テロに遭って意識不明の重体から目が覚めたら、国宝に選ばれていた挙句、付き合って半年の恋人ができた件   作:すすきみつよし

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1.■よ、寝ているのですね

 

 

 

 

 アンナリナ・アウレリースとウィルフレッド・スレイの注目度は高い。

 

 公国領主のご令嬢と帝国貴族の嫡男の組み合わせはそれだけで話題を集める。それに加えて公国の宝剣に帝国貴族が選ばれた挙句、その嫡男が帝国で独自の立ち位置にある、魔術の名門スレイ家──国より古い貴族の出というのが更に話題性を高めた。

 

 ウィルフレッドが《バクレハストの乱》の後、テロでの働きを評価されて、アンナリナとの婚約を公国領主であるアンナリナの父、リーヌス・アウレリースに認められたことが発表された時は、公国民全員を混乱の渦に突き落とした。

 

 その際に、アンナリナと半年間隠れて交際していたこと、宝剣デリングに選ばれたことの2つも同時に発表されたのが更に多方面に混乱を加速させた。特に国民的アイドルであるアンナリナとの交際と婚約は、多くの公国民の脳を破壊した。

 

 批判・非難は当然噴出した。曰く、帝国貴族が国宝に選ばれたのはなぜか、帝国貴族は夫に相応しくない、帝国の侵略だ、超イケメン貴族許せねえ、性格以外完璧なイケメン滅ぶべし、等々。

 

 主に、クルサド帝国でも悪役的扱いであるウィルフレッドに非難が殺到した。

 

「妥当やな、あんな態度」

 

 朝。ある教室から見える通学風景に、半端に訛った感想が零れた。

 

 視線の先は時の三人組。かけられる挨拶に三人ともにこやかだが、ウィルフレッドの返しはどこかおざなりだ。遠目からでも違和感を察せられる程度には。

 

「余所事考えてますね、あれ」

 

 眼鏡をかけた小柄な男子生徒が応える。

 

「だよなぁ。挨拶くらいきちんとできんのか、帝国貴族は」

 

 それは帝国貴族への風評被害では。小柄な少年は首を傾げた。

 

 代わりに大柄な男子生徒が応える。

 

「いや、同じスレイ家でも彼の妹のエメライン・スレイはきちんとやっている」

 

「なんや、旦那。スレイ家のファンです?」

 

「違う。帝国の学生大会の映像を見た」

 

「だとしてウィルフレッドの出る大会以外を観る必要ないですやん。可愛い?」

 

「『優れた魔女は美しい』の警句の通りだ。兄に劣らぬ美形だった。そして妹君の映像を観た理由だが、ウィルフレッドが伝統的なスレイ家の魔術師ではないと聞き、俺がその伝統的なスレイ家の魔術師に明るくないからだ」

 

「あぁ、ネットニュースでもそう書かれていましたね」少年は先ほどまで携帯端末へ落としていた視線を上げて「ネット百科事典にもスレイ家二人目の異端児、と書かれていますし」

 

「マジか。ちなみにどう違うん?」

 

「テュコ。ネットだと何と?」

 

「え。映像観たラスムスさんの所見は?」

 

「俺の所見は客観に欠く」

 

「んー、では、さわりだけ。ヴィゴさんと駄々被りです。魔法も」

 

「ワイと同じかい⁉ イケメンで炎の魔法剣士とかワイと駄々被りやんけ‼」

 

「腕はともかく、顔はウィルフレッドさんの圧勝ですよ」

 

「親しみやすさはともかく、より美形なのはウィルフレッドだな。お前の顔は少し緩い」

 

「誰が三枚目や! 言動を含むな! 黙った顔で言えや!」

 

「「……」」

 

「アンタらに黙れ言うとるんやちゃいますー!」

 

 ヴィゴ──半端な訛りの入った口調の、金髪の青年が騒ぐ。小柄な少年テュコと大柄な青年ラスムスの言葉の通り、ヴィゴの顔立ちは整い美形の括りには入るものの、文字通りにモデル顔負けの美形であるウィルフレッドと比べては劣る。

 

「……ま、実際とんでもない美形よね」

 

 不意に、それまで沈黙していた少女の声が交じる。

 

「生粋のメディア嫌いが無ければ、帝国のアイドル的存在になっていたのでは、とも書かれてますね。サラ先輩、女性から見てもそう思いますか?」

 

「私はわかんないけど、イケメン好きの女の子からの評価はくっそ高いよ。外見だけは完璧だって。美形、長い手足、細マッチョ。他何か色々言ってたけど、要約するとその三点が刺さったみたい。声も良いらしいけどね。ただ、リナの婚約者の割に言動が微妙らしくて、喋らなければ最高って評価みたい」

 

 ふとヴィゴが視界に入る。苦虫を噛み潰したような表情だ。

 

「まあつまり、ヴィゴ君の方がモテると思うよ」

 

「お! さっすがサラ先輩‼ 聴いたかお二方、時代はただのイケメンちゃういうことや。つまりワイの方があんちくしょうよりもイケメンっつーワケやな」

 

