デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー   作:SoDate

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第3-6話, 虚構の悪夢《上》

 士道との語らいを経て、自分の中である程度区切りをつけたトーマは、久々に朝食の準備をする。いつもより早くに起きて、気合いを入れた朝食を用意していると、まだ眠い様子の美九が起きてきた

 

「おはよう、美九」

「…………」

 

 トーマの姿を見た美九は暫く目をぱちくりとさせた後、ようやく声を出した

 

「お兄さん?」

「おう、しっかり本物だ」

「──っ、おにいさぁーん!!」

 

 トーマのその言葉を聞いた美九は、目の前の光景が現実だと認識し、トーマに向かって飛びついてきた

 

「あぶなっ!」

「……今ままでどこに居たんですかぁ……」

「少し……考えたい事があって──」

「なら、せめて連絡はしてください……どこに行っちゃったんだろうって、心配したんですよ」

「……ごめん、でも……もう大丈夫」

「……本当ですか?」

「本当だ」

「本当の本当ですか?」

「本当の本当だ」

「本当の本当の本当ですか?」

「あぁ、本当の本当の本当だ」

 

 少し涙声になりながら問いかけてくる美九に対して、トーマは普段とは違う優しい口調でそう答えた

 

「なら、信じます」

「……ありがとう」

 

 少しいい感じの空気になっていると、鍋の吹きこぼれる音が聞こえ、慌ててそっちを向くと作っていた味噌汁が見事に溢れていた

 

「あぁ、やっちまった」

「あはは……」

「とりあえず、ちゃちゃっと作るから、美九はゆっくりしててくれ」

 

 一度吹きこぼれた鍋の火を止めたトーマは、中を確認した後、再び調理を再開した。たった数日だった筈なのに、この日常がやけに久々だとトーマは思いつつ、朝食の準備を再開した

 

 

 そして、美九と共に朝食を食べ、彼女を見送ったトーマは、久々に部屋の掃除でもしようかと考えていると、士道から着信が来る

 

「どうした」

『トーマ、今大丈夫か?』

「大丈夫だぞ」

『そっか、実は──』

 

 トーマが士道から聞いたのは、学校に来た狂三に対して、彼女を救う事を告げたと言う事。そして、士道の言っていることを確かめる為、放課後屋上に来るよう言われたことだ

 

「なるほどな」

『……どう思う?』

「どう思うって、お前……そりゃあ、やる事は一つだろう」

『だよな』

「あぁ、でも……アイツは何をしてくるかわからないが、無茶はするなよ」

『わかってる』

「なら良い、オレも放課後そっちに向かうが……狂三の事はお前に任せた」

『おう』

 

 そう言うと、士道との電話を切ったトーマは、フラクシナスに連絡を取るためインカムを耳につけて通信回線を開く

 

「フラクシナス、聞こえるか?」

『トーマ君ですか、聞こえていますよ』

 

 回線を開いた先で聞こえたのは、琴里ではなく副指令の神無月の声だった

 

「あれ、琴里はいないのか」

『司令なら少し席を外しています。それより、今日はどんなご用件で?』

「士道が狂三とまた対話することになったから、それを伝えようと思ってな」

『それは……本当ですか?』

「本当だが、どうかしたのか」

『士道君は今、インカムを携帯していないんです』

「……それなら、オレが直接士道に届けに行ってくる。購買に配達の仕事もあるからな」

『わかりました。それでは一度こちらにお越しいただいてもよろしいでしょうか、士道君用の新しいインカムをお渡しするので』

「了解」

 

 通信を切ったトーマは、火の元チェックを終えると、仕事用のカバンを片手に持って部屋から出て鍵を閉めると、そのままマンションから出た

 

 

 

 

 そして、時は進み昼休み前。購買用の弁当や惣菜パンの配達を終えたトーマはその足で士道の教室までやってきた

 

「すまない、五河君はいるか?」

「五河君ですか? それならあそこに」

 

 近くにいた生徒が指をさすと、確かにそこには士道がいた

 

「ありがとう」

 

 その生徒に軽く礼をしたトーマは教室の中に入ると、そのまま士道の机の前にやってくる

 

「士道」

「あぁ、トーマ……って、トーマ!?」

「リアクションが大袈裟すぎだ」

「あ、あぁ、すまん……じゃなくて、何で教室に」

「忘れ物を届けに来たんだよ、ほれ」

 

