デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー   作:SoDate

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第4-6話, デート、第一幕

「……で、よしのんが流れるプールに流されて、慌ててしまったと」

「まぁ、そう言う事だ……ぶぇっくしょんっ!」

 

 プールの一角スケートコート事件からおよそ三十分。琴里が持参していた電池式ドライヤーで、四糸乃の左手に装着されたよしのんの身体を乾かしながら、士道は大きなため息を吐いた

 こんな時の為についてきたであろうトーマはプールの凍結に巻き込まれさっきまで凍りついていたが、凍りついた身体を何とか動かし無銘剣を呼びだし、先ほど脱出が出来たところだった

 

「ご、ごめん……な、さい」

「むぅ……面目ない、私がついていながら……」

「まぁ、そんなに気にするなって。大事にもならなかったんだし」

「そうだな、こういうことがないようにするのがオレの役割だったわけだし、謝るならオレの方だ」

 

 十香と四糸乃に対して士道たちが声をかけていると、よしのんもいい感じに乾いてきた

 

「よし、そろそろ乾いたろ。大丈夫か、よしのん」

『や、やー……壮絶な冒険をしてしまったねー。死ぬかと思ったよー』

「ごめんね……よしのん」

『あぁ、大丈夫大丈夫。また無事に会えたんだし、結果オーライよ』

「うん」

 

 完全に復活したよしのんに頭を撫でられながら、四糸乃はこくりとうなずく

 そんな様子を見て、琴里が肩をすくめた

 

「……勝手がわからないのも無理はないわ。──確かあっちに浮き輪をレンタルしてるカウンターがあったから借りてきましょうか」

「うきわ?」

「百聞は一見に如かずね。直接見た方が早いでしょ。行くわよ」

 

 そう言うと琴里は歩き出し、十香と四糸乃も立ち上がった

 

「っと、待てってば」

「オレ、引率の意味なくないか? ……まぁ良いけど」

 

 士道とトーマも三人を追って歩き始めた。と―その途中、琴里が士道の方にすっと身を寄せてきた

 

「な、なんだ? どうした?」

「……ん、あれ、さっきのだけど」

「さっきの?」

「……どこが可愛いかってやつ」

「──っ!」

 

 琴里にそう言われ、士道は心臓が引き絞られるような感覚に陥る。先の四糸乃の一件で有耶無耶にされたかと思ったが、そんなことはなかったようだ

 

「あ、あれはだな……」

「あれ……さ、やっぱりフラクシナスからの指示だったの? それとも……その、ホントに士道の本心?」

「それは、その……まぁ、本心……だよ」

 

 確かにフラクシナスの選択肢にあったのには違いないが、間違いなく士道の本心でもあった。普通なら恥ずかしい通り越して変態的なフレーズを妹に言うのは、心のどこかでそう思ってない限り不可能である

 

「……ふーん。……そうなんだ」

 

 てっきり軽蔑の眼差しで見つめられながら罵倒されるものだとばかり思っていた士道の予想に反して、琴里は水着に覆われた慎ましやかな胸を、手で軽く触ったりしていた

 

「琴里?」

「……っ」

 

 不思議に思った士道が琴里の名前を呼ぶと、ビクっと肩を揺らした琴里は、士道の鳩尾に裏拳を叩き込む

 

「くお……ッ!?」

「……ふんっ! くおだって。死の教師でもあるまいし」

「……何やってんだ?」

 

 士道の断末魔に気付いたトーマが二人の方を見るが、琴里は士道から顔を逸らし十香と四糸乃を引き連れてすたすたと歩いていってしまった

 

「シドーはどうしたのだ?」

「なん、か……痛そう、です……」

「ふん、気にしなくていいわよ。どうせ持病の偶発的鳩尾ズキズキ症候群か何かでしょ。近づいちゃ駄目よ。伝染(うつ)されるわ」

 

 心配そうに言う十香と四糸乃の肩に手を置いた琴里は、先へと促す

 

