デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー   作:SoDate

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第4-8話, 思い出す、五年前の記憶

 折紙と琴里の戦闘が始まる少しだけ前、十香たちは士道に薦められたジャングルクルーズを楽しんでいた

 

「おぉ、見ろ四糸乃、トーマ! 滝だ!」

「すごい、です……!」

『いいねぇ、凍らせてみたいねぇ』

 

 室内プールをぐるりと巡るように通っている流れるプールを進む大きなボートに乗っていル十香が興奮気味に声を上げ、四糸乃もそれに同調するように頷き、よしのんも冗談めかした言葉を発していた

 

「……元気だなぁ」

 

 実はこの最初に参加したジャングルクルーズは既に終わっているのだが、四糸乃の要望で二週目に突入したところだ。最初は十香も士道を探しに行きたかったのだが、全開は左側の景色しか見れてないから次は右側に乗ろうという四糸乃の提案を受け、再びボートに乗り込み今に至る

 

『では皆さん、あちらをご覧ください』

 

 そう言った係員が右手に聳える火山を示す

 

『あれはこのオーシャンパークでもっとも大きな火山です。普段は静かなんですが……今日は皆さんが来たので興奮しているようです。ほら爆発しますよー

 ー?』

 

 係員がそう言った瞬間、プール内に爆発音が響き渡り、空気がビリビリと震える

 

「……っ!」

「おぉッ!? す、すごいな! ボートの左側に乗っていたときはこんなに大きく感じなかったぞ!」

 

 十香がそう言うも、四糸乃はなぜか顔を青ざめさせていた

 

「四糸乃?」

「ち──がい、ます。今のは……」

「あぁ、今のは──」

 

 トーマが言葉を続けようとしたところで、プール中にサイレンが響き、避難を促すアナウンスが流れる

 

「な、なんだ……?」

 

 その瞬間、三人は息を詰まらせる。この場所ではないが近くに精霊の気配を感じた

 

「四糸乃、トーマ──」

 

 十香が二人に顔を向けてきたので、それに頷く。霊力の気配に爆発音、そして士道の事を考えた十香の胸に、嫌な感覚が広がっていく

 

「シドー……っ!」

 

 のどを震わせた十香はボートからプールへと飛び込んだ

 

「四糸乃、オレたちも──」

「はい……っ!」

 

 トーマと四糸乃も、先に行った十香の事を追う

 

 

 

 

 折紙の言葉を聞いた琴里は、呆然と声を発する

 

「何、を──」

 

 そう言いながら頭痛を堪えるように左手で頭を押さえる琴里は、先ほどまでと異なり士道の知っているものだった。だが、それに気づいていない折紙は言葉を続ける

 

「五年前。今から五年前。天宮市南甲町に住んでいた私の両親は、炎の精霊──あなたの手で殺された。あなたは、私の目の前で二人を()いた……ッ! 忘れるものか。絶対に、忘れるものか。だから殺す……私が殺す。あなたを殺す! イフリートッ!」

 

 それを聞いた琴里は、全身の力が抜けるようにその場にへたり込む

 

「琴里……っ!」

 

 士道が琴里の事を呼ぶが、反応はない。琴里はただ茫然と目を見開き、カタカタと歯を鳴らすだけだった

 

「そん、な……私、は──」

 

 折紙は即座に随意領域(テリトリー)を再展開すると、琴里に向けて大型レイザーブレイドを振るう。射出された光の刃は先ほどのように琴里のすると巨大な砲門を琴里へと向ける

 

「今度は、外さない。──指向性随意領域(テリトリー)、展開!」

 

 折紙の言葉と共に、琴里の周囲を再び結界が取り囲む

 

「…………ッ!」

 

 それを見た士道は、みょわず琴里の方に駆け出した。たとえ何をすることが出来なくても、可愛い妹が死にかけてるのなら、駆け出さないという選択はなかった

 

「随意領域《テリトリー》凝縮……ホワイト・リコリス、臨界駆動……!」

 

 折紙が砲門をにエネルギーを溜め始めた直後、士道は折紙と琴里の間に割って入る

 

