デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー 作:SoDate
変身を解いたトーマは、士道を公園のベンチに座らせた
「大丈夫か?」
「…………」
トーマの問いに、士道は答えない。ただ地面を見つめているだけだった
それも仕方ないだろう、今まで関わってきた精霊やAST、狂三と真那は、それに比べてあまりに違い過ぎる。それに精霊と関わっていると言っても士道は普通の高校生に過ぎない。あんな場面を見て、衝撃を受けるなと言う方が無理な話である
黙って士道の事を見ていると、ようやくその口を開いた
「なんなんだよ……そりゃあ……ッ」
絞り出すように言った士道の言葉に対して、トーマは言葉をかけようとするが、遠くからこっちに来る気配を感じその場から立ち去ろうとして足を止めた
「……すまなかった」
そして、それだけ言い残したトーマが去ってからすぐ、聞きなれた呼び声をかけられる
「シドー!」
十香が、士道の方に駆けてきているのが見える。十香の後ろには折紙の姿もある
「シドー、どこへ行っていたのだ!」
「── 一体、これはどういうこと」
士道の場所までやってきた十香と折紙は、不機嫌そうに言葉を投げてくるが、今の士道にそれを弁明するだけの余裕はない
「……ごめん」
「……シドー?」
「どうしたの」
流石に不審に思ったらしい十香と折紙が、心配そうに顔を覗き込んでくる
「シドー、怪我をしているではないか!」
怪我に気づいた十香が士道の手を取った瞬間。頭の中に狂三の血に濡れた貌がよぎり、息を詰まらせると同時に彼女の手を払いのけてしまう
「え……あ、シドー……す、すまん……痛かったか?」
「……っ、悪……い」
少し呆然とした様子で自分の手と士道の手を交互に見た十香がそう言うと、士道は小さく頭を下げ小刻みに震える自分の手をもう片方の手で握りしめた
「ごめん……本当に、ごめん」
「そ、そんなに気にすることでもあるまい。一体どうしたというのだ……?」
「…………ごめんッ」
心配してくれた十香たちに対して、士道はそれだけ言い残して立ち上がると、そのから駆け出してしまった
「し、シドー!?」
「どこへ──」
後方から十香と折紙の声は聞こえてくるが、士道は足を止められなかった。それから──どれくらい走ったかわからない士道は、ひとけのない道に差し掛かったところで奇妙な浮遊感に包まれるのを感じた
「……っ、これは──」
浮遊感に包まれた士道が移動したのは、フラクシナスの内部
「──無事で何よりよ」
士道の背に、そんな声が欠けられる。振り向くと、そこにいたのは司令官モードの琴里だった
「……琴里」
「ようやく転移可能な位置に移動したわね。何度も呼びかけたのだけど?」
言われた士道は右耳に手を槍、目を見開く
「……インカム、ねぇや」
「落としたの? いつ?」
「……悪い、よくわからん」
士道がそう言うと、琴里は小さく唸るようにしながらあごに手を置いた
「……考えられるとしたら、狂三に襲われたとき……? じゃあさっきの声は──」
「どうかしたのか……?」
士道が訪ねると、琴里は小さく息を吐いて首を横に振る
「なんでもないわ。──それより、怪我の手当をしましょ。ついてらっしゃい」
「……っ、あぁ……でも、十香と折紙は──」
「十香は一人になったらフラクシナスで拾って、簡単に事情を説明しておくわ。鳶一折紙は──まぁ、放っておいても大丈夫でしょう。明日学校でフォローしておいて」
「そう、か……」
士道は力なく答えると、琴里の後をついていく
「……なぁ」
その道中、士道は琴里の背に声をかける
「何よ」
「俺の──俺たちのしてることは、正しいんだよな……?」
琴里は士道の言葉を聞いた瞬間、足を止め士道の方にキッと目を向けてくる
「それって、どういう意味?」