「あ、あんにゃろ……」

「ホント、何言ったんだよ」

 

 

 

 それから浮き輪をレンタルした十香と四糸乃はさっそく浮き輪を使ってプールを漂い始めていた

 

「おお、凄いぞ! 見てくれ! 沈まないぞ!」

「……! ……!」

 

 十香は楽しそうに声を上げて、四糸乃も興奮した様子でうなずいている。初めてのプールを楽しんでいるようだったが、肝心の琴里は未だつまらなそうにしているようだった

 

「そんじゃ、オレも少し行ってくるかな……目を離しとくのも心配だし」

 

 そう言ってトーマも二人のいるプールに歩いて行ってから程なくして令音の声が聞こえてくる

 

『……シン、そうしているのも何だ、琴里を誘ってみたまえ』

 

 

 

 

 そして視点は変わり再びフラクシナス艦橋、メインモニターには新しい選択肢が表示される

 

➀ウォータースライダーで一緒にスプラッシュ! 後ろからギュッと抱きしめよう! 

②温泉エリアでリフレッシュ! 疑似混浴でドキドキ! 

③流れるプールに揺られよう! 俺がボートに、俺がボートになるから! 

「ふむ、では皆さん、選択を!」

 

 神無月の高らかな声によってクルーたちが手元のボタンをタップし、画面に結果が表示される。最も多いのは➀、次いで②。当然のことながら③には一票も入っていない

 なんかどっかで見たいことある光景にクルーたちは顔を曇らせるが、神無月はそんな様子に気付く素振りもなく悠然とうなずく

 

「なるほど、ウォータースライダーですか」

「えぇ……まぁ妥当でしょう。せっかくオーシャンパークに来たのですから、看板アトラクションに挑まない手はありません」

「温泉エリアも確かに目玉ではありますが、若者が来てそうそう向かうような場所ではありませんしね」

 

 

 

 クルーの一人がこの言葉を言った瞬間、トーマはくしゃみをする

 

「どうかしたのか? トーマ」

「大丈夫……ですか……?」

「あ、あぁ、大丈夫……きっと誰かが噂でもしてるんだろ」

 

 中村透馬(本名不詳)、推定二十代はこの手のレジャー施設に来たら、遊ぶよりも先に温泉へとそうそう向かうタイプの人間である

 

 

 

「③は駄目ですよ副司令、③だけは」

 

 そして場所は戻りフラクシナス、クルーの一人が神無月に念押しするように視線を送ると、当の本人ははははと笑った

 

「いやだな皆さん、如何に裁量権が与えられているとはいえ。私がそんな無謀な独断を何度もする筈ないじゃないですか」

 

 等と戯言を発しながら、マイクに口を近づける

 

「士道くん、③です。流れるプールに行き、士道君が司令のボートになって──」

「ちょわッ!」

 

 フラクシナスクルー、度し難い変態(神無月恭平)に対し、実力を行使

 

「な、何をするのですか、あなたたち!」

「村雨解析官! 今です!」

 

 神無月を取り押さえたクルーの一人が令音にそう言う

 

「……ん? あぁ」

 

 その呼びかけに答えた令音は、頬をかいてからマイクのスイッチを入れた

 

「……聞こえる会。➀だ。琴里と一緒にウォータースライダーを滑ってきたまえ」

『わかりました。……ていうか、何かあったんですか? 妙に騒がしい気が……』

 

 艦長席のある艦橋上部では、今だ神無月が戯言を発していたが、令音はそれを無視して言葉を続ける

 

「……気にしないでくれ。とにかく、スライダーだ。必ず一緒に滑るんだよ?」

『は、はぁ……』

 

 腑に落ちないと言った風の士道だったが、一応それに首肯したのを確認すると、マイクのスイッチを切った

 

「まったく……何をするんですか、あなたたちは! せっかくのチャンスを! ていうかあなたたち、上官に暴行を働いて作戦を邪魔するなんて、重大な規定違反ですよ!」

 

