デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー   作:SoDate

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第9-9話, 絶望が落ちてくる《後》

 士道たちへ襲い掛かったバンダースナッチは一斉にマイクロミサイルを放ってきた。普段であれば十分に対応出来る攻撃であったが今回は全員が落下する人工衛星を食い止めていたため対応が出来ず、四糸乃は冷気、耶倶矢と夕弦は風、美九は音で障壁を作り防御を試みるが完全に衝撃を殺しきることはできなかった

 直撃コースの一発は防ぐ事は出来たが次々と放たれたミサイルは一つの爆発から連鎖的に誘爆し、爆音と共に辺りの空気を震わせる

 

「きゃ……!」

「ぐぇっ!」

「鈍痛。うきゅう……」

「もう! 急に何なんですかぁ!」

 

 周囲から精霊たちの悲鳴が響き、人工衛星の落下を受け止めている氷と風の壁が僅かに軋み始める

 

「みんな!」

「ぬっ……っ! おのれっ!」

 

 その中で唯一攻めってきたミサイルを全て切り伏せていた十香はキッと視線を鋭くすると、思い切り地面を蹴った

 そして一直線に空を駆けると、四糸乃たちに攻撃を加えていたバンダースナッチたちを次々と切り裂いていく

 

「今だ! 耶倶矢、夕弦! 人工衛星を──うぐっ!」

 

 しかし、一人で相手をするにはバンダースナッチの数が多すぎた、四方八方から迫る敵に、その合間を縫うようにして放たれるマイクロミサイルやレイザーカノンを受け、次第に押され始める

 

「ぐ……っ!」

「十香! く……」

「士道、ここはオレが……って、邪魔だ!」

 

 士道は叫びながら十香の元へ向かおうとしたが、バンダースナッチの攻撃によって後方へと飛び退く。そんな彼に代わってトーマが彼女を助けに向かおうとするが彼もバンダースナッチの妨害に遭い助けに向かう事が出来ずにいた

 

「この……!」

 

 士道は顕現させた鏖殺公の柄を握り力を込めると、思い切り横に振り抜いた。放たれた一撃によって前方のバンダースナッチは上下に両断され、火花を散らす。

 しかし、一体倒した所で無数に存在するバンダースナッチは味方がやられても構うことなく、次々と襲い掛かってくる

 

「く────」

 

 士道はその攻撃を避け、なんとか捌き、隙をついて反撃を続けるが鏖殺公の連続使用によって身体は悲鳴を上げ、その場に膝を突いてしまう。無論、バンダースナッチがこの好機を見逃すことなく士道の方へと向かっていく

 

「! シドー!」

「ッ! 士道!」

 

 ピンチに気付いた十香たちは士道の元に向かおうとするが依然としてバンダースナッチに囲まれたままの状態で身動きの取れない状態だった

 

「くそ……っ!」

「シドー!」

 

 十香の声が響き渡る中、士道の眼前に立ったバンダースナッチは彼へ向けて真っ直ぐ剣を振り下ろした

 

 

 

 

 

 七罪は一人、士道たちが少しずつバンダースナッチの攻撃によって追い詰められていく様子をブックに変化した状態で見守っていた

 

「……、……、……」

 

 目の前で見知った人が傷ついていく状況と、空から降ってくる巨大な塊。今まで遭遇したことのない状況に陥った七罪の心臓は高く、速く鳴り。内側から鼓膜を震わせる

 けれど、どんな状況に陥ったとしてもトーマが何とかしてくれるだろうと考えていた、そう思っていた……しかし現実は違った、自分が思っていた以上にトーマは疲弊し、他の精霊たちも窮地に陥っている

 

「……っ」

 

 しかし、似たような状況に陥ったとしてもきっとどうにかなる、誰かがどうにかしてくれると、そう自分言い聞かせても心がズキズキと痛んだ。けれど状況は好転する様子を見せず、目の前では士道が殺されそうになっている

 目まぐるしく変わる状況の中で七罪はキュッと目を瞑り、深呼吸をすると覚悟を決めてトーマへと語り掛ける

 

「……トーマ」

『七罪? どうした』

「私を、投げなさい」

 

 急な事を言われたトーマは一瞬呆気に取られたが、すぐにその意図を理解すると七罪が化けていた本をホルダーから取り出す

 

『……すまん、頼んだ』

 

