デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー 作:SoDate
半券を提示して再び水族館に戻ってきた士道は、入口からそう遠くない場所に十香の姿を見つけることができた。
十香の表情は不安を全面に押し出したものになっており、誰かの姿を探すように辺りを見回している
「十香!」
「シドー! だ、大丈夫だったか……?」
「お……おう、なんとかな」
士道がそう言うと、十香は心の底から安堵したように息を吐いた、そしてその姿を見た士道の両親はとてつもなく痛んでいた。
と、そこで十香のお腹が可愛らしい音を立てる
「……むぅ」
恥ずかしそうに顔を伏せる十香の様子を見た士道は思わず苦笑する
「十香、ここチケットの半券あれば再入館できるみたいだし、何か食べに行くか?」
「……うむ! それはとてもいいと思うぞ!」
「じゃあ、どうする? 十香は何か食べたいものとかあるか?」
「ん、シドーは何が食べたいのだ?」
「え……俺か? 俺は……」
先ほど折紙と一緒にいた時にレストランの料理を食べたためお腹は空いていなかった
「いや、俺は……今はいいや、十香が好きなものでいいぞ」
「シドー……ま、まだお腹が痛いのか? やはり琴里に連絡した方が……」
「う……」
再び不安そうな表情をする十香を見た士道は、もう一食食べる覚悟を決めた
「す、すまん、待たせたな……」
十香との食事を終え、許容量を超過した腹をさすりながら、士道は狂三の元に戻る
「いえ。それより、大丈夫ですの?」
士道の事を心配するように言ってくる狂三の手には、ランジェリーショップの紙袋が握られていた
「あぁ……なんとか。──て、もしかして、あの下着買ったのか……?」
「えぇ。──士道さんが、似合うと仰ってくれましたので」
「……っ」
士道は気恥ずかしくなって頬をかくと、話題を逸らすようにように辺りを見回す
「……そ、そういえば、あの三人組は……?」
「士道さんがお手洗いに行ったあと、お帰りになられましたわ」
「そ、そうか……」
その言葉を聞いた士道はほっと息を吐いてすぐ、狂三は何かを思い出したかのように士道に告げる
「そういえば、伝言を言付かっていますわ。えぇと──『五河君、あとで、泣かす』」
「…………」
首の皮一枚つながった思っていた士道だったが、明日もどうやら大変な一日になることが確定したようだ。
そんなことを考えていた士道の顔を覗き込むようにしながら、狂三は口を開く
「ところで、士道さん」
「ん‥……? なんだ?」
「そろそろ、お腹が空きませんこと?」
五河士道、戦線離脱
「ふぅ……士道さんたら。せっかくのデートですのに、今日は随分と忙しないですわね」
公園のベンチに腰掛けながら、狂三は小さく息を吐きだした
「──まぁ、でも、いいですわ」
デートを始めてから五時間ほど経っているのに、士道といた時間は三分の一ほど、それが少し釈然としなかった狂三だが、手の平にあごを置いて、微笑む
「どうせ最後は──わたくしのものになるんですもの」
目を閉じ、士道の事を顔を浮かべながら、自分の抱いている感情が、もしかしたら人間でいう所の恋なのではないかと夢想する
「──ふふ」
狂三はさらに笑みを濃くすると、その場方立ち上がると、小さく伸びをする。頭の中で妄想をしていると、身体が熱くなってしまった狂三は、自動販売機に向かうために公園を横切る
「……?」
しかしその途中、不快な声と音を拾った狂三は、不愉快そうに眉を顰めると、無言のまま足を動かして森の奥に向かっていく
「……あらあら。何をしておりますの?」
狂三が声をかけた先にいたのは、四人の男。その男たちはいずれもモデルガンを手にし、一か所に向けていた
その場所にいたのは足を引きずりながら弱々しく鳴いている子猫、そして持っていたモデルガンの意味を考えると、この男たちが何をしていたのかは想像に容易い
「あー……悪いんだが、ちょっとここは使用中だ。向こういってくれるかな」
「あらあら、そんなことおっしゃらないでくださいまし。これでも銃の扱いには一家言ありますのよ? わたくしもお仲間に入れてくださいな」
そう言った狂三の瞳には、どす黒い感情が渦巻いていた
