ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
隕石をピンポイントで落として来る世界だからインディペンデスデイやエスコンみたいなマザーシップやアーセナルバードが出てきてもおかしくなさそうですネクロマンサー
「知らない、天井だ」
意識がはっきりしたヴァレンの開口一番の言葉。
天井は見慣れた営舎や宿屋の物ではなく、緑色の妙な素材でできた天幕だった。
天幕内には、魔法光を宿した古代遺跡の灯りのような物がぶら下がり、内部を明るく灯していた。
「っ!?」
彼女は自分の腕に何か取り付けられているのに気がついた。
細い管だ。
管は関節の近くに粘着性のある紙片で固定されていた。
管がの先を目で伝い、何が着いているのか理解し悲鳴をあげた。
「ひいっ!?」
針だった。
針が自分の腕に刺さってるでは無いか。
彼女は青ざめながら管がどこに伸びてるのか目で伝うと、頭上の帽子がけのような物に取り付けられた奇妙な袋と繋がっていた。
見たこともない文字と3つの紋章が書かれた半透明の袋にの中には、水のような透明な液体が詰まっていた。
液体は自分の体に流し込まれてるらしい。
ヴァレンは顔面蒼白になった。
既に死後の世界に居ると思っていたが、ここは死んだ者をアンデッドとしてネクロマンサーに作り変える工房だ。
ネクロマンサーは、人間の血と呪われた薬剤が混じった獣の血に置き換えた強化型のアンデッドだと聞く。
袋にある見たこともない文字は呪詛の印なのだ。
「っ...!部下達はどうなってるのだ?」
キュクロプスの戦いで重傷を負ってるはずだ。
自分と同じく助からない怪我ばかりだった。
彼女は身を起こし周囲を見渡す。
「マリド!?」
隣のベッドにはマリド達がベッドで横たわっており、ネクロマンサーに作り変えられようとしているところだ。
マリドに至っては酷く口に覆いのようなものが取り付けられ、胸には細い線が取り付けられていた。
それに繋がっている、ベッドの横のG.L.S(グレート・レイクス・システムズ)と言う見たこともない文字が書かれた箱から規則的な音を立てていた。
「今助けてやるからな!」
彼女は自分の腕に刺さっている針を抜き、よろめきながらなベッドに横たわっている部下の元に歩み寄る。
奇妙な音を立てる箱を引き倒そうと手を伸ばす。
「いけません!」
しかし、少女の声でヴァレンの行動を止めた。
「お、お前は、光母教の司祭ではないか...?」
ネクロマンサーの工房には不釣り合いな光母教の司祭だった。
ヴァレンは光母教の敬虔な信者だった事もあり、毒気を抜かれてしまった。
「はい、リュミと申します」
神官はそう名乗る。
「りゅ、リュミ司祭!そんなところで突っ立てないで手伝ってくれ!部下が、部下がアンデッドにされてしまう!」
リュミは取り乱しているヴァレンを面倒そうに見上げていた。
こんな所業を前に神に仕える少女が平然としているのか、ヴァレンは理解できなかった。
「誤解なされてるようですが、ここでそんな目に遭ってる人は一人もいませんよ?」
「え、え?で、でも何か得体の知れない物を取り付けられて...」
彼女はヴァレンに取り付けられている得体の知れない物を指す。
リュミはゴソゴソと書類を探していた。
「その人は、“かるて”によると峠を超えたそうです。私も癒しの魔法をかける予定ですので、その“せいめいいじそうち”には触れないようにお願いします。話によると相当高価な代物らしいです」
リュミはにっこりと笑う。
聖女の笑顔だった。
ヴァレンはその笑みに一瞬、リュミの言葉を信じてしまいそうになる。
そんな彼女を尻目に、リュミは重傷者のベッドを回り治癒魔法をかけていく。
「私の怪我は、貴女が治癒してくれたのか?」
「いいえ、私は“しゅじゅつ”後の治りを早めただけで大したことはしていません」
「しゅ、ずつ?」
彼女の頭は理解するのに追いついていなかった。
そんな彼女を見兼ねて、リュミはやれやれと立ち上がり結論だけを言う。
「貴女の部下は、全員一命を取り留めたんですよ」
ヴァレンはガクリと膝を付く。
怪我から立ち直ったからではなく脱力したのだ。
全てを失い、誰にも申し開きできない失敗を、部下を無意味に死なせた罪を負ったと思ったからだ。
「生きているのか?」
「はい。生きてるんですよ」
「神が...救いたもうたのか...?」
「違いますよ。神が遣わしたあの人達に救ってもらったのです。彼らを招きたもうた神の導きに感謝を、差し伸べられた手に恩義を...」
ヴァレンは自分が泣いている事に気付き、リュミがそんな彼女を優しく抱きしめる。
「リュミさーん、何の騒ぎですか?あら、患者さん目を覚ましたんですね。動き回れる程元気で何よりです。先生呼んできますね」
国防軍野戦病院の女性衛生兵が、ヴァレンをベッドに寝かせて腕に点滴針を刺し直してから、上官の元へ向かった。
数日の時が流れ、ヴァレンが寝るベッドの横でパイプ椅子に腰を下ろしているユラウスが、お見舞いで持ってきたルマスの皮をナイフで剥いていた。
「死に損なったようだな、ヴァレン」
「...うるさい」
ユラウスは彼女の面会でやって来たが、元気な姿に苦笑していた。
「死に損ないどころか、一番回復が早いのが私らしい」
顔を赤くするヴァレンに、ユラウスは唖然とする。
「いいことじゃないか?」
「よくない。まるで一番軽い怪我だったかのようだ」
「そんな事は思わない。生きる意思が強かったのだ。リュミ司祭も言っておられた」
「...リュミ司祭は、あの帝国軍奇襲の戦いの中で、ルーントルーパーズと出会ったらしいな」
「そのようだ。我が国の中で彼らと一番古い付き合いだ」
「お主は人魚の海へ行き、そこで彼らを知った」
「そうだ」
ユラウスはあの航海で体験した事を語り出した。
レヴィアタンと真正面からの戦い、ルーントルーパーズが世界のバランスを崩しかねない力を持っている事など。
ヴァレンは怪我を負う前ならば、世迷言と言い切って話は聞かなかったが、今となっては半信半疑くらいには聞く意思が生まれていた。
「教えてくれユラウス。私は間違っているのか?」
「いいや、間違っている、いないの話では無い」
ユラウスは少し考え、自分自身への言葉のように口を開く。
「何を信じるかだ。俺はルーントルーパーズが世界の在り方を変えていく程の者達だと思った。真の騎士道を見出したのだ。リュミ司祭は司祭で彼らに信仰の新たな道を見出そうとしている。彼らへの評価は一様では無い」
ヴァレンは天井を見上げる。
「私は...」
このところ、考えていた事があった。
騎士として、これから生きていくこととして避けて通れない道。
「救ってもらったことに報いねばと思っている」
「それもまた道だろう」
彼女は乙女のように枕に頬を少し埋めた。
「私は、彼らへの恩義を返す中で誤りはしないだろうか」
「そんな不安があるなら、はなからその道を選ばないことだ」
「強いなお前は...」
ルマス(リンゴ)