 トーマはそれだけ告げると、士道とバンダースナッチの間へ向けて思い切り……投げた

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 目の前に投げ込まれたものを見て、士道は呆気に取られるが目の前に放られた本はバチバチと魔力光を放ちながらレイザーブレイドの一撃を防いでいた。バチバチと音を鳴らしながらレイザーブレイドをはじき返すとそのままバンダースナッチの頭部を破壊し、そのシルエットを本から人の形へと変えていく

 

「な──七罪!?」

 

 本の姿から元に戻った七罪の姿を見て、思わず士道は声を上げる。今まで探していたにも関わらず見つからなかった彼女の姿を見た士道に対し、七罪は視線を合わせないままぶっきらぼうに告げる

 

「……早くしなさいよ。あのデカいの、壊すんでしょ」

「────あぁッ!」

 

 自身に告げられた七罪の言葉に頷いた士道は改めて鏖殺公の柄を握り直した瞬間──周囲に流れていた行進曲が途切れた

 視線を美九の方へ向けるとバンダースナッチの攻撃で演奏を続けることが出来なくなったようで、後方に飛び退きながら歌を使ってバンダースナッチに攻撃を始める

 そして、演奏の力も借りて何とか押しとどめていた氷の壁にヒビが入りパラパラと音を立てて崩れ始めた。それと全く同じタイミングで周囲に渦巻いていた風も勢いをなくしていく

 

「くっ……!」

「消耗。……っ!」

 

 美九の演奏によって底上げされていた四糸乃の霊力、そして演奏に加え風双剣の力で更に底上げしていた八舞姉妹の霊力も共に消耗が激しく、壁の維持まで回すことができなくなっていた。そうして霊力による枷を失った人工衛星は再び加速し、地上へ向けて落下を始める

 

「シドー!」

 

 そこで、空中のバンダースナッチを振り払った十香が士道と七罪の元へ降りてくる。彼女は一瞬だけ七罪の方を見て驚いたような表情を浮かべたものの、ハッとした様子で視線を士道へとむける

 

「大事ないか、シドー!」

「あ、あぁ……大丈夫だ。それより──」

 

 士道が上空から落下する人工衛星を見上げると、十香は戦慄した様子で頷いた

 

「うむ……だが、一体どうすればいいのだ!? ここであれを破壊すれば大爆発を起こしてしまうのだろう!?」

「……別に、気にしなくていいんじゃないの?」

 

 慌てた様子の十香に対して、七罪はぶっきらぼうに言葉を返す

 

「いや、あれには爆破術式っていうのが────」

「知ってるわよ、聞いてたし……けど、こうすれば心置きなくぶっ壊せるでしょ」

 

 そう言った七罪は右手を前方に突き出し、叫ぶ

 

「──贋造魔女(ハニエル)!」

 

 その言葉に呼応するように、彼女の右手に箒型の天使が現れ、その先端が展開したかと思うと、周囲を目映い光が包み込んだ

 

「うわ……っ!?」

「ぬ!?」

 

 突如として放たれた目映い光に士道と十香は一瞬目を覆い、次に目を開けた瞬間

 

「なっ……」

 

 士道は上空を見上げて、先ほどとは対照的に驚愕で目を見開いた

 先程まで地上へ向けて落下していた人工衛星はまるまると太ったブタのマスコットへと変貌してしまっていたからである。奇妙とすら思えるその状況は間違いなく七罪の天使──贋造魔女の能力に間違いない

 

「ほら。これなら問題ないでしょ。早くしなさいよ」

 

 人工衛星をマスコットへと変化させた七罪はふんっと鼻を鳴らして士道にそう告げる

 元々の質量が大きすぎるが故に地上に落下した時の威力は想像がつかないものの、今の状態であれば相手が想定していた本来の威力や爆発は起こせないだろう。そして、今の状態になれば対象の破壊は出来るだろう

 

「ありがとう……よし、いくぞ、十香!」

「うむ! いつでもいいぞ!」

 

 七罪に感謝の言葉を告げた士道は十香と頷きあうと、二人同時にターゲットへ向けて鏖殺公を構え────思い切り振り抜いた

 

「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 二振りの鏖殺公から放たれた輝く斬撃は空中でクロスし、ターゲットに炸裂する

 しかし、巨大なマスコットに変貌しても尚、バンダースナッチとしての機能を有していたようで随意領域(テリトリー)を張って斬撃を防ごうとする

 

「ぐ……っ!」

 

