メ ス ガ キ モ ー グ   作:一般通過血の指

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つべでエルデン動画を色々漁ってたら褪せ人に転生したモーグ様がミケラやメリナと一緒に狭間の地を練り歩く動画を発見しました。
普通にエンタメとして面白かったので布山ケフカさんの動画を皆も見よう!

……縛り大分キツいけど完走出来るんですかね……?


戦祭りの時間だ

 

 

 赤獅子城の大広間に集う戦士達を見渡した褪せ人は、端に佇む二人組を見て硬直した。

 血の指の翁と、その隣にいる少女。見覚えは無い筈なのに何処か既視感がある風貌である。

 

「……初めましてだな、貴公。珍しい武器だが、曲剣の一種か?」

 

「……これは刀だ。遠い葦の地で打たれた代物でな」

 

 互いに初対面であるかのように振る舞う褪せ人と翁。

 褪せ人が何を聞きたいのか察していたため、翁は話に乗る事にした。

 

「話には聞いた事があったが実物を見るのは初めてだな」

 

 嘘である。普通に見た事あるし何ならついこの間まで同じ刀で散々に切り殺されてきた所である。

 

「時に貴公、隣の少女は一体?」

 

 翁との会話もそこそこに、褪せ人は隣へと目を向けた。

 木製の机に腰掛け、足をプラプラと放り出して悪戯っぽい笑みを浮かべる金髪の少女がこちらを見て目を細める。

 

 髪色が違う、角の大きさも違う、扱う獲物も違う。だが全体的な雰囲気に褪せ人は強烈な既視感を覚えた。

 

「初めましてぇ♡私モルグって言うの、パパと一緒に戦祭りに来たんだけど雑魚ばっかりでつまんないなぁ」

 

 この人を食ったような甘ったるい声音、大人を舐め腐った嘲り、間違いなくモーグであろう。

 本当にモーグであれば我々の何倍も生きてきたしここにいる誰よりも強いのは本当だと思われるので言葉の正当性はあるのだが、さておき。

 

 この場に集うは褪せ人の目から見てもかなりの猛者達である。そんな彼らが正面から雑魚と言われて黙っていられる筈も無い。

 

 苛立ちのままにモーグに向かおうとする一人の戦士、そんな彼を止めるべく城壁の上から声を掛けようとする城主ジェーレン、それらよりも早くモーグ――王狩りモルグに声を掛けた者がいた。

 

「ワハハハハ! 言うではないか! このような血生臭い場に少女が来ているのが疑問だったが、全くいらぬ心配であったな。貴公もまた一廉の勇者なのだな!」

 

 豪快に笑いながらモルグへと話しかけたのは、戦士の壺アレキサンダー。

 巨大な歩く壺という謎生命体である彼だが、温厚かつおおらかな性格をしており、モルグの言葉に眉を顰める事も無く笑って流していた。彼に眉は無いが。

 

「さぞ名のある強者とお見受けするが、何故そのように敵を作るような事を言うのだ?」

 

 アレキサンダーの疑問に対し、モルグは当然のようにこう言った。

 

「敵にすらならないから。確かに人としては強い奴が揃ってるとは思うけど、相手は将軍ラダーン。最強のデミゴッドだよ? 君達みたいなのが幾ら集まっても剣の一振りで塵のように飛んでいく。まぁ囮くらいにはなるんじゃない? すぐに砂漠で眠る貴腐騎士や赤獅子騎士の仲間入りになるだろうけど」

 

 デミゴッドと戦う事の意味を語る。相手は正しく人智を超えた存在であるが故に、人としての強者というだけではまるで足りないのだ。

 そう語るモルグに、集う戦士達は聞き入っていた。彼女の言葉には奇妙な説得力があり、最早彼女をただの少女と侮る者は誰一人としていなかった。

 

 集う戦士たちの士気が下がりかけたその瞬間、誰よりも早く笑い飛ばしたのは、やはりアレキサンダーであった。

 

「戦士とは己が持つ力のみを誇示する者ではない、勝利への強靭な意思を持って愚直に前進し続ける者だ! 相手が我らを束ねても勝てる相手では無いのは百も承知、――だからこそ我らは挑むのだ!」