 トーマは士道にインカムを渡すと、士道の方は納得したような表情になる

 

「すまん、助かった」

「全く、これから正念場だって所なのに、孤立無援で挑むのは危険すぎるぞ」

「すっかり頭から抜けちまってたんだ。本当に助かった」

「まぁ、それならいいけどよ……それじゃ、しっかり届けたからな」

「ありがとな」

 

 士道の言葉に対して軽く手を振ったトーマは教室から出ていった

 

 

 

 

 それから更に時は進み、放課後

 士道は深く息を吸うと、ゆっくりと吐き出した

 

「……よし」

 

 周りには部活に向かう生徒たちの声が響いている。結局狂三とは、朝に下駄箱の前で会話を交わしたきり、話をすることはなかった。帰りのホームルームが終わった後も狂三は士道に視線を向けることなく教室から出て行っていた

 

『……大丈夫かね、シン』

 

 昼休みにトーマから届けられたインカム越しに、令音の声が聞こえてくる

 

「はい、意外と……落ち着いています」

『……それは何よりだ。しかし、十分気をつけたまえ』

「──はい」

 

 改めて気合いを入れ直した士道だったが、ふと疑問を覚える

 

「令音さん、そういえば琴里の声がしませんけど……」

『……あぁ、琴里は今少し席を外している』

「いや、席を外しているって、こんな大事なときに……」

『……それは琴里も重々承知している。だがそれを考慮した上で、こちらの方が作戦成功率が上がると判断したのさ。……今は邪魔者の横槍が一番厄介だからね』

「どういうことですか?」

『……今は狂三に集中したまえ。気を散らしながら篭絡できるほど甘い相手ではないよ』

「……っ、そ、そうですね」

 

 令音の言葉が少し気にかかったが、今は狂三以外のことを考えている余裕などないはずだ。屋上へ待っている狂三のところへ向かう為、士道は階段に足を向けた瞬間、辺り一面に異変が起こる

 

「こ、れ、は……」

 

 身体に襲いかかってきた途方もない倦怠感と虚脱感、空気そのものが粘性を持ったかのように重く身体に絡みつく

 士道はその場に膝をつきそうになるのを何とか堪え、姿勢を保ったものの、周囲に残っていた生徒たちは次々と苦し気なうめき声を出し、その場に崩れ落ちる

 

「お……っ、おい、大丈夫か……!?」

 

 士道は、すぐ近くに倒れこんだ女子生徒の肩を揺するが、気を失ってしまったのか反応はなかった

 

「令音──さん。これは……!?」

『……高校を中心とした一帯に、強力な霊波反応が確認された。この反応は──間違いない、狂三の仕業だ。広域結界……範囲内にいる人間を衰弱させる類のもののようだ』

「な、なんでそんなことを……」

『……それは、本人に訊いた方が早いだろう』

『士道、聞こえるか……倒れた生徒はオレに任せて、お前は狂三を優先しろ』

 

 インカム越しにトーマはそう言ってきた、それを聞いた士道は唾液をごくんと飲み干すとその場から立ち上がった

 

「あれ……そういえば、俺はなんで……」

『……忘れたのかね、シン。君は十香や四糸乃の霊力をその身に封印している。自覚症状はないかもしれないが。君の身体は精霊の加護を受けているに等しい状態なんだ』

「霊力……」

 

 呟くようにそう言った士道は、ハッと目を見開いた。先ほど出てきたばかりの教室の扉を開き、叫ぶように声を上げた

 

「十香ッ!」

「おぉ、シドー……」

 

 教室に残っている生徒の大半は床に伏せるか、机にもたれかかる形で気を失ってしまっていたが、塔かは軽く頭を押さえながら士道に声を返してくる

 

「大丈夫か、十香!」

「うむ……。だが、どうも身体が重い……どうしたのだ、これは……」

 

 十香は、高熱に運されるかのような調子で呻き、気怠そうに頭を揺らす

 

『……シン』

 

 インカムから、令音の呼び声が聞こえてくる。それがどういう意味なのか、詳細は聞かずとも察する事ができた

 

「十香、ここで休んでろ。すぐになんとかしてやるからな……!」

「シ、ドー……?」

「大丈夫だ。俺が──助ける」

 

