真夜中の森の中、1つの影が追われるように、もう1つの影がそれを追うように移動していた。そして、そのどちらも普通の生物の形をしていなかった。
追われているものは紫色の毛皮を持った獣と竜の中間のような生物、追っている方は右手に狼を模した籠手を、左手には竜を模した籠手をつけた騎士だった。
追われているもの⋯⋯今は獣竜としておこう、は疲れを見せ始めていた。それに比べ騎士の方は疲れている様子を全く見せていなかった。
このままだと追いつかれる、獣竜がそう思った瞬間、目の端に白いものがうつり、横腹に強い痛みがはしった後、体が吹き飛び木に激突した。
「ぐあっ!?」
騎士が自分の前に飛び出し、蹴りをいれたということに気づくのに少しの時間がかかった。
「なかなかの逃げ足だったな。私に追われてここまで逃げられる者はあまりいないからな」
騎士があまり抑揚の無い声で言葉を話し、獣竜が肩で息をしながら言葉を返した。
「あんたに褒められても、全然うれしくないね!」
「ふむ、そうか。まあ、そんなことはどうでもいい。いい加減あきらめて戻ったらどうだ・・・ドルモン」
ドルモンと呼ばれた獣竜が怒鳴り返す。
「やだね!メタルキャノン!」
そう答えた後、騎士に向かってドルモンの口からかなりの速さの鉄球がはきだされる。
自分に向かって鉄球が飛んできているのだ、普通はあせるようなシーンだが、騎士は落ち着いて左手の籠手から剣を出すと・・・
「ぬん!」
かけ声と共に振り下ろし鉄球を真っ二つにした。そして地に落ちた鉄球は小さな爆発をおこし、消える。
ドルモンは予想していたのか、驚きはせず苦虫を噛み潰したような顔をしていた。騎士は顔をドルモンに向け、先ほどより厳しい声で話しかける。
「あくまでも抵抗するつもりか。よかろう、我が主からは貴様が抵抗するようならば殺してしまえという命令を受けている。私もそちらの方がやりやすい。そうさせてもらおう!」
騎士はそう言いながら殺気を放ち、剣を構えてくる。
「あんた達の命令や都合で殺されてたまるか!」
ドルモンはそう言い返すが自分と相手の力量差は天と地ほどの差があることを知っている。まともに戦って勝てるはずが無い。
逃げる手段を考えている間にも騎士はゆっくりと近づいてくる。そこでドルモンは一か八かの賭に出た。
「メタルキャノン!」
騎士に向かって数十個もの鉄球をはき出す。
「無駄だ!」
それを騎士は剣を振ってできた衝撃波で全ての鉄球を爆発させる。しかし、
「ぬう、これは⋯⋯」
大量の爆発によってできた爆煙で周りの視界を封じてしまったのだ。
しかし、横の方向からガサッ、と茂みを揺らす音がした。
「むっ!そちらか!」
騎士は物音がした方向へと白いマントをひらめかせ走っていった。
ドルモンは騎士が向かっていった方向とは逆の茂みから顔を出すとほっと息を吐いた。
適当にうちまくったメタルキャノンが功をそうし、相手の視界を奪うことができた。その瞬間に飛び込んだ草むらの逆の方向にメタルキャノンをうったのだ。
しかし、このようなものはすぐにばれるだろう。すぐにできるだけ離れなければ⋯⋯。
「ふん、ずいぶんと小賢しいことをしてくれたな」
その時、騎士の声が後ろから聞こえた。
「なっ!」
後ろを振り返ると騎士がいた。そして聞く者がぞっとするような冷酷な声で話しかけてきた。
「私としたことがこのようなものに引っかかるとはな。だがもうこれで終わりだ」
こんなに早く見つかるとは全く予想していなかった。少しでも気を抜いたことを後悔するがもう遅い。
少し、騎士の姿が見えなかったから安心していてしまったところがあったのかもしれない。騎士は剣を構え、再び近づいてくる。
それを見て、ドルモンは今日、二度目の賭に出ることにした。先ほどの奇襲で警戒されているかもしれないが、生き延びるためにはやるしかない。
「おりゃぁ!」
騎士に向かって体当たりした。
「なっ!」
さすがにいきなり体当たりというすて身の行動にでるとは思わなかったのか、騎士は若干の動揺を見せた。
しかし、すぐに冷静になり騎士は剣を振り下ろした。ドルモンは真っ二つに⋯⋯
ならなかった。
「なにっ!」
無理矢理、空中で体をひねり剣をさけたのだ。
地面に足がついた瞬間、そのまま全力疾走する。
「ちっ!まて!」
無理に体を曲げたので腰のあたりが痛い。しかしここで立ち止まれば殺される。
(どこかで隠れないと⋯⋯)
考えながら走っていたからだろう、まわりの木が少なくなっていることに気づけなかった。⋯⋯この先の崖にも。気づいた時には、崖に足を踏み出していた。
「なっ!?」
かなりの速さで走っていたのだ、そう簡単にとめられるはずがない。結果、そのままのスピードで崖におちていった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
あとにはドルモンの悲鳴の残響だけが残されていた。
騎士はドルモンが落ちていった崖を見つめていた。いや正確には落ちていった森を見つめていた。
「⋯⋯この下に落ちたか。こうなると追跡を一度中断せざるをえんな」
(全く、面倒なことになったな)
騎士は自他共に認めるこの世界において最強クラスの生物の一体だった。その彼にしてみれば崖を下って追跡を続けること自体は簡単だったが、場所が問題だった。
(神の森か⋯⋯)
この崖の下の森は通称『神の森』
突然変異などでできた普通の植物とはちがう植物で生態系が構成されており、その中心には世界とつながっていると言われる遺跡がある。ちなみにここの管理は彼の主である。
しかしそれでも、特別な調査団でもないかぎりだれであろうと許可がないと入ることはできないのだ。
いちおう、追跡対象を追うためという理由はあるがそれでも後々面倒なことになるだろう。
(⋯⋯この高さから落ちたのだ、すぐに動ける状態ではなかろう。もしかしたら死んだかもしれんしな)
騎士はそう思うことにしてその場から離れた。
ドルモンは深い森の中で目を覚ました。
「いてて⋯⋯」
崖から落ちたにも関わらず、それほど体は痛くなかった。
恐らく、崖から落ちたが大量に密集していた木の枝とかなりの厚さのこけによって落ちた時の衝撃がやわらいだのだろう。
無理矢理体をねじ曲げたため、体はたしかに痛いし、木の枝によってできた傷もあるが幸い動けなくなるような重症はないようだ。
体の状態を確かめてからまわりを見渡してみた。
(うわ〜、すごい!)
見たこともないような植物たちがたくさん生え、その全てがとても美しかった。食べられそうな果実もあり、しばらくは生きていけるだろう。
(はぁ〜、だけどすぐに移動しないと⋯⋯)
騎士の事情を知らないドルモンはそう思いため息をついた。
(あそこから逃げ出して一週間、またあそこに戻るぐらいなら死んだほうがましだ!)
そう思いながら思い出すのはさまざまな苦痛だった。
次の朝、久しぶりにゆっくりと眠り、食べられる果物も持てるだけ持った。
(さあ、出発だ!)
そして彼の旅は続く⋯⋯