「……オレは、精霊が……自分の意思とは関係なく空間震を起こしちまう存在が、理不尽に襲われるのが許せなくて、おまえたちに強力してるんだ」
「……えぇ、そうね」
「でも……狂三は、人を──」
士道にとって、狂三が人を殺していたという事実が、どうしようもなく、悲しくて、恐ろしかった
「何が言いたいのよ」
「俺には……無理だ」
士道は、ついにその言葉を吐き出した
「今まで上手くいっていたのは、十香や四糸乃が偶然いい奴だったからなんだよ……。結局……俺には、何も──」
そこで士道は言葉を止めた。いや、正確には止めさせられた
琴里が士道の襟首を引っ張り、平手打ちで士道の頬を叩いたから
「あ……」
「……随分と根性がなくなったものね……?」
士道が呆然としていると、琴里は顔をしかめながらそう言った。その表情が今にも泣きだしてしまいそうな表情かもしれなかったが、今の士道には判別がつかなかった
「俺には? 無理だ……? ふん、あの程度で泣き言言ってるんじゃないわよ! まだ昔の方が度胸あったんじゃないの!?」
「何の、話──」
「あなたは……っ、もっと恐ろしい精霊だって立ち向かってみせたじゃない! 救ってみせたじゃない! 無理だなんて軽々しく言わないで。あなたが諦めたら、狂三はたくさんの人を殺すわ。真那は狂三と──自分の心を殺し続けるわ……! トーマも、理由は知らないけどずっと苦しみ続けることになる……! あなたにしか──止められないのよ……ッ」
「……っ──」
そう言われた士道は、ごくりと唾液を飲み込む。琴里の言ったもっと恐ろしい精霊と言うのが誰の事を指してるのかは分からなかったが、言葉の後半は、士道の脳にしっかりと届いていた
士道は無言で、手を額に当てる
「……そうだな」
そう言った士道は、ふらふらとする足取りで先に進んでいく
「あ、ちょっと……!」
琴里が慌てたように後を追ってくると、士道は告げる
「……狂三にこれ以上人を殺させないためには、力を封印しなきゃならないもんな。真那にこれ以上狂三を殺させないために、トーマがこれ以上苦しまない為に……俺がやるしかないんだもんな。わかったよ……これで満足だろ?」
「…………えぇ」
そう返した琴里の声には、少しだけ不安が混ざってるような気がした。
その日の夜、士道はソファに寝転がりぐるぐると思考を巡らせていると、廊下の向こうから玄関の開く音が聞こえてくる
「ん……?」
重い身体をどうにかして起こした士道がリビングの入口に目をやると、リビングの扉が開き、十香がおずおずと顔を出した
「十香……?」
「……うむ。入っていいか?」
「お、おう、もちろん」
色々と気になる部分はあるが、そこに目をつぶりそう言った士道に対して、塔かは小さく頷いてリビングに入ってくると、士道の方に走り寄ってくる
「シドー。……身体に障っても大丈夫か?」
「あ……あぁ、大丈夫だよ」
士道がそう言うと、十香はソファをよじ登り、ソファと士道の間に入り込む
「何してんだ……?」
「いいから、少し黙っていろ」
十香はそう言うと士道の身体に手を回し、後ろから抱きしめてきた
「と、十香? い、一体何を……」
「……寂しいときや、怖いときは、こうするのがいいとテレビで言っていた」
背中に当たる感触を感じた士道が、額に汗を浮かばせながら十香に聞くと、彼女はそう答える
「……ちなみに、どんな番組で?」
「おかあさまといっしょ……だったと思う」
ばっちり幼児番組の名前を聞いた士道から、思わず苦笑が漏れる
だが、それは正しかったようで、確かに士道は少し落ち着いた気持ちになった。それからどのくらいかそうしていると、十香が口を開く
「……令音にな、話を聞いた」
「話……って」
「狂三と、真那の話だ。シドーの様子がおかしい理由を訊いたら──話してくれた」
「っ、そ、うか……」
