デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー   作:SoDate

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第3-7話, 虚構の悪夢《下》

 フェンスから飛び降りた士道だったが、不思議と恐怖感はない

 

「────っ!」

『……シン!?』

 

 狂三が息を詰まらせる音と、令音の声が聞こえてくる

 ふわっという浮遊感と共に、士道の身体は凄まじいスピードで地面に落下していった

 

「──っ」

 

 意識が飛びそうになった瞬間、士道の身体は何者かに支えられ、ガクンと揺れる。士道の事をキャッチしたのは校舎の壁に這った影から現れた狂三だった、彼女はそのまま校舎の壁を垂直に登って屋上まで戻ると、乱暴に士道の身体を放る

 

「あー……死ぬかと思った」

「あっ……たり前ですわ……ッ!」

 

 士道が大きく息を吐くと、狂三が興奮した様子で声を荒げてきた

 

「信じられませんわ! 何を考えていますの!? 何を考えていますの!? わたくしがいなかったら本当に死んでいましたわよ!?」

「あー……その、なんだ……ありがとう」

「命を何だと思ってますの!?」

「いや、おまえが言っちゃ駄目だろそれ……」

 

 士道がそう言うと、狂三はハッとした顔を作り、頭をわしわしとかいた

 

「あぁぁぁぁぁ、もうッ! 馬ッ──鹿じゃりませんの……ッ!」

 

 狂三の声を聞いた士道は、その場に立ち上がると狂三に向かって声を上げる

 

「狂三。おまえ、なんで俺を助けてくれたんだ?」

「……っ、それは──あなたに死なれると、わたくしの目的が達せなくなるから……」

「そうか。じゃあやっぱり、俺には人質の価値があるんだな?」

 

 士道はそう言うと狂三に指を突き付けた

 

「さぁ、じゃあ空間震を止めてもらおうか! ついでにこの結界も消してもらう! さもないと舌を噛んで死ぬぞ!」

「そ、そんな脅し──」

「脅しだと思うか?」

「ぐっ……」

 

 狂三一瞬悔しそうな顔を作った後、指をパチンと鳴らした

 すると、周囲に響いていた耳鳴りのような音が止み。次いで、周りを覆っていた重い空気も消えていた

 

 

 

 

 

 士道が狂三と対話をしているのと同時刻、ファルシオンは狂三の銃弾を回避しながら接敵し、剣を振るう

 

「はっ!」

「甘いですわよっ!」

 

 狂三はファルシオンと距離をとり、銃弾を放ってきた

 

「……流石に、この状態じゃ厳しいか」

 

 トーマは剣で弾丸を防ぎながら、今持っている本を思い出すが一番相性の良い土豪剣と玄武神話は防御面はともかく狂三との相性に問題がある

 

「となると、制限付きだが……やるか」

「今度はなにをするつもりですの?」

「ちょっとした、小細工だよ」

 

【ワンダーワールド物語 水勢剣流水】

 

 本を読み込むと、無銘剣の刀身が銀色へと変わる

 

「正直、相性はあんまりだが……仕方ない」

 

【天空のペガサス】

【キング・オブ・アーサー】

 

『流水抜刀』

 水流を身に纏ったファルシオンは青の剣士──ブレイズへと変化し左手には新しい剣が握られていたのだが……今までと違い全身に電流が迸っていた

 

「あら?」

「──やっぱバランス悪いか」

 

 二つの剣を構えたブレイズに対して狂三は銃弾を放ってくるが、流れるような動きでその弾丸を切り裂く

 

「先ほどとは動きが違うようですが……一体何をしたんですの?」

「剣の名を冠した本を読み解く(リードする)とな、その剣の使い方も大体理解できる……さぁ、第二ラウンドと行こうか」

「そうですわね、それでは……あら?」

 

 仕切り直しをしようとしたところで、空間全体を覆っていた重苦しい空気が消滅する

 

「あらあら……どうやらここまでのようですわね」

「なんだと?」

「わたくしの役割はトーマさんの足止め……こうなってしまっては、もうあなたと戦う理由はありませんもの」

 

 それだけ言い残すと、狂三は影の中に消えていった

 

「……とりあえず、今は士道との合流が先決か」

 

 屋上へ向かおうとした直後、ブレイズの鎧は砕けるように消滅し、人間としてのトーマに戻る

 

「時間切れ……って言ってる場合じゃないか」

 

