デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー 作:SoDate
翌日、士道から呼び出しを受けたトーマは案内に従い移動をしていると、辿り着いた扉を開いて中に入ると飛びついてきた誰かが自分の後ろに隠れる
「七罪?」
自分の後ろに隠れた少女──七罪へと視線を向けたすぐ後に、自分の前に居る琴里がこちらに声をかけてくる
「ナイスタイミングよ、トーマ!」
「どういう事だ?」
「あ、アイツら。私の滑稽な姿を笑おうとしてるのよ……」
何が起こっているのかさっぱり理解していないトーマだったが、とりあえず現状を把握するため目の前に居る琴里に問いかける
「とりあえず事情を説明してくれないか?」
「そうしたいのはやまやまだけど、こっちも予定が詰まってるのよ」
「予定って、ホントに何をどうすればいいんだオレは……」
事情が説明されず、トーマの頭も痛くなってきた所で七罪に声をかけたのは士道だった
「トーマ、とりあえず話は後でする。七罪、一つ賭けをしないか? 俺たちは今日、思いつく限りの方法でお前を『変身』させてみせる。それが成功したなら俺たちの勝ち。俺たちの話を、面と向かって聞いて欲しい。──でも、何一つ変わっていないと思ったなら、俺たちの負けだ。後は好きにすればいい」
「……好きにって、どういうことよ」
トーマの背中からおずおずと顔を出した七罪がそう言うと、士道は考えた少し考えた素振りを見せた後、答える
「そうだな……さしあたっては、おまえを好きな場所に逃がしてやるってのはどうだ?」
「……!」
「いいのか?」
七罪は目を見開き、その言葉を聞いた他の人物もまた意外といったような表情を浮かべる。その中で代表してトーマが士道に疑問を投げかけると士道は心配ないと言った表情を見せる
「あぁ、どっちみち他に手はないからな、トーマだって七罪をどうこうする気はないんだろ?」
「それはまぁ、そうだな」
「じゃあ、俺たちはこうするしかない。どうだ七罪? 悪い話じゃないと思うんだが」
「…………」
士道の言った話は、七罪にとって悪いものではない。この場所から逃げること自体は身体が回復し、贋造魔女が使えるようになれば問題はない……だが、士道の側には他の精霊が居る以上、逃走を邪魔される事だってあり得る。
唯一戦力になってくれそうなトーマも基本的には中立の姿勢を保っている故に自分の味方になってくれるかどうかはわからない。何より、いくら頑張ったところで、このみすぼらしい容姿がどうにかなるとは思えないため、相手の策に載るのは少々癪だが、安全に逃げられるのであれば悪くない話であると思えた
「……わかった。それならいいわ」
「そうか。じゃあ、とりあえずここでは美九の指示に従ってくれ。トーマはこっちな」
「おう」
「…………」
七罪は無言のまま、士道に怪訝そうな視線を向けていたが、士道は特に気にする様子もなくトーマと共にその場を後にしようとした……が、その前に七罪へと言葉を返す
「教えてやるよ、七罪」
「…………何をよ」
「女の子は天使なんて使わなくたって、『変身』出来るんだって事をさ」
それを聞いた七罪は、無性に腹は立ち、士道から顔をプイと背けた
「それじゃあ、美九。頼んだ」
「はいはーい、任せちゃってくださぁーい。お兄さんも、変身した七罪さんの姿を楽しみにしててくださいね?」
「ん、あぁ。楽しみにしてるよ」
美九の言葉にそう返したトーマ、士道と共にその場を後にする
士道と共に別室にやってきたトーマは、改めて彼に言葉をかける
「それで、何がどういう事なのか説明して貰っても良いか?」
「あぁ、そうだな」
そう言うと、士道は何やら準備をしながら言葉を続ける
「トーマも七罪のネガティブ思考は知ってるだろ?」