「折紙! 止めろ! 止めてくれ!」

「──っ、士道。邪魔しないで」

「そんなわけにいくかッ!」

 

 士道が叫ぶと、折紙は奥歯を噛み締め、鋭い視線を向ける

 

「あなたには言ったはず。私は両親の仇を討つために、今まで生きてきた。五年前、あの炎の街を抜けてから、私の人生はそのためだけにあった。私の命はそのためだけにあった。イフリートを──五河琴里を殺すことが、今の私の存在理由」

「…………ッ」

 

 折紙の言葉を聞いた士道の脳裏に、かつて真那の言った言葉がぐるぐると渦巻く、慣れている──時崎狂三を追い、幾度も幾度も殺し続け、もう元には戻れない程に心を磨り減らしてしまった少女

 彼女の顔と、目の前にいる折紙の顔が、士道には重なって見えた

 

「駄、目……だ」

 

 士道の言葉に、折紙は眉をひそめる

 

「駄目なんだ……お前は、殺しちゃ……! その引き金を引いたら──きっと、もう戻れなくなる……! 俺は──そんなお前を、見たくない……!」

 

 士道のその言葉を聞いても尚、折紙は砲門を下ろさず、士道とその後ろにいる琴里に鋭い視線を向けたまま、言葉を続ける

 

「……っ、それでも、構わない。私の手でイフリートを討てるなら……!」

「く──」

 

 士道は爪を食い込まんばかりに拳を握りしめる

 だが、それと同時に、士道の頭の中に一つの引っかかりを覚える。折紙の言った炎の精霊。イフリートという呼称に

 

「──、ぁ……」

 

 そこで、士道は一つだけ思いついた。詭弁にも近い言動、くだらない言葉遊びと言われたら何も反論できない。しかし、それは小さくとも琴里の事を救う事が出来る、唯一の方法だった

 

「折紙……一つ聞かせてくれ」

 

 折紙は答えないが、士道はその沈黙を肯定と受け取り、言葉を続ける

 

「おまえが仇と狙ってるのは──イフリート……なんだよな?」

「そう」

「俺の妹──五河琴里じゃなく、炎の精霊イフリートなんだな!?」

「……何を言ってるの? イフリートと五河琴里は同一の存在のはず。あなたは一体何を──」

「いいから答えろ! おまえの仇は炎の精霊で、人間である俺の妹は関係ないんだな!?」

 

 折紙は微かに眉を歪め、問いかけるが、その言葉を遮るように士道が叫ぶ

 しばし訝しげに押し黙っていた折紙だったが、程なくして士道の問いに返答をする

 

「──あなたの言うことは不可解。確かに私の仇は炎の精霊。イフリート。人間ではない、でも、五河琴里は精霊。その条件は成立し得ない」

 

 折紙の言葉を聞いた士道は、ごくりと唾液を飲み込んだ

 

「そこを退いて。士道」

「駄目だ……それは出来ない。今のおまえの言葉を聞いたら、余計にな……!」

 

 士道の言葉がわからないといった様子で、折紙は顔をしかめる

 

「頼む、少しでいい。俺と琴里に時間をくれ。そうしたら──」

「認められない。今が、イフリートを討つ最大の好機……! 退かないのなら──」

 

 砲門を構えた折紙は、その引き金に指をかける

 士道には、折紙の気持ちが全く分からないわけではない、むしろ士道の方が道理に合わない事を言っているのだろう。大切な誰かを目の前で殺され、その相手が目の前にいるのなら、自分の手で殺したいと思うのは当然だ

 しかし、それでは駄目だと、士道は思った。ここで折紙が琴里を殺せば、今の折紙と同じ気持ちを士道は抱くことになる。表面を取り繕っても、その気持ちは士道の心に残り続ける

 だからこそ、士道は口を噤むことがきなかった──偽善だと言われようが、自分勝手と言われようが、道理に合わぬと言われようが、士道は言葉を紡ぐ

 

「両親を殺されたおまえにこんなこと言っても、綺麗事と取られるかも知れない。きっと俺だって、父さんや母さんや琴里が殺されたら、殺した相手を死ぬほど憎むんだと思う。矛盾してるのはわかってる! 勝手に言ってるのもわかってる! でも俺は……! 可愛い妹が目の前で殺されようとしているのを無視することなんてできないし、友だちが絶望に浸っちまうのを黙って見ていることもできないんだよ……ッ!」

