テロに遭って意識不明の重体から目が覚めたら、国宝に選ばれていた挙句、付き合って半年の恋人ができた件   作:すすきみつよし

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21.想いで空が落ちてくる。剣先一つでダウンさ

 

 

 

 実のところ、ウィルとの断絶した差を感じてもヴィゴは打ちのめされはしなかった。心は折れたが挑むことを諦めてはいない。──あれは人が敵うものじゃない。

 「勝てへんな」と「いけんのちゃうか」を今もまだ往復している。眼下で行われる立場の入れ替わった焼き直しを見て、未だ活路を模索し続けている。──勝負や勝敗じゃないんだ。

 ヴィゴの特異性は敗北に挫けないその精神性にある。──そもそも挑むべきではない。

 彼にとって勝率より勝ち筋の有無が重要であり、一パーセントの勝率であっても、たった一つ勝ち筋があるならば恐れはしても躊躇わない。唯一の好機に全てを擲つ。その無謀かつ果断な決断力が彼の実力の骨子だ。──よく考えてくれ。

 だからヴィゴはウィルにいつか勝利することを諦めてはなく。

 ──たった一人でステージを炎で埋め尽くし、瞬きの間に凍てつかせるのは人間業か?

 だからこそ、初めて諦めてしまいたいと思った。

 

 ──ヴィゴ。羨ましいが、怖いよ。

 なぜ──死地に挑む想像に、抵抗が無いんだ。

 

 ……勝負はきちんと選んでいる。命までは賭けていない。頭から真っすぐに念力の力場に突っ込むような真似はしたことがない。全部全部勝算と保険を用意して挑んでいる。

 恐怖も危険も忘れたことはない。だからこそまだ生きている。だからこそヴィゴは独りだけ、誰よりも死地の境に敏感で、ヴィゴほどではない凡人から──。

 

「……わかるで、その気持ちは」

 

 意味不明な高さの能力は恐ろしい。サラの念力もウィルの炎も人狼の姿も、ヴィゴにとっては恐怖の象徴だ。

 

「……ワイも同じやで」

 

 友人が遠ざかる。記憶が遠ざかる。

 炎の向こうに。雨の向こうに。

 焦げて湿って、元の手触りは失われて、輝かしい記憶が過去になる。

 

「……知らんけど」

 

 あるはずだった未来はもう訪れない。既に現実は手を離れていった。使われることのなかった青写真が未練がましくステージに映し出されている。

 

 誰もいない観客席に独り、蒸した白々しさに寒気がする。

 

「……雨の時は、やっぱ寒いなぁ」

 

 ヴィゴは恐怖に震えない。心は折れても砕けない。

 ──どれだけ惨い現実も、直視できてしまう。

 

 曇天はうず高く、空を灰色に塗り潰す。

 ちっぽけな愚者を風雨で圧し潰すように。

 

 

 

 

 およそ一分ほど前の話。

 サラは宝剣を携えているウィルに安堵した。

 

「シャロの攻撃を受けて歪みすらしないのね、それ」

「あれで砕けてくれるなら苦労しないだろう」

「そうね。私の前にいることもない」

 

 敵意を向けることも無かった。

 サラは憎悪の混ざった視線を宝剣に向けている。

 

「嬉しいわ、その宝剣を突きつけてくれるなんて。おかげさまで遠慮なく、私も戦術兵装を使える」

「レギュレーションはどうした」

「英雄の剣に勝るとでも? まだ何かあるでしょう、それ」

(大正解だね。ところで、妾の手はいるかな?)

 

 頭に響く声を黙殺する。頭に肩を竦めるイメージが投げられた。

 

「まさか。曲がらない程度だ」

「そう。──じゃあ、本当に遠慮は要らないのね」

 

 ステージの通路の奥から、人間大の黒い立方体が引き寄せられた。

 

「私は元々、金属も曲げられる魔法の出力を買われていたの。だから当然、この兵装は重量と頑丈さに重きを置かれた」

 

 重量物を反動無く振り回すことができるのはそれだけで強い。銃弾の軌跡を自在に操るようなものだ。

 

「最初の兵装の名前は『盾落刃』、四枚の巨大な板だったわ」

「子供に持たせる名前じゃないな」

「そうね。けど好きだったわ。気に入らない奴にぶつけた時は特に」

 

 鉄の擦れる音がする。雨音の中、鋭く鈍く響き渡る。

 

