綺麗な星に還るまで   作:鈴川 掌

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第三話 苛立ち(下)

 

 *

 

 一回も勝てなかった、自分よりも30㎝も小さい同級生の女子に。俺は運動は苦手じゃない、そしていくら天成というモノで人並外れた力を手に入れたとしても、それでも俺の方が力もあったはずだ、一度目を瞑る。

 目を瞑るとあの光景が思い出す、空に亀裂が入り眩い光と共に辺り一面を焦土に変えたあの光景を。家族が心配になった、向こうには友達の家もあったはずだっただから今すぐ助けに行かなくてはと思ったが生憎な事に自分は瓦礫の下、隣には見ず知らずの赤子とその赤子を抱きかかえる小学生だろうか?その位の小ささの女の子と一緒に完全に閉じ込められた。赤子は泣きだし、女の子も一生懸命に自分も泣き出したいだろうに目に涙を溜めながら必死に「大丈夫、大丈夫」と赤子をあやす。この女の子達を助けなくてはならないと心でそう思った、その時には家族の事も友達の事も頭から消えてこの子達の為に自分が頑張らなくてはと心から思った、それでも体が動かないどれ程この子達を助ける為に動こうと思っても体が竦む。もしかしたらすぐ助けが来るかもしれないと、もしかしたら下手に触って動かそうとすれば自分達同様瓦礫に飲み込まれ今度こそ今は少し人が動ける空間があるがそれすら無くなってしまうかもしれないと、悪い方悪い方へと考え続ける。けれどここで動かないのはこの子達を見捨てるのと同義だ、だから結果が最悪になっても例えもう二度と友達とも家族とも会えなくなる可能性があるとしても動くんだ。

 そう考えた瞬間世界が変わった。見ているだけでとても落ち着く青空、透き通った水にそしてその水の上に佇む女の子がいる。ここは何処だろうか?もしかして先ほどまで見ていたものは自分の妄想で自分はとっくに瓦礫に飲まれて死んでしまっているのではないかと思い声をだそうとするが声を出すことはできない。

 少女はゆっくりとこちらを向き何かを呟いた、その瞬間先ほどまでいた瓦礫の中に戻される。だが今の自分は先ほどまで違うと言う事はなぜかわかる自分はこの子達の為に動けると確信できた、ならば頭の中に浮かぶ言葉を一言いうだけ。

 涙を流す少女の前に立ち、一言ずっと言ってあげたかった言葉を口に出す。

「大丈夫、絶対俺が助けるから」

 そう言うと少女は不思議な物を見るように涙が止まった、先ほどまで恐怖で震えていた奴に何ができるのかとそう心で思っているのかもしれないが今はもうちゃんと動けるから。

「俺の願いは今ここに居る人達を助けたい、それを証明する『天成』」

 そう唱えると服装が代わり右手には大きな軍配を持っている、自分の苗字が如くその姿は武田信玄の様で少し恥ずかしかったが、そんな事は気にしている場合ではない、今ならこの大岩もどかせるはずだと分かっている、軍配を振ると決してこちらに瓦礫が崩れてこないように出口まで一本道ができる女の子を抱きかかえ人とは思えない高度までジャンプすると周りはもう荒れに荒れていた。がそこに一か所だけ荒れていない土地があるのを気づきそこへ向かう、そして女の子を置き家族を探しに行こうとしたその時だった目の前に大きな壁が現れたのは、もうここから先に生きている人は居ないと言うが如く、無慈悲に家族を友達を助けに行こうとする、俺の計画は終わりを告げた。

 

 *

 

 街を歩く、誰も僕に話しかけてこようとはしない、守護者という存在を恐れ多いと思っているのかそれとも僕自身が助かった人間の中に普段の僕を知っている者が居てそれを言いふらしているのか。それは僕の知った事ではないがこうも歩くところ歩くところで避けられるのは少し傷付く、その傷を癒さんがためとも言っていい可愛らしい女の子が一人トテトテとこちらに向かって走ってくる。