 

 アレキサンダーの大声に、場の空気が再び沸き立つ。

 既にこの場はアレキサンダーが掌握した。

 

「狭間の地を巻き込んだ破砕戦争を生き延びた最強のデミゴッド、星砕きのラダーン。相手にとって不足無し! 斯様な大敵を弔う機会に浴するなど、滾るではないか!」

 

 ウワッハッハッハ! そう笑うアレキサンダーに戦士たちは然りと頷いた。

 いとも容易く場を支配し返したアレキサンダーの言葉を、褪せ人は引き継いだ。彼が語る言葉に、己もまた感化されたが故に。

 

「ここに来て貴公の力を侮る者は最早いまい、ならば後は我らの番だ。我らは戦士、己が力を示すなら言葉ではなく戦いでだ」

 

「ふぅん? じゃあ期待しててあげるぅ♡私達に横取りされないように頑張ってねぇ♡」

 

 モルグがにっこりと笑う。

 結果的に先程以上に士気が上がる事となったが、アレキサンダーは意識して鼓舞した訳では無く、ただモルグに自身の考えを伝えただけのつもりだろう。

 だからこそ、そのひたむきな言葉は戦士達の闘志を高める事となった。きっとアレキサンダーには人を惹きつけるカリスマがあるのだろう。

 

 かくいう褪せ人も、アレキサンダーの言葉に心を揺さぶられた者の一人だ。

 ここで立ち向かわねば戦士では無いだろう。

 

「――さぁ、行こうか」

 

 戦意を胸に、城に集いし戦士達は慟哭砂丘へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 腐敗に侵されたケイリッドに在りながら、その砂丘には他と比べ朱い腐敗の残滓が少ない。

 狂いながらも、ラダーンが腐敗を取り込んでいるのか。或いは、最早腐る余地の無いほどにこの砂丘が朽ち果ててしまっているのか。

 

 きっと後者なのだろう。広大な砂丘に積みあがった幾千幾万の騎士達の遺体や、墓標のように砂丘に突き立ったあらゆる武器を見た褪せ人は、朧気ながらそう思った。

 

「――あれがラダーンか」

 

 慟哭砂丘の一際高い丘の頂上に、その姿はあった。

 獅子を模した黄金の兜、ラダゴンから受け継いだ戦神の赤髪、巨人もかくやという程の巨躯。

 実物を見るのは当然初めてだが、それでも見ただけで分かる苛烈な闘気は相対する者にデミゴッドの力を知らしめる程に強力だった。

 

「はっはは、楽しみだ」

 

 そう褪せ人は笑って、二振りの特大剣を担ぎラダーンの元へ走った。

 

 時にラダーンと言えば、巨大な双大剣による武勇が目立っているがその実、類稀なる才覚を持ち合わせた文武両道な英雄である。

 とある理由から重力魔術を学び、杖を持たずに重力魔術を行使するという普通では考えられない才能を発現させている。

 まぁ石肌の系譜は武器を媒介に魔術を行使する傾向にあるので杖を持たないのはある種正しい事なのかもしれないが、さておき。

 

 ラダーンはこの重力魔術を二つの武器で活用する。一つは先程も述べた双大剣、もう一つはラダーンの体躯に見合った大弓である。

 ラダーンは最早槍の様な大きさの矢に重力魔術を込め、放物線を描く事無く一直線に矢を放つのだ。速度も強化されたその一矢は、只人が避けるには余りにも早すぎる。

 

 ましてや初見ともなれば。

 

「――えっ?」

 

 遥か彼方、ラダーンが突如大弓を構えたと思えば、紫色の魔力を込めながら褪せ人に向けて弓を引き、矢を放ったと褪せ人が認識した次の瞬間。

 

「ぐぺっ」

 

 不可避の一矢が見事に褪せ人の頭部を吹き飛ばした。

 

 ラダーン祭り開幕からたった十秒での出来事であった。

 

 

 

 

「――あっははははは! ふっふふひひひ、お、お腹痛いんだけど! あんだけ大見得切って即死って!」

 

「笑い事では無かろうに。貴重な戦力が早速削れたが、良いのか?」

 

