ルーントルーパーズ〜国防軍漂流戦記〜 作:匿名
巡洋艦伊吹の会議室では、国防軍3軍の将校を集めた会議が開かれていた。
「艦隊及び地上部隊の懸念事項についてです」
この会議では、異世界に転移してから先が見えない状況を打開する策を見つける事だ。
「率直に申し上げまして、燃料の備蓄について考える必要があると判断します」
腕を組み、目を瞑っていた蕪木が尋ねる。
「...現状、あとどれぐらい燃料は保つ?」
加藤は調査内容を纏めたタブレットに視線を落とす。
「海軍に関しては、AD動力炉搭載艦は去年燃料棒を交換したばかりなので18年、ガスタービン搭載艦は長距離航海予定で、補給艦には相当量の燃料を搭載してるので1年は保ちます」
加藤が間髪入れずに「ですが」と言い放つ。
「ガスタービン搭載艦に関しては大規模な使用が無いことを想定した1年になります。機動戦と言った激しい使い方をした場合は半年しか保ちません」
加藤に続いて陸軍・海兵隊の混成遠征軍の後方参謀が前に出る。
「混成遠征軍です。電撃戦と言った大規模な作戦がない限り半年は保ちます。こちらも大規模な作戦が発動した場合は3ヶ月しか保ちません」
期限を突きつけられた国防軍3軍の将校達は苦い顔をする。
「...石油でも精製するか」
「この世界の文明度なら原油は手付かそうね」
「短絡的に考えればそうなりますね」
海軍将校達の呟きに加藤は苦笑しながら答える。
「原油を確保したとしても精製する技術や設備はどうするんだ?」
「桜龍の艦内工廠は...どうですかね?」
「ウチに周南や四日市のコンビナート施設を作る能力があるとでも?艦や艦載機の簡単な部品ぐらいしか作れんぞ」
DDS116の艦長が提案するが牛込がすぐに否定する。
「それに航空機の燃料なんか厳しい規格で精油しなければならない。不純物があれば一発でアウトだ」
「戦車や装輪戦車の燃料も同様です」
「資材はあったとしても、そんな高度な設備を作れる技術はありませんねぇ…」
桜龍の航空機整備科長や遠征軍後方参謀、遠征軍工兵参謀もそれに続く。
「蕪木司令はどうお考えでしょう?」
加藤は派遣艦隊最高指揮官である蕪木に意見を求める。
「どこに原油があるかわからないからな。石油精製はは一旦後にしよう。だが、燃料は息をするように使用せねばならん」
燃料は全く使わないと言う考えはなかった。
対空・対水上・対潜警戒のためガスタービン搭載艦であるミサイル巡洋艦やミサイル駆逐艦、ピケット艦的側面を持つ駆逐艦に搭載されている、三次元レーダーや各種ソナーを動かすだけでも凄まじい電力を消費する。
その電力をを発電するために燃料を消費しなければならないからだ。
国防陸軍や海兵隊の戦車や装輪戦車もガスタービンエンジンを搭載している。
構造が単純でコンパクトかつ戦車のエンジンとしては大出力だが、燃費が極端に悪く燃料を大量に必要である。
移動時や戦闘時よりアイドリング時の方が燃費が悪く、燃料を大量に消費しなければならない。
「蕪木司令、私から提案があります」
「何だ、森脇艦長」
「
「海軍電力供給システムか?」
海軍電力供給システム
都市1個分の発電能力を有するAD動力炉搭載艦に標準装備されている電力供給システム。
災害時に送電所や発電所と言った電力施設が機能しなくなった際に送電ケーブルを介して避難所などや行政機関、病院に自艦の電力を供給できるようになっている。
地上以外にも他艦艇にも電力を供給する事が可能となっている。
「今のように長期停泊時にAD動力炉搭載艦からガスタービン搭載艦に電力を供給すれば燃料の消費はある程度抑えられると考えています」
「それをしたら動きが限定される上、敵が奇襲してきた際即応できないぞ?」
「でも、対艦ミサイルや音速機を相手にするよりはマシだと思いますよ?」
蕪木の言う通り、動いてないと言う事は狙ってください、とアピールしているような物だ。
それに反論したのは、ミサイル駆逐艦“初音”の高砂艦長だ。
マリースア戦で、対艦ミサイルや音速機より遅い低速目標の竜を相手にした事もあり余裕が出ていた。
蕪木は高砂の楽観的な発言に危機感を覚える。
旧ソビエト連邦や旧ヘルヴォルカ帝国が相手を楽観視した結果、旧ソ連が領土の3分の1を失い、旧ヘ帝は国土の大半が焼け焼け野原となり敗戦した。
楽観的な考えが国防軍内に広がれば危機感が疎かになり予想打にしない損害を被る可能性も捨てきれないからだ。