「まぁな、お前らよりも少しばかり七罪との付き合いは長い。アイツが自分の容姿に極度のコンプレックスを持ってることも、今の姿を他人に見られることを極限まで嫌ってることも知ってる」
「だろ? ……けどさ、俺は今の七罪の容姿だって本人が思ってるほど悪くないと思うんだよ。それに十香たちだって、少し迷惑をかけられたけど七罪自身が、自分の言葉で謝れば友達になれる。そう思うんだ」
「そうだな、それに関しては同感だ」
「だろ? まぁ本人にはバッサリ否定されちまったけどな……」
苦笑する士道に対して、トーマは言葉を返す
「オレ自身、七罪の身に何があったのかは知らないし、本人から聞くまでは詮索をする気もない……けど、もしかしたらオレにも、お前みたいな強引さが必要だったのかも知れないな」
「俺はトーマはトーマのまま七罪と接してたのは良かったと思うけどな」
そんな話をしながら、士道に視線を向けると目の前に広げられていたのは女性用のメイクセットや来禅高校の女子制服
「士道、お前さっきから何してるんだ?」
「……決まってるだろ? 覚悟を決めてるんだよ」
士道が何の覚悟を決めているのか、それが何に対するものなのか薄々理解したトーマだったがそれ以上は何も言わず事の成り行きを見守った
それから少し時間が経った頃、トーマと女装した士道──士織の待機していた扉が開き七罪たちが入って来る。彼女たちの中心に居たのは本来の姿のままでしっかりと身なりを整えた七罪の姿
「ほぅ……」
「な、何よ?」
「いや、お前の持ってる魅力が随分と引き出されたと思ってな」
「なッ!? なななな────」
「否! 七罪変身計画の最終段階はまだ残っていますよ! トーマさん」
「最終段階?」
隣に居る士織の言葉を聞いたトーマは何のことかを質問すると、彼女は少々やけくそ気味に顔を上げてバッと両手を胸の前でクロスさせる。そしてクロスさせた指にはリップグロスやアイライナーと言ったメイク肆品が挟み込まれていた
「凄い早業……って、そう言うことか」
「その通り! 私のメイクで、七罪さん……あなたを変身させて見せます!」
ビシッ! と七罪にリップグロスを突きつける士織。あまりの迫力に七罪は思わず一歩後ずさり、首をブンブンと横に振る
「な、何言ってるのよ、そんなんで私が変わるわけ……」
「いや、変われる」
「変われます!」
士織とトーマがそう言うと、彼女は少し狼狽えたように言葉を紡ぐ
「て、適当なことを言わないでちょうだい! 私なんかが……」
「さっきも言ったろ、お前の持ってる魅力が引き出されてるって」
「……七罪さん、本当にそう思いますか? メイク程度で、人が変われるわけないがないと」
「あ、当たり前じゃない」
それを聞いた士織は指に挟みこんでいたメイク用品を腰のポーチにしまい、そのままゆっくりと自分の首元に手を持っていく。彼女──否、彼が最初に女装をしたときは何をするものかと思ったが、ここにきて女装した意味をようやく理解した
「それは、私が……いや────」
その言葉の直後、士織は首元に貼られていた小さな絆創膏のようなものを、勢いよく剥がした
「俺が、男だとしてもかぁっ!?」
「は……!?」
七罪の目の前に居る少女の口から響いたのは男の声、唐突なその出来事に彼女はビクッと肩を震わせた
「え……? 何、どういう……」
困惑の表情を浮かべた彼女は、目の前の少女から放たれた男の声に聞き覚えがあったため、咄嗟にトーマの方へ視線を向ける。
その視線を受けたトーマもまた、何とも言えない表情で頷く。まさかと思った可能性が正解だったと気づいた七罪は、困惑の表情のまま目の前の少女に言葉をかける
「う、嘘でしょ……あんた、士道……!?」
「あぁ、そうだ!」
正体を明かした士道は力強く頷いた。目の前に居るのが士道であると認識した後、改めて目の前に居る少女の姿を確認すると、確かにその顔に五河士道の面影があることがわかる。そして、それを認識した瞬間、七罪は思わず声を上げた