 十香の頭を優しく撫でるようにしてから、意を決して廊下に出て、狂三のいる屋上へと向かう。重く纏わりついてくる空気を裂きながら階段を上り、やたら疲労する身体を叱咤しながら、どうにか屋上へと続く扉の前まで辿り着いた

 扉の前にやってきた士道は、深呼吸をするとドアノブを握り、扉を開けた

 

「く……」

 

 士道の身体を襲っていた感覚は晴れることなく、それどころか身体を襲う虚脱感が強くなっていく。そして、背の高いフェンスに囲まれた殺風景な空間の中心に、彼女はいた

 

「──ようこそ。お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

 赤と黒で彩られ、フリルに飾られた霊装の裾をくっと摘み上げ、時崎狂三は、貴族が挨拶をするようにそう告げた

 

 

 

 

 

 

「……さて、オレも早く士道と合流したいところだが。まずは人命救助か」

 

 士道たちとの通信を切ったトーマは、無銘剣を片手に握った状態でそう呟く。狂三の事は士道に任せた手前、今トーマがやるべき最優先事項は倒れている生徒たちを安全な場所に移す事だ

 

「オレに出来ることには限界があるが、やるしかないな」

 

 近くにいた生徒たちを移動させ終えると、次の場所まで移動しようとしたところでトーマに向かって漆黒の銃弾が放たれる

 

「……っ」

「ごきげんよう、トーマさん」

「時崎……狂三」

「少し、わたくしと遊びませんこと」

「……いいぜ、付き合ってやるよ」

 

 炎を纏ったトーマの姿が、ファルシオンへと変化する

 

「オレはお前を……殺さない」

 

 無銘剣を向けながら、トーマはそう言った

 

 

 

 

 

「狂三……おまえ、一体何をしたんだ!? 何なんだ、この結界は……!」

 

 屋上で狂三と対峙した士道はそう問いかける。一方の狂三は士道の反応が楽しくて仕方ないと言った様子で、浮かべていた笑みを、さらに濃くする

 

「素敵でしょう? これは時喰みの城(ときはみのしろ)。わたくしの影を踏んでいる方の”時間”を吸い上げる結界ですわ」

「時間を……吸い上げる?」

 

 士道が怪訝そうに言うと、狂三はくすくす笑いながらゆっくりと近づき、優雅な仕草で前髪を少しかき上げる。そうすると、前髪に隠れて見えなかった左目が露わになった

 

「な……」

 

 それを見た士道は、眉をひそめる。狂三の左目が、明らかに異常だったからだ。彼女の左目は──時計そのものだった。そして、瞳の中に存在する時計はくるくると逆方向に回転している

 

「それは──」

「ふふ、これはわたくしの”時間”ですの。命──寿命と言い換えても構いませんわ」

 

 狂三はそう言うと、その場でくるりとターンをする

 

「わたくしの天使は、それはそれは素晴らしい力を持っているのですけれど……その代わりに、ひどく代償が大きいのですわ。一度力を使うたびに、膨大な私の”時間”を喰らっていきますの。だから──時折こうして、外から補充することにしておりますのよ」

「な……っ」

 

 狂三の言葉を聞いた士道は戦慄する

 狂三の言ったことが本当だとすれば、結界の中で倒れている人たちは、狂三に残りの命を吸い取られていることになるのだから。狂三はそんな士道の表情を見て、何故か、少しだけ寂しそうな顔をした

 しかし、すぐにその顔に凄絶な笑みを貼りつけると、指先で士道の顎を持ち上げる

 

「精霊と人間の関係性なんて、そんなものですのよ。皆さん、哀れで可愛い私の餌、それ以上でもそれ以下でもありませんわ」

 

 狂三は士道を挑発するように、言葉を続ける

 

「あぁ──でも、でも、士道さん。あなただけは別ですわ。あなただけは特別ですわ」

「……俺、が?」

「えぇ、えぇ。あなたは最高ですわ。あなたと一つになるために、わたくしはこんなところまで来たのですもの」

「一つになるって……どういうことだよ」

 

 士道は、狂三の言葉に対して眉をひそめる

 

「そのままの意味ですわ。あなたは殺したりなんてしませんわ。それでは意味がありませんもの。──わたくしが、直接あなたを”食べて”差し上げるのです」

 

