どうか、読者様の娯楽になれれば幸いです。
第二話 生存者
カーテンの隙間から零れる太陽の陽ざしを浴び目を覚ます、知らない天井だ。だが昨日あった事ははっきりと覚えてはいる、恐らく心美君に運んでもらったのであろう。
しかしながら正直に言うと信じたくない、この靡(なび)くカーテンを開いてしまうと昨日のあった事は事実だと見せつけられてしまうのではないかと思い、カーテンに手をかけたまま止まる。
「令華先輩?起きていたんですね、お背中大丈夫ですか?」
後ろから戸が開く音がし、振り返ると心美君が立っていた。
「ああ君か、背中は…大丈夫だと思うよ、痛みも無い」
「本当ですか?やせ我慢してません?」
流石に大丈夫と一言、言うだけじゃ信じては貰えないか、ならば証拠を見せるべきであろう、そう考え僕は上に着ていた服を脱ぎ彼女に背中を見せる。
「ちょ、ちょっといきなり脱ぎださないでくださいよ、令華先輩!」
「何を照れている?僕と君は同姓だし、何も恥ずかしがる事はあるまい?もしかして君はレズビアンだったりするのかい?それなら少し申し訳ない事をしたな…すまない」
「勝手にレズビアンと認定しないでください、私は普通です。令華先輩のその脱ぎ癖どうにかした方がいいと思いますよ…」
「人を露出狂みたいに言わないでくれ、私は君になら肌を見られてもいいと思っているだけで、おいそれと肌を見せつけたりしないよ、それに君にいつ見られてもいいようお肌の手入れには時間をかけているしね」
私は少し、ほんの少し子供体系ではあるがスタイルには自信があるといっても彼女の様に胸が大きい訳でもなく、ただ程よく肉を付け程よく体を引き締めているだけの話だ。
「それで、どうだい?僕の背中は酷い荒れようにでもなってるかい?」
「いえ、相変わらず綺麗な肌をしていますよ」
「ハハッそれは、よかった君に汚いなんて言われたら3日は寝込む自信があるからね」
彼女にとっての憧れの様な存在になる為に僕は色々努力してきている、それを否定されてしまっては本当に心が折れてしまう。
「今日はよく口が回りますね…」
そうだろうか?いつもと同じを心掛けているつもりだったが、朝から彼女に会えた事も、あの惨劇があってもなお改めて彼女の生を認識して僕は少し昂ってしまっているのかもしれない。
「それでこの後お昼の後位に、役場まで来れますか?話があるそうなので」
彼女は少し陰(かげ)りを見せながら口にする。まるで僕と役場の人を合わせたくないような、しかしこの状況であればこの村を纏める彼らと会わない理由はないし、自分が何かを証明できるいい機会であろう。
「君も一緒に来てくれるんだろう?それなら断る理由はないよ」
「そうですね、私も…一緒に行きます…」
やはり陰りがある、僕を連れて行きたくないと言うより自分が会いたくないと言った感じだろうか?ならば少し気を楽にしてあげよう。
「令華君、一緒に食事でもどうかな?」
「先輩の奢りなら、お願いします」
こやつめ、一瞬陰りを見せたと思ったらすぐに元に戻りおった、僕の考え過ぎだったのだろうか?休ませていただいた宿屋の人にお礼を言いお金を払おうとしたが怪我人の為に貸しただけなので、お代は必要ないとの事だった。宿を出て周りを見渡す、空は晴れ模様ではあるが、一つだけおかしい所があるそれは、遠く遠くの先に何やら赤い壁の様なものがこの村を囲んでいる事に気づけるだろう。
「心美君これは?」
「これは…どんなに理解不能でも笑わないでくださいよ?」
「ああ、笑わないとも」
「これは、地球が我々を守ってくれているんです、あのバケモノたちがここに入ってこないようにと、言わば結界というものですね」
地球が守る?この結界で?なんて馬鹿馬鹿しい地球にこのような芸当ができるのであれば人類はもう少し先の領域に進んでいるだろうに、とも笑い飛ばしたくなるような話題だったが、恐らく天成という変身能力もその地球とやらが私達に与えた加護なのであろう。
「なるほどね」
「笑わないんですか?」
「笑う訳がないさ、何よりその恩恵を僕自身が受けたからね、凡(おおよ)そあの天成とかいう変身能力もこの結界も昨日君に語りかけていた何者かも全ては地球が力を貸してくれたという事実があってこそなせた業(わざ)と言う訳だろう?」
全く人間に守らせる位なら地球そのものが守ってくれよと、愚痴の一つも言いたくなるが我慢する、ここで何かを愚痴った所で今の状況が変わる訳でもないし考えるのもここまでにしておくが…。
「凄いですね、全部当たってます」
「そりゃそうだろうね、ただこの結界がある事の気がかりは外からの物資が無いと言う事だけか」
