「......わんもあぷりーず?」
「まったく、あなたの耳は言葉が理解できないほど退化してしまったのかしら?」
ひどいことを言われた気がしたが、それはどうでもいい。
なぜなら俺は今、とある一つの野望が成し遂げられるかという瀬戸際だ....!
「もう一回!」
「だから、一人で人里に買い物しに行ってきなさいと言ってるのよ」
「Yaaaaaa! Haaaaa!」
「うるさい」
俺がこの後殴られたのは言うまでもない。
ーーーーーーーーーー
「にしても、いきなりなんで?」
「あなたもだいぶ紅魔館に慣れてきたし、そろそろ買い物の一つもできないようじゃ不便だからよ」
俺は自分の部屋にあるベットに座りながら昨夜さんの言うことを聞いていた。
というのも、今日も普通に起きて『さあ仕事するぞ!』と思ったときに昨夜さんが部屋に入ってきて『今日は人里に行ってもらうわ』なんて言い出したのだから。思わず聞き返した俺は悪くないと思う。
「ふーん。ちなみに、俺がそのまま紅魔館から離れてどっか別の場所に暮らしたりしたら?」
「別になにもしませんわ」
あら?
俺はてっきり『裏切り者には死を』的な感じでサーチアンドデストロイ的な感じになると思ってたんだがーー
「ですが、その場合は手足を動かせないようにした状態で妹様の玩具となることになりますが」
「十分になにかあるじゃないか!?」
笑顔で死刑を宣告する咲夜さん。最初っから離れるつもりなんてなくて冗談で聞いたのだが、どうやらシャレにならないことになりそうだ。
ああ、そうそう。俺はもう紅魔館に住み着いてもいいと思ってる。外の世界に行く方法はいづれ見つけようと思っているが、少なくともこの幻想郷にいる間はどこか別の場所に住む気はない。最初の出会いがどうであれもう情が移ってしまったわけだし。
「OKOK。で、なに買ってくりゃいいんだ? それと、非力な俺でも妖怪やらがいる森を突っ切って人里に行くことなんかできるのか?」
そう、とても重要なこと。それはここが幻想郷という世界であり、外では妖怪なんていうとんでも生物が闊歩している場所。そんな世界で戦闘力が1にも満たないであろう俺が紅魔館から人里に行くまでの途中の道で襲われるのは確実。運良く今回だけ妖怪に遭遇しないで人里に行けたとしても何回も行ってれば絶対に遭遇する機会があるはずだ。
「それに関してはあなたが飛べるようになればいいのよ」
「はぁ? 飛ぶ? 俺が?」
咲夜さんはなにを言っているのだろう。確かに飛べれば色々と便利だが、俺は至って普通の人間。飛べれるような機関は必要ないから存在せず、覚えようとして覚えられたら世界中に鳥人間なんていう者が大量に出ることだろう。
「そうよ。簡単に覚えれるから昼間には済ませましょう」
「はぁ!? 無理無理絶対そんなことできるわきゃない! だいたい、どうやって飛んでるんだよ?」
「それはこう......ふわっと? やってればわかります。さぁ、始めましょう」
「ここ部屋の中だから! それに曖昧すぎます咲夜さぁぁぁん!」
「ああ、部屋で飛ぶわけにはいきませんね。では中庭に行きましょう」
俺はどこか抜けてる咲夜さんに連れられ中庭へと向かう。はぁ、これで大丈夫なんかな....?
ーーーーーーーーーー
「で、咲夜さんどうしろと?」
「飛んでください」
「だから飛び方がわからないって言ってるでしょ!?」
中庭についたのだが、相も変わらず具体的な指示をくれない咲夜さん。飛べと一言で言われても俺にいったいどうしろと....?