 

 それを聞いた折紙は、どこか苦しげに顔を歪めるが、一瞬目を伏せ小さく首を振った後に、再び琴里に視線を送る

 

「それでも……私は──!」

 

 折紙の言葉と同時に、士道の周囲に見えない壁が形成された

 

「! こ、れは──」

 

 これがどういう意図なのかを察した士道は、のどを潰さんばかりに震わせる

 

「止めろ、折紙ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ──ッ!」

「う、あ、あああああああ────!」

 

「──させるかッ!」

 

 士道の声をかき消すように、叫びを上げた折紙が砲門の引き金を引こうとしたところで、上空からそんな声が響くとともに折紙の構えていた右側の砲門のが切断される

 

「……っ、夜刀神十香……!」

 

 上空から現れ折紙の砲門を切断したのは、水着の上に限定的な霊装を展開し、その手に大きな一振りの剣を握った十香だった

 

「十香!」

「うむ、無事か。シドー、琴里」

 

 折紙は憎々しげに目を研ぎ澄ますと、背に負ったコンテナを展開する。馬鹿みたいに撃っているというのに、まだ弾薬は尽きていなかったようだ

 

「邪魔を──」

 

 しかし、折紙が弾薬を射出するよりも早く、右方から折紙に向けて光線と激流のような斬撃が向かっていく

 

「く……」

 

 折紙がその攻撃を寸前のところで避けると同時に、士道を覆っていた不可視の壁が消えうせる

 

「これは……」

 

 光線の当たった場所は、ぱきぱきと音を立てて、凍り付いていく。その光景は、士道にとって見慣れた者

 

「大丈夫……ですか、士道さん、琴里さん……」

「無事か? 二人とも」

 

 その言葉と共に士道の元に降りてきたのは、前よりも一回り小さい氷結傀儡に乗った四糸乃と、全身に電流を迸らせたブレイズだった

 

「四糸乃! トーマ!」

「はい」

「おう」

「そ、その姿……それに、氷結傀儡……!?」

「は……い。十香さんを追いかけて、トーマさんと一緒に、こっちに来たんですけど……士道さんと琴里さんが危ないって思ったら……二人を助けなきゃって思ったら、心がさわっとなって……」

「トーマも、その、大丈夫……なのか? それ……」

「あぁ、問題ない。短時間なら大丈夫だ」

 

 その言葉と共に、ブレイズの手に持った剣が無銘剣へと変化し、炎を纏いながらその姿をファルシオンへと変化させる

 

『やっはー、間一髪だったねー』

「て……よしのん?」

 

 ファルシオンの横で氷結傀儡が低く吼えると、発せられたのはよしのんの声。恐ろしい見た目とは裏腹に氷結傀儡は気さくに言葉を続ける

 

『ま、感謝の言葉ならあとで遠慮なく聞くよー。でも今は──』

「──っ!」

 

『一刀両断!』

 

 話をしている隙に、十香と四糸乃に目がけてミサイルの雨が降りそそごうとしたが、ファルシオンは即座にバスターへと変化し玄武神話のブックを読み込み──

 

『激土乱読撃!』

 

「──はぁッ!!」

 

 巨大化した刀身でミサイルを薙ぎ払う

 

「間一髪だったな」

「感謝するぞ、トーマ」

「ありがとう……ございます……!」

 

 三人は改めて折紙の方に目を向けると、十香が少し後ろを振り返って士道に言葉をかける

 

「シドー、ここは私たちに任せて、早く逃げろ」

「でも……それじゃあ」

「いいから早くするのだ!」

「そんなに……長くは、保たないと、思います……っ!」

「士道、お前はお前のやるべきことをやれ」

 

 折紙は、忌々し気に三人を睨みつける

 

「邪魔しないで。今はあなたたちに構っている暇はない」

「──ふん、琴里は士道と同じく、我らの恩人だ。貴様に討たせるわけにはいかん」

「……です!」

「友人の妹を見殺しにするわけにはいかねぇからな」

 