「へ、変態…………ッ!?」
「…………」
「あ、傷ついてる傷付いてる」
「まぁでも、否定できませんもんねー」
「七罪、あんまり言ってやるな……」
事前に知らされていたらしい琴里と美九、そして目の前で彼が女装する姿をしっかりと見ていたトーマの言葉が士道の耳に聞こえてきた
「と、とにかくだ! 図らずも俺のメイク技術は、男を女と誤認させられるレベルにまで達してしまった! 今の俺になら、お前に自信を持たせることが出来る!」
「いや、そりゃ技術も上がったでしょうけど、ある程度は本人の素質もあるわよね」
「まぁ、確かにぱっと見は完全に女性だからな、今の士道」
「が、外野はちょっと黙ってろ! とにかく、これが最後の勝負だ。俺の全身全霊全技術を以て! お前を変身させて見せる!」
とりあえず外野に文句を言った士道はビシッと七罪に宣言した。対する彼女はその言葉に対して顔を強ばらせそうになるが、奥歯を噛んで耐えた後、言葉を返す
「……いいわ。やってもらおうじゃない。でも、忘れないでよ。私が納得しなかったら、勝負はあんたの負けだからね」
「あぁ、わかってる。──さぁ」
士道が七罪を席に促す姿を見送りながら、トーマは後方でその様子を見守った。
今、七罪の中には自分も変われるのではないかと言う思いが芽生えてきている。その想い自体は彼女と士道たちが出会ったを切っ掛けに芽生えたものだ。ならば自分には何が出来るのか、そんなことを考えているとエステティシャンのような格好をした美九が隣にやって来る
「どうかしましたか? お兄さん」
「……いや、オレにも何か出来る事はないかと思ってさ」
「? お兄さんは、もう十分やってると思いますけど」
「そうじゃないんだ。七罪の変わりたいって思いは士道たちと出会ったが故に芽生えた思いだ。けど、オレはただアイツの事を見てただけ……何もしてないんだよ、中立って言ったって、結局、何をすればいいのかわからなかっただけ」
自分の思っていた事を言葉にすると、隣にいた美九が声をかけるよりも早く、現れた耶倶矢と夕弦がトーマの背中をバシンと叩いた
「らしくないではないか、トーマよ」
「啞然。いつものトーマが出来てる事、それが出来ていないとは、夕弦ビックリです」
「普段のオレなら、出来てること?」
二人の言葉に疑問符を浮かべていたトーマに対して、今度は美九が言葉をかける
「お兄さん。お兄さんが私たちを助けようとした時、どう思って行動してたか覚えてますか?」
「どう思ってたか……か」
美九からの問いかけに対し、トーマは今までの事を振り返ってみる。美九に出会った時の事、耶倶矢と夕弦に出会った時の事、万由里と出会った時の事、鞠亜や鞠奈を助けようとした時の事……そして、彼女たちと出会う前の……時崎狂三との一件。そのすべてで、トーマはいずれも何かを考えるよりも先に、自分に出来る事をと行動していた
「……そうだな、そうだった」
だが、今回は違う。自分から動く機会はいくらでもあったのに、それをしなかった。今の絶妙な七罪との距離に甘んじて、自分から彼女の為に動こうとはしなかった
「ありがとう、三人とも。オレが何をすればいいのか、少しわかった気がする」
自分が何をするべきか──否、自分が何をしたいのか、それを少しだけ確信したトーマが三人へ感謝の言葉を伝えると。美九たちは三者三葉の反応を見せた後、改めて士道たちの方を見ると、あちら側も丁度終わったらしい
「──さ、完成だ」
士道は小さく息を吐き、化粧用品をポーチにしまい、その場に立ち上がった
「こ、これで完成? 随分とあっさりしたもんね」