「今の名前は『衛球』。由来はすぐにわかるわ」

 

 立方体から八つの球がくり抜かれ、大気がうねる。サラの周囲に巡る球体が回転数を上げていく。

 

「人裡蓋世──」

 

 戦端は独り言のように開く。

 

「魔術法執行、『臨廻自在』──」

雨が差す(戦意高揚)天に翳す(障壁展開)

「──『墜潰』、『星独楽』」

風を攫う(気流操作)

 

 蓋世結界の内に、複数の魔術法が展開された。

 直後ウィルに鉄球が振り下ろされる。ウィルは気流操作と爆炎で初速を補助し避け切って、不自然に体を振り回された。

 

「──水に煙る(蒸発)

 

 思考を挟む間は無い。真正面に現れた回転する鉄球を宝剣で弾き、広範囲に熱を巡らせ水蒸気を生み出した。直後に複数の鉄球が過ぎ去り、水蒸気は晴れる。ウィルは水蒸気爆発を推進剤にステージを高速で駆けた。

 

「やっぱり。後手に回るのね」

 

 蓋世結界の魔術法とは別に展開された追加術式は二つ。上から下へ螺旋状に気体を落とす「墜潰」、サラを中心に八つの回転する鉄球を巡らせる「星独楽」。

 

(捉え切れない速度への対策。弱点は初動の遅さと持続時間の低下)

「一分で潰すわ」

 

 蓋世結界内でのみ可能な力業だ。特に気流操作と同じ結果をもたらす「墜潰」は、気体の密度しか拾わない力場を設定し、それを回し続けることで効果を発揮している。力場の設定という余分な過程を含むため、同じ結果でも風に干渉する魔道より消耗が激しい。

 事実、サラの表情は既に苦悶に歪んでいる。

 

(展開し切れば効果的か。下と外向きの暴風による動きの制限。空中移動は困難)

 

 風速は既に十七メートルに達している。ハリケーンのただ中にいるのと変わらない。墜落する飛行機を飛ばすような自殺行為だ。

 加えて──。

 

(二百五十ポンド、九インチ、亜音速)

 

 男一人分の重量の鉄球も脅威だ。それが四つ、音に迫る速度で弧を描きながらウィルへ襲いかかる。単純な重量と速度もさながら、より恐ろしいのは回転速度。弾く宝剣の扱いが甘ければ瞬く間に手から弾かれる。

 

(よくもまあ壊れないな)

(妾もそう思う)

 

 亜音速を保ちながら暴風に逆らわず迫る鉄球に対処する。言葉にするのは簡単だが、難易度は想像を絶する。暴風は飛翔を許さず外へとサラから遠ざけ続け、四つの鉄球は超高速で回転しながらウィルを襲い続けている。更にもしも速度を落とそうものなら、本命の念力に肉体がねじ切れられる。

 

「──本当、腹が立つ。どこまで手を抜いているの」

「まさか。──全力じゃないだけだ」

 

 ウィルの右の袖がねじれる。念力の影響下に置かれたものの温度を発火点まで上昇させ、火傷を負いながら力場から脱出した。

 

「──」

 

 その手応えにサラは違和感を覚えた。発火と燃焼は異なる現象だ。燃えると燃やすは違う、火が出ると火が移るは違う。ヴィゴの魔法とは異なる挙動にサラは気付いた。

 

「良く燃える魔法ね。お前のスペックの出鱈目振りが良くわかる」

 

 ウィルの魔法は火を出しているのではない。結果として火が出ているのだ。発火点と引火点の利用と併用。熟達した熱の魔法使いが咄嗟の目晦ましに爆炎を生み出す手法である。──それを、ウィルは必殺の威力にまで引き上げていた。

 

(バレたらしいね)

 

 熱の魔法はいわゆる外れだ。便利ではあるが温度の調整は既に様々な手法が世に溢れている。家、服、カイロや吸熱剤、冷蔵庫とエアコン。温度はあらゆる生命の大敵であるが故に代替手段は山ほどある。

 逆に炎は当たりの魔法だ。炎もまた様々な手段があるが燃料が必要になる。だが炎の魔法の多くは燃料を必要としない。酸素──支燃性物質のみで事足りる。

 

(だが脅威にはならない)

 

 社会が万人に快適な生活空間を維持する以上、魔法は必要とされないが、戦場においては殺傷性能の高い魔法は必要とされる。

 確かに熱の魔法は便利だ。様々な戦場に適応できるだろう。だが、戦場において最も必要なものは、一刻も早く敵を殺す手段である。

 戦場には一秒とているべきではない。

 

(攻撃手段に変化は無し。手詰りか詰めの最中か)

 

 だからこそサラの戦術は不合理である。一対一で膠着状態を作ることは下策だ。

 だからウィルは詰めの最中であると思考を定める。どの道この程度では脅威にはなり得ない。

 

(けれど隠し事だろう?)