 砂丘を駆けるモルグと翁。モルグから先んじてラダーンは弓の名手でもあった事を聞いていた翁は点在する武器の塊を障害物に着々と進んでいた。

 即死した褪せ人に爆笑するモルグへと翁が問いかけるが、何でもない事かのようにモルグは答える。

 

「大丈夫でしょ、道中にマリカの楔があったからね。マリカは戦いの使命を宿した褪せ人を逃がさない。祝福での復活よりも余程早く褪せ人を再び戦場へと駆り出すでしょうね。――ほぉら来た」

 

 後方から霊馬に乗った褪せ人が砂丘を駆けてラダーンへと走る。心なしか怒りを滲ませているように見えるが、気のせいだろう。

 

「あーあ、また先頭走っちゃって。翁、逃げるよ」

 

 再び独走する褪せ人にラダーンは矢を放つ。

 高速の矢はしかし、褪せ人に当たる直前に霊馬の跳躍で避けられる。それを見たラダーンは次なる一手を打つ。

 

 大弓を天に向け、矢を放つ。

 モルグが翁を連れて褪せ人から離れた瞬間、空から無数の大矢が褪せ人目掛けて降り注ぐ。

 

「なんだあれは……」

 

「ラダーンは重力魔術を修めていたけど、星砕きの偉業を経て大地の力にも適正が現れた。あれは本当にあの数矢を放ってる訳じゃなくて、一本の矢を呼び水に展開された岩石の矢だよ」

 

 言うなれば重力魔法の転用で作られた大矢の形をした隕石群だね。そうモルグが続ける傍らで、霊馬で矢の雨から逃げ続ける褪せ人だったが、その隙にラダーンにより新たに放射状に放たれた矢群に引っかかる。

 足を止めてしまった褪せ人は追尾する矢の雨に飲み込まれて死んだ。

 

 一度目の死亡からたった三十秒での出来事であった。

 

「うふふふ、まぁた死んでる。馬鹿だなぁ」

 

 だが、褪せ人の二回の死により戦士達はラダーンの元へと辿り着いた。

 星砕きのラダーンは大弓を背負い直し、二振りの特大剣を取り出した。

 

 ラダーンとの戦いが漸く幕を開けた。

 

「あいつの特攻癖は何とかならんのか……」

 

「ワハハハハ! 勇者らしくて良いではないか! 往くぞ!!」

 

 先駆けとして半狼のブライヴと鉄拳のアレキサンダーがラダーンへ攻撃を加える。

 ブライヴのグレートソードによる一撃が腐敗を宿したラダーンの足を切り裂き、アレキサンダーの拳が相手の腹を撃つが、少しも姿勢を崩す事は出来なかった。

 

 本能のままに、より的の大きいアレキサンダーに向けてラダーンが大剣を振り下ろし、木っ端微塵に割り砕かんとする。

 それを防いだのは、翁であった。

 

「どこを見ておるか」

 

 ――死屍累々。

 

 翁の持つ刀が血刃を飛ばし、ラダーンの手を切り裂き傷を与える。激しい出血には至らずとも、先駆けの二人よりも遥かに効果的な痛打を与えられたようだ。

 

「《血走る視線》、《血炎の飛沫》」

 

 モルグが血のように紅い燭台を掲げ、二種の魔術を展開する。

 周囲に七つの血の球が浮かんだ後、モルグの持つ燭台の先から燃え盛る血が波濤の如くラダーンに迫り来る。

 

 血炎の飛沫を受けたラダーンが大きく態勢を崩す。

 

「やっぱり弱いねぇ」

 

 ――王朝剣技。

 

 絶大な貫通力を誇るモルグの重刺剣による突撃がラダーンの身体を抉り、夥しい量の出血を齎した。

 されどその生命に翳り無く、ラダーンは態勢を立て直して双大剣を握り直した。

 

「これが最強のデミゴッドか? 腐敗に侵され思考も碌にできず、まるで理性無き獣よな」

 

「その状態で今まで生きてるのが異常なんだよ。はっきり言うけど、同じ状態で私やミ……あの子が何十年も生きられるかって言われたら無理だからね?」

 