 無銘剣へと戻った剣を逆手に持つと、屋上に続く道を走り出した

 

 

 

 

 

 結界を解き、空間震を消した狂三は、自分に言い聞かせるように叫ぶ

 

「ま──まぁ、構いませんわ。どうせもともと、わたくしの狙いは士道さんだけですもの。何も問題ありませんわ。何も問題ありませんわ!」

「じゃあもう一つ──聞いてもらおうか」

 

 黙って食われるわけにもいかない士道がそう言うと、狂三は困惑したように言う

 

「ま、まだありますの……っ!?」

「あぁ、一度でいい。──狂三。おまえに一度だけ、やり直す機会を与えさせてくれないか」

「え……?」

 

 狂三は驚いたように目を見開き、すぐに眉をひそめる

 

「……まだそれを言いますの? いい加減にしてくださいまし。ありがた迷惑でしてよ。私は、殺すのも、殺されるのも、大ッ好きですの! あなたにとやかく言われる筋合いなんてどこにもありませんわ!」

 

 士道を拒絶するように、狂三が叫ぶ。その声には、今までのような底知れぬ恐ろしさはなく、何かに怯えているようにさえ聞こえた

 

「狂三。おまえ……誰も殺さず、命を狙われずに生活したことって……あるか?」

「それは……」

「わかんねぇじゃねぇか。殺し、殺される毎日の方がいいだなんて。もしかしたら──そんな穏やかな生活を、お前も好きになるかも知れねぇじゃねぇかッ!」

「でも。そんなこと──」

「できるんだよ! 俺になら!」

 

 士道が叫ぶと、狂三は気圧されたように息を詰まらせた

 

「おまえのやってきたことは許されることじゃねぇよ。一生かけて償わなきゃならねぇ! でも……ッ! おまえがどんなに間違っていようが、狂三! 俺がおまえを救っちゃいけない理由にはならない……ッ!」

 

 狂三は、数歩あとずさった。士道はそれを追うように一歩踏み出す

 

「わ、わたくし……わたくしは──」

 

 狂三が混乱したように目を泳がせ、声を発する

 

「士道さん、わたくしは……本当に……っ──」

 

「駄ァ目、ですわよ。そんな言葉に惑わされちゃあ」

 

 狂三が何か言おうとした瞬間、どこからともなくそんな声が響く。その声を聞いた士道は訝しげに眉をひそめた、何故なら士道の聞いたその声は

 

「ぎ……ッ!?」

 

 士道の思考を遮るように、前に立っていた狂三が、奇妙な声をのどからもらした

 

「狂三……?」

「ぃ、あ、ぁ……」

 

 士道はそちらに目をやり、凍り付いた

 眼前の狂三は、眼球を飛び出さんばかりに目を見開き、苦し気な声を響かせる。そして、士道が視線を下に向けると彼女の胸から、一本の赤い手が生えてきた

 

「え……」

「わ、たく、し、は」

 

 そこで、士道はようやく状況を理解する

 いつの間にか何者かが狂三の後方に現れ──彼女の胸を貫いたのだ

 

「はいはい、わかりましたわ。ですから──もう、お休みなさい」

「……ぃぐッ」

 

 小さな断末魔だけを残し、狂三は糸の切れた人形のように崩れ落ち、一度だけ身体を痙攣させ──完全に動かなくなった

 

「な……」

「あら、あら。いかがいたしましたの、士道さん? 顔色が優れないようですけれど」

 

 士道は、動くことができなかった、突然すぎる事態に思考が追い付いていないから

 何故なら、そこに立っていたのは──間違いなく、時崎狂三だったのだから

 

「く、るみ……? は? なんで……」

「まったく、この子にも困ったものですわね」

 

 狂三は血に濡れた本を持っていた右手をビッ、と払う。すると影から無数の手が生え、狂三の死体を、影の中に引きずり込んでいった

 

「あんな狼狽えて。──まだ、このころのわたくしは若すぎたかもしれませんわね」

「な──」

「あぁ、でも、でも。士道さんのお言葉は素敵でしたわよ?」

 

 冗談めかすように身をくねらせた狂三は笑う

 

「何、が……」

「さぁ、さぁ。もう間怠っこしいのはやめにしましょう」

 

 そういうと、士道の足元から手が生え、両足を掴もうとしたところで、斬撃がその腕を吹き飛ばした

 

「っ、トーマッ!」

「無事か、士道」

「あ、あぁ……それより、狂三が──」

「……わかってる」

 