(広められることはない)

 

 強力な魔道士の手札を晒すことは愚行だ。不幸なことに、その程度のことが理解できないサラではない。

 

 ウィルは亜音速のままステージを駆け巡り、周期的に迫る鉄球を宝剣で弾きながら、自身より早く限界へ落ちていくサラを見る。

 

「きっかり一分。見上げた度胸だ」

 

 ウィルは涼し気な声をかける。暴風の中でもその声は良く通り、サラの耳にしっかりと届いた。

 

「貴方もね。どれだけ隠し事をしているの」

「たくさん」

「……詐欺師め」

 

 鉄のぶつかる音が響く。

 

「そうやってリナも騙すの」

「なんだ、全部ぶちまけて負ぶさって欲しいのか」

 

 せせら笑う。

 

「手に負えないものを負わせて何になる。潰れた死に体が一つから二つになるだけだ」

「だとしても選べるでしょう」

「何を」

「愛に殉ずるか、否か」

 

 一際強く炎が猛る。水蒸気が爆ぜ鉄球を逸らす。

 

「それを同苦で語るな」

 

 音越えの斬撃が竜巻を分かち道を拓く。何重にも轟く爆発音、臓腑を揺らす音の波──を、光に迫る焔が先駆ける。

 弧を描く鉄球の軌跡が折れ曲がる。意図したキックバック。鉄球は最短距離をウィル目掛けて弾かれた。

 

 ここで初めて、ウィルとサラの視線が交錯する。

 

「──」

 

 刹那にも満たない。

 偶然に等しき会敵。

 必殺が開帳される。

 0と1の間を巡る。

 

 力場が捻じれる。

 炎が爆ぜる。

 

 ただそれだけの暴威がファーストコンタクトを彩った。

 

 

 

 

 

 

 母は落ち目の貴族の娘だった。

 父は趣味を優先する一般人だった。

 

 落ちぶれても生きていかなければならない人と、落ちぶれても生きていける人が恋愛をした。貴族の娘は苦しい裕福よりも、幸せな平凡を受け入れ、貴族と血縁のある一般人になった。

 はずだった。

 

「だが、まだ籍はいれていないのだろう」

 

 忘れもしない。五歳の誕生日にプレゼントで貰った人形で遊んでいる時に、その老紳士は現れた。

 

「君達の判断は正しい。落ち目とはいえまだ貴族、体裁と財力がある。人生は地位と金が全てとは言わないが、群れにおいては地位が重要であり、資本主義では金が全てだ。より良い環境を整えるための君達の判断に誤りはない」

 

 その時、何を言っていたかは思い出せない。だが、金の大切さを説いていたことは覚えている。

 

「戸籍の上では未婚のご令嬢に、我が息子が入れ込んだ。──君達の将来に一つの提案、いや、秘密の商談をさせていただきたい」

 

 断ってくれても構わないと高貴な老紳士は告げた。何も起こらないし起こさせないとも約束した。

 後の事は今の通りだ。

 

 サラ・ベーケルに戸籍上の母はいない。

 一般人にしては恵まれた生活を、たった一人の親族である父と共に過ごしている。

 

 

 

 

 交錯は一瞬で、結果は痛み分けだった。

 

 ウィルが盾にした左腕は捻じられ、サラの身を守っていた鉄球の三つが溶断された。

 

(こいつ……!)