 ミケラの場合は奥の手を使えば腐敗を抑え続ける事は出来るが根本的な治癒は不可能だ。マレニアが未だ腐敗に蝕まれている事が何よりの証拠であろう。

 つまるところ、ラダーンの強みとは他のデミゴッド達を遥かに凌駕する生命力にあるのだ。

 

「そもそも、理性を無くしたとしても剣も弓も魔法も使えてる時点で本能にまで戦いが染みついてる。戦い方を心得た獣だね」

 

 トラゴスとアレキサンダーがラダーンの攻撃を受け止め、隙を突いてブレイヴとライオネルが攻撃を加える。

 翁は回避を主体に積極的に痛撃を与え、モルグもヒットアンドアウェイを繰り返す。

 

 数度の剣戟でそれぞれの役割を全員が理解した。そしてここにもう一人。

 

「――ハッハハハハハァ!!!」

 

 狂ったような笑い声を上げながら、霊馬を駆る褪せ人が剣継ぎの大剣をラダーンに振り下ろす。

 

 死を恐れる事無き勇者を中心に、ラダーン祭りは苛烈さを増していく。

 

 

 

 

 痩せた馬に乗りながら戦場を縦横無尽に駆け回るラダーン。重力魔術の紫電を纏いながら双大剣を振り回す戦神が標的とするのは、意外にも褪せ人セルワ・カーラであった。

 

「どうしたラダーン! 褪せ人一人殺せないのか!? その赤髪は飾りだったのかぁ!?」

 

「貴公何回か死んでいるではないか」

 

「うるさいぞアレキサンダー、こういうのはノリと勢いで良いんだ」

 

 不遜な啖呵を切り、戦友と共に緊張感の欠片も無い会話を交わす。

 これだけでも相手の集中を奪うのには十分だが、ラダーンが褪せ人を敵視する最たる要因はとあるタリスマンにあった。

 

 かつて勇者の末裔に送られたというシャブリリの禍と呼ばれるそれを、褪せ人は形見として所持していた。

 止まぬ闘い、尽きぬ争い、終わりなき戦場を望む者に代々受け継がれてきたそれは、所持する者への敵意を増大させる効果を持つ。

 

 それ故に褪せ人は砂丘を駆け回り、時にラダーンの攻撃を躱し、アレキサンダーに防いでもらう事で他の者達が最大限戦える様に戦況を操作していた。

 

 開戦前に大口を叩いた褪せ人であるが、あの場にいた者達の中で自身の力量が低い方であるという事もまた理解していた。

 故にラダーンの注意を惹きつけ走り回る事が褪せ人が出来る最大の貢献であると、半ば無意識に理解していた。

 

 ラダーンが痩せ馬から飛び降り、褪せ人目掛けて双大剣を振り下ろしながら追い縋る。

 一撃、二撃と重く振り下ろされるそれを的確に避け、ラダーンの頭が下がった所を褪せ人は両手に持つ特大剣で叩き切った。

 

「っはぁ! 戦神も形無しだなぁおい!? 俺にばっかりかまけてると痛い目見るぞ!?」

 

 ラダーンの背後からモルグの突きが、翁の斬撃が襲い掛かる。数多の戦士達の中でもこの二人が群を抜いて強かった。

 正体を知っている褪せ人としては納得しかないが、他の者達には意外だったようだ。

 

 まぁ戦士を舐め腐ってるとしか思えない少女が誰よりも強いというのは受け入れ難い事なのだろうな。だがそれで意固地になる馬鹿もまたいない。

 

 褪せ人が注意を引き、モルグと翁が主戦力としてラダーンを攻撃、その他は補助火力として戦線を維持。盤面は整いつつあった。

 故にこそラダーンは、狂気に侵された思考の中で己が窮地に立たされている事を理解した。

 

 ――一度盤面を更地にしてしまおう。

 

「……何だ?」

 

 かつてない規模の紫電を纏い、ラダーンが跳躍する。

 今まで褪せ人を目の敵にしていたにも関わらず、全てを振り切って天へと飛んだ。

 

「何をしようとしている?」

 