「もとの顔を殺しちゃ意味なんだよ。俺がお前にメイクをしたのは別人に作り替えるんじゃなく、凝り固まった”自分は駄目だ”って考えから抜け出せるように背中を押す為なんだから。だから──これで十分だ。ほら」
士道に促される形で七罪が振り返ると、十香たちが立っていた。そしてその中央に、何やら大きな布がかけられた板のようなものが置かれていた。
七罪はすぐにそれが巨大な姿見であることに気付いたが、それよりも気になったのはわきに並んでいる少女たちが、驚いたように目を見開いている事
「な、何よ、何なのよ……」
「うむ! 見てみるといい!」
動揺した様子で七罪が言葉を発すると、十香は大仰にうなづき、姿見にかけられた布の端を握り、一気に取り払うと鏡に自分の姿が映る
「え────」
鏡面に映ったのは、別人なのではないかと思えるほどに可愛らしく見える少女。野暮ったいと思っていた髪は、天然の癖を残しながらも綺麗に纏まり、血色の悪かった肌は見違えるように艶を持っていた。それこそ、身に着けている可愛らしい服と相まって淑やかな令嬢を思わせる佇まいを誇っていた。
だが、その中でも七罪が驚きヲ覚えたのは、自身の貌だった。
前髪が梳かれた分露出の増えた貌は、確かに自分のもので間違いはない。違いを挙げるのならば、ほんのりと頬に差した朱や、少しだけ輪郭のはっきりした目、薄い桜色に彩られた唇など、いずれも僅かなものくらいしか思い当たらなかった
だが、その一つ一つの違いが、貌の印象をぐっと変え、可愛らしいものにしていた
「こ、これ……私……?」
「あぁ、間違いなく、七罪、おまえだよ」
信じられないものを見るような調子で、ぺたぺたと自分の頬に触れながら呆然としていると、士道が小さく肩に手を置いてそれを肯定する。そして、それに続くよう形で並んだ少女たちが声を上げ始める
「うむ! 綺麗だぞ!」
「いいじゃない。どう? 感想は」
「すっごく綺麗です、どうですか? 七罪さん、今度私の家に遊びに来ませんか?」
やんややんやと声をかけてきているが、今の七罪はそこまで気が回っていなかった
「──どうだ? 七罪。勝負の結末は」
「……っ!」
だからこそ、その言葉に息を詰まらせる。七罪は、そして、七罪はこの鏡の中の少女の事を一瞬────可愛いと、思ってしまった
「あ……あ……」
鏡に映る自分の姿を可愛いと思ってしまった、散々嫌っていた自分の容姿が、ここまで変貌すると思っていなかった。それは嬉しいはずで、喜ばしいことでもある……だが、短期間のうちに予想外のことが起きすぎて、七罪の脳が状況を処理しきれなくなっていた
「お、おい、七罪……?」
「う、あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ────────ッ!!」
なにがどうなっているのか、意味の分からなくなってしまった七罪は自分の頭をガリガリと掻き毟ると、大声を上げてもと来た道を駆けていってしまった
「……悪い、少し行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
それを見ていたトーマは近くの美九に言葉をかけてから、七罪の事を追いかけた
士道たちの元から逃げ出し、がむしゃらに走っていた七罪は、自分がエステを受けた場所で足を滑らせて転びそうになった瞬間────背後から腰を抱かれ受け止められる
「大丈夫か? 七罪」
「と、トーマ……なんで」
「いや、何、オレも少しアイツらの事を見習おうと思ってさ」
「見習うって……もしかしてアンタも、何かするつもり?」
若干警戒心を見せた表情でそう言う七罪の事をしっかりと立たせると、トーマは頷く
「あぁ、七罪。勝負とか関係なしに少しだけオレに時間をくれないか」
「……どういう意味?」
「端的に言うと、オレとデートをしてくれないかって事だ」
そう言ったトーマは、ゆっくりと彼女の前に手を差し出した