「森脇艦長の案で海軍電力供給システムで燃料を節約しよう。だが、相手が我々より弱いからと言って決して驕るな。対空・対水上・対潜は一層警戒せよ。異論はないか?」
「司令、電力を供給するプラットフォーム艦は、伊吹や羽黒などのAD動力炉搭載の戦闘艦はいつでも即応できるように、AD動力炉搭載の強襲揚陸艦やドッグ型揚陸艦に限定すべきです」
「分かった。そうしよう」
蕪木は他に異論はないか周囲を見渡す。
今の所、燃料の確保と節約の打開策が森脇の案しかないので異論はなかった。
「異論はないようですね。それで行きましょう」
加藤は打開策案が決まったので、タッチペンでタブレットに今後の電力供給プラットフォームの選定について書き込む。
「次に、この世界の地図の制作についてです」
この世界で活動するにしても、地図は必要だ。
陸上戦力を展開する際、地形や気候によって作戦に影響する自然地理的要因。
打撃作戦で、首都や軍事施設、交通網、工業施設を攻撃し敵の継戦能力を奪う人文地理的要因。
簡単な話、自軍に有利かつ効率的に作戦を進めるのに地図が必要なのだ。
「戦略空母桜龍の艦載機による航空写真の撮影の元、簡易的な地図の作成を予定しています」
「問題は地図作成範囲はどこまでにするかです」
地図を作成するにしても、範囲は無制限にすべきか限定的にすべきかが問題だ。
「無制限は世界地図の作成ですね。ただそれをすれば長距離航海とななります。食糧を補給するににしても寄港できる港はありません。桜龍を守る護衛艦も長距離航海に追随できる艦に限定されます」
この案には将校達は苦い顔をする。
世界地図の作成となると長距離航海となる。
AD動力炉搭載艦である空母桜龍なら不可能ではない。
だが、浮き彫りになる問題は食糧の補給と護衛艦の追随が挙げられる。
世界の隅々まで行くのだから、食糧は相当量が必要だ。
それだと艦内の備蓄や補給艦の備蓄では足りなくなるので、他国の港に寄港して食糧を補給する必要がある。
地球ならまだしも、この世界に自分達に食糧を分けてくれるのはマリースアしかいない上、補給の対価が必要になる。
護衛艦に関してもガスタービン搭載艦は燃料を消費しなけえばならないので、桜龍と同じAD動力炉搭載艦が護衛するのが必然だ。
派遣艦隊にあるAD動力炉搭載艦なら護衛するのに十分だが、セイロードに残る艦隊の戦闘力は弱体化する事になる。
セイロードに残る艦隊の戦闘力もこの世界の空海軍相手なら、十分圧倒的ではあるが、レヴィアタン相手だと苦戦する事になる。
加えて艦載機の燃料も相当量を消費しなければならない。
「現実的ではないな」
「ええ、今の艦隊にはそんな事をする余裕はありません」
「次に局地的な地図の作成についてです。こちらはマリースアとルーイエ大陸に限定した地図になります。この案は短期間で地図を作成できる事、セイロードに残る艦隊戦力の弱体化も抑えれる上、護衛のガスタービン搭載艦の燃料消費も抑えれます」
「現実的だな」
「マリースアは陸軍のヘリと海兵隊の火龍、ルーイエ大陸は海軍の流星で分担できますね」
この案には将校達の顔は明るくなる。
DDS116の艦長が気付く。
「ルーイエ大陸って…」
「ええ、フィルボルグ継承帝国の支配地域です」
「交渉は無理なのか?」
ルーイエ大陸。
世界の継承者となる国家“フィルボルグ継承帝国”が支配する大陸。
先の戦いで、国防軍と戦端を開いた国家。
「話によると、あの国家の性質上、我々を全力で潰しにかかると思われます」
「フィルボルグ継承帝国は、国防軍の地球帰還のための手段を手に入れるため、先制攻撃を想定して地図作成の対処地域に入れています」
「ニョルゲニアが良い例だな」
帝政ニョルゲニアは、天の川銀河全域を支配するため、“ニョルゲニアこそが正当なる支配者”と宣言して各恒星系に侵攻し手中に収めようとしていた。
太陽系もご多分にもれず侵攻したが、地球側連合軍の予想以上の抵抗に面子を潰され、ニョルゲニアは戦力の8割が喪失するまで戦い続けていた。
「元の世界に帰るためなら手段は選ばない...現実は非常ですね」
DDS116の艦長の嘆きに将校達は同意する。
「地図作成は後者にしよう。マリースア側は陸軍・海兵隊が担当、ルーイエ側は海軍が担当とする。艦隊は選定と日程が決まり次第、直ぐに着いてくれ」
「了解しました」