「それなら大丈夫です、占領された地域のエネルギーを吸う事でこの生き残った空間だけに流すと言う事らしいので…」
生き残った空間、ここ以外にもこういう被害があると言う様な言い方だなそれは。それにしても敵に滅ぼされた地域からの融通か、便利だな地球様というモノは。
「因みにどのぐらいこの敵が出現したんだい?関東全域ほどかな?」
「それは役場に着いてからお話します、それよりご飯!食べましょ、ねっ?」
「わかったよ、食べる所は君が選んでくれそういうのには僕は疎い」
彼女に引っ張られながら進んでいくところで、どこか家かそれとも外で誰かが流していたであろうラジオから、世界がなんとかと聞こえた気がしたがよくは聞き取れなかった。
昼食を食べ約束通り役場に着きしばしの間控え室で待たされる、その時だったかなり背の高い男性が控え室に入ってくる、役場の人だろうか?いやそれにしては何処か幼さを思い起こさせる風貌をしている。
「君は、役場の人かな?」
「俺は違うよ、今朝役場に来いって呼ばれただけだ、そういうアンタは?」
「これは偶然だね、僕も今朝役場に来てくれと頼まれたんだよ」
僕と同じ控え室に入り、僕と同じように今日役場に来るように呼ばれた。つまるところはそういう事だろうか?まぁ別に理由が違った所で僕には関係はない事か。
視界を窓に向ける、近くには小学校だろうか?それ以外にはパッとしたものがなく閑散(かんさん)としている街並み、村と言うだけあって人通りも少なく実に僕好みの景観であった。将来はここに住むのもいいかもしれない、近くには我が国の最高峰を誇る富士山も見える、実にいい場所じゃないか、ただこれまた我が国が世界に誇る文化財、忍野八海これを見に来る観光客も多いだろうか?そこは少し僕にとっては要らない要素かもしれない、美しいもの、何より有名な物、貴重な物というモノに人というやつ惹かれる、それは別にいい事だが自分の近くに人が集まるというのは自意識過剰かもしれないが、僕と言う一個体からすれば重要な事であった。
コンコンと二回ノックがあったのちスーツを着た一人の男性が入ってくる、恐らく時間になったのであろう。「ご案内致します」という一言共に僕たち二人は彼の後を付いていき、会議室ともいうべき場所に通される。そこには心美君といかにも成金と言うべきか、それとも権力を持つものと言うべきかそう思わせる風貌の恰幅の良い歳は50から60といった男性が立っていた。
「今日は態々このような場所に来てくださってありがとうございます」
「来てくださっても何もアンタらが呼んだじゃないか」
私が言いたかった事を隣の男が代弁してくれる、確かに僕は今日朝起きたらここに来いと言われたから来たのであって自分の意志で来たわけではない。
「これは失敬、しかし今日皆さまに集まっていただいたのはこちらに居らせられる、富士心美様と貴方様方、忍野令華様そして武田(たけだ)扇(おうぎ)様に聞き届けたいお願いがありこちらにお呼びした限りでございます」
何だこの人は、この人から先ほどまで感じていた権力者という印象からは程遠い、更に力を持つものにすり寄るような意地汚さを想い起こさせる。
「それで?そのお願いというものに置かれましてはどういったものなんでしょう?」
僕は少し苦笑いを浮かべながら、彼の本心を探る。
「ああ、失礼そもそも今世界でどのような事が起こっているか守護者様方はご存じでしょうか?」
守護者?僕たちの事を言っているのか?なぜだろうか、意味がわからないがそもそも世界で何かが起こっている?もしかして昨日のあのバケモノが世界中に解き放たれているとでもいうつもりなのだろうか、この男は。
「それなら知ってるよ、テレビでもラジオでもSNSでも神の裁きだの宇宙人の襲撃だの言われているアレの事だろう?」
神の裁き?宇宙人の襲撃?よくわからない。
「すまない、何を言っているのか理解できないのだが?」
「令華先輩には、私から説明します、と言ってもテレビを見ていただければわかると思います」
そういい彼女はテレビをつけるそこに映っていたのは、東京だろうか?大阪であろうか?それとも外国であろうか?場所はわからないが昨日見たあの光景をよく思い出す。荒れに荒れ、建物は崩れ、そこに昨日まで何があったかなんてわからない街並みが映っている。目を凝らせば人の亡骸も普通にテレビに映っている気もする、その位悲惨な光景。
それこそ津波や地震、そしてテロの映像すらかわいく思えてくる程のモノが、何かによってめちゃくちゃにされた世界の映像がそこには映っていた。
「これはにわかには、信じがたい光景だね…」