 多分、というサラの言葉は騒ぐヴィゴにかき消された。

 

 あんちくしょうなんて実際に言う人初めて見た、とティコは思う。

 

 騒がしい三人を意識から外し、小柄な赤毛の少女──サラ・ベーケルは窓に寄りかかりながらウィルフレッドを見る。

 

 艶のある黒髪、高い身長、長い手足、スラリとしたフォルム。性の判別のつかない美形が、にこやかながらもどこかおざなりに挨拶を返している。周囲の生徒はそこまで違和感を抱かないのか、和やかに過ぎていく。整い過ぎた容姿に気圧されて気付けないのだろうか。

 

 どうあれ、リナに相応しくない。サラは強くそう思う。

 

 リナは上品な所作で挨拶をしている。にこやかに和やかに、けれど彼女の気質に相応しい凛々しさも伴って。遠目からでもあの三人組の中核は最も背の低いリナだとわかる。シャロが一歩下がり、主人より少し低く小さな声で話しているのもあるが、従者の振る舞いとしては正しい範疇だ。

 

「それで、ラスムス。貴方の所見は?」

 

 今なお続く容姿談義を中断させる。実のところ、サラも同じ映像を観ているのでそこまで重要度は高くないが、この四人の内、必ず二人は当たる以上、脅威度の共有は必要だ。

 

 ラスムスは一つ頷いて。

 

「極めて高い実力を持つ魔道戦士だ。他の魔法剣士にありがちな、魔道戦が苦手ということもない。炎の魔法剣士として認知されているが、距離の詰め方は遠中距離の魔道戦を熟知しているものだ。ウィルフレッドの映像だけでは疑念のままだったが、伝統的な魔道士である妹君の映像を観て確信した。あの妹君を差し置いて、魔道の古い名門スレイ家の嫡子に選ばれている以上、実力ある魔道士より劣っている可能性は無い」

 

「……そうですね。中等部時代、一切動かず、魔術のみで相手を追い詰め降参させたという話も転がってます。ぶっちゃけヴィゴさんの上位互換ですね」

 

 なんやそれ、めっちゃ厳ついやん。ヴィゴはそう呟いて頭を抱えた。

 

「ほな」

 

 だがそれも数秒の話。閃いたようにぱっと頭を上げて。

 

「魔道戦もできる炎の魔法剣士であるという認識でええんですな?」

 

「そうだな」

 

「ならええですわ。ワイの手の届く距離におんのやったら、やること変わりません。たまに魔術が一緒に飛んでくるって感じでしょ、精々。んで、《崩月撃(デモリッシュ・ワン)》から見て、白兵技術はどんな感じです?」

 

「正統派だな。リスクより安全を取る、誰にも負けない駆け引きを好む。防御型だが、勝負の展開は早い」

 

 それを聴いてテュコの顔が歪む。厄介な相手だ。

 

「聴けば聴くほど真っ当に強い奴ですやん、それ。防御型で展開が早くて、軍事の強い帝国じゃ無敗となると、敵の悪手緩手を咎めて詰めるのがクソ強いんでしょ」

 

 能力が高く、決断が早く、判断が確か。

 

 人格的な悪評とは裏腹に、優等生然としている。

 

「テュコの天敵ね」

 

「僕は勝ち目無いですね」

 

 前評判でこれだ。実物はもっと凄まじいはず。

 

「はー。マジで──マジで、楽しみやな、ウィルフレッド君と当たるの」

 

 ヴィゴは体を背もたれに投げながら、乾いた笑いを零しながら、好戦的な笑みを浮かべた。

 

 中等部より数えて軍学校五年目ともなれば、有望株の学生とは既知の間柄だ。ヴィゴはその多くを降し、四天王と呼ばれるまでになった。

 

 公国高等部最強の魔法剣士として。

 

 決して無敗ではない。無敵ではない。だが誰を相手にしても勝てる。遠中距離から雷の魔法と強力な魔術で磨り潰してくるような強力な魔道士であろうと勝ち越せる。その文字通りの爆発力と、チャンスをモノにする類稀なセンスは他の追随を許さない。

 

 公国軍学校高等部四天王の一人、《双無尽(ダブルオー)》、炎の魔法剣士、ヴィゴ・ボーストレーム。

 

 雷より迅き、猛き炎。

 

(きっと最初に当たるように弄られるだろうな)

 

 サラは思う。四天王、この四人の中でウィルフレッドと最も噛み合うのはヴィゴだ。

 

 国民感情を抜きにしても、帝国貴族の実力を知りたい者は多い。それが無敗のスレイ家嫡子であればなおさらだ。勝てるのか──どれほどの実力があるのか。

 

 総勢128名、1人1週1戦が続く7週間の勝ち抜き戦。学生武闘祭。

 

 必勝を期すには、公国高等部最強と当てる(・・・)前に、その実力を暴く必要がある。

 

(勝たなくてはならない)

 

 帝国貴族にリナは渡せない。公国に手をかけさせるなどもってのほか。

 

 サラ・ベーケルは独り静かに、決意を固めた。

 

 

 

 

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