テロに遭って意識不明の重体から目が覚めたら、国宝に選ばれていた挙句、付き合って半年の恋人ができた件   作:すすきみつよし

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2022/08/07 レイフ→ラルフ





6.NineとTenは違うボーリング

 

 

 

 

『オレ、久しぶりにウィルのボーリング見たいなー。観光? それはいいや。夏休みにでも改めてするよ。その頃にはラルフも落ち着いているだろうし、暇なウィル一派(レッドパーティ)の面々も呼んだ方がきっと楽しいよ』

 

 ジェイラス──ジェイのその一言により、急遽ヴィゴを招集しボーリングをすることになった。

 

『ウィルの男友達のラルフ君とボーリング? 何それ、めっちゃおもろそうやん。え、ジェイラス? 誰それ、初耳やねんけど。まあええわ、ご友人がいらっしゃってんねやろ。行かへん頭なんてないわ』

 

 このやり取りがおよそ一時間半前。実際にボーリング場に着き、ゲームを始めたのが一時間前。

 

 カパーン、カパーンと軽快な音を響かせ倒れるテンピンズ。

 

 天井につるされたモニタに刻まれるモノクロの四角形。

 

 帝国人が、公国人のスコアを蹂躙していた。

 

「第4フレームから最後までマジでストライクかい⁉ このバケモン! 人間性(ヒューマンエラー)はどこに置いてきた!」

 

「あそこでスペアを出したのが痛かった……! ウィル! もう1ゲーム!」

 

「いいけど。こっから先はストライク以外出す気はないぞ」

 

「腹立つほど気風のええ予言やなぁ! ワイもストライクだけ出し続けたろやないか!」

 

「当然! パーフェクト以外目指す気なんてないわ!」

 

 一人の帝国人にコテンパンにやられた魔法戦士二人はヒートアップしていた。特にリナはそれまでの一歩引いた冷めた態度をかなぐり捨て、シャロに心配されていた。

 

「あのお嬢様大丈夫? もともと喧嘩っ早いとは察してたけど、ここまで大声出してるのまずくない?」

 

「この施設の変声術式は機能してるみたいだし大丈夫じゃないかな。外に出てもリナの大声を判別できなかったから」

 

 非肉体派二人と非暴力派一人は火中の三人を傍から眺めていた。

 

「楽しそうでいいわね。三人とも」

 

 ポツリとサラがそんなことを零した。シャロは慣れから、ジェイは楽しく無さそうだからと流した。

 

「サラ先輩節穴か? 俺のどこが楽しそうに見えるんです?」

 

「うっさいフィジカルモンスター。第6辺りからウキウキしてたのが見えてたわ」

 

「その辺りから調子取り戻してたっぽいしねー。カッコ良かったよー、ウィル。撫で撫でしてあげようか」

 

 ウィルはジェイのおふざけは流した。そしてサラに対して冷笑を浮かべ。

 

「良く見てるじゃないすか。で、サラ先輩はそこで見てるだけで良いんです? 俺に勝つチャンスですよ」

 

「こんなので勝っても意味無いわ。そもそもあんまりボウリングしたことないし」

 

 あからさまにサラは不機嫌になった。煽られている。

 

 サラに見えない角度、ウィルに見える角度で、ヴィゴがゴーサインを出す。

 

「負けそうだからって逃げるんすね、サラ先輩は。準決勝も逃げたらどうですか?」

 

 後半の言葉にゴーサインを出していたヴィゴが固まる。ついでにリナとシャロも固まった。

 

「──いいじゃない」

 

 ゆらりと、サラが立ち上がる。ついでに魔法も漏れ出して、サラの髪や衣服が不自然に蠢いた。

 

「必ずぶちのめしてあげるわ」

 

「投げた後の魔法は禁止ですからね」

 

「うっさい。そんなインチキ誰がやるもんですか」

 

「サラ先輩、ボーリングは人をぶちのめす競技とちゃいますからね。スコアの競い合いですよ」

 

「ヴィゴもうっさい」

 

 言葉の綾よ、とサラは言って参戦する。モニタにサラの名前が追加され、新たにゲームが始まった。

 