「あ、あの守護者様ですか?」

 可愛らしい女の子はそう聞いてくる、僕達は普段様付けで呼ばれるような存在になっているのかそれは守ってくれた感謝からなのか、あの賀水とかいう男の仕業なのかは一先ずは置いておくとして質問には答えなくてはならない。

「そうだよ、僕が守護者だ」

 一瞬少女が僕の一人称に疑問を抱いたような顔をしたが本題を思い出したらしい。

「あ、あの男性の守護者様にこれを渡していただきたいのですが、よろしいでしょうか…?」

 扇に?こんな可愛らしい少女が何を渡すことがあるのだろうか?

「構わないよ、なんなら彼の所に案内してあげようか?」

 どうせ彼はまだ学校の校庭で寝そべっているだろうから。

「い、いいんですか?お、お願いします」

 本当に裏もなく、やりたい事の為に一直線に進む可愛らしい少女だ、こんな少女が彼に何の用なのだろうか?そう考えながら彼女先ほどまで戦っていた学校へ案内する。

 

 *

 

 どれ位物思いにふけっていただろうか、かなりの時間目を瞑っていた気がする、起き上がり周りを見渡すと夕暮れが近づいていた本当に長い間物思いにふけっていたらしい、そして余りにも長く動かなかったせいでお節介な嫌味女がこちらに文句を言いに歩いてきていると思ったがどうやら今回は少し要件が違うらしい、後ろからトコトコと少女が付いてきている。

「今度は俺になにをさせるつもりだよ」

「そう邪見に扱わないでくれたまえよ、今回は私ではなくこのレディーが君のお相手だ」

 そう冗談めかして言いながら彼女は隣に移動するとどこかで見覚えのある少女が目の前には居た。

「君は…」「あ、あの」

 言葉が同時にぶつかりよく聞こえなくなる。

「あ、お先にどうぞ私は大層な事を話に来た訳では無いので…」

「いやいいよ、そっちからで俺の聞こうとしていた事も対した事じゃないし」

 そう言うとどちらも黙ってしまって話が進まない事が彼女には余程気に入らなかったのかそれともじれったかったのか、割って入ってくる。

「おい君、君は扇に会いたいくて僕を頼ったんだろう?それならば早く要件をすませてくれ僕も早く家に帰りたいんだ」

 まだ年端も行かぬ少女になんて言葉を投げ捨てるんだ、この女はと思ったが少女は意を決したように頭を下げる。

「あの時は助けていただいてありがとうございました、あ、あのこれ大した物ではないですが私が作ったハンバーグです。どうか受け取ってください守護者様」

 このような少女に様付けで呼ばれるとなにか嫌な感じだ歳も一回りも離れて居ないだろうから普通に名前で呼んで欲しいんだが、それを伝える前にまずはお礼をしなくてはならないな。

「ありがとう、それと名前はなんて言うの?俺は武田扇、扇でいいからさ守護者様なんて堅苦しく呼ばなくていいよ」

「で、でも私達を助けていただいたものには感謝しなさいと賀水さんが…」

「いいのいいの、で?君の名前は?」

「あ、私の名前は河口(かわぐち)真(ま)守(もり)です」

「真守ちゃんね、態々礼を言いに来てくれてありがとう、このハンバーグ大事に食べるね」

 そう言うと彼女はペコリと頭を下げて避難所だろうか?それともどこかの民家だろうか?そこに向かうべく走り去って行った。

「よかったじゃないか扇、僕にボロボロにされたかいがあったね」

「どの口が言うかどの口がこのちんちくりん」

「言ったな?君僕に対して言ってはいけない事を言ったな?覚えておけよぉー」

 と本気の殺意という者だろうか?それを見て本気でビビってしまったが、彼女はふと笑いだす、先ほどまでの殺気だった空気はどこへやら本当に優しい表情で笑っていた。

 

第三話完

 

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