 ざわめく心を落ち着かせ、何が起きても対処できるように周囲を見渡す。

 そうして褪せ人は気付いた。

 

 王狩りモルグの姿が何処にも無い事に。

 

 

 

 

 ラダーンは空を舞う。己が身を星として、地へと墜とすその為に。

 己の身体にへばり付く者など気にせずに。

 

「まるで相手にされないのは困るんだけどなぁ? ――そぉれっ!」

 

 紅い血で編み上げられたロープを巻き付けてラダーンに密着したモルグが、懐から取り出した黄金色の針をラダーンに突き刺した。

 

 誰もが浅く傷を付けるばかりだったデミゴッドの肉体を容易に貫いたその針は、ミケラが無垢金を編んで力を込めた特注品だ。

 針を刺した者に対する外なる神からの干渉を退ける代物であり、一身上の都合からモルグとしてもあまり持ち歩きたくない程には強力である。

 

 更にダメ押しとして、モルグは己の血をラダーンの体内へ注ぎ込んだ。

 ミケラの針と合わせ、自身の力を用いて腐敗を治そうとするが思ったように治療が進まない。モルグとしての力では血を送り込んだ先から腐敗に侵されていくらしい。

 

「うーん、――燃やすか」

 

 面倒になったモルグは一時的に体内の忌み血の割合を増加し、王狩りモルグから血の君主モーグへと戻り、送り込んだ血液に血炎の力を込めた。

 腐敗に対抗するには、やはり炎が良いだろう。

 

「んー? 良い感じだと思うんだけどなぁ? 根を張る形で腐敗が根付いているのか、何処かに核でもあるのか……まぁ全部焼けばいっか!」

 

「雑ではないか?」

 

 ふと気づくと、ラダーンの飛行が止まっていた。

 血炎に巻かれるラダーンの目には理性が戻っており、へばり付いていたモーグを見下ろしていた。

 

「……死に切れぬまま、今まで生き恥を晒してきた。腐敗に侵されながらも今までの事は全て理解しているつもりだ。マレニアから腐敗を受けて獣のように狂い果て、敵も味方も喰い尽くす愚かだった俺を、ジェーレンは戦祭りという形で弔おうとしてくれた。――だからこそ、手短にいこう」

 

 腐敗を治し、お前は俺に何を求める?

 

 余程の理由でも無ければ首を縦に振る事は無いと思わせる程の威圧を放ちながら、ラダーンはモーグへと問いかけた。

 事実、腐敗を治してくれた事にはとても感謝していたが、それはそれとして下らぬ目的の為に腐敗を治したというのであれば無視して戦祭りを再開させるつもりであった。

 それを理解していたモーグは笑顔でこう言った。

 

「――何も」

 

「……何だと?」

 

 ここまで大掛かりな事をしておいて、何も求めないというのか? では何故腐敗を?

 困惑を滲ませるラダーンは何時の間にか濃くなっていた血の匂いを嗅ぎ取った。

 

「正確には何もしない事を求めると言うべきか。私達の為す事に介入するな、それさえ約束してくれるのならどこで何をしても構わない」

 

「……不可解な要求だな。何れにせよ、俺はここを死に場所とするつもりだ。何者かは知らぬが、腐敗を治してくれた事には感謝する」

 

 そう言って眼下を見下ろすラダーンに、モーグは最後に問いかけた。

 

「――未練は無いか? やり残した事は? 最後にその目で見ておきたい者は? お前には、死を拒絶するに足る大切なものはあるのか?」

 

 囁くように嘯くモーグに、ラダーンは再び目を向ける。まるで考えた事など無かったかのように。

 

 今更その様なものは無い、と口にしかけたラダーンの脳裏に過ったのは先程目にした半狼の戦士ブライヴの姿。

 彼が此処にいるという事は、彼の主はラダーンの死を望んだという事なのだろう。それに思う所などは無いが、ふと自分の家族達はどうしているのか気になった。

 

「……ラニやライカード兄上、そして母上の顔を一度だけでも見てみたかった。だがこの身は、将軍ラダーンはあの破砕戦争で死んだのだ。今更そのような幸福を望むつもりは無い。――我が友が死に場所を用意してくれた、それだけで幸せだ」