 放たれたのは精霊の使う天使の一撃、本来であればバンダースナッチの随意領域(テリトリー)など容易く切り裂けるはずだが、十香も士道もバンダースナッチとの戦いで消耗していたが故に、随意領域(テリトリー)を破れず、巨大なブタがのし掛かるように迫っていた

 

「く……この、まま、じゃ────!」

 

 後一歩、破壊できるか否かのギリギリを埋めることが出来ず、士道から苦悶の表情で膝を突きそうになった瞬間────紅蓮の斬撃が二人の斬撃の上に新たに加わる

 

「すまん士道、待たせたッ!」

「! トーマ……大丈夫、なのか?」

「あぁ……と言いたいところだが、正直、かなりガタついてるな」

 

 二人の横に並び立つようにファルシオンの姿で斬撃を放ったトーマだったが、既に立っているのもギリギリと言った様子だった。そんな様子の彼だが出来るだけいつも通りのテンションを意識しながら七罪の方へ視線を向ける

 

「そう言う訳だ、すまん七罪、手を貸してくれるか?」

「……はぁ」

 

 彼の言葉に軽く息を吐いた七罪は、右手に持った贋造魔女を再び掲げ、叫びを上げた

 

贋造魔女(ハニエル)! 【千変万化鏡(カリドスクーペ)】!!」

 

 瞬間。七罪の掲げた箒型の天使に変化が現れる

 箒全体が磨き上げられた鏡面のような不思議な色で覆われていき、箒自身が年度のようにそのシルエットを変貌させていく

 そして、数瞬のあと。七罪の手に収まっていたのをみて、士道は目を丸くする

 

「は…………?」

「少し、不思議な感覚だな」

 

 現在、七罪の手に収まっているのは箒型の天使ではなく一振りの剣──漆黒の刀身に鮮やかなオレンジのエンブレムが装飾されたソレは、間違いなくトーマの振るう無銘剣虚無そのものだった

 

「すぅ────うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 手に持った無銘剣を構えた七罪が全力の叫びを上げながら思い切り剣を振り抜いた瞬間、刀身にオレンジ色の光が迸り、太刀筋に沿うように、斬撃が上空のマスコット目掛けて放たれる

 威力こそ士道や十香の振るう鏖殺公、そしてトーマの振るう本物の無銘剣よりも僅かに劣るものの、七罪によって放たれた一撃は三人の斬撃と重なり合い、マスコットの周囲を覆うように張られていた吹かしの壁を────砕いた

 随意領域(テリトリー)が砕かれたのなら、上空のマスコットを守るものは何もなく、斬撃の余波によってコミカルな音を立てて弾け飛ぶと色とりどりのおかしが雨のように降りそそいだ

 

 

 

 

 

「はぁー、流石に、キッツい……」

 

 街中におかしの雨が降りそそぐ中、トーマは全身の力が抜けたようにその場に倒れこむ

 

「ちょっと、大丈夫?」

「あぁ……と言いたいところだけど、流石にしばらく動けそうにない」

 

 疲労困憊と言った様子のトーマ近寄って来た七罪の言葉にそう返した後、少し離れた所にいる士道と十香の方へ視線を向けると、彼らもその視線に気づいたようで少しだけ疲れたような足取りで近寄ってきた

 

「お疲れ、トーマ」

「あぁ、そっちもお疲れ」

 

 互いに慰労の言葉を投げかけ合っていると、残存していたバンダースナッチをすべて破壊した四糸乃、耶倶矢、夕弦、美九も士道たち四人の元へとやってきた

 

「士道……さん!」

「くくっ、どうやらやったようだな」

「首肯。お見事です」

「お疲れ様です、お兄さん。それと五河くんも」

 

 何時までも倒れている訳にはいかないと身体を起こしたトーマはバンダースナッチと戦っていた精霊たちの様子を確認するが、全員軽い怪我こそ負ったが大事はなかったようだ

 全員が近づいたことでおずおずと少し離れた所へ向かおうとした七罪だったが、彼女がそこに移動するよりも先に美九が七罪へと近づいた

 

「七罪さん」

「……な、何よ」

「ありがとうございます」

 

 一瞬怯えたような表情を浮かべた七罪だったが美九から感謝の言葉を聞き呆然とした表情を浮かべる

 

