それでも楽しんで頂けたら、幸いです。
「ウィザード、あったよ〜!」
「ん?それは似ているが毒草だぞ」
現在、ウィザードが薬を作るためのストックが無くなってしまったため、ドルモンに薬草を教えるついでにウィザードは村を囲む山の一つで薬の材料を探していた。
すでに大半の必要となる材料は手に入れており、ウィザードの背負う袋に入っていた。
そのため、今探している薬草で切り上げようと思っているのだが、それはどこでも生えているが、見た目がほとんど雑草と変わらないので見つけづらいために時間が掛かっていた。
そして、ドルモンはそれらしき草を見つけると、すぐに持ってくるので、ウィザードはその確認に大幅に時間を割くことになってしまっている。
しかも、それがとんでもない毒草の時もあるので、ウィザードとしては気が気でない。
そんなことには気づきもせず、ドルモンはその草を持っている小さな袋の中に入れる。毒草も薬の原料として使うことがあるので持ち帰るのだ。
「おっ」
その様子を見てから、下を見るとちょうど探していた薬草が生えていたので採って袋に入れる。
そろそろいいかと思って、顔を上げるとそばにいたはずのドルモンの姿が無かった。
「おーい、ドルモン?」
返事が返ってくる気配はなく、不安が募り始める。
ドルモンはロイヤルナイツに追われている身であり、おそらく追っ手がかけられているはずである。さらに、ドルモンはこういっては悪いが落ち着きが無く、どこにでも走っていってしまう。
もし、自分と離れているときに追っ手に見つかってしまった場合、対処できるものもできなくなってしまうだろう。
連れてくるべきでは無かったかと今更ながら感じるがしてしまった事はしょうがないとして割り切り、ドルモンを探し始める。
こういう考え方をするあたりはウィザードも十分いいかげんな性格である。
そうしてドルモンを探してしばらく経ったときである。後ろで何かの気配を感じた。どうやら気配の主はこちらに近づいてきているようだ。
ウィザードはその気配に対して悟られないように身構えつつ、気配の主について思案し始める。
追っ手か、付近に生息しているデジモンか、はたまたただの通りすがりか。
なんにせよドルモンの姿を見られるのはまずい。そう考えている間にもう気配が背後に迫っていた。
一旦、思考を止め、攻撃の準備をし始める。そして、瞬時に振り向き魔法を放とうとした。が、
「うわ!オレだよ、ウィザード!」
そこにいたのはドルモンだった。
ウィザードの剣幕に驚いたのだろう、腰を抜かして地面に座り込んでいる。
「ふう、なんだドルモンか」
そう言って体から力を抜き、ドルモンに近づいて、手を貸した。
「なんだじゃないよ、びっくりしたよ」
そうドルモンは文句を言いながら立ち上がった。
「すまなかったな。おや、それは?」
ドルモンの手にはいくつかのきのこが握られていた。
「これは⋯⋯。冬虫夏草、か?」
漢方に使われる茸の一種であり、虫に寄生して生える珍しい種類のきのこだ。
しかし、元々の珍しさに加え、デジタルワールドでは寄生できる虫が少ないため、幻のきのことすら呼ばれている代物である。
「しかし、良く見つけたな」
そう褒めると、ドルモンは誇らしげな顔をした。
「適当にまわりを見てたら、前に教えられたのと似てたのが生えてたから採ってきたんだ」
そう言って、手に持っていた茸をウィザードに渡した。
「そうか、ありがとう。では、そろそろ戻ろうか」
「うん」
ウィザードはもらった茸を袋に入れ、ドルモンと一緒に山を下り始めた。
「団子四本とお茶を二つ頼む」
「かしこまりました〜」
二人は山を下りた後、村にある茶屋に来て、注文していた。
注文を受けたデジモンが店の奥へ引っ込むとドルモンは椅子の上で伸びをした。
すでに店に居たデジモンたちは、こちらを少し見ただけで、後は自分たちの注文した物に注意を向けていた。
この村では他人の事情を詮索しないことが一種の掟となっている。それにこの村は元々、罪人の流刑地だったため、噂を聞いて追われる身の者もやってくることがある。
そのような者が来れば、一応少しの間は匿い、本人の意思によってはそのまま住み着くこともある。
⋯⋯そのかわり村で騒動を起こそうものなら村人全員によって叩きのめされたあげく、村の外に放り出されるが。
このような村なのでドルモンのような者が来ても、村人達が気にすることはなかった。
「お待たせしました」
しばらく待っていると、注文していた団子と茶が運ばれてきた。