「サラさん凄いねー。慣れてないと言いつつしっかりダブルするじゃん。魔術有でもオレにゃできないね」

 

「サラ先輩は魔法の精密操作だけは本職に勝るからね。純粋に魔法だけで投げるなら全部ストライクもそう難しく無いと思うよ」

 

「蓋世者はやっぱり伊達じゃないかー」

 

 傍のベンチに座る二人はこの熱戦に水を差すなと察して観戦に徹している。ジェイは運動神経があの三人に遥かに劣り、シャロは闘争心が乏しい。

 

 肉体的にも精神的にもあの四人はそれぞれ勝負できるレベルにある。

 

「それにしてもシャロさんがこういうの苦手っていうのが意外だな」

 

 調子が出て来たのか、ウィルは三人がミスをする度に一言二言余計なことを言って煽っていた。

 

 何度か手を出されているが、ウィルには慣れたものらしく、きっちり芯を外して受けていた。

 

「そうかな? 僕は勝負事が全般苦手だよ」

 

「だからだよ。それでお嬢様の護衛を任せられているんだ。それだけ強い肉体を持っているってことでしょ? こんなお遊び、軽い気持ちで凄いスコアを出せるはずだよ」

 

 シャロは驚いてジェイを見た。赤いカラーコンタクトの光沢が琥珀色の瞳に映る。

 

「ウィルは君に一番注意を割いている。両手義手の前衛にだ。魔道を得意とする後衛型なら義手であってもオレは納得するけどね。義手の前衛にウィルが注意するは有り得ないよ」

 

「……君はウィルを良く見ているんだね」

 

「ま、シャロさんがウィルの味方ってことには安心しているよ。なにせ貴女が一番未知数だ。底知れなさはラルフに匹敵する」

 

「なに? ラルフがどうかした?」

 

 不意に、ウィルが会話に加わってきた。

 

 見ればモニタにはウィルのパーフェクトが燦然と輝いている。次点にリナのクリーンとヴィゴのオールウェー、最少得点は非マークとスペアが多めのサラだった。

 

「シャロさんがラルフに似てるって話」

 

「ああ、まあ。奴も無手だからな。似てるだろ」

 

「普段からひっそりしているってとこも似てない?」

 

「似てるな。ただその訳はちょっと違う。ラルフは周囲への配慮だけだよ」

 

「やっぱり。ウィルから見てもそうなんだね」

 

 シャロはラルフの資料を見たことがある。自分とは違う自信家、それでいて気さくで穏やかな人格者だ。

 

 確かに戦術は似ている。共に身体を強化しての近接戦だ。異なるのはその練度だろう。映像でも、シャロにはラルフが数段上だということが見て取れた。

 

「なんや、ラルフ何某君のお話かい? 無手っちゅうことしか知らんけど。あとはウィルとタメ張れるバケモンってことかな」

 

「無手の戦闘ならラルフの圧勝だね」

 

「とんでもな天才やん。かー、羨ましいわ!」

 

「つっても、トータルの実力はヴィゴやリナとそう変わらんぜ。あれのやばいのは俺への先読み」

 

 何度武器を手から飛ばされたものか。ウィルはその時のことを思い出していやだいやだと笑ってみせる。

 

「仲が良いのね。もしかして好かれているの?」

 

「気の良い友人だよ」

 

「最初にウィルと仲良くなった人だね。オレはその時のウィルを伝聞でしか知らないけど、訓練で絶対にペアを組みたくない人だったらしいよ」

 

「あー……、何となく、その気は感じられるわ」

 

「正直すまんかったと思ってる」

 

 想像通りの過去にリナは苦笑した。何があったかを訊く気はないが、ラルフという学友がウィルに大きな変化をもたらしたのは事実なのだろう。

 

 至極和やかに話している三人を見て、サラは複雑な顔になる。

 

「サラ先輩、ジェイラスちゃんええ子ですね」

 

「……貴方も混ざったら? 実力者の情報は欲しいんじゃないの」

 

「そこら辺はリナちゃんから後で。──で、あの子が男ってのは本当ですのん?」

 

 ヴィゴは真剣な顔で声を潜めてそう尋ねた。

 