 マイクのスイッチが切れたのを確認したクルーたちが拘束の手を緩めると、神無月がそう言ってくるが、クルーの一人が半眼を作りながら口を開く

 

「……林堂医務官が健康上の問題ありと判断した場合、もしくは村雨解析官を含む三分の二以上が指揮能力なしと判断した場合、指揮権を剥奪できるんですよ?」

「う……っ」

 

 神無月は眉を歪めて艦橋を見渡してみると、皆がじとーっとした視線で神無月の方を見ていた

 

「……オーケイ、今の行為は不問としておきうましょう。さ、作戦を続けましょう」

「副司令に指揮能力がないと思う人は手元のボタンを──」

「不問にするって言ったじゃないですかぁ!」

 

 神無月は泣きつき、とりあえず処分は保留にされる(※フラクシナスはクルー同士の仲が良い、アットホームな職場です)

 

 

 

「な、なぁ、琴里」

 

 フラクシナス艦橋が神無月恭平(変態ドM野郎)とクルーたちによる戦いが繰り広げられていたころ、指示を受け取った士道は琴里に声をかけた

 

「何よ」

 

 視線を動かす事なくぶっきらぼうに返してきた琴里に、一瞬言葉が詰まりかけるが、どうにか言葉を続ける

 

「せっかくだし、ちょっとは遊ぼうぜ」

「ふぅん、何で遊ぶの?」

「ん、ウォータースライダーなんてどうだ?」

 

 値踏みをするように目を向けてくる琴里に対して、士道はウォーターすらーだを指さすと、ふうと息を吐いて琴里は身体の向きを変えた

 

「ベタな気はするけど……まぁ、妥当なところかしらね。いいわ、行きましょう」

 

 なんとも冷めたことを言いながら、足をスライダーの方に向けるとプールを浮いていた十香と四糸乃が、二人の元にやってきた

 

「シドー、琴里。どこかに行くのか?」

「え? あぁ……ちょっとウォータースライダーでも滑ってこようかと」

「うぉーたーすらいだー?」

 

 十香が目を丸くしながら首を傾げるのを見た士道は苦笑すると、もう一度指をウォータースライダーの方に向ける

 

「あぁ、あれのことだよ」

「おぉ……! 人が流れてくるぞ!」

 

 十香は目を輝かせると、士道にそう言ってくる

 

「私も、私も行きたいぞ!」

「え、えぇっ!?」

「……駄目なのか?」

 

 士道が裏返った声を発してしまうと、それを見た十香はしょんぼりと肩をとした

 

『……シン、構わない。十香も連れていってあげたまえ』

 

 琴里の好感度を上げる為、心を鬼にして断らねばと士道が考えていると、インカム越しに令音がそんなことを言ってきた

 

「令音さん? いいんですか?」

『……あぁ。むしろ好都合さ。たぶん、ね』

「え……?」

『……いや。まぁとにかく、遊びたがっている十香を抑制してしまうのもよくない』

「わ、わかりました」

 

 令音の言葉に従った士道は、改めて十香に向き直る

 

「ん、わかったよ。一緒に行くか、十香」

「! おお、いいのか!?」

「あぁ。でもその浮き輪は置いていかないとな」

 

 士道は一瞬背後から琴里の舌打ちが聞こえたような気もしたが、気のせいと流して首を回すと、四糸乃が声をかけてくる

 

「士道、さん。よかったら……私が持ってましょう……か」

「え? いいのか?」

「あれは……怖いです。また……よしのんが、流されちゃいます……」

「あぁ……そうか」

 

 四糸乃も十香と一緒に滑りたがるものだとばかり思っていたが、どうやら先ほどの一件が軽いトラウマになっているらしかった

 

「だから……私は、ここで……待ってます」

「そっか。じゃあ十香の浮き輪もお願いできるか?」

「はい……任せてください」

 

「そういえば、トーマは……」

「いるぞ?」

「うわっ! いつから!?」

「悪い、疲れで気配消してた……オレも、待ってるからゆっくり楽しんでこい」

 