「あら、あら、トーマさんではありませんの。これは……好都合ですわね」

 

 そう言うと、今までよりも多くの腕を出現させ、士道とトーマを掴もうと迫ってくる。切り払っていくが、対応しきれずその場に叩きつけられた

 

「うわ……っ!?」

「ぐっ……っ!」

 

「あなたの力……頂きますわよ、士道さん。それに、トーマさん」

 

 士道に近づき右手を伸ばしてくる。そして、手の冷たい感覚と右手に付着した血の嫌な感覚が士道の頬に伝わった瞬間。狂三の腕が宙を舞い、地面に落ちた

 

「──あら……あら」

 

 士道たちと狂三の間に割って入ったのは、ワイヤリングスーツを身に纏った真那だった

 

「真那!」

「はい。──また、危ねーところでしたね」

 

 巨大なレーザーブレイドを装備した真那が士道の方を見るが、すぐに光の刃を構え直すと、後方へ逃げた狂三に鋭い視線を放った

 

「随分と派手なことをやってくれやがったようですね、ナイトメア」

「──く、ひひ、ひひ、いつもながら、さすがですわね。わたくしの霊装をこうも簡単に斬り裂かれるなんて」

「ふん、悪ーですが、そんな霊装、私の前では無意味です。大人しく──」

 

 真那がそう言いかけたところで、狂三が大仰に手を広げ、その場でくるりと旋回した

 

「でぇ、もォ……わたくしだけは、殺させて差し上げるわけには参りませんわねぇ」

 

 狂三はそう言うと、カッ、カッ、と、ステップを踏むように両足を地面に打ち付けた

 

「さぁ、さぁ、おいでなさい──刻々帝(ザアアアアアアアアアフキエエエエエエル)

 

 刹那──狂三の背後に現れたのは巨大な時計。そして、狂三の身の丈の倍にあろうかという、巨大な文字盤。そしてその中央にある針は、それぞれ細緻な装飾の施された古式の歩兵銃と短銃だった

 

「……っ、これは──天使……っ!?」

 

 天使──精霊の持つ唯一にして絶対の力

 

「うふふ……」

 

 狂三が笑うと、巨大な文字盤から短針に当たる銃が外れると、狂三の手の中に収まった

 

「刻々帝──【四の弾】(ダレット)

 

 狂三がそう唱えると、文字盤のⅣから影のようなものが漏れ── 一瞬のうちに狂三の握る短銃へと吸い込まれる

 

「一体何を──」

 

 狂三は左手に握った短銃の銃口を、自分のあごに押し当てた、それを怪訝に思った真那の言葉の途中で、躊躇うことなく引き金を引いた

 銃声が辺りに響き、狂三の頭部が揺れる、どう見ても自殺したとしか思えない光景だったが、士道たちは一瞬あと、その感想を強制的に訂正させられることになった

 

「は……?」

 

 狂三が自分に向けて引き金を引いてすぐ、地面に転がっていた筈の狂三の右手が、映像を巻き戻すかのように宙に浮き上がり──元に戻った

 

「うふふ、いい子ですわ、刻々帝」

「……初めて見る手品ですね。それは、なるほど、素晴らしい回復能力です」

「きひひ、ひひ、違いますわよぅ。時間を戻しただけですわ」

「……何ですって?」

 

 狂三は不敵に笑うだけでそれ以上は答えず、右手を高く掲げた

 

「──あぁ、あぁ。真那さん、真那さん。今日ばかりは、勝たせていただきますわよ」

 

 そう言いながら、針の無い文字盤の前で、二丁の銃を構える

 

「さぁ、さぁ。始めましょう。わたくしの天使を見せて差し上げますわ」

「──ふん、上等です。またいつものように殺してやります」

 

 真那の言葉に対して、狂三はおかしくてたまらないといった様子で笑った

 

「きひ、ひひ、ひひひひひひひッ、まァァァァァだわかりませんのぉ? あなたにわたくしを殺しきることは絶ェェェェェッ対にできませんわ」

「そんなのは関係ねーです。倒れないのなら倒れるまで、死なないのなら死ぬまで、貴様を殺し続けるのが、私の使命であり存在理由です」

「ひひひひッ、あぁmそうですの。そうですわよね。あなたはそういうお方ですわ。ふふふ、ふふッ、嗚呼、嗚呼、いいですわ、たまりませんわ。──それで、どういたしますの? 首を刎ねまして? 胸を貫きまして? 四肢を断ちまして?」

