪悪感と極度なプレッシャーとストレスの中で作戦の行く末を待っていた。

 

クリスティアら水底の王国の人々はそんな新谷を見てざわめいていたが、水兵に支えられながら新谷は自分は無事だと言うアピールをする。

 

 

 

 

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