 

 そう言い放ち、身体を血炎で焼いたラダーンは地上へと降下を開始した。

 その様子をモーグは笑いながら眺めていた。

 

「ミケラの針は未完成ながら外なる神の腐敗を抑える事に成功し、私の血であれば神の力を焼ける事も確認できた。そして腐敗に侵されたデミゴッドの血を回収し、ラダーンの未練も聞き出した。――あぁ、素晴らしい成果だ。それに戦祭りも大詰めだ、我らが血の眼の活躍を見届けるとしようか」

 

 黒い翼を生やしながら地上の者達に悟られぬようにその場を離れ、こっそりと回収したラダーンの血を眺める。

 腐敗に侵されたデミゴッドの血、これは何物にも代えがたい実験材料だ。ミケラと共に針の改良を続ければ、腐敗の神はいずれ殺せるだろう。

 

 残るは個人的な実験だ。ラダーンはこの場で死ぬ事で契約を果たすつもりらしいが、それでは困る。

 モーグは言った筈だ、「何もするな」と。ラダーンに勝手に死んでもらっては困るのだ。

 

「自我や精神を血に溶かすやり方は、ミケラとの血の閨で心得ているからな。――魂の継承、果たしてどうなるか」

 

 最強のデミゴッド、星砕きのラダーンは今日その命を散らすだろう。

 大ルーンは継承され、指から見放された将軍はいよいよ大いなる意思に忘れ去られる。――その後、隠された王朝で新たな戦士が生まれたとしても、指共は気付けない。

 成功すればミケラの計画を大幅に進める事が出来る。良い事づくめじゃあないか。

 

「ま、約束を守るならどこで何したっていいってのは本当だしぃ。怒っても知~らない、あっははぁ♡」

 

 戦場から遠く離れた砂丘に降り立ち、ラダーンがどんな反応をするのかを想像する。怒るだろうか、呆れるだろうか? まぁどちらでも構わない、ミケラが笑ってくれるなら。

 忌み血を薄めて再びモルグの姿に変化しながら、モーグは王朝で眠る伴侶の事を想い薄く微笑んだ。

 

 

 

 

 時は少し遡り、ラダーンが飛翔した戦場にて。

 

「……長くないか?」

 

「何処かへと飛んだきり帰ってこんなぁ……」

 

 ラダーンが飛び去ってから三十秒程経過したが一向に降りてこない。何時の間にか何処かへと消えたモルグの行方も知れぬままラダーンと途方に暮れていると、赤獅子城の城主ジェーレンが近づいてきた。

 

「ふむ、多少時間も出来た事だ。一つ、ラダーン将軍の逸話を聞かせよう」

 

「どうした急に」

 

「まぁ大人しく聞け、これから起こる事にも関係ある話だ」

 

 そう言われれば大人しく聞かざるを得ない。アレキサンダーは変わらず上空を眺めているので、褪せ人はジェーレンに向き直り話を聞く事にした。

 

「戦神の子、赤獅子、最強のデミゴッド、数々の通り名を持つラダーンだが、中でも星砕きの異名は一際有名だろう」

 

 その名は褪せ人も知っている物だった。

 かつて狭間の地に降り注いだ星に単身迎え撃ち、名の示す通り見事に打ち砕いて星を天に押し留めたという伝説だ。

 

「かつてラダーンは、己の愛馬と共にあり続ける為に魔術街サリアにて重力魔術を修めた。そして星を砕いたその日からラダーンの重力魔術はより限定的な力に変化した。ルーサットが流星に滅びを見た様に、アズールが彗星に破壊を見た様に。ラダーンは降る星に大いなる力を見出した」

 

「魔法が変質する事があるのか、詳しいな」

 

「……昔、少しな」

 

 ジェーレンは何かを言い辛そうにしながら答えた。

 

「それからラダーンは凄まじい力を持ち、破砕戦争でも最強の名に相応しい活躍を見せた。何故ラダーンがそれほどまでに強いとされるのか? それは対人、対軍戦闘両方に秀でていたからに他ならない」

 

「対人、対軍、両方に……」

 