「ふん、そのいずれから生き返った化物を一人知っていやがるもので。──欠片すら残さず、粉微塵にしてやります」

「へぇ? それは初体験ですわね。素敵ですわ。最高ですわ」

「相変わらず、狂ってやがりますね」

「ひひひ、それは、お互いさまではございませんこと? もう眉ひとつも動かしてくれませんのね。わたくしを初めて殺したときは、まだ可愛げがありましたのに」

 

 話をしながら、狂三が左手の銃を掲げる

 

「刻々帝──【一の弾】(アレフ)

 

 文字盤のⅠの部分から影が染みだし、狂三の握る短銃に吸い込まれていった。そしてまたもその銃口を自分に当て、引き金を引く

 

「ぐ……ッ!?」

 

 狂三の姿はその場から掻き消え、それと同時に真那が横に吹き飛ばされた

 

「あッはははははははは! 見・え・ま・せ・んでしたかしらァ?」

「っ──」

 

 真那は空中で方向を転換すると、狂三に猛進するが、狂三の身体がまたカスミのよに消え去り、次の瞬間には真那の後方に出現し、その背に踵を振り下ろそうとしたところで、トーマが真那と狂三の間に入り、無銘剣で防御をする

 

「ぐ……!」

「あなたは……っ!」

「あら、抜け出したんですのね。トーマさん」

 

 真那の事を庇ったトーマはそのまま地面に叩きつけられ、クレーターを作る

 

「いっつ……だが、目当てのものは手に入れた」

 

 クレーターの中心で膝立ちになっていたトーマは、無銘剣とは逆の手に持った本を見せる

 

「トライケルベロス……貰っていくぞ」

「随分と、手癖が悪くなったみたいですわね。トーマさん」

「誉め言葉どうも」

 

 そう返したトーマだが、士道たちにも見せた事が無いほど消耗しているようだった

 

「まぁ、トーマさんは放っておいてても問題なさそうですわね」

 

 そう言いながら、自分の方に向かっていた真那に銃口を向ける

 

「刻々帝──【七の弾】(ザイン)

 

 Ⅶの文字盤から染み出た影が銃口へと入り、真那に向けて放たれた

 

「無駄ですッ!」

「駄目だ、その弾は避け──っ!」

 

 トーマがその言葉を言い終わる前に、真那の展開していた随意領域(テリトリー)によって銃弾は阻まれた

 

「え……?」

 

 しかし、その後に起きた光景を見た士道は、呆然と声を発する

 士道の目の前に広がっていたのは、空中に飛び立った状態で完全に静止した、真那の姿

 

「真那……っ!」

 

 士道が呼びかけるが、真那は動かず、反応を示すこともない。まるで時間が止まってしまったかのように、その場から微動だにしていない

 

「あァ、はァ」

 

 狂三は笑い、真那の身体に何発もの銃弾を放っていく。狂三の使っているのは二丁とも単発式の古式銃だが、一発放つたびに影が滲み出て、弾丸として銃口に装填されていく

 

「が──ぁ……ッ!?」

 

 数秒後、その身に何発もの弾丸を受けた真那が、地面から血を流して地面に落ちていく

 

「きひひひひひひひひひ、あらあら、どうかしましたのォ?」

「な──、今の、は……」

「真那!」

 

 自分を縛る腕がいつの間にかなくなっていた士道は、そう叫んだあと地面に膝をついた真那のもとに駆け寄る

 

「兄──様、危険です。離れやがってください……」

「馬鹿、何を言ってやがる!」

「……っ!」

 

 士道が真那に駆け寄ったのを見たトーマも、ようやく痺れの取れてきた身体を動かして二人の前に立ち、剣を構える

 

「シドー!」

「──士道」

 

 と、そのタイミングで、バン! とドアを開け放つ音が響き、十香と折紙の声が聞こえてくる

 

「十香──折紙……!?」

 

 士道たちの元に駆け寄ってきた二人の姿は、霊装とワイヤリングスーツを纏っているもの

 

「大丈夫か、シドー!」

「怪我は」

 

 二人同時にそう言うと、鬱陶し気に睨み合いになるが、すぐにその先にいる狂三に血塗れで膝をついている真那、狂三に向かって剣を構えているトーマの姿に気づき、それぞれ武器を構える

 