「七罪さんが力を貸してくれたお陰で街が大変なことにならないで済みました。だからありがとうございます」

「ふ、その通りだな。お主が居なければ今以上にこの街は悲惨な状態になっていた」

「同意。その通りです……ありがとうございます、七罪」

「ありがとう……ございます」

 

 美九をはじめとして耶倶矢、夕弦、四糸乃からも感謝の言葉を伝えられ七罪は思わずたじろぎそうになる

 

「……な、何よ。私は散々アンタたちに迷惑をかけたのよ。それなのに、感謝とか……意味わかんないんですけど」

「そう言う奴らなんだよ、みんな」

「……あっそ」

「あっと、そうだ。七罪」

 

 トーマの言葉に七罪はぶっきらぼうな返事をした後、トーマの近くにいた士道が思い出したように七罪に言葉をかける

 

「……何よ、アンタまで感謝の言葉を伝える気じゃ────」

「無事でよかった」

「────は?」

 

 士道から出た思わぬ言葉を聞き、彼女は先ほど以上に目を丸くしてその場に立ち尽くす

 

「……ホントに、何なのよ……みんなして、私は散々迷惑をかけたのに……ありがとう、とか……無事でよかった……とか……ホント、意味わかんない……けど、こっちこそ、ありがとう」

 

 まだ感情の整理がつけられていない状態でも尚、士道たちに対して初めて自分の想いを、七罪は口にする。それを見てその場にいた全員の表情に笑みが浮かんでいた

 

 

 

 

 

 人工衛星の落下を阻止してから数十分後、七罪も含めた全員でフラクシナスへ移動……しようとしたのだが最後に通信をしてからDEMの空中艦と交戦していたという連絡が琴里からあり、戦闘自体は終わったもののその影響で転送装置に不具合が発生、一時使用不能になってしまっているらしい

 そう言う事情もあり、避難した人達が地上に出てくる前に七罪も含めた全員でラタトスクの所有する地下施設へ向けて歩いて移動している所だった

 

「そう言えば、もう身体は大丈夫なのか?」

「ん? あぁ、休んだお陰でかなり回復した」

 

 横に並んで歩いていた士道からの問いかけに対しトーマはそう言葉を返した後、今度はトーマから士道へと質問を返した

 

「そう言う士道こそ大丈夫なのか? 今回も結構無茶しただろ」

「俺の方も休んだお陰でだいぶマシになったよ」

「そうか」

 

 そうして再び歩き出そうとしたところで、服の裾を引っ張られる感覚でトーマは足を止める

 

「……七罪? どうした?」

「えっと……その……トーマ、アンタ前に聞いたわよね。アイツらに霊力を託してもいいかって」

 

 その言葉を聞いたトーマは彼女の決意を察し、一つだけ彼女へと質問をする

 

「聞いた。けど、霊力を託すって事はその力を自由に使えなくなるって事だぞ」

「わかってるわよ……けど、少しだけ、ほんの少しだけ……私のままでも、アイツらなら受け入れてくれるかもって、そう思えたから……だから、託してもいいかなって」

「……そうか、わかった」

 

 七罪の答えを聞いたトーマは無銘剣とその鞘を顕現させると、その刀身を寝かせて七罪の肩に添えて瞳を閉じる

 すると無銘剣の刀身が淡いオレンジの輝きを放ち、七罪の纏っていた霊装が緑色の淡い輝きを放ち始めるとその光は無銘剣を伝い、鞘へと集まっていく。そうして七罪から抽出された光は徐々に本の形を形成していく

 

「……よし、これで終了」

 

 そして完全に光が収まると、七罪の服装は霊装ではなくいなくなる直前の物へと変わり、トーマの手元には鞘とホルダーには合計で三冊の本が出現した

 

【ワンダーワールド物語 煙叡剣狼煙】

【ヘンゼルナッツとグレーテル】

【ジャッ君と土豆の木】

 

 トーマが無銘剣の顕現を解除すると、軽く息を吐いた七罪が彼の手に持っている三冊の本をまじまじと見る

 

「それが、私の中にあった霊力なわけ?」

「まぁ、概ねそんな感じだ」

「ふーん」

「おにーいさん。封印、終わったんですか?」

 

 ふと、そんな声が聞こえてきた。声の方を見ると一部始終を静観していたらしい士道と十香をはじめとした精霊たちの姿があった

 

「あぁ、無事にな」

「そうですか、そうですか。それでは……七罪さん! 改めてよろしくお願いしますね!」

「へっ……う、うん……」

 