 さっきから気配が消えっぱなしだったトーマもそう言ってきたので、三人はウォータースライダーへと向かっていった

 

 

 

 その場に残ってウォータースライダーを眺めていると、隣にいた四糸乃が話しかけてきた

 

「あの……トーマ、さん……」

「どうした? 四糸乃」

「今日って……その……士道さんと、琴里、さんの……」

「あぁ、そうだよ。あの二人のデートだ……少し、変わった形になっちまったがな」

「よかったん、でしょうか……ついてきちゃって」

「……まぁ、良かったんじゃないか? 令音さんだってそのために一緒に行くよう言ったんだろうし」

『そいえばトーマくん、炎の精霊って琴里ちゃんだよね?』

 

 さっきまで黙っていたよしのんが、トーマにそんなことを訊いてきた

 

「気付いてたのか?」

『そりゃあね、一応よしのんたちも精霊だしさ、今は力を封印されてても霊力の流れってのは少しだけ感じられるわけよ』

「そう言う事か、よしのんの言う通り琴里が炎の精霊で間違いない……お、そろそろ滑るみたいだぞ」

 

 ウォータースライダーの方に目を向けながら話をしていると、いよいよ滑り始めようとしている士道たちの姿が見えた。十香によって勢いよくスタートダッシュをした三人は、ものすごい勢いで滑っていき……コースアウトした

 

「…………」

「うわぁ……」

 

 その様子を見ていた四糸乃の顔は真っ青になり、トーマはなんとも言えない表情をしていた

 

 

 

 

 時刻は二時十分、少し遅い時間だが士道たちはオーシャンパークにあるフードコートで遅めの昼食を摂っていた。士道、十香、四糸乃、トーマ、そして琴里の五人は白いテーブルの上にそれぞれ食べ物と飲み物を置いている

 

「うむ、美味いなシドー!」

「美味しい……です」

「祭りとかもそうだが、こういう場所で食う飯ってのはどうしてこうも美味く感じるんだろうな」

「なんというか、プラシーボ効果じゃないか」

 

 そんなことを話している士道だったが、つまらなそうにしている琴里を見て、心の中は緊張で一杯だった

 

「……むぅ」

 

 士道は誰にも聞こえないくらいの小さなうなり声を発した、フラクシナスのサポートによって何度かアプローチを試みているのだが、どれも目に見えた効果は上がっていない。フラクシナスの存在と思惑を知っている分、通常の精霊と比べたら安全性は高いかも知れないが、その分攻略難易度が段違いに高いように、士道は思えた

 

「……令音さん。琴里の機嫌と好感度の数値ってどうなってますかね」

『……ん。目立った下落はしていないが……上昇もしていないね。グラフにしてみるとよくわかる。ずっと、全くの平坦だ』

 

 これは予想もしていた事だが、完全に冷めきっている。どうすればいいのかを考えていると、しばしの沈黙が流れる

 

『士道くん。黙っているのは上手くありません。なんでもよいので会話を』

「っ、あ、あぁ……はい」

 

 神無月に言われ手、士道がピクリと眉を動かす、間が持たないのは最悪であるため、話題を求めて辺りにぐるりと視線を巡らせる

 

「ッ、けほっ、けほっ……」

「だ、大丈夫か、琴里」

「……えぇ、少し気管に入っただけよ」

 

 飲み物に口をつけ、それに咽せたかのように数度せき込む。心配した士道の言葉に対して琴里はそう返すと足を崩して席を立った

 

「琴里……? どこ行くんだ?」

「レディが席を立ったときに行き先を訊くだなんて真似、私以外にしたら死ぬわよ」

「……肝に銘じるよ」

 

 士道はトイレの方に歩いていく琴里を見送ると、はぁと大きな息を吐いてテーブルに突っ伏す

 

「シドー?」

「あぁ……悪い。食事中だったな」

 

 不思議そうな十香の声に、士道は顔を上げると同時に空腹を感じる。どうやら琴里の姿が見えなくなった事で緊張の糸が切れたらしい。目の前のサンドイッチに手を伸ばして食べ始める