 

 赤熱した鋼と血が嵐に散る。

 たった一度の接近で迎撃に回した鉄球が砕かれた。負わせた手傷は左腕の単純骨折と裂傷。ねじ切るつもりの念力を魔力障壁一つの力業で軽減された。化け物そのものの魔力出力だ。

 加えて。

 

(タングステン合金の回転物を斬った)

 

 この状況で斬れるはずがない。

 暴風雨の中、飛んできたチェーンソーを両断する類のデタラメだ。起こりうる事象ではあっても、成せる技量は不可解だ。

 

(自己強化の魔術──では、不可能。の、はず……)

 

 仮にそうだとして、どれだけの感覚の補正と加速を行えばできるのか。

 

 だが何よりも恐ろしいのは盾に回していた鉄球を過半数失ったことだ。瞬きの間に三つ。相対する敵の隔絶した実力への恐怖よりも、武器が減った恐怖が勝る。──武器が有効ではない、という恐怖が勝る。

 

(……けど、左腕はとった)

 

 サラは反応し切れていないが、ウィルへ指はかかっている。

 充分だ。念力の魔法は初動が遅い。敵を害するのに一つ余分な手間がいる。その手間があってなお、手をかけられるということは知覚自体は間に合っているということだ。

 

 ウィルもそれを理解しているのだろう。緩急はあれど速度は音速に近い。跳ね回る銃弾と変わらない。サラの必殺に捕らわれない速度で動き続けている。

 だからこそ、ウィルフレッド・スレイの酷い規格外を改めて思い知る。高い魔道出力はもちろん、肉体そのものの頑健さが常人離れしている。全身がひしゃげて然るべき負荷に耐え続けている。

 

(そしてきっと、殺しても死なない)

 

 古き貴族は頭を潰されない限り死なないとされている。理屈の上ではそうなっている。真実は機密であるが、きっと頭と体を切り離さなければ死なないのだろう。

 

 なにせ、差し込まれた左腕に躊躇いが無かった。

 

「──だから、とどめ以外はなんだってするわ」

 

 殺してでも倒す。物騒極まりない決意は今なお渦巻いている。

 

 

 

 

 

 

 管理室のテュコは頭を抱えていた。

 

「なんっで! 使わないでって!! 頼んだ術式を初っ端からぁ……!!!」

「ドンマイ。俺も手伝おう」

 

 予期していた事態にラスムスは一切動じることなくテュコのフォローへ入った。具体的にはテュコが操作できるようになっているシステムの予備を起動させ、自身の術式を入力した。

 

「結果としては大規模な気流操作だろう。まだ得意じゃないのか?」

「……まさか。僕の専門は光学ですよ。真っ先に考慮すべき事柄です」

「じゃあ問題無いだろう。タネは割れている、アシストもある。それとも俺では頼りないか?」

「ぶっちゃけそうです」

 

 小柄な男子、テュコの眼鏡の向こうにある目は濁っていた。

 

「それもそうか。俺もサラには勝てていないからな」

 

 ラスムスはテュコの言葉に頷く。

 

「理屈の上では可能だが結果は無い。元々俺の硬化魔法も打ち破るほどの出力だ。一分も準備していながらあれ以下ということはないだろうし、その不安も当然だな」

 

 ラスムスはアリーナの設備とは別に設置したレーダーを確認する。想定される出力は町一つを容易く潰すだろう。

 

「片手間でこの破壊力とは、先が楽しみだな」

 

 《崩月撃(デモリッシュ・ワン)》はそう呟きつつ、後に訪れる天災を防ぐべく気を入れ直した。

 

 

 

 

 

 

 先の接近からウィルはサラの脅威度を引き上げた。折れた左腕の治療はできない。

 

砂を塗る(固定)

 

 悪化を防ぐための固定の魔術が精々だ。

 

 このように術式の重複も遅々として進まない。シャロほどに致命打の間隔は短くないが、有効打へのアプローチが夥しい。対処は簡単だがこうも連続されては手が慌ただしくなり攻勢に出辛い。

 

(妾の協力は必要かな?)

(要らん)

 

 この状況では脅威にならない。蓋世結界を保ったまま消耗戦に持ち込まれた場合には厳しいが、消耗の度合いからして先に力尽きるのはサラである。

 無理な攻勢に出る必要はない。

 

(けれど意外だったよ。貴方が無理筋を通そうとしたことは)

 

 ウィルの突貫は悪手である。自滅の見えている相手に賭けに出る必要は全くない。

 

(そうだな。くだらない威力偵察だった)

 

 冷えた頭で値踏みを済ませる。サラに奥の手は無い。あそこまで接近してこの程度の手傷であればあとは流すだけで良い。

 

 鉄球を宝剣で弾く。速度は保ったまま、防御寄りの思考に切り替える。

 

(あと少しで終わりだな)

 

 冷え切った眼が頭痛を堪える赤毛の少女を捉える。鉄球も念力もウィルを襲う頻度が下がっている。接近も鉄球の切り捨ても容易いが、わざわざ危ない橋を渡ってまで懐に攻撃する必要はない。