 狂三の言った食べるというのが、どういった意味なのか士道にはわからなかった。しかしその言葉を聞いた瞬間、士道の胃に冷たいものを広げるのは十分だった

 しかし、士道はその気持ちを押しこめ、拳を強く握った

 

「俺が、目的だっていうなら、俺だけを狙えばいいいじゃねぇか! なんでこんな──!」

 

 士道の言葉を聞いた狂三は、愉快そうに言葉を続ける

 

「うふふ、そろそろ時間を補充しておかねばなりませんでしたし──それに、あなたを食べる前に、今朝の発言を取り消していただかないとなりませんもの」

「今朝の……?」

 

 今まで愉快そうに言葉を発していた狂三の視線が、鋭いものに変わる

 

「えぇ。──わたくしを、救うだなんて世迷い言を」

「……っ」

「──ねぇ、士道さん。そんな理由で、こんなことするわたくしは恐ろしいでしょう? 関係ない方々を巻き込むわたくしが憎いでしょう? 救う、だなんて言葉をかける相手でないことは明白でしょう?」

 

 狂三は、何かの役を演じるように大仰に手振りをしながら続ける

 

「だから、あの言葉を撤回してくださいまし。もう口にしないと約束してくださいまし。そうしたなら、この結界を解いて差し上げても構いませんわ。もともとわたくしの目的は、士道さん一人なのですもの」

「な……」

 

 士道は目を見開いた、結界を解く条件があまりにも簡単なものだったから。それこそ狂三が士道をたばかっているのではと疑ってしまうほどに

 

『……狂三は本気だ』

 

 インカムから、令音の声が聞こえてくる

 

『……彼女の精神状態に、嘘をついている形跡は見受けられない。シン、君が条件を呑んだなら、狂三は本当にこの結界を解くだろう』

 

 令音がそういうと同時に、狂三は薄気味悪い笑みを浮かべて身をくねらせる

 

「きひひ、ひひ、さぁ、早く止めなければなりませんわねぇ。急がないと手遅れになってしまう方もいらっしゃるかもしれませんわよォ?」

「……っ」

 

 士道が言葉を撤回すれば、結界は解除される。そうしなければ、結界の中にいる人たちが犠牲になるかも知れない、選択の余地がなかった士道は、意を決して口を開く

 

「……結界を、解いてくれ」

「なら、言ってくださいまし。もうわたくしを救うだなんて言わないと」

 

 一瞬、狂三は安堵しかのように息を吐いた

 

「それは……できない」

「は──?」

 

 士道がそう言った瞬間、狂三はぽかんと瞼と口を開いた。少なくとも今まで士道がみてきた狂三の中で、一番間の抜けた表情をしていた

 

「……あら、あら、あら?」

 

 しかし、そんな表情を浮かべたのも一瞬、狂三の表情はすぐに不機嫌なものに変わる

 

「聞こえませんでしたの? それを撤回しない限り、私は結界を解きませんわよ」

「……っ、それは、解いてくれ。今すぐ!」

「なら」

「でも、駄目だ! 俺はその言葉を撤回できない!」

 

 士道は叫び、狂三の言葉を拒否する。自分の言った言葉を撤回してしまったら、何も変わらないから

 

「──聞き分けのない方は嫌いですわ……ッ!」

 

 狂三はそう言うと、軽やかなバックステップで士道から距離を取り、右手をバッと頭上に掲げる

 

 その瞬間

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──────

 

 けたたましい音が、街全域に鳴り響いた

 

「──っ、空間震警報……ッ!?」

 

 精霊が現界する際に、自分の意思とは関係なしに引き起こす厄災、それを知らせる警報がこのタイミングで鳴った。士道は別の精霊が出現するのかとも考えたが、狂気に満ちた笑みを浮かべる狂三が、それを否定していた

 そこから導き出される答えは、狂三が意図的に空間震を起こそうとしているというもの

 

「きひ、きひひ、きひひひひひひひひひッ、さぁ、さぁ、どォぅしますの? 今の状態で空間震が起こったなら、結界内にいる方々は一体どうなりますでしょうねぇ」

「……!」

 