「作戦名はどうしましょう?」
「“平行世界における国防軍の活動円滑化のための地図の作成網”となっています」
「名前が長いな。地図作成作戦は子供っぽい」
「1858作戦はどうでしょうか?世界初の航空写真が1858年のようです」
「異世界初の航空写真と言うことか。いや、その前に
「まぁ、別に良いんじゃないですか?あの時は作戦名を考える余裕はありませんでしたし」
途中から和やかな雰囲気になるも、地図作成についての方針も決まる。
「混成遠征軍からもよろしいかな?」
緑と青と砂色のデジタル迷彩服を着込んだスキンヘッドでサングラスをしている海兵隊将校が声を上げる。
第2陸軍遠征旅団と第1海兵遠征軍の混成遠征軍最高司令官である栗林秀明海兵少将だ。
「王都セイロードに展開している地上部隊は、ゴーレム以来6回の害獣駆除と言う名の市街戦に駆り出されている」
「負傷者は10人、物品の被害は陸軍の01式装輪装甲車のRWS1基、60式高機動車2両、海兵隊は80式装輪戦車1両が損傷しています」
キュクロプス戦で01式装輪装甲車のRWSと60式高機動車のフロントガラスを、ミノタウロス戦で80式装輪戦車のサイドスカートと60式高機動車が横転する損害を被っていた。
「弾薬はフライングマーチⅣを12発、ヘルファイアを8発、対戦車榴弾を16発、30mm砲弾を400発、小銃弾・機関銃弾を1000発近く消費しています」
栗林と遠征軍情報参謀と遠征軍後方参謀が現状を報告していく。
「地上部隊の弾薬の残弾は大丈夫なんですか?」
「弾薬の残弾については、礼文とAFT2隻に腐るほどあるから問題ないが...」
加藤の問いに土居陸軍准将が答える。
「我々としては、部隊全滅と言う事態は避けたいのだ。一刻も早い事態の終息を期待しているのだが、その動きすら見えない」
栗林は土居の言葉を繋ぎ結論を出す。
「こうなったら憲兵隊を出して独自で捜査させますか?」
「その手もあるが、
「そもそも、奴らは信用できません。嘘の情報を提供してくるかもしれないですよ?」
「水軍派の水軍は海が活動範囲が海だからな。情報なんかないだろう」
「マリースア政府に圧力かけてもらって提供させるのはどうでしょう?」
陸軍・海兵隊将校の議論を横目に、加藤はこれまで起きた害獣騒ぎの報告に目を通す。
6回のウチ4回は同じ小隊が出動しており、小隊長の名前に見覚えがあった。
久世啓幸陸軍少尉
王城戦で自分の命を預けてもらい、共にマリースア滅亡の危機を回避させた戦友だ。
「久世少尉、特にあの人の部隊はよくやってくれているようですね」
「若いが、なかなか見どころのある陸軍将校だよ、奴は」
土居が巨体を揺らして笑う。
加藤は久世が上司受けが悪い訳では無い事に安堵する。
「久世少尉、異世界の人間ともパイプを持っているようですし、動いてもらうのはどうです?」
陸軍・海兵隊将校は「その手があったか!」と言う顔をする。
「完全に忘れていたが、持っていたよな」
「貴族、聖職者、エルフ、騎士、民間人...でしたよね?」
「えぇ、報告書には“現地人との関係構築が誰よりも早く、協力者の多くが彼を介した人間であることを特筆したい”と書いてありますね」
陸軍将校の表情がどんよりとなる。
「この報告書をあげたのは板井香織だな」
「久世少尉の上官が彼女なので間違いないでしょう」
若くして陸軍大尉に上り詰め、40歳には陸軍大臣、50歳には国防大臣と言われている板井香織。
実績こそあれ、一歩間違えば干されてもおかしくない行動を過去に幾度となくあった女。
陸軍将校達の脳裏には「おおーほっほっほっほっほぉ〜!使えるものは、とことん使うのですわ〜」と高笑いする彼女の顔が容易に想像できた。
「何だろう...
「俺なんか縦巻きロールだぞ?」
「久世の奴、板井大尉の無茶振りをそれなりの形でこなすもんだから、変に気に入られちまってからに...」
加藤はどこも大変なんだなぁと、暢気な感想を抱く。
「決まりで良いのかな?」
「まあ、海軍としても海から害獣が来る可能性もありますし」
「陸・海兵隊の憲兵隊にも協力させよう」
「そうなると、陸軍から憲兵を4人出向させましょう」
「海兵隊も4人ですね」
「決まりだな。土居准将と習准将、人員の選定を頼む」
そうして蕪木ら上級指揮官達の決定により久世は害獣騒ぎの調査をする事になるなのは、まだ知る由もなかった。