 美九のその一言を皮切りに七罪の周囲に精霊たちが集まっていく、そんな光景を見ながらトーマは一歩後ろに下がると、今度は隣に士道がやってくる

 

「……よかったな」

「あぁ、そうだな……っと、そうだ士道。七罪の霊力とパス繋げるから手を────」

 

 そう言葉を続けようとしたタイミングで二人のつけていたインカムから、けたたましいアラームが鳴り響く

 

「なんだ?」

「ど、どうしたんだ、琴里」

 

 怪訝な表情を浮かべるトーマの横で士道がそう問いかけると、インカム越しに琴里の焦った声が聞こえてきた

 

『空に魔力反応が観測されたわ……! これは──さっき取り逃がした空中艦から、爆破術式の反応が……!?』

「何だって……!?」

 

 琴里の言葉を聞いた二人が上空を見上げる

 

「む? どうかしたのか、シドー」

「お兄さん? 何かあったんですか?」

 

 その様子を不審がってか、十香たちは首を傾げてくる中、士道は空から視線を外さぬまま口を開いた

 

「あぁ……どうやら、まだ終わりじゃないらしい。また、さっきと同じ爆弾が落ちてくるんだってよ」

「……往生際が悪いことこの上ないな、ホントに」

 

 そう士道とトーマが言うと、皆は一斉に顔を緊張に染め士道たちと同じように、落ちてくるであろうその物体を確認するため、空に目を向ける

 だが、全員が先ほどの出来事で消耗してしまっているため、先ほどと同じように迎撃をするのは難しいだろう……しかし、ここでやらなければならない。士道は心を落ち着かせ、右手に精神を集中する

 

「ぐぁ……っ」

「シドー!」

 

 しかし、鏖殺公が顕現するよりも先に、全身に凄まじい痛みが走り、士道はその場に膝を突いてしまう。その様子を見たトーマはすぐさま無銘剣を顕現させるが、柄を握った瞬間、無銘剣の刀身に電流が走りその場から消滅する

 

「な……ッ!?」

「大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ……けど、どうして……」

 

 十香は士道の、美九はトーマの元に駆け寄ってくるが想定外の事態であっても敵が待ってくれるという事態はあり得ず、再びインカムからアラームが聞こえてくる

 

『司令! 爆破術式搭載型のバンダースナッチが、空中艦より投下されました!』

『フラクシナスからの迎撃は!?』

「今の位置からでは不可能です!」

『く──緊急旋回! 何としても地上に落ちる前に────』

 

 インカム越しに聞こえてくる琴里の指示を聞き、トーマは無茶をしてでも再び無銘剣を顕現させようとした瞬間

 一瞬、空に光の線のようなものが見えたかと思うと、天宮市上空で巨大な爆発が起こり──周囲の空気がビリビリと震えた

 

「な……!?」

「……何が、起こった?」

 

 士道たちが目を見開いていると、インカムからクルーの声が聞こえてくる

 

『反応──消失しました!』

『なんですって? 自爆したとでもいうの?』

『わ、わかりません、ですが、爆発の直前に、熱源が────』

 

 熱源。その言葉を聞き一番最初に思い当たったのが先ほど空に現れた光の線。何者かの介入によって爆弾が爆破させられた、そう考えれるのが一番自然かとトーマが考えていると、近くに居た士道の声が聞こえてきた

 

「あれは──」

 

 その声を聞き、トーマもまた彼の見ている方へ視線を向けると、その先に小さな人影が見えた。ゆっくりとこちらへと向かってきたその影は、空中で静かに静止する

 

「な────」

「彼女は…………」

 

 視界に入った人影はCR-ユニットを身に纏った魔術師(ウィザード)だった。ASTのものとは異なり、何度も対峙したことのあるエレンのものによく似たデザインのワイヤリングスーツに、特徴的な形をしたスラスター、そすて、右手に携えた巨大な魔力砲

 だが、士道がやトーマが目を奪われたのはそこではない。上空でこちらに視線を向けていた魔術師(ウィザード)に、身に覚えがあったからである

 

「折、紙……?」

 

 士道が、彼女の名を呼ぶと魔術師(ウィザード)────折紙は無言のまま、士道たちへと目線を向ける。そうして向けられた視線は、いつもよりも感情が読めず、冷たいものだった




9巻の範囲はここで終了です
次回より10巻の範囲に入りますのでまたゆっくりお待ちください
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