士道はごくりと唾液を飲み下してからその言葉を吐いた。令音もあまり十香に精霊やAST関連の話は聞かせたがらなかった筈だが、今回は教えない方が十香の精神状態に悪いと踏んだのだろう
「シドー。私がこの家に厄介になっていたとき言ったことを覚えているか……?」
「え……?」
シドーが訊き返すと、塔かは続ける
「私と同じような精霊が現れたら……きっと救ってやって欲しい」
「あぁ──」
その言葉は、いつかの日に十香が士道に言った言葉。その言葉を士道はしっかりと覚えているし、その想いは変わっていない
「でも、狂三は」
「──変わらない。私と」
「え?」
背中から士道を抱きしめたまま。十香は言葉を続ける
「……私には、シドーがいてくれた。シドーが、私を救ってくれた。──でも、狂三には誰もいなかった。私よりもずっと長い間、誰からも手を差し伸べられずにいたのだ……それか、差し伸べられた手を、掴めなかったのかもしれない」
どういう意味で、最後の言葉を言ったのかわからないが、尚も十香は言葉を続ける
「もしシドーがいなくて、私がふた月前のあの状態のまま、ずっとずっと殺意と敵意だけに晒され続けていたなら──私は、狂三のようになっていたかもしれない」
「そ、んなこと──」
そう言いかけて士道は言葉を止める。初めてであった時の十香は、今からは考えられない程心をすり減らした状態だったから。すり減った心はすさみ、終わりの見えない戦いに飽き、憔悴し、疲弊し、絶望した状態だったから
「本当に──もう救いようがないほど、狂三が悪い精霊だったなら、私がシドーを守る」
「え……?」
「だぁら……シドー。お願いだ。狂三の事を、もう一度だけ見てやってくれ。狂三に、もう人を殺させないでくれ。これ以上、心を磨り減らさせないでくれ……」
「……っ」
士道は、狂三が人を殺すのがたまらなく嫌だった、真那が狂三を殺すのが理解できなかった。その輪廻を終わらせるために、狂三を止めるのだと決意していた
だけど、それには重要なピースが一つ欠けている事を……士道はようやく理解した
「……ありがとう、十香」
「む? ……な、なぜだ? 私は礼を言われるようなことは──」
「……いや、おまえのおかげだ」
只の男子高校生が、血反吐を吐きながら精霊を救うという目的に手をのばせたのは、理不尽に殺意を向けられる少女を助けたいと願ったから、十香の時も、四糸乃の時も、士道は心から救いたいと思っていた、だから士道は行動できた
掲げる目標が、空想でも、妄想でも、それを信じなければ手を伸ばすことは不可能だった
「──十香、もう大丈夫だ」
「……もう、寂しくないか?」
「あぁ」
「もう、怖くないか?」
「……それは、ちょっとまぁ、怖いけど……でも、大丈夫だ」
「ん……そうか」
そう言った士道は、いつもの彼に戻っていた
そして、十香と別れた士道は家の近くの公園にトーマを呼びだした
「……すまない、待たせたか?」
「いや、大丈夫だ」
士道が公園についてから程なく、トーマも公園へとやってくる
「その様子じゃ、もう大丈夫みたいだな」
「あぁ、心配かけた」
「……いや、今回の一件はお前達に時崎狂三の事を隠していたオレの落ち度だ」
その言葉を聞いた士道は、改めてトーマの方を真っすぐ見る
「トーマ、教えてくれないか。お前と狂三の間に何があったのかを」
「……それは出来ない、と言ったら」
「それなら、教えてくれるまで頼み続ける」
「そうか……少し待ってろ」
トーマは自販機まで行くと、ホットのお茶を二つ買ってきて、片方を士道に渡す
「少し長い話になる……それでもいいな?」
「あぁ」
トーマの問いに士道は頷くと、二人で適当なベンチに腰を下ろす
「オレが、時崎狂三と会ったのは……今から何年か前の事だ」
腰を下ろしたトーマは、ゆっくりと話を始めた
