デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー 作:SoDate
「──また、この夢か……?」
五河士道は、不思議な夢を見る
あの日、霊力が不安定になった十香に手を伸ばした日から見続ける不思議な夢。不思議な空間に不思議な少女がいるだけの、夢
「……私は、ただ見守り続けるだけ……」
「……見守り続ける?」
士道の問いかけを聞いた少女は、その瞳を向けてくる
「……なんでだ?」
「悲しみが、広がらないように……」
「悲しみ……? それって……?」
少女の言った言葉の意味がいまいちわからない士道は、少女に向かい問いかける
「……理解される必要はない……」
「……な!」
「……すべては、楽園のみ許される……」
「おい、それじゃわから──っ!?」
少しずつ、士道の意識が遠のいていく
「貴方は……私を、信じていればいい」
その言葉を最後に、士道の意識は完全に途切れた
朝方、トーマと美九の住むマンション
いつものように朝食を作っていると制服に着替えた美九が起きてくる
「お兄さん、おはようございます」
「おう、おはよう美九」
席に着いた美九はリモコンを使ってテレビの電源を入れる
『臨時ニュースをお伝えします。郵便局に押し入った国籍不明の男性が、局員数名を人質にとって立てこもりを続けている事件で……』
随分と物騒なニュースが耳に入る
「立てこもり事件ですかぁ……ホントに、最近物騒ですねぇ」
「そうだな、この前の行方不明事件しかり、今までよりも事件の起こる数は多い気がするな」
「ですよねぇ……近頃物騒になった、とは言いますけど、それでも最近多すぎです」
『……現在、説得を続けているようですが、まだ犯人からの連絡はありません……』
それでも、どれだけ物騒な事件が起きようと──何度も続けばそれは日常になっていく、そう言うものだ
「そういえば、郵便局ってどこの郵便局なんでしょうね」
「駅前の方じゃないか?」
「えぇー、駅前の所って学校行くのに通るところじゃないですかぁ」
「それなら少し遠回りすればいいんじゃないか?」
「でもそれだと遅刻しちゃうかもですしぃ、お兄さん。送っていってください」
「冗談も程々にしてくれ……っと、出来たぞ」
いつも通りの日常会話を続けながらも二人はニュースに耳を傾けていると、どうやら現場との中継が繋がったらしい
『──あ、現場から緊急で中継が繋がりました。現場の宮坂さん? ことらのstudioですが、何か動きがあったんでしょうか?』
『はい! こちら現場です! えぇ、画像の方は見えてますでしょうか? たった今! 郵便局に立てこもっていた国籍不明の男が自ら投降しまして、人質全員を解放しました!』
「随分とあっさり解決したな」
「これがほんとのスピード解決ってやつですねぇ」
一体何がしたかったのかわからない犯人の事件を背に、二人は朝食を食べ始めた
「それじゃあお兄さん、いってきます」
「おう、いってらっしゃい」
美九の事を見送ったトーマは、携帯を取り出して時間を確認する。今日はいつもより少し早い時間が目に入る、トーマは少しどうするかを考えた結果、少しフラクシナスに向かうことにする
フラクシナスへと転移したトーマは、割り当てられた研究室まで歩いていると、目の前からやってきた士道と目が合う
「あれ、トーマ?」
「珍しいな、こんな時間に。学校じゃなかったのか?」
「え、あぁ、いつもより早く起きちまったから。少し四糸乃の様子を見に」
士道の言葉を聞いたトーマは、少しだけ不思議そうな顔をしながら言葉を返す
「四糸乃に何かあったのか?」
「あぁ、どうやら霊力が不安定になっちまったみたいで」
「……そうか」
立て続けに起きている不審な事件に自分以外の誰かが変身しているファルシオン、そして精霊の霊力が不安定になる事態。トーマにはそれがどうにも不自然でならない