「いただきま〜す」
ドルモンは早速、団子に手をつける。ウィザードは手を茶で温めながら、それを眺めていた。
「ぐえっ!」
すると、突然、ドルモンがうめき声を上げた。どうやら一気に食べていたせいで、喉をつまらせたようだ。急いでドルモンは茶を飲み始めた。
「大丈夫か?」
ウィザードは少々呆れながらドルモンに尋ねた。
「う、うん」
少し息を荒くなっていたが無事だったようである。
「全く、喉につまったら最悪、窒息する可能性だってあるんだから、もう少し落ち着いて食べろ」
「う、ごめん」
そう言ってうなだれたドルモンの頭を、ウィザードは溜め息をついて撫で始めた。撫でられているドルモンは気持ちよさそうにする。
「ん?これは⋯⋯?」
「どうしたの?」
「いや、君の背に小枝が引っかかっていただけだ。ほら」
そう言ってとウィザードはドルモンに小枝を見せた。
「ほんとだ。ありがとう」
ドルモンは礼をいうと、再び団子を食べ始めた。
それを見て、ウィザードも自分の団子食べ始める。
「ん⋯⋯?」
しかし、少しすると横から視線を感じ、そちらに目をやる。そこには物欲しげにこちらを見つめるドルモンが居た。
「⋯⋯はぁ、食べるか?」
溜め息をついて自分の持っている団子を差し出した。それを嬉しそうにドルモンは食べ始める。もうすでに三本の団子を食べているというのによく食べるものである。
「おや、久しぶりですね、二人とも」
その時、道からウィザード達に声がかかった。そちらに目をやると、店の前にクロスが立っていた。
「ああ、クロス様ですか」
「相席してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
そのようなやりとりをした後、クロスがウィザードの横に座る。まわりにいるデジモン達はクロスに向かって挨拶をした。
「クロスさん、久しぶり〜」
ドルモンも挨拶をする。
「ええ、久しぶりですね。どこかへ行った帰りですか?」
「少し、山で薬草を探していた帰りです。クロス様は?」
「私は少し散歩していただけです」
店の者が注文を聞きに来たので、クロスは一旦話をやめて、自分の注文をする。そこからはたわいない雑談を交わしていった。
「おや、もうこんな時間ですか」
この店に入ったのは正午頃だったが、時計を見ればすでに2時頃である。
「随分と長く居座ってしまいましたね。店にも迷惑ですし、そろそろ退散するとしますか」
「ええ、そうですね。ではクロス様、これで失礼します」
椅子から立ち上がり、店を出る。
「それじゃあ、クロスさん、また今度」
「ええ、それまで元気にしていて下さいね」
元気にドルモンが別れの挨拶をし、クロスがにこやかに挨拶を返したあと、それぞれの家路についた。そうして、ドルモン達がしばらく歩いた後である。
「む、しまった」
ウィザードが焦った声を出した。
「どうしたの?」
「いや、どうやら先ほどの店に忘れ物をしたようだ。すまないが、先に帰っていてくれ」
「わかった」
ドルモンが家の方向を向かうのを見てから、ウィザードは駆け戻り始めた。
しばらく歩いた後にウィザードは一つの路地裏に入っていった。先ほどの茶屋へと続く道では無く、その奧は行き止まりとなっている。そこの影にクロスがたたずんでいた。
「⋯⋯わざわざ来て頂いてすみませんね」
「いえ、別に気にしてません。それよりもこんな術までも使って私を探したということは、なにか重大なことがあるのでしょう」
そう言って懐から一枚の呪符を取り出した。茶屋でドルモンのそばに纏わり付いていたのである。
「これは、人を探す時に使う呪符ですよね。術式が術の類を使える者でないと見えないようになっていたので、私だけに伝えたい事があると解釈して、ドルモンには誤魔化してきましたが」
「ええ、できれば、あなたと内密に話したいことがありましたので、そうして頂いて助かりました」
いつもは温和な表情をまとっているクロスだが、今はその顔を厳しく引き締めている。
「実は、先日ロイヤルナイツの隠密部隊が探索に来ていました。一応情報が伝わらないように全員始末しておきましたが、見つかるのは時間の問題でしょうね」
「なるほど、いつかはそうなると思っていましたが⋯⋯。まあ、むしろ、よく今まで見つからなかったものです」
以前からその事を予想していたため、ウィザードは特に驚く様子もなく淡々と受けとめていた。しかし、一つだけ腑に落ちないことがあった。
「ですが、それならば、当人にも知らせた方が良いのではないですか?」