 十香が折紙を睨みながら言い、四糸乃がそれに同意し、バスターも、土豪剣の切っ先を折紙へと向けた

 

「なら──あなたたちにも、消えてもらう」

 

 その言葉と共に、再びウェポンコンテナを展開させ、中に入っているミサイルポッドからミサイルを射出する

 

「……! はぁッ!」

『激土乱読撃!』

 

 十香とバスターの二人が、剣を一閃させミサイルを撃墜するが先ほどよりも僅かに多かったのか、誘爆を免れた数発が十香とバスターに迫る

 だが、そこで上空からシャワーのように水が降りそそぎ、二人に向かっていたミサイルがこおりつく

 

「四糸乃!」

「プールから……水を、借りてきました……!」

 

 四糸乃の言葉に応えるように、氷結傀儡が目を光らせる。それに合わせるように十香、四糸乃、バスターがもう一度士道の方を一瞥する

 

「──すまん……!」

 

 士道が琴里を抱えて走りだすのを見送り、三人は改めて折紙に向き合う

 

 

 

「し、ど……う……」

 

 顔を青くしながら、琴里は士道の名を呼ぶ

 

「大丈夫だ──すぐに、なんとかしてやる……ッ!」

 

 後方からは爆発音が響いてくる。十香たち三人も善戦してくれているが、霊力が完全に戻っていない二人と万全とは言え武器が剣一本のトーマだけでは、あの巨大な兵装を身につけた折紙を相手取るのは分が悪い

 それに、琴里にもあまり猶予はない、このままでは琴里の意識は破壊衝動に呑まれる可能性が高い

 ──士道は、ただ逃げるだけではいけないのだ

 

「よし……!」

 

 士道は誰もいなくなったアトラクションの陰に身を隠し、抱きかかえた琴里を降ろす

 

「大丈夫か、琴里!」

「っ、えぇ……なんとか、ね」

 

 琴里はアトラクションに背を向けるようにしながら、力なく言った。その様子を見た士道は、やはり時間が無いことを思い知らされる

 

「琴里」

 

 軽く広場の方を一瞥した士道は、琴里の肩に手を置き、話しかける

 

「は……っ、はい」

 

 琴里は強ばった面持ちで、いつもはしない返事をしてくる、士道に残された琴里を救うための方法、それを今から実行に移す

 

「くぁ……ッ!」

「ぐぅッ!」

 

 背後から十香とトーマの声が聞こえると同時に、折紙の装着しているユニットの駆動音が一層大きく聞こえる

 

「見つけた……ッ!」

 

 折紙が、凄まじいスピードでこちらに迫ってくる

 士道は息を詰まらせ、琴里の顔に近づけようとしたところで、無視できないものが一つある事を思い出す

 ──好感度だ、途中でインカムを手放している士道は琴里の好感度がどうなっているのかわからない、好感度が足りていれば封印は出来るが、足りなかったら士道は大切な妹を一生失うことになる

 

「琴里!」

 

 士道は顔を近づける前に、琴里に問いかける

 

「琴里。おまえは俺の可愛い妹だ。この世で一番の、自慢の妹だ! もうどうしようもないくらい……大好きだ! 愛してる!」

「ふ……ッ、ふぇ──っ!?」

 

 士道の言葉を聞いた琴里は顔を真っ赤に染める、士道も自分の顔に熱が集まっていくのを感じるが、言葉を続ける

 

「琴里……ッ! おまえは俺のこと、好きか!?」

「そ、そんなこと急に言われても──」

 

 その瞬間、後方から小型のミサイルが飛来し、士道たちの隠れているアトラクションに着弾した。凄まじい火花を散らし、小さなの欠片が士道たちの場所まで落ちてきた

 

「琴里!」

「あ、あぁっ……もうッ!」

 

 琴里はぐるぐると視線を巡らせ、叫ぶように言う

 

「好き! 私も好きよ! おにーちゃん大好き! 世界で一番愛してる!」

「……!」

 