 

 あと数秒で結界は解ける。そうなればサラは力尽きる。仮に戦おうともウィルの足元にも及ばない。

 

 ──脅威を確認。

 

 だからこそ、脳裏に響くシステムメッセージは想定を超えたことを意味している。

 

 ──敵性水準Ⅴ級、環境水準Ⅱ級、状況水準Ⅱ級、脅威水準Ⅲ級と判断。

 

 風が増す、大気が震える。水底に沈むような圧迫感。耳を削る鳴動轟く。

 

 ──Ⅱ・Ⅲ級恒常術式停止、Ⅲ級緊急術式起動、Ⅱ・Ⅲ級演算領域拡張。

 

「言ったでしょう。殺してでも倒すって」

 

 蓋世結界が縮小する。サラの周囲を巡る五つの鉄球は壁のようだ。

 即時の強行突破はできない。五秒の準備が必要な上、倒したところで空に潰される。

 

「貴方も、──私も」

 

 ──ダウンバースト

 

 それは空を行く者達の断崖絶壁、大瀑布である。

 風速五十メートルに至る下降気流。家屋を容易く潰す下向きの突風。

 当然、サラの準備したものはそれ以上であり、サラもタダで済むはずがない。

 

「友達を守ると言いながら奥の手が自爆か。見下げた根性だ」

「──」

 

 切り捨てた鉄球の欠片がウィル目掛けて撃ち出される。ウィルはもう蓋世結界の範囲外だ。亜音速で動き続ける必要はない。だからサラにはとても狙い易かった。

 

(さて、どうする? 結界を使うのかな)

(使わない)

(ここまできて隠すのかい? 後々切りにくくなるだろう)

(隠す。というか、この状況には適さん)

 

 暴風を貫いて迫る飛礫。銃弾のごとく撃ち出されたそれはウィルにとっては脅威ではない。

 

 ウィルは飛礫に、青く輝く宝剣を合わせた。

 

「黒質励起」

 

 ──躯体性能水準平常。成長戦略を中断し、迎撃戦術へと移行……完了。

 

「『青の灯(ブルー・コーズ)』、起動」

 

 あざやかにあせてゆく

 

 欠片が青く熔けていく。

 

「水に淵あり炉ありき」

 

 暴風にあって乱れなく、青い輝きが飴細工のごとく滑らかに形を変える。目も耳も削る暴風の最中、青の輝きだけが鮮明だ。

 

「ヤミ暴く火、ヤマ熔かし」

 

 高温発光。物質の多くは超高温に至ると青く輝く。

 ウィルの「青の灯(ブルー・コーズ)」は刀剣に超高温を付与する魔法術だ。その結果として青く輝く。ガスバーナーの原理である。熱する対象が固体か気体かの違いだ。

 

「水火鉄打ち、魔刃と成す」

 

 だが、「青の灯」の本質はそうではない。刀剣を強化するだけの魔道など脅威ではない。竹やりめいた旧時代の武器などよりも、ノータイムで放たれる熱線の方がよっぽど脅威である。

 

 より恐ろしいのは、「青の灯」を使える集中力だ。

 

魔剣鋳造(Crack/Cast)──」

 

 青の流体が宝剣に留まる。雨風を焼き散らし鮮烈に輝く。

 これはウィル独自の術式の一つ。温度操作で流体を操る超絶技巧。打つことなく流して作られる仮初の魔剣。

 

 宝剣に青が灯る。

 宙の果てより届く星光の如き青。

 

 サラはそれに目を奪われた。破滅の間際に青く瞬く輝き。嵐の星。

 

 

「──灰に至る青(BLUtEoGRAY)

 

 

 青灯る宝剣が空へ振り抜かれる。

 大気の大瀑布。地を削る天の暴威。人には抗えぬ天災そのもの。

 

 それを──青が斬り裂いた。

 

 宝剣の軌跡より青が伸びる。薄く、細く、長く。空深くまで穿ち裂く。

 灼熱の青は地より天を徹し、爆ぜる熱波で大気を散らす。

 

 風は強く、雲は失せて、灰になった青を、陽が照らして。

 

 未だ立つ絶世の人型を、照らし、出して。

 

「──……ばけもの」

 

 力なく落ちる鉄球の音が響く。力尽きたちっぽけな少女の呟きが虚ろに通る。

 

 陽だまりの中、雨に濡れた少女が独りへたり込んでいた。

 

 

 

 

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