ドルモンはまだ1人で旅をできる程の知識も、技術も持ってはいない。そのためウィザードは元々、追っ手の気配があればドルモンとともに行くつもりだった。しかし、それにしても追っ手のことをドルモンに知らせないというのはおかしい話である。また、当人が心構えできているのと、できていないのでは、なかなか大きな違いがある。その点をクロスが思い至らないとは思えない。
するとクロスが少し言いづらそうな顔をした。その表情でウィザードはこれからクロスが言うことに大方の検討がついた。
「このことを告げるにはドルモンには酷だろうと思いましたので。あなた方が旅出た後は今後一切、この村に近づかないで欲しいのです」
その言葉は残酷なものであるのだろう。しかし、相手があまりにも強大すぎるのだ。ロイヤルナイツの命、つまりイグドラシルの命に逆らったとなれば、こんな小さな村などは一瞬で消されてしまうだろう。そのため村長の判断としては正しい判断である。
ウィザードは根無し草のような性分であり、仕方ないと割り切ることができる。だが、ドルモンははたから見ても分かるほどにこの村を好きになり始めていた。そんなドルモンにこのような事を告げればとてつもないショックを受けるだろう。
そう考えたからこそクロスは回りくどい方法でウィザードを呼び出したのである。
「なるほどそれで、村の皆にドルモンのことを告げた時にあんなことを言ったのですね」
それはクロスが皆を集めた時に言った言葉。
『ドルモンのことはどこにも漏れないようにして下さい。そして、もし彼がこの村を離れたならば、全ては無かったことにして下さい』
集められた村人達はそれに疑問を感じた。元々追われている者を匿うのだから、他に気付かれないようにするのは当たり前である。
また、その者が村を出たのなら、もう存在しないように振る舞うのもこの村にとっては暗黙の掟のようなものである。なぜ今さらそんなことを言うのだろうかと。しかし、この村の者達はクロスに絶対の信頼を持っていた。それゆえ誰も何も言わなかった。
「思えばあの時すでに、あなたは追っ手の正体を知っていたのですね」
ウィザードは苦笑の表情を浮かべる。つまり自分は贄に出されたようなものか、と思いながら。その思考を読んだかのようにクロスが口を開く。
「ええ、すみません。ですが、あなたにはまだ選択肢があります」
ウィザードは眉を顰めた。クロスの言いたいことは分かっている。ドルモンを放り出せということだ。
確かにそれが一般の考えだろう。なにせ相手は神である。たった一体のデジモンの力では、手を貸しても同じ事だろう。ただ無残に殺されるだけである。だが残念ながらウィザードはその一般に当てはまるような者ではなかった。
「一旦引き受けたことを途中で投げ出すことなんてしませんよ。それに私は元々一つの所に留まるような性分ではないんですよ」
ウィザードには、もはや相手が神であろうとなんであろうと抗えるだけ抗ってやろう、というふてぶてしさすら生じていた。
「そうですか⋯⋯。以前にもこんなことがありましたね」
クロスはそう言って微笑した後、顔を引き締めた。
「では、どうかよろしくお願いします」
そう真摯な思いが籠もった言葉と共に頭を下げる。それを見てウィザードは、ゆっくりと、力強く頷いた。そして、無言で路地から立ち去っていった。クロスはその後ろ姿を見送りながら佇んでいた。
相変わらず血のような色で染まった部屋の中で、ドゥフトモンは空中に浮かび上がったディスプレイを操作していた。
「ふむ、おおむね良好といったところか」
そう呟きながら口角を上げていた。どんなものであろうと自分の研究と実験が上手くいっていることは嬉しいものである。
ただし、その先に起こることを考えれば、頭痛と胃痛しかしないわけだが。
「しかしイグドラシル様は、なぜこんな物を作ろうと思いなさったのか⋯⋯」
このことが他の守護デジモンにばれようものなら大問題である。神としての権威も地に落ちるだろう。しかもその対応にあたるのは参謀としての立場にいる自分なのである。
「しかも、あの被験体のこともある⋯⋯」
いまだ捕まっていないあれも不安要素の一つである。そう考えてため息を吐いたときである。浮かび上がったディスプレイに1つのメールが届いく。それを見たドゥフトモンの顔に笑みが浮かんだ。そして、すぐにその部屋から離れていった。
今回はこれで終わりです。
次回からはウィザード達が村から離れる事になると思います。
あとうちのドゥフトモンは結構、研究者気質です。