 それを聞き届けた士道は、意を決して琴里の唇に自分の唇を触れさせる

 その瞬間、士道は自分の唇を介して、自分の中に温かいものが流れ込んでくるのを感じた。精霊の力が自分に流れ込むのと同時に、繋がった経路を通して自分の中に、五年前の記憶が流れ込んできた

 

 

 五年前の誕生日、一人で公園のブランコを漕いでいた琴里の前に”ナニカ”が現れた事

 

 その”ナニカ”が取り出した赤色の宝石に、琴里が触れた瞬間、精霊の力を手に入れてしまったこと

 

 力を手に入れてしまった琴里は、それを制御できず五年前の火災を引き起こしてしまったこと

 

 精霊の力で、大好きな兄を傷つけてしまったこと

 

 その”ナニカ”に教えられ、幼い日の琴里が士道にキスをして、霊力を封印したこと

 

 五年前の記憶は”ナニカ”によって消されたこと

 

 ──そして、琴里が普段身につけている黒いリボンは、士道が誕生日のプレゼントして琴里に送ったこと

 

 

 

 

「今の──は」

 

 琴里とキスをした士道は、額に手を上げながら顔を歪める。明確に思い出した五年前の記憶、それは琴里も同じだった

 

「思い……出し、た。あのとき……私は──あの、”ナニカ”に──」

 

 呆然とした声を発した琴里を包んでいた、羽衣や帯が光の粒子となって風に溶け始める。霊装は精霊の持つ霊力の結晶体、霊力が封印されればそれが崩れ去るのも道理だ

 だかそれは、折紙にとっては知らない事実であり、こちらに迫っているミサイルは止まることない

 

「く……!」

 

 士道は琴里の身体を抱くと、その場から飛び退くが、琴里がいた場所にミサイルが着弾し、凄まじい爆風が士道を襲う。

 

「ぁ──」

「士道……!」

 

 その場に倒れた士道の背中には爆風によって吹き飛ばされた欠片が突き刺さり、直視することが出来ない程の惨状だったが、折紙が近寄るよりも早く傷を負った士道の身体を焔が這い、治していく

 

「な……今のは──」

 

 傷の治った士道は、自分の背に手をやりそこに肌があるのを確かめると、ゆっくりと身を起こした

 

「──折紙。おまえはさっき、言ったよな。自分の仇は炎の精霊イフリートであって、人間の五河琴里じゃないって」

 

 完全に立ち上がった士道は、折紙の事を真っすぐ見る

 

「もう、琴里を殺しても意味がない。琴里は……俺の妹は、人間だ……! おまえが殺したいのはイフリートだろう? なら──俺を狙え! 今は俺が、イフリートだ!」

「な、に……が、一体、これは……」

 

 折紙は、狼狽を露わにのどを震わせる

 

「でも──」

 

 士道は、折紙に対して言葉を続ける

 

「その前に、俺の話を聞いてくれ。──やっと、思い出したんだ。五年前のことを、あのとき俺が何をしていたか。あのとき、琴里がなにをしていたか……!」

「……っ、五年前……、イフリートは──私の両親を──」

「琴里が、精霊の力を得てからそれが封印されるまでの間、辺りには俺ともう一人しかいなかった! 確かに火事が起こったのはイフリートの力が原因だ。でも、街に炎が巻かれたのは、琴里の意思じゃない……! ましてや琴里は、自分の手で人を殺す事なんて、してなかったんだよ……!」

「なに……を、言っている、の……そんなはず……ない! あれは間違いなく精霊の姿だった──!」

 

 折紙は呆然と声を発する

 確かに少し前までの士道は確証が持てなかった。もしかしたら琴里が……とも考えた。しかし五年前の記憶を思い出した今、士道は断言できる

 

「居たんだよ……! あの場には! 琴里をこんな目に遭わせた精霊が……ッ!」

 

 士道の言葉を聞いた折紙は、今までよりも怪訝そうに唇をかみしめる

 

「そんな言葉を……信じろというの?」

「……あぁ」

 

 士道はうなずく。もう、士道から発することの出来る情報はない、あとは──折紙に信じてもらう他なかったが、彼女は下げかけていたレイザーブレイドを再び突きつけた

 