「トーマ、どうかしたか?」
「いや、何でもない……それより士道、少し頼まれごとをしても良いか?」
「え? いいけど……一体何をだ?」
「実は、少し”凜祢”と話がしたくてな、タイミングは任せるから時間作ってもらえるように頼んどいてくれ」
「わかった……でも、それなら自分で言った方が──」
「それじゃあ、頼んだぞ」
士道の言葉を遮ると、トーマはそのまま通路に向けて歩いて行ってしまった
一日とは早いもので、士道が学校に登校しいつも通り授業を受け、昼食を食べる。そんな日常を送っているとあっという間に放課後になる
「はぁーい。それでは帰りのホームルームを始めまぁす」
教室の中に入ってきた岡峰教諭は、ホームルームを始める前に何かを思い出したようでそのことを話し始めた
「えぇと……みなさん、この街のはずれに自衛隊の天宮駐屯地があるのは知ってますねぇ?」
「知ってるっちゃー知ってますけど、それがどうしたんですかー?」
他の生徒にとってはなんでもないことだが、士道にとっては変に馴染みのある言葉であるため些細な驚きがあった
「そこの偉い方から学校に伝達がありましたので、みなさんにお伝えしておきたいと思いまぁす」
岡峰教諭はそう言いながら、出席簿に挟んであった紙に目を向ける
「えぇと、いろいろ難しく書いてあるんですけどぉ……現在、天宮駐屯地の観測機やら何やらがうまく機能してないそうなんですぅ」
それを聞いた士道の心の中は、先ほどとは異なる明確な驚きが生まれる。士道は少し目を動かして折紙の方を見るが……驚きなどの表情は特にない、まぁAST所属の折紙に通達されていない筈がないので当然っちゃ当然である
「なのでぇ……空間震などの警報が遅れる、もしくは作動しないことはあるそうですから……」
普段と変わった連絡はそれくらいであり、何事もなくホームルームは終了した。教室を出ていこうとした士道は殿町に引きとめられるがそれを受け流すと、凜祢の元まで向かう
「凜祢」
「? 士道、どうしたの?」
「実はトーマから頼まれごと……と言うか言伝を預かってて」
「兄さんから?」
「あぁ、少し話がしたいからどっかで時間を作ってくれないかって」
「……うん、わかった。夕方からなら少しだけ時間作れると思う」
「了解、それじゃあ夕方に、場所は……どうする?」
「公園でお願い、昔はよくそこで遊んだから」
「わかった、それじゃあトーマにはそう伝えとく」
そう言った士道はトーマにメッセージを送ると、程なくして了承の連絡が入る
「トーマもオッケーだって」
「わかった……あっ。私、部活行かないと」
「そっか、引き留めて悪かったな。部活頑張れよ!」
「うん、それじゃあまた後でね」
凜祢と別れて帰路につこうとして。ふとした考えが頭の中に浮かび上がった士道は、とある場所に足を向けた
「新天宮タワー、もうそろそろ完成みたいだな……いやー、立派なもんだ。まさか天宮市にここまで巨大な建築物が建つなんてなー」
士道がやってきたのは新天宮タワー。入口に建設中の看板が置かれている巨大な塔を見上げながら、誰に聞かせる訳でもなく言葉を発する
「この高さなら街中どこかれでも見えるし、まさに天宮市のシンボルって感じだな……ん?」
新天宮タワーを見上げながら歩いていると、見知った人影とばったり出会う
「……ん?」
「……あら? 奇遇ですわね、士道さん」
「狂三……神出鬼没だな、おまえは」
「士道さんも、新天宮タワーを見物にいらしたんですの?」
士道が出会ったのは私服姿の狂三は、少しだけ警戒している士道を他所に世間話を続ける
「あ、あぁ、まぁな……。おまえこそ、建設中の新名所に物見遊山か?」
「えぇ、まぁ……ちょっと気になることがありまして……」
「気になること……? まさか、産業スパイとかじゃないよな?」
「ふふふ、まさか」