士道が戦線離脱した事を確認してから少し後、タブレットを地面に置いたトーマは公園の方から霊力の波を感じ取る
「この気配……まさか」
感じ取った霊力の波が一体誰のものなのか、それを察知したトーマは地面に置いたタブレットをカバンに突っ込んで影に隠れる
『──抜刀』
一瞬のうちに炎を纏い、トーマの身体はファルシオンへと変化すると、そのままビルの屋上から飛び降りる
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
一方で、全身を蝕む疲労感の中、どうにか狂三と別れた公園のベンチに戻ってきた士道は小さく眉をひそめた
「あ、れ……?」
『どうしたの、士道』
「や……狂三がいないんだが」
『え? ちょっとカメラ班、狂三の動きはどうなってるの?』
『え、映像が途絶えています。カメラに何かあったのかと……』
『──なんですって?』
琴里がそう言った瞬間、インカムの向こうから別のクルーと思わしき男性の声が聞こえてくる
『指令! 微弱ですが、付近に霊波反応が……!』
『どこ?』
『公園東出口付近の森の中です! この反応は──間違いありません、時崎狂三です!』
「……っ!?」
その言葉を聞いた士道は肩を揺らして、公園の東出口の方を見る
『……これは』
『まだ何かあったの?』
『時崎狂三の元に接近する反応があります! この反応はトーマくん!?』
『……士道、急いで狂三の場所に向かって』
『あ、あぁ……!』
不穏な何かを感じた士道はフラクシナスの誘導に従って、東出口付近の森の中を進んでいく
「──は?」
そして、目的の場所に広がっていた光景を見て、士道は呆然と立ち尽くした
視界を埋め尽くす赤色、周りにある筈の木々はすべて暗褐色に染まり、所々には歪な形をした肉の塊が転がっていた。目の前に広がる光景を士道は理解できなかった
一瞬、数瞬、そして数秒を超え、推測が固まったとしても、その光景がどういったものなのか、理解することを士道の脳が拒否する
いつもと変わらない風景、変わらない日常、その中で──人が、死んでいるだなんて
「う──わぁぁぁぁッ!?」
「士道ッ!?」
『士道! 落ち着きなさい、士道!』
辺りに漂う血生臭い匂いが、士道に途方もない王都間を覚えさせる。今まで食べたものすべてが胃からせり上がってくる感覚に、どうにか抗う為士道は手で口元を覆う
「……っ、う……っ」
「士道、大丈夫か! 士道!?」
時崎狂三を警戒していたファルシオンも、流石に士道を優先し近寄ってくる
「──あら?」
時崎狂三は、視線を上げる。赤い海の中心で、赤と黒の霊装を纏った少女が、士道の方を振り返る
「……てっきりトーマさんだけだと思ってましたのに、士道さん。もう来てしまいましたの?」
細緻な装飾の施された古式の短銃を持った狂三の奥に、別の誰かがいることに士道は気付く。その男の腹部には血で的当ての的のような模様が書かれている
「だ……ッ、助け……く、れ……ッ! なん……、こいつ……、化物……ッ!」
「あらあら」
狂三は男の方に顔を戻し、手に握っていた銃を向ける
「狂三……っ、おま、何を──」
呆然としていた士道が何とか声を発すると、狂三はくすくすと笑う。しかしその声はいつものようなものではなく、聞いているだけで背筋が凍り付くほどに不気味な声だった
「何かを殺そうというのに、自分は殺される覚悟がないだなんて、おかしいと思いませんこと? 命に銃口を向けるというのは、こういう事ですのよ?」
士道の傍らでいつでも斬撃を放てるようにしていたファルシオンは、その言葉を聞いた瞬間僅かに動きを鈍らせる
斬撃の飛ぶ音と銃声、二つが音が流れてすぐ。的の模様が描かれていた男の腹に風穴が空き、そのままピクリとも動かなくなる
「百点、ですわね」
短く息を吐いた狂三が手に持っていた銃を手から落とすと、影の中に消えていく
「お待たせしましたわ、士道さん。恥ずかしいところを見られてしまいましたわね」
「それ以上近づくな、時崎狂三」
「あらあら、今のわたくしは士道さんと話しているのに、そこに割り込むのは少々無粋ではありませんの? トーマさん」
「黙れ、今のお前を士道に近づかせる訳にはいかない」
ファルシオンは切っ先を時崎狂三に向けるが、それを気にする様子もなく彼女は言葉を続ける