隣にいる武田君だっただろうか、彼は知っていたようだがそれでも彼も嫌な物を見たと言わんばかり視線を外す。
「この映像は真実です、しかしこの忍野村という場所と同じように北海道それ以外にも少なくはありますがこのような結界ともいうべき囲いに守られている場所があります」
彼女は苦虫を噛み潰したような顔をしながら話した。そこで待っていましたと言わんばかりの顔で隣の男は口を開く。
「この映像を見ていただいて私達のお願いが何か理解されましたでしょうか?」
成程最初から簡単な話だった、何故僕がここに呼ばれたかも、恐らく僕の隣の彼も、そして心美君、君が何故そんなに辛そうな顔をしながらその男の隣に居るかも全ては簡単な事だ。しかし僕は口に出し確認する。
「つまりは貴方達はこう言いたい訳だ、この結界内に残った数少ない人類を僕たちに守ってくれと、地球の声が聞こえたという心美君がそこに居るのも、世界がどうなるかを彼女に直接聞き、自分達が生き残る道はこれしかないと悟り、こんな年端も行かぬ我々に頭を下げているとそう言う事か」
「はい、その通りでございます」
僕たちが外にでているかもしれない生存者を見捨ててここを守る事だけに集中してほしいこの男はそう言っている訳だ。
「納得できる訳ないだろ!外には俺の友達も家族も生き残っているかもしれないんだぞ?俺は認めないすぐにでも外に出て探す!」
隣の彼が激高する、それもそうだろう、ここに自分の大切な人が居るならまだいいかもしれない、だがそうではない家族も友人もここには居ないんだ、僕の家族も、そして恐らく心美君の家族も友人も…だからこそ彼女はあそこまで陰りのある顔をしているのであろう。できるのであれば今すぐにでもこの外に出て探しに行きたいはずだろう、もしそれが赤の他人だとしても彼女は助けに行きたいはずだ、それが助けられる命であるならば。しかし彼女はその行動に移さない、それはどういう意味か。
「お願いとはよく言ったものだね、これは命令の間違いだ。そうだろう?」
「何のことですかな?」
このお惚け爺がよく言うな、やはり最初の印象は間違ってはいなかったようだ。
「武田君と言ったな君?」
「そうだけど」
「残念だが君の望みは叶わないよ」
「なんでだよ?」
怒りの余りかそれともやるせなさからくるものかは、わからないが彼は現在興奮状態にある。しかし納得させる為にはこう言わざるを得ない。
「えぇーっと、貴方は何という名前でしたっけ?」
僕の前に立つお惚け爺に訪ねる。
「私の名前ですか?賀(が)水(すい)殿印(でんいん)でございます」
成程実にこの人に良く似合った名前だ、親はこうなる事を予期して名前を付けたのではと疑いたくなるくらいには、思わず笑いが出そうだが我慢しよう。
「賀水さん、今忍野村に居る住人は?」
「昨日現在避難民も含め、一万と一千人弱と言った所ですね」」
昨日の今日で人数をしっかり把握しているとはなかなかこの男やるようだ、だからこそこの命令ができるのであろう。
「武田君いいかい?簡単な話だ、世界はこのような惨状に遭い我々はなんとかこの忍野村という場所に、避難できた訳だがこの結界がもし破られるような事になったらどうなるだろうか?」
「言うな!」
彼も気づいたのだろう、この答えに。
「僕たちが仮に外に出て生存者を探してもいい、もっと言ってしまえば心美君を連れて探しに行けば更に生存者は見つかる可能性はあるかもしれない、仮に百人の生存者が見つかったとしよう」
彼は下を向き言葉は出さない。
「その見つけた生存者を忍野村に届ける前に、この忍野村がバケモノによってあのテレビに映る街のように破壊されたら、君はどうする?簡単な話だよ、この男は一万一千人を盾にしながら僕たちにこう言っているんだ」
「クソっ」
胸倉を彼につかまれる、彼にもレディ―に対して行う扱いではない気もするが今は水に流すとしよう。
「居るかも分からない生存者の為に私達を見捨て見殺しにするのかい?とそう言っているだけさ」
「わかってるよ!そういう事なのは!でも、だからといって納得できるかよ…」
彼の意見もごもっともだ、自分の大切な人を見殺しになんてできない、助けれる可能性があるなら今すぐにでも助けに行きたいしかしだからと言って、勝手に背負わされた一万人強の命を、君の一時的な感情で捨てる事ができるか?そういう話だ。
本日はここまで読んでくださりありがとうございました。
昼12時に、次話が投稿されますので、よろしければお読みいただけると幸いです。
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