「ちっこくて華奢やし、声も落ち着きがあってええ。イントネーションが男っぽいのはアクセントとして強味になっとる。化粧は濃い目やけどそういうファッションで通せるレベルですやん」

 

 地雷系だがゴシック風味で徹底しているのが強い。

 

「古城辺りで写真撮らせて欲しいですわ。サラ先輩もそう思いません?」

 

「パスポートの表記は男だったから、少なくとも性自認は男よ。夏休みにまた来る予定だそうだから、その時にお願いしたら?」

 

「いや、後で一緒にお願いしますわ。ワイ一人やとちょっとやましさ感じるでしょうし」

 

 そうだろうな、とサラは思う。この男は中身に反して第一印象が軽薄なのだ。気安さの裏返しである。

 

「で、もう一つなんすけど。あの子、本当にウィルに懸想してるんすかね。正直、アシストしてる感じが強いっつーか」

 

 ジェイはウィルの帝国での話を良くしていた。オレの方が良く知っているんだぞ、と特にマウントを取りに行く気配も無い。

 

「さあ。上手くリナにいなされてるだけじゃない?」

 

「あー……、リナちゃん。意外と冷めてますしね。ちょいちょい厳しい視線、ウィルに向けてますし、何でもかんでも全肯定するような人ちゃうというか……」

 

 何か隠してるな、こいつ。サラは直感的にそう思った。というより、珍しく歯切れが悪いからそう推測した。

 

「結構激情家よ、彼女」

 

「……サラ先輩とどっこいだったりします?」

 

「好きに解釈すれば? あと、放課後の訓練、毎日付き合ってもらうから」

 

 地雷を踏んだとヴィゴは悟った。そして、しばらく放課後の予定をキャンセルしないとな、とも考え始めた。

 

「やっぱり体動かすのは苦手ですか?」

 

「別に。ただ、貴方やリナ、シャロほど動けないのは確かね」

 

 サラは魔道士の家系ではない。唯一の家族である父親は一般人で、祖先に貴族がいたという話は無い。サラが特殊なだけである。

 

 貴族や魔道士は体が強い。鍛えた一般人に鉄板入りの靴で蹴られてもせいぜいがちょっと痛いだけで済む。全くのノーダメージともなると、流石に珍しくはなるが。

 

「で? 喧嘩なら買うわよ」

 

「普段より短気なってません? まあ、ワイが悪いんは悪いんすけど。全然そんな風に感じられへんので訊いてみただけです」

 

 五代ほど遡る必要があるが、そう言うヴィゴは貴族の血を引いている。出自は商家で、両親は魔道士になる素質が欠片も無い。隔世遺伝だ。

 

「まあいいけど」

 

 ぼんやりとサラは三人を眺める。見目麗しい三人だ。ジェイのみがやや見劣りするが、それでも名家の出であることは分かる。

 

 良く教育され、良い手本をたくさん見たのだろう。

 

 エルビラを思い出す。あの子の所作も上品だった。必要に迫られて身に着けた自分とは大違いだ。

 

「サラ先輩、ナイーヴなってるとこ申し訳ないんすけど」

 

「なってない」

 

「んじゃ、もう1ゲームできますね。あの野郎、傍目にはモテまくりで腹立ってきたんでリベンジ……というか、そろそろ負けた姿が見たいんですわ。協力してくれます?」

 

 サラはボールを念力で軽く浮かせた。重量を確認する。軽く振った時の遠心力のかかり具合を確認する。

 

「協力するのは君ね。私の方が高いスコアを出せるわ」

 

「お、ええ啖呵ですわ。秘策解禁するんすね」

 

 サラは談笑する三人と、シャロにも声をかける。

 

 もう1ゲームすると。次は私が勝つと。

 

「良いですよ。全然負ける気はしないんで、それでも良ければ」

 

 ウィルが煽るような笑みを浮かべる。

 

「望むところよ。後で吠え面かいても知らんぷりしてあげるわ」

 

 サラも好戦的に笑って見せた。

 

 

 

 

 

 







お気に入りと評価が急に増えて驚愕。
案の定ルーキーじゃない日刊ランキングに載ってて嬉しいと驚愕。
応援ありがとうございました。

ジェイちゃんは私も好き。



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