「鳶一一曹……十香さん。ご無事でしたか。しかし……十香さん。その姿は一体」

「シドーの妹二号。おまえこそ、その恰好は何だ? まるでAST──」

 

 と、そこで狂三の笑い声が響いてきた二人は言葉を中断する

 

「あら、あら、あら、今日はお客さんが多いですわね」

「狂三……! いきなり逃げたと思ったら、こんなところにいたか!」

「あなたの行動は不可解、一体何の真似」

「え……?」

 

 十香と折紙の言葉を聞いた士道は、眉をひそめる

 

「逃げた、って……?」

「狂三が邪魔をしに現れたのだが……先ほどの爆発のあと、どこかへ逃げていったのだ」

「それはおかしい。時崎狂三は、私と交戦していた」

「何だと?」

 

 二人の疑問に、トーマは振り返らず答える

 

「お前ら二人とも、正真正銘時崎狂三と戦ってた……詳細は省いて簡単に言うと、分身の術擬きを使ってたって事だ」

「何だと!?」

 

 トーマの言葉を聞いた十香は驚き、折紙は訝し気な顔を向けてくるが。二人はすぐに視線を狂三に向け直す

 

「……残念だ、狂三。だがおまえがシドーに危害を加えようとする以上、容赦はしない」

「一部にだけ同意する」

 

 そんな二人の様子を見た狂三は、またも楽し気にくるりと身体を回転させた

 

「うふふ、ふふ。あぁ、あぁ、怖いですわ、恐ろしいですわ。こんなにもか弱いわたくしを相手に、こんな多数で襲い掛かろうだなんて」

 

 そんなこと微塵も思っていない様子で、狂三は嗤う

 

「でも、わたくしも今日は本気ですの。──ねぇ、そうでしょう? わたくしたち」

 

 奇妙な物言いに眉をひそめた次の瞬間、屋上を覆い尽くした狂三の影から這い出るようにして無数の狂三が現れる

 

『な……っ!?』

「来たか……っ!」

「なん……だよ、こりゃあ……っ!!」

 

 広い屋上を埋め尽くさんばかりに、墓場から這い上がってくるゾンビのように、霊装を纏った時崎狂三が、影の中から這い出てきた

 

「くすくす」        「あら、あら」        「うふふ」

「あらあらあら」       「驚きまして?」

 

「士道さん」    「さぁ、どうしますのォ?」        「あはははははッ」

「いひひひ」       「美味しそうですわねぇ」

「さぁ、さぁ」                「遊びましょう?」

「いかがでして?」     「ふふっ」       「ひひひ」

「ふふふふふ」     「そうしましたの?」

 

 

 無数の狂三が、思い思いの声を発する

 

「こ、ッ、れは……ッ」

「うふふ、ふふ、いかがでして? 美しいでしょう? これはわたくしの過去。わたくしの履歴、様々な時間軸のわたくしの姿たちですわ」

 

 銃を握った狂三が、両手を広げながらくっとあごを上げた

 

「な──」

「うふふ──とはいえあくまでこの『わたくしたち』は、わたくしの写し身、再現体に過ぎませんわ。わたくしほどの力を持っておりませんので、ご安心くださいまし」

 

 狂三は、言葉を続ける

 

「真那さん、わかりまして? わたくしを殺しきれない理由が」

「──っ……」

 

 真那が息を詰まらせる、それは士道たちも同じだ。唯一この光景を見た事のあったトーマも、今は消耗が激しくいつものように戦う事は難しいだろう

 

「さぁ──終わりに、いたしましょう」

 

 狂三が、くるりと回る

 

「……ッ、舐めんじゃ──ねーです……ッ!」

 

 真那は傷ついた身体を随意領域(テリトリー)を使い、傷ついた身体を無理矢理動かすとユニットを可変させて幾重もの光線を放った。その光線は無数に存在する狂三のうち何体かの体を貫き、地面に跪かせる

 

「ふん……っ!」

 

 真那はユニットを可変させ、襲い来る狂三を次々と屠っていくが、刻々帝の前で銃を握った狂三が【七の弾】(ザイン)を装填し、再び真那に放った

 

「真那──!」

「今、助け──ッ!?」

 

 士道が声を上げると同時に、トーマは真那の元に向かい、十香と折紙は士道を守るように展開するが、数に差がありすぎた。それぞれが無数の狂三に包囲され、攻撃を加えられ、その場に押さえつけられる