「すべてを無に帰す力を持っていながら、それを振るうことに恐怖を覚えているトーマさん。そろそろ虚勢を張るのもやめたほうがいいのではありません?」
「……お前に何が解る」
「わかりますわよ、”あの時のわたくし”を殺すことが出来なかったトーマさん?」
狂三のその言葉を聞いたファルシオンは、地面を蹴り狂三に斬りかかる
「あら、危ないですわね」
「……オレとアイツの時間を、お前が語るな」
「
「なに……ッ!」
少し冷静さを取り戻したファルシオンは士道の方を見ると、彼は影から這い出た腕に足首を掴まれていた
「士道ッ!」
「動かないでくださいまし」
銃口を向けられたファルシオンが動きを止めた瞬間、手に持った剣に触れないよう這い出てきた腕がファルシオンの両腕と両足を拘束し、地面に叩きつける
動けなくなったファルシオンを後目に、時崎狂三はゆっくりと士道の方に近づいていく
「ふふ、捕まえましたわ」
「……っ」
士道に覆いかぶさるよう身を寄せた時崎狂三に対して、士道は初めて精霊に対する恐怖を覚えていた
「──あぁ、あぁ、失敗しましたわ。失敗しましたわ。もっと早くに片付けておくべきでしたわ。──もう少し、士道さんとのデートを楽しみたかったのですけれど」
「……っ、……」
逃げようとする士道に対して、時崎狂三がゆっくりと顔を近づけてくる。しかしそれはキスではなく、首筋に噛みつこうとしているようだった。二人の距離があと少しと言ったところで、彼女の身体は軽々と後方へ吹き飛んだ
「な──」
「──無事ですか、兄様」
「真、那……?」
絞り出すような声と共に顔を上げた士道の目に映ったのは、機械的な鎧──ワイヤリングスーツを身に纏った少女、祟宮真那
「はい、間一髪でした。大事はねーですか?」
「あ、あぁ……」
「それにしても、フェニックスともあろうもがついていながらこの様とは、つくづく呆れちまいますね」
「……黙ってろ、少し頭に血が上っただけだ」
「過ぎたことをいつまでも引き摺るのは、どーかと思いますけど」
「黙れ」
ファルシオンと話していた真那だが、士道の方を見ると少し気まずそうに後頭部をかいた
「あぁ……そりゃ驚きやがりますよね。なんというか、ちょっとワケありでして……まぁ、話しはあとです」
そういうと同時に樹に叩きつられて地面に倒れ伏していた狂三はゆっくりと起き上がる
「あらあら……
「うるせーです。そのトーマさんってのが誰かは知りませんが、人の兄様を狙いやがるなんて、どんな了見ですか」
真那の言葉を聞いた、狂三は驚いたように目を見開く
「真那さんと士道さんはご兄弟でいらっしゃいますの?」
「……ふん、貴様には関係ねーです。また共闘です、力を貸しやがってください、フェニックス」
「分かった、お前は好きに……タイミングは俺が合わせる」
真那はそう言うと、小さく首を回す。その動作に合わせて肩に装備されていたパーツが可変し、先端部が手のように五つにわかれろ。そして左右合計十の先端部から、青白い光が現れる
「とっととくたばりやがってください、ナイトメア」
その言葉と共に指を鳴らすと、両肩のパーツから十本の光線が迸り、時崎狂三へと伸びていくが、彼女はそれをひらりとかわす
「──ッ!」
その隙間を縫うようにファルシオンが接敵し、時崎狂三を切り裂こうとするが彼女はそれすらも避けてひらりと地面に着地した
「うふふ、危ないですわね」
「──ち」
真那が鬱陶し気に舌打ちをすると、指を微かに動かした。すると時崎狂三に避けられた光線が急に進路を変え、再び向かっていく。これは流石に避けられなかったらしい時崎狂三は両足と腹部を光線に貫かれ、その場に崩れ落ちる
「……っ」
「手間かけさせんじゃねーです。化物風情が」
そう言う真那は眉一つ動かさずに、軽く右手を上げると手のひらのように空いていたパーツは盾のような形状に戻り、先端から巨大な光の刃が姿を現す
「真、那……ッ!」
「どうかしやがりましたか。すぐに片付けちまいますので、舞ってやがってください」
「駄……目だ! 殺しちゃ──!」
途切れ途切れになりながら発せられる士道の言葉を聞いた真那は、不思議そうに目を見開いたが、すぐに目を伏せ、かぶりを振ってくる