 

「……ん?」

 

 と、士道は視線を感じた方を見ると、十香と四糸乃、トーマによしのんまでもがジッと士道の方を見つめて来ていたからだ

 

「な、なんだ? どうしたんだ?」

「いや……いつものシドーに戻ったと思ってな」

「え?」

 

 十香の言葉に、士道は目を丸くしていると今度は四糸乃とよしのんが口を開く

 

「琴里さん、と……喧嘩、しましたか……か?」

『琴里ちゃんいなくなった途端きーぬけるんだもん。わっかりやすいなー士道くんは』

「え……そ、そんなにか?」

「あぁ、気張りっぱなしって言うか……少なくともこの場に楽しむ為に来てる奴の雰囲気ではなかったな」

 

 そう言われた士道は頬をかく。自覚はなかったが他人の目から見たらはっきりわかる程に構えてしまっていたらしい

 

「や、別にそういうわけじゃ……」

『…………』

「う……」

 

 二人+一匹の視線を受けている士道の事を見ていたトーマは、軽く息を吐いて席を立つ

 

「士道、少し付き合え」

「あ、あぁ……わかった」

「二人とも悪い、オレたちも少し席を外す」

 

 トーマと一緒に席を立ち、だいぶ離れたところで士道は話しかける

 

「……俺、そんなに緊張してたのか」

「あぁ、誰が見ても明らかって位にな」

「マジかぁ」

 

 士道はそう言って頭をわしわしかくと、インカムに向かって問いかける

 

「令音さん……精神状態のモニタリングって、俺の方もやってるんですか? もしやってたら数値教えて欲しいんですけど……」

 

 しかし、何故か言葉は返ってこず、代わりに神無月の声が聞こえてくる

 

「あぁ、士道くん。申し訳ありませんが、村雨解析官は少し席を外しています」

「あ、そうなんですか」

 

 士道はもう一度、両手で頭をかきむしっているとトーマが話しかけてくる

 

「気張るなって言うのは無理だが、どうにかして肩の力抜いたほうが良いんじゃないか?」

「それが出来たら苦労しない──」

 

 士道はその途中で言葉と足を止める

 

「どうした?」

「いや……」

 

 士道につられて足を止めたトーマも耳を凝らしてみると、ひそひそと話すような声が聞こえてくる

 

「なんだ……?」

『士道くん、そこは──』

 

 士道はトーマを置いて自販機の裏に出来たポケットのような空間まで足を向け、言葉を失う。それは士道の後を追ってきたトーマも同様

 喧騒から離れた寂しい場所にいたのは水着に白衣というプールには似つかわしくない恰好に黒いカバンを携えた令音と、壁にもたれかかるようにして地面にへたり込み、苦しげに頭を押さえる琴里だった

 二人は思わず一歩足を引き、身を隠した

 

「……大丈夫かい、琴里」

「えぇ……なんとかね。でも、危なかったわ。──お願い」

 

 琴里は片腕を令音に差し出すが、令音は躊躇ったように言う

 

「……今朝の時点でもう既に、通常の五十倍もの量の薬を投与しているんだ。これ以上は命に関わる恐れがある」

「ふふ……精霊化した今の私なら、薬物程度では死にはしないわよ」

 

 琴里はそう言うが、令音は尚も躊躇っているようだった。それを見た琴里は荒い呼吸の合間を縫うように言葉を紡ぐ

 

「……お願い、士道との……おにーちゃんとのデートなの」

「……っ」

 

 それを聞いた士道は、息を詰まらせる。その様子をトーマはただ無言で見る

 

「ぁ……」

 

 すると、士道の口から声が漏れる。それは今まで教えられていた事実と、自分の中にあった安心……いや、慢心に気付いたのだろう

 士道は今日、黒いリボンをした琴里が、精霊の力に呑まれるはずないと思っていた、自分がデレさせられなくてもきっと何とかるだろうと思っていた事を

 