「どうやって遭遇したのかは省くが、最初、オレはアイツが精霊だって言うのを最初から勘づいてた。その上で、少しの間、同じ時間を過ごした」
「同じ……時間?」
「あぁ、オレにとって狂三は、天宮市に来てから一番最初に出来た友人だった」
「……ッ」
トーマのその言葉を聞いた士道は、思わず目を見開く。狂三の事を話すトーマの瞳には、いつも敵意や怒りと言った黒い感情が渦巻いていたからだ
「だが、オレの友人だった狂三は、時崎狂三に殺された」
「狂三が……狂三に?」
「あぁ、オレも詳しい話は聞いてないからわからなかったがな」
「じゃあ……トーマが狂三の事を憎んでるのは」
士道がそう言った瞬間、トーマは彼の前にストップのジェスチャーをする
「違うぞ、オレは狂三を憎んでない……憎んでないから、どうしようもできない」
「どういうことだ?」
「お前の前にいた時崎狂三は、オレの友人だった狂三じゃない……だが、だからこそ、オレはどうすればいいのかわからなくなっちまった」
地面を見つめながら、トーマは言葉を続ける
「いっそ憎めれば、殺せれば、割り切れれば……ずっとそう考えてきた、殺せないなら、一生アイツが目の前に現れなければ……とも考えた、だが、お前達と出会い、協力をすると決めた時に覚悟を決めた……決めたと思ってたはずなんだけどな」
自嘲しながら、言葉を絞り出した
「結局、駄目だった……オレにはアイツを殺せない、恨めない、憎めない……どれだけ憎悪を向けようとしても、オレの中にいる
言葉を終えたトーマは、手に持ったお茶を一気に飲み干す
「これが、オレと狂三の間にあった事だ。オレはアイツに友を殺された」
「そうか、ありがとな……話してくれて」
「このことは、いずれ話さないといけない事だったからな、気にしなくていい……それで、士道。お前はどうするんだ」
「救うよ、狂三を」
トーマの問いに、士道は一滴の曇りもない声でそう告げた
「そうか……」
「あぁ、もう誰も狂三に殺させない……真那にも、狂三を殺させない」
その言葉を聞いたトーマの顔にも、笑みが浮かぶ
「それなら、オレも考えるのはやめた……士道、絶対に救えよ。狂三を、どれだけ長い時間かけたとしても」
「絶対に救う、どれだけ長い時間をかけても。だから、トーマの持ってる
「……あぁ、預けてやる。だから……後は任せた」
そう言いあった二人の顔に、迷いの感情はもうなかった
その帰り道、トーマと一緒に歩いていた士道は、気になったことを訊いてみることにした
「そういえばトーマ。お前の友達だった狂三って、どういう奴だったんだ?」
「どんな奴……か、一言で言うと人間不信?」
「人間不信って……」
「これがマジなんだ。初遭遇からずっと戦い、戦い、戦いだったからな。だけど不思議なもんで、武器を向け合ううちに変な共感みたいなのが湧いてきてな」
「へぇ、漫画とかでよくある戦いの中で語るって奴なのかね」
「多分な……あぁ、それと、今の狂三とは決定的に違う部分があったな」
士道と話していたトーマは、思い出したかのように手をポンと叩いた
「違う所?」
「あぁ、狂三の霊装の見た目がな」
「どんな見た目だったんだ?」
「なんか、軍服みたいな見た目だったな……それと、白かった」
「白かった?」
「あぁ、なんというか、ポジとネガってあるだろ? あんな感じで色を反転させたみたいな、そんな感じだ」
「へぇ」
そんなことを話しているうちに、五河家の前まで到着していた
「それじゃあな、士道」
「あぁ、また」
士道とトーマは、そこで別れ、各々の家に帰って行った
忘れかけていたものを思い出した士道
士道に想いを託したトーマ
それぞれの時がゆっくりと進む中
物語は新しい局面に突入する
次回 虚構の悪夢
《information》
トーマと狂三は、友人だった
彼の友人だった狂三は、時崎狂三の手によって殺されている
トーマが狂三に抱いてる感情は、めっちゃ複雑