「……本当は信じたい。でも、信じられるはず──ない。そんな精霊の存在なんて。あなたがイフリートを、五河琴里を守るために嘘を吐いているとしか思えない……!」

「──士道の言ってることは嘘じゃない」

 

 その言葉を発したのは、士道でも折紙でもなく、バスターの姿をしたトーマだった

 

「確かに、あの場にはもう一人精霊がいた……オレがその場に辿り着いてすぐに消えちまったがな」

「そんな……こと──」

「折紙。おまえ、俺のに言ってくれたよな。──もう、自分と同じ思いをする人は作らせないって。そのために、ASTに入ったって」

「……っ、それ、は……」

 

 その瞬間、折紙は顔を苦悶に歪めたかと思うと、背負っていた装備が地面に落ち、膝をつく

 

「……活動……限界? こんなところで──」

「折紙──」

 

 既に満身創痍と言った風な折紙は、左足のホルスターから9mm拳銃を抜こうとする

 

「お願いだ……! 俺から、琴里を奪わないでくれ。あいつは、俺を救ってくれた。あいつがいなかったら、今の俺はいなかった。頼む……! 生涯最後でも構わない! 俺を──信じてくれ……ッ!」

 

 折紙は少しだけ動きを止め、銃を抜こうとしたところで──力無くその場に倒れた

 

 

 

 

 

 

 その後、士道たちはフラクシナスへと回収され、折紙もまた、他のAST隊員が装備と共に回収していった

 

「令音さん、琴里の様子は?」

「……あぁ、心配ないよ。すぐに目覚めるだろう」

「そうですか……」

「そう言うお前はどうなんだよ、士道」

 

 士道の隣に居たトーマが話かけてきた

 

「あぁ、俺も大丈夫……あと、折紙はどうなるんですかね」

 

 士道は難し気に呟くと、令音が推測ではあろうが答えてくれた

 

「……まぁ、あれだけのことをしでかしたんだ。命までとられはしないだろうが……退役させられ、二度と顕現装置(リアライザ)に触れることができなくなるかもしれないな」

「……っ」

「まぁ、そこら辺は仕方ないか……一般人の目があるところであれだけの兵器をぶっ放したんだし……多分アレ自衛隊の最高機密かなんかだろ?」

 

 守るべき市民を危険に晒したこと、そして最高機密を無断で持ち出したことを加味したら、退役が妥当な所ではトーマは考えていたが。処分を決めるのはあちら側の上層部である以上こちらには関係のない話だ

 

「じゃあ……俺はそろそろ帰ります。十香と四糸乃も腹空かせてるだろうし」

「オレはもう少し本の解析をしてから帰るかな……琴里の霊力がしっかり封印されたなら、火炎剣の本にも変化があるかもしれないし」

 

 士道と琴里を助ける為に精霊の力を使った十香と四糸乃は、霊力のパスが通っているのを確認した後に、フラクシナスにて簡単な検査を受け、五河家で待機中だ

 琴里の無事も確認できたのだし、夕食時でもあるし一旦戻るには良い時間だろう

 

「……ん、そうだね。彼女らも琴里の心配をしているだろうし、安心させてやりたまえ」

「はい。じゃあ、琴里のこと、頼みます」

 

 そこまでの会話を聞いたトーマは、一足先に艦橋から出ると、割り当てられている研究室まで向かっていると検診衣姿の琴里と出会った

 

「あら、トーマじゃない」

「おう……身体はもう大丈夫なのか?」

「えぇ、それに……せっかく五年前の記憶が戻ったんだもの、また消される前に記録にとっておかないと」

「そうか……まぁ、無理はすんなよ」

「わかってるわ、後でトーマにも話を聞かせてもらうから」

「あいよ、それじゃあな」

 

 すっかり元の調子に戻った琴里を見て、トーマは少しだけ笑みを浮かべると、身体を伸ばしながら研究室に向かって歩いていった




琴里の霊力を封印してから数日

突如として、天宮市は巨大な結界に閉じ込められる
それと時を同じく、精霊たちの力が不安定になる事件が起こる

この町に何が起こっているのか単独で調査をしていたトーマの身にも異変が起こりはじめ……

次章, 凜祢ユートピア


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