「──ね、お願い。もしかしたら、これが最後かもしれないの。もし失敗したら、今日で、私は私でなくなる。──その前に、おにーちゃんとのデートを、最後まで」

 

 

 そして、薬の投与を終えたであろう令音はその場を立ち上がり、こちらに歩いてきた……士道たちも慌ててその場から離れようとしたが、令音と目があってしまう

 

「……ぁ──」

 

 令音は一瞬眉をピクリと動かすが、自然な動作で士道の肩を掴み、自販機の表側に引っ張っていき、トーマも後を追うようについていく

 

「……どのあたりから聞いていたんだい?」

「や……えと、多分、最初から」

 

 それから少しの間無言になるが、士道が口を開く前にトーマが令音に話しかける

 

「彼女は、いつからあんな状態だったんです?」

「……霊力を取り戻した瞬間からだ」

「結構前から……ですね」

 

 令音の言葉を聞いた士道は下唇を噛むと、口を開いた

 

「じゃあ、なんで」

「……琴里の希望だ。シンには話さないで欲しいと」

「──っ」

「……本当なら、今日がリミットということも明かさないで欲しいと言われたのだがね」

「なんで……そんな」

 

 士道が震える声で問いかけると、令音は息を吐いてから言ってきた

 

「……君に、同情や憐憫でデートをして欲しくなかったんだろう」

 

 士道は歯を噛み締めると、わずかに血の味がする

 

「……だから、頼む。今のは見なかったことにしておいてくれ。──琴里のためにも」

「……わかりました」

 

 士道は令音の言葉を了承し、トーマも首肯すると、二人で十香たちの待つフードコートに戻る

 

「士道……それで、これからどうするんだ?」

「その事なんだが、トーマ……十香と四糸乃の事、任せてもいいか?」

「元から二人の引率……と言うより付き添いだからな、二人は任せろ」

 

 フードコートに戻ると、サンドイッチを食べ終えていた十香が声をかけてくる

 

「おお、遅かったな」

 

 士道は椅子に座ると、ジッと二人を見つめていた

 

「シドー?」

「どうか……しましたか?」

 

 二人の問いに、士道は応と首肯する

 

「……ん、実は今から、流れるプールのジャングルクルーズツアーが始まるらしいんだ」

 

 そう言うと、十香は目を輝かせる

 

「な、なんだそれは!?」

「大きなボートに乗って、エリア中を流れるプールをぐるっと一回りしてくる冒険コースらしい。四糸乃と一緒に行ってきたらどうだ?」

「おぉ……行く! 行くぞ!」

「わかった、それじゃあトーマ……十香たちの事任せて良いか?」

「あぁ、了解だ」

 

 士道がトーマにそう言うと、十香は首を傾げた

 

「む……? シドーは行かないのか?」

「あぁ……俺はちょっと、琴里と用があるんだ」

「そうなのか? なら私もそちらに……」

 

 そこで四糸乃が十香の手を取る

 

「十香さん……私、クルーズに……行きたいです。一緒に行ってくれませんか……?」

「む? だがそれならトーマに──」

「四糸乃は三人で乗りたいみたいだし……ここはオレたちと一緒に行ってくれないか?」

「お願いします……十香さん」

 

 四糸乃たちがそう言うと、十香はまんざらでもないといった顔を作って頬をかく

 

「む、仕方ないな……ではシドー、私たちはそのジャングルなんとかに行ってくるぞ」

「おう、気を付けてな」

 

 士道が手を振ると、十香と四糸乃はそれに応えるように手を振り返し、トーマも軽く手を上げて返すと、士道の示した方向へと歩いていった

 

「……がんばって、ください」

「頑張れよ、士道」

 

 その際に、四糸乃とトーマの二人は軽く士道の方を見てそれだけ伝えた




士道が知った琴里の現状
刻々と迫るリミットまでに、琴里をデレさせられるのか
次回、デートは第二幕へと突入します

次回, 五河シスター第4-7話

仕方ないけど、トーマ君影薄いね
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