 

「十香──折紙……トーマ……真那……ッ!!」

 

 士道も両腕をとられ、地面に押さえつけられる

 

「ぐ……」

「────」

「くっそ……がぁ……」

 

 無数の狂三が存在するなか、銃を握った狂三が、士道の方に近づいてきた

 

「あぁ、あぁ、長かったですわ。ようやく、士道さんをいただくことができますのね」

「や……っ、やめろ狂三! シドーに近づくな!」

「……っ、放して──」

「……力が……出ねぇ……」

 

 十香たちはもがくが、狂三の拘束から逃れる事はできなかった

 

「ふふ──そうですわ」

 

 くすくすと笑っていた狂三は、士道の目の前で足を止めると、何かを思い出したかのように眉をぴくりと動かした。そして、左手に銃を預け、右手を頭上に掲げた瞬間、再び空間震警報が鳴り響く

 

「な……狂三、おまえ何を──」

「うふふ、ふふ。先ほどできなかったことをして差し上げますわ。まだ皆さん目覚めておられないでしょうし──きっとたくさん死んでしまいますわねぇ」

「や、やめろ……ッ! そんなことしやがったらオレ、舌噛んで──」

 

 そう言いかけた瞬間、士道を取り押さえていた狂三が口に細い指を差し入れ、顎と舌を押さえつけた

 

「ふぐ……ッ!?」

「舌を……? どうするんですの?」

 

 狂三が笑い、右手を握ると、先ほどのように空間が悲鳴を上げ始める

 

「ふふ、ひひひ、ひひひひひひひッ! さぁ! もう二度とわたくしを誑かせないよう、絶望を刻み込んで差し上げますわ!」

 

 士道が声にならない叫びを発する間もなく、狂三は右手を振り下ろした

 

「あ────ーッはははははははははは──っ!!」

 

 その瞬間、来禅高校の周囲の空から凄まじい音が響き──空間が震える

 

 

 

 

 が、発生するはずだった空間震は、初期微動だけを残し消失した

 

「…………?」

「これは……どういうことですの……?」

 

 起こる筈だった事象が起きなかったことに対し、狂三が不信そうに眉を歪める

 

「──知らなかった? 空間震はね、発生と同時に同規模の空間の揺らぎをぶつけると相殺することができるのよ」

 

 狂三の疑問に答えるように、空から凜とした声音が聞こえてくる

 

「──っ、何者ですの?」

 

 狂三は右手に銃を握り直して、空に顔を向ける

 そこに広がっていたのは炎だった──否、正確には士道たちの頭上を炎の塊が浮遊していた

 

「琴、里……?」

 

 炎の中にいた人影……和装のような格好をした少女をみた士道は、そう口を開いた

 そう、炎の中心にいたのは五河琴里──ラタトスクの司令官であり、五河士道の妹、人間である筈の少女だった

 

「──少しの間、返してもらうわよ、士道」

「え……?」

 

 士道は、琴里の言った言葉の意味がわからず、眉をひそめる

 驚いていたのは、士道だけではなかった。何故か折紙も今まで見たことないくらい顔を驚愕に染めていた

 

「──焦がせ、灼爛殲鬼(カマエル)

 

 その名を口にした琴里の元に現れたのは、巨大な紺のような円柱形。琴里がそれを手に取った瞬間、側部から深紅の刃が出現する

 そう、彼女が手にしたのは──華奢な少女とはあまりに不釣り合いの戦斧、それを手にした琴里は軽々と握り、狂三に向ける

 

「さぁ──私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 今、この場所に、新たな精霊が姿を現した

 

 

 

To Be Continued...




絶対絶命の中、現れた第四の精霊
その正体は、士道の妹”五河琴里”だった
人である筈の少女が何故、精霊の力を持ってるのか

次章 五河シスター 第4-1話, 炎の精霊



《information》
仮面の剣士への変身は、一番相性の良い本と剣でなくても可能
ただし、変身する場合は通常ではかからない負荷がかかり
体力を異常なまでに持っていかれる為、使用する場面はかなり限られる

原作4巻までは規定路線で進んでますが、4章終わった後どれがいいですか?

  • Ⅰ,凜祢ユートピア【ゲーム1作目】
  • Ⅱ,狂三スターフェスティバル【OVA】
  • Ⅲ,八舞テンペスト【原作5巻】
  • Ⅳ,宵待ビギニング【本編より少し前の話】
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