 そう言われ、士道は言葉を失う

 通常、空間震が起きた際、一般人はシェルターに避難する。しかし、狂三の結界内にいる人々は気を失い、避難することは不可能──なのだが、士道の頭に一つの疑問が浮かぶ

 

「さぁ、さぁ、士道さん? いかがですの? わたくしが恐ろしいでしょう? わたくしが憎いでしょう? これでも同じことが言えまして? 弱き肉が! 強き捕食者に!」

「……」

 

 心臓の鼓動が早くなる、呼吸が荒くなっているはずなのに、士道の頭の中は信じられないくらい冷静だった

 そして、士道の中に浮かんだ疑問とは──どうして狂三は、そんなにも士道に言葉を撤回させようとしているのか。彼女の目的が士道なら、変な小細工はせずにさっさと食べてしまえばいい、なのに、なぜ、そこまで狂三は気にするのか

 

 強き捕食者である自分が、弱き肉である士道の言葉を

 

『……シン』

 

 そこで、インカム越しに令音の声が聞こえてくる

『……狂三の精神状態が変化している。まるで君を……恐れているかのような数値だ』

「ぇ……?」

 

 令音からその言葉を聞いた瞬間、士道は狂三に聞こえないくらいの声を発し、眉をひそめる。そして、次に思い出したのはトーマとの会話の中にあった事だだった

 

 ”お前の友達だった狂三って、どういう奴だったんだ? ”

 ”どんな奴……か、一言で言うと人間不信? ”

 

 どうして狂三が自分の事を恐れるのか、士道は一瞬混乱し──そして、納得した

 

「あぁ──そうか」

 

 士道は息を吐くと、もう一度狂三を見る

 

「さぁ! 士道さん、どうしますの? あなたが言葉を撤回しなければ、何人もの人が死ぬことになりますわよ!?」

 

 狂三が士道から視線を逸らさないまま、高く掲げた右手をぐっと握ってみせた瞬間、空間が悲鳴を上げているような甲高い音が聞こえてくる

 

「く……」

 

 狂三にかけなければならない言葉もある、話さねばいけないことがある。だが、今はそれより先に、何とかしない事がある。自分の言葉を撤回せず、空間震を何とかする為に思考を巡らせると、ふと狂三の言葉を思い出す。

 

「……狂三」

「何ですの? ふふ、ようやく取り消す気になりまして?」

 

 狂三が、不敵に笑いながら言ってくる。その言葉に構わず、士道は言葉を放った

 

「おまえは、俺を食べるのが目的って……言ってたな」

「えぇ、そうですわ。殺したりしたら意味がありませんもの。あなたはわたくしの中でずっと生き続けますのよ。素敵でしょう?」

「…………」

 

 その一言を見て、確信を持った士道は、小さな声で令音に確認を取ると、その場から駆け出し、屋上の端にあるフェンスを登っていく

 

「……っ、何のつもりですの?」

「空間震を止めろ。さもないと──」

 

 フェンスの頂上に足をかけた士道は、校庭を指さす

 

「俺は、ここから落ちて死んでやるぞ……!」

「な、何を仰ってますの……? 気でも触れまして?」

 

 流石に動揺を隠せない狂三は士道にそう言うが、当の本人は既に覚悟が決まっていた

 

「悪いが正気だ。やっぱり俺は、朝の言葉を引っ込められない。──それじゃあ、おまえを助けられなくなっちまう」

 

 狂三が不快そうに顔を歪めるが、士道は構わず言葉を続ける

 

「でも、おまえに空間震を起こさせるわけにはいかない。だから──」

「それで、自分を人質に? 短絡的にも程がありますわ。追い詰められた逃亡犯ですの!?」

 

 確かに狂三の言う通りである、今の士道がやっているのは海外のニュースやドラマでよく見る、犯人が自分のこめかみに銃を突きつけているのと同じ行為だ

 けれど、狂三の目的が士道である以上、決して無駄な行為ではない

 

「……そんな脅しが聞くと思いますの? やれるものならやってご覧なさいな!」

 

 小さく息を吐いた狂三が士道にそう言う

 

「……あぁ」

 

 士道は静かにそう言うと、身体をフェンスの向こう側に投げ出した




自分の命を人質にとった士道
彼は、空間震を止めることが出来るのか
時崎狂三を救う事が出来るのか

次回 虚構の悪夢《下》

また前後編になってしまいごめんなさい
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