「そうですね、普段なにげなく飛んでるものですし、どういうふうに飛んでるのかと質問されましても、こう『ふわっ』と、『ぐんっ』とやって飛んでるとしか......」
「だからそんな説明でわかるわけないでしょーが......」
変わらない咲夜さんの言葉にげんなりする俺。普通はいつもキリッとしててすごいメイドさんなのに、なんで変なとこで抜けてるのだろうか? 果てしなく謎だ。
「なにをやってるの?」
「お嬢様。今桂一に飛び方を教えようとしてるのですが......」
「いや、あの説明じゃわかんないって」
いかにも『桂一の頭が悪いせいで....』といった感じの視線を向けてくる咲夜さんにそう言う。むしろあの教え方で飛べたなんて人がいたら教えてほしい。
「へぇ。桂一を飛べるように、ねえ。まあ確かに飛べて損はないわね。しょうがない、私も教えてあげるわ」
「お願いします」
これは渡りに船だろう。レミリアが自ら教えてあげると言ってくれたんだ。ありがたく教えてもらおう。
俺がそう思い答えると、どこか得意気な顔で説明しだすレミリア。可愛いな......はっ
「そうね、飛ぶときは........こう、『ずばっ!』て翼を開いて『どん!』って感じで羽ばたけばいいのよ」
「似た者同士か!」
どうやらこの主従の説明力は同程度らしい。
いや、レミリアは擬音の前に『〜の』と入れてくれるので言ってることがなんとなくわかるが、その説明の要である翼を持たない俺が実行するには到底無理な話しだろう。
「あら、今の説明ではわからなかったかしら?」
「翼ないから無理だし....」
やれやれ、といったハンドサインに一瞬殺意を抱きながら反論する。普通の人間がどうすれば飛べるようになれるのか教えてほしいのであって、吸血鬼の飛び方なんて誰も聞いてないのだ。
「さて、からかいはここまでにしてあげましょう。そうねーー」
「からかいだったんかい!」
「ーー黙りなさい」
言葉を遮られたのが不満なのか、怒気とともに言葉が発せられる。理不尽だと俺は言いたい。
「そうね、飛ぶ方法は人間ならおおまかに二つ。霊力を使うか、道具を使うかね。能力で空を飛べるのもいるけど、それはとても少ないしあなたには関係ないから省くわ」
「......」
「まず霊力。これはそこそこ持ってれば可能なんだけど、あなたの霊力じゃーー浮けて10秒といったところね」
「神は俺を見捨てた!」
まさか、飛べるとは思ってなかったが飛べても10秒という。これならいっそ『飛べない』とはっきりしてたほうがよかったかもしれない。ちょっとだけ飛べる、というか浮けるという事実はむしろ期待させて落とすような、そんな残念感がある。
「だから必然的にあなたは道具に頼るしかないんだけど、その道具がないからどうしようもないわね」
「......え? じゃあ俺にどうやって一人で人里に行けっていうんだ?」
「? 私は咲夜に『桂一と共に人里に行ってきなさい』と言っておいたのだけどーー」
俺は勢いよく咲夜さんのほうに振り向く。
すると、咲夜さんはふいっと横を向いて、
「......少々外が寒かったので」
「ようするにめんどくさかったのか.....」
どうやら咲夜さんは人里に行くのがめんどうだから俺に空を飛ぶことを教えて一人で行かせようとしたらしい。なんとも力の抜ける理由である。
「はぁ、二人で人里に行ってきなさい。それで咲夜は人里の守護者に説明と、ついでに足らなくなった食糧の買い出しをお願いね」
「..........はい。お嬢様」
「うぃ」
身体中から力が抜けてふらふらと動きながらレミリアの言葉に反応する。
はぁ、こんな感じで大丈夫なのだろうか......不安しか残らない俺であった。
〜おまけ〜
「はぁ、まさか桂一がそこまで霊力がないとは思いませんでしたわ」
「しょうがないでしょ。俺は一般人ですよ?」
「一般人....ねえ」
『〜〜!』
『〜』
『〜〜〜〜!』
「少なくとも、妖精にそこまで好かれてる一般人を見たことはありませんわね」
「俺にはよくわからんな」
次回、桂一人里へ行く。
それではまた!