「……そういえばこの女、兄様のクラスに人間として転校してきやがったのでしたね。──兄様。詳しいことは言えねーですが、この女のことは忘れやがってください。この女は人間ではありません。生きていてはいけねー存在なのです」
そう言うと、地面に倒れ伏した狂三の方に歩いていく
「……ッ! そういう問題じゃない! やめろ! やめてくれ……ッ!」
士道が懇願すると、狂三は消えそうな声を発する
「……ふ、ふ……やっぱ、り、士道さん、は、優しい……お方」
その言葉と共に、真那の振るった刃が狂三へと振り下ろされた
「ふぅ」
真那が軽く右手を振るうと、手に装着されていたパーツは肩に戻っていく
「なん……で」
「知った顔が死ぬのは少しショックが大きかったかもしれねーですが、兄様、あの女を殺さなければ、殺されていたのは兄様ですよ」
「……」
「悪いことは言わねーですから、今日のことは悪い夢でも見たと思って、早めに忘れやがってください。あの女の死に心を痛めては駄目です。アレは死んで当然、存在してはならねーモノなのです」
真那の言葉を着た士道は、思わず拳を握る
「ASTの言い分はわかる……! 今助けてもらったのにも礼を言う! でも……でも、精霊だからってそんな言い方は……」
「……兄様、どこでそれを?」
普通の一般人が知らないであろう言葉を士道が発した、それに対して数秒後、何やら納得したように腕組みした
「……さては、鳶一一曹ですね。まったくあの方は……兄様には甘々なんですから。でもまぁ、それなら話がはえーです。どこまで知ってやがるのか存じねーですが、つまり、そういうことです」
何の感慨もなさそうに言ってくる真那に、士道は戦慄を覚える
「なんで……おまえは、そこまで平然としてられるんだよ。おまえは、今……人を──殺し……たんだぞ……ッ!」
「人ではねーです。精霊です」
「それでもだ……! なんで、そんなあっさりと──」
「慣れてやがりますから」
そう言った真那の声はあまりにも冷たく、落ち着いていた
「ナイトメア──時崎狂三は、精霊の中でも特別です」
「特別……?」
そこで今まで黙っていたファルシオンがようやく口を開く
「言ったはずだぞ、士道……アイツは死なない」
「……鳶一一曹かと思ったら、兄様によけーな事を吹き込んだのはアンタでしたか。けどまぁ、そう言う事です、何度殺しても、どんな方法で殺しても。あの女は、何事もなかったかのように、必ずまたどこかに出現して、何度も人を殺しやがるんです」
真那は尚も言葉を続ける
「──だから。私は殺し続けてるんです。あの女を、ナイトメアを。時崎狂三を。執拗に追いかけて、何度も、何度も、何度も」
「違う……っ!」
「え?」
「それは──慣れているだなんて言わない。磨り減ってるだけだ。……心がッ!」
士道がそう言うと真那は小さく眉を揺らす
「何を……言ってやがるんですか、兄様」
「もう、止めてくれ、真那……おまえは俺の妹だっていうんだろ……? なら……一つだけでいい。俺の頼みを聞いてくれっ」
士道は祈るように喉を絞る、真那のやっている行為が只の妄想じゃないから、心に負荷をかけられ、磨り減っていった
「……無理ですよ、兄様」
「ナイトメアが生き返りやがる限り、そして人を殺しやがる限り、私はあの女の首を摘まねばならねーんです。あの女はもっともっと人を殺します。──私にしか、できねーんです」
「…………ッ」
ふと、真那が顔を右上の方に向ける
「兄様。今日はここまでです」
「な……、まだ話は」
「増援が近づいています。兄様がここにいては面倒なことになりやがります……フェニックス、兄様をよろしくです」
「……わかった」
真那は、半ば無理矢理士道を方向転換させると、背中を押してファルシオンの方まで連れてきた
「放してくれっ!」
「……今は、行くぞ」
その言葉を最後に、ファルシオンの身体は士道ごと炎に包まれ始める
「また、会いましょう。今度は、もっと時間に余裕を持って」
「待──」
その言葉を最後に、士道とファルシオンはその場から消え、残ったのは二人がいた場所に散っている火の粉だけだった
伝わらない思い
伝わって欲しい願い
変わるもの、変わらないもの
それでも譲れないものがあるとしたら
それはきっと、何よりも大切なモノ
次回 迷いと決意とそして誓い
《information》
・時崎狂三とトーマには、とある因縁がある