「そ、そうだよな。さすがにないよな」
冗談なのかどうか判別しずらい狂三の言葉に、士道は少し背筋を涼しくしながら話していると、ふと狂三が問いかける
「ところで士道さん、ちょっとお聞きしたいことがあるんですの」
「ん? 何だ?」
「……新天宮タワーについて……どう思いまして?」
先ほどまで和やかだった狂三の視線が、少しだけ鋭くなったような気がした
「新天宮タワーねぇ……そうだな。新しい観光名所になるって、学校でも街でも話題持ちきりだよな。ま、天宮市の新しいシンボルになるだろうし、無理もないか。でもなぁ……」
「でも……何です?」
「いや……その」
確かに新天宮タワーは街のシンボルになると士道は考えるが……それでも胸の奥には何かが詰まったような、小さな違和感があった
「焦らなくでも大丈夫ですわよ。別に急かしたりしませんから」
「えーと……」
しかし、それを言っていいのかを考えているとインカムから琴里の声が聞こえてくる
『士道、あまり迂闊に情報を与えない方がいいわ』
「こ、琴里……?」
『狂三は私たちにとってワイルドカードよ。注意しなさい。もしかしたら新天宮タワーで何かしでかすつもりかもしれない。下手をうてば、前回みたいに顔見知りを巻き込むことだってある』
「……!?」
『狂三がそこに来たのだって偶然じゃないはず。絶対に何か目的があるわ』
狂三が天宮市の新名所に、ただ物見遊山に来るとは考えられない。一番ある可能性としては霊力を集めるために何かを企んでいると考えてもおかしくないだろう
「じゃ、じゃあ、どうしろって言うんだよ……?」
『知らないわよ。とりあえず、受け答えに注意しなさい。いいわね?』
「おう、わかった……」
小声で士道と琴里が話をしている間も、狂三はただ士道の言葉を待っていた
「……」
「それは……何だろう、何か違和感を感じるんだ」
「……まぁ、それは不思議ですわね? どんな感じなんですの……?」
「なんだろうな……この街にそぐわないと言うか……。本来、ここにあるべきじゃないと言うか」
「……なるほど、変わった考えですわね」
「うまく言えないけど、その存在そのものに異質な感じを受けるんだ。まだ見慣れないからってだけかも知れないけど……」
発言に細心の注意を払いながら言葉を発する士道に対して、狂三は告げる
「……それで良いと思いますわ」
「え……?」
「士道さん……その違和感、忘れないようにした方がいいですわよ?」
「……どういう意味だ?」
「さぁ? それはご自分で見つけてくださいまし」
「……?」
「それでは、わたくしは失礼いたします。さようなら、士道さん……」
頭の中に疑問を浮かべている士道を後目に、狂三はその場を後にする
「……狂三」
『……ちょっと、士道。あなた、なに変なこと言ってるの?』
「す、すまん……だけど、何か違和感を感じるんだよ……」
『そう。士道がそう思うなら、そうなんでしょうね。士道の中では、だけど』
インカム越しの琴里に責められながら、士道は帰路につく
その日の夕方、五河家近くの公園でトーマは凜祢の事を待っていると、入口の方から足音が聞こえてくる
「……おう」
「お待たせ、兄さん」
入口の方からやってきた凜祢はトーマの前までやってくると、トーマも片手を上げて挨拶する
「それで、今日はどうしたの?」
「少し……。少しだけ、昔話でもしたくなってな」
「昔、話……?」
「あぁ、凜音が小さい頃、この公園で遊んだよな」
「そういえば、そうだね……懐かしいなぁ」
トーマは自分の中にある”園上凜音”との思い出を、朧気ながらに思い出す。幼い頃一緒に遊んだ記憶、泣き疲れた凜音をおぶって帰り道を歩いた記憶
虫食いのようになっているが、それでも完全に忘れていた記憶の一部が蘇ったのは事実だ
「なぁ、”凜祢”──」
だが、思い出したのはそれだけじゃない。もう一つ重要な事実がある
「──