「あぁ、そうとも。ラダーンの重力魔術は星砕きにより変質し、重力や岩石は無論の事、それらを含めた『星』にまで至った」

 

 そこまでジェーレンが語ったあたりで、黙したまま空を見上げていたアレキサンダーが何かに気付いたかのように声を上げる。

 

「――あぁ、成程。星砕きのラダーンは、そのまま星墜としのラダーンとなると。そういう事なのだな」

 

「そうとも、儂もまさかとは思っていたがな。――はは、ラダーンの奴め、腐敗を克服しおったな!?」

 

 天を仰ぐアレキサンダーとジェーレン、同時に地に満ちる異常な重圧を感じ取った褪せ人は二人と同じように上空を見上げた。

 

「――は、はは、何だあれは」

 

 遥か空の彼方から飛来してくるのは、全身に炎を纏うラダーン。

 そしてラダーンの背後から地上目掛けて巨大な隕石が降り注ぐ。

 

 ――ォォオオオオオオオオオオオーーーーー!!!!!

 

 戦神の子に相応しいラダーンの咆哮に呼応し、巨大な隕石が紫電を纏い爆発する。

 

「逃げるぞ! こんな所にいちゃ命が幾つあっても足りない!」

 

「流石にあれは当たれば割れてしまうな……!」

 

 無数の流星群と化した隕石が慟哭砂丘に降り注ぎ、地形を容易く変えていく。

 そして最後に、星砕きのラダーンが大爆発を伴って地上へと落下した。

 

 全身を炎に包まれたラダーンは、しかしその目に確かな理性を宿し、両手に持つ双大剣を天に掲げた。

 

 ズルリ、と砂塵が意思を持ったように蠢いた。

 

 砂塵は風を纏い辺りを漂う。

 

 風はラダーンから離れるにつれ強くなり、慟哭砂丘の外縁全てを囲うように、途方も無く巨大な砂嵐が発生した。

 それらは全て紫電を纏い、目の錯覚でなければ徐々に戦場の中心へ――ラダーンの元へ迫ってきている様に見える。

 

「――我が大ルーンを手にせんと集いし勇者達よ! よくぞここまで戦意を絶やさず己が得物を手にし続けた!」

 

 戦場全域に届く程の大声をラダーンが発する。やはりその声にも正気が宿っており、腐敗の影響を全く感じさせなかった。

 

「我への手向けとして贈られた鉄火にて我は正気を取り戻した! だが朱き腐敗は尚も我が身を蝕み続ける! ()()()()()にて己が身を焼いたとてすぐにでも我が命は掻き消えるであろう!」

 

 いや、腐敗の影響が消えた訳では無い。赤獅子の騎士達がケイリッドにてそうしている様に、ラダーンは自らの身体を焼いて腐敗の影響を抑えたのだろう。

 と、そこまで考えて褪せ人は違和感を覚えた。

 

 ラダーンを焼く炎、何処か翁やエレオノーラが振り回す武器に宿る炎に酷似している気がするのだ。

 あれは恐らく血炎、どうせ此処にいないモルグが何かしたのだろうと褪せ人は己を納得させた。

 

 重要なのは二つ。

 一つはあの血炎によりラダーンの生命力は徐々に、しかし確実に削られていく。このまま全員で逃げ続ければ勝手に死ぬだろう、それ程までに腐敗は根深く、血炎は強力だった。

 

 そしてもう一つは――

 

「――武器を取れ! 勇者達よ! 赤獅子の王、ラダーンに立ち向かったのだ! 背を向け逃げるは叶わぬと知れ!!」

 

 ――あのラダーンがそのような無粋な真似を許さないという事だ。

 

 慟哭砂丘全域を取り巻く紫電の砂嵐が唸りを上げる。

 

 満天の星空が大地に墜ちる時を待ち侘びて光り輝く。

 

 

 

 ――最強と謳われたデミゴッドが、回帰する。

 

 

 




血の君主モーグ

ラダーンに敵対される事が何よりも避けたい事だったので交渉の際は適当な事を言ってはぐらかし、ラダーンの注意を逸らしつつ腐敗に侵された血を入手した。
この血とモーグ、ミケラの力があればデミゴッドにも通用する血清を作り出せる事だろう。



褪せ人セルワ・カーラ

天才肌の煽りカス。相手の怒りを誘う言動は蛮地の民の必須技能だが、セルワは滅多に使わない。使っても意味が無い相手ばかりという事もあり、相手からのヘイトを自分が請け負い続ける状況でもない限り口汚く罵る事は無いだろう。



戦士の壺アレキサンダー

割れやすそうな外見の割に滅茶苦茶硬い喋る壺。セルワとは性格的に相性が良く、セルワがヘイト管理し始めた段階でタンク役をこなし出来るだけセルワの死亡回数を増やさないように尽力した。
陽気な性格だが、ラダーンを見てふと己の死に場所についてひっそりと思いを馳せている。



ラダーン戦のクソデカフィールド、有効活用したいなぁ……。
せや!(地形変化、戦場収縮、隕石墜落)

そういえば前回のモルグが持ってた杖の戦技を書き忘れていたので追記した物を置いておきますね。



クラウディアの血盟杖

紅く光る結晶や宝石があしらわれた長柄の燭台。
血の指、血脈のクラウディアが血の君主の祝福を得て作り上げた杖であり、血盟魔術の威力を高める。

黄金樹への還樹という文化によって、数え切れぬほどの人の血と命が星を流れる地脈に混ざった。
星の血液を汲み取る術をクラウディアは編み出したが、それは黄金樹が養分とする力を奪う異端であった。

故にこそ血の君主は、失意に狂うクラウディアに手を差し伸べたのだ。

戦技は『沸き立つ血炎』。
燭台の火で己を焼き、一定時間自身のHPが減少し続ける代わりに攻撃に使用するスタミナの消費量が減少する。

杖に灯る小さな火は、血の君主が齎した姿無き母の温もりだ。それを己が身で受ける姿は、どこか神への祈りにも似る。
探求と信仰は、相反する情動だ。それでもきっと、相容れぬものでは無い筈なのだ。



血走る視線

血の指、血脈のクラウディアが編み出した血盟魔術の一つ。
既存の魔術原理から大きく逸脱しており、習得には神秘が必要となる。

複数の血の塊を自身の周囲に浮かべ、近くの敵に向かって血の塊から光線の様に血を照射する。

かつてクラウディアは絶望した。地を流れる血脈から力を汲み取る魔術を編み出した己を禁忌とした学院に。
輝石も、源流も、重力も、溶岩も、皆等しく星の力だというのに、何故彼らは地脈の力を認めぬのか。
だからこそクラウディアは、血走った眼で黄金樹を睨むのだ。黄金樹など燃えてしまえばいいのだと。



血炎の飛沫

血の指、血脈のクラウディアが編み出した血盟魔術の一つ。
既存の魔術原理から大きく逸脱しており、習得には神秘が必要となる。

前方に燃える血の飛沫を飛散させる。強靭削りに優れるが、広範囲に振り撒く為距離が離れると効果が薄くなる。

クラウディアは血の君主と謁見し、その血に炎を見出した。
それでも彼女が信仰に走らず魔術へと転用したのは、学院への憎しみがあったからだろう。
あるいは、己が魔術師であり続けたいという、小さな矜持からだったのだろうか。



血走る視線はケイリッド在住クソゴミカスゴーレムの魔法弾、血炎の飛沫はダクソの闇の飛沫をイメージして貰えると分かりやすいと思います。
この辺りの血盟魔術とクラウディア関連は完全なオリジナルなのでどういう扱いにしようかまだ考えてます。
大体「こういう技つかいてぇなぁ」で考えているので結構適当ですね。
杖の戦技も自分が使いたかっただけです。多分対人に担いでいったらクソのレッテルを張られる。

あとラダーン将軍なんですけど、結構適当な事言ってます。星砕きの一件で重力ん魔術が星に特化したとか多分実際はそんな事無いと思います。
全盛期のラダーン将軍が何処まで出来るかが分からんのが辛いね。フロムは早くDLCで全盛期のラダーン将軍と戦える様にしてください。

続きはカンストラダーンを特大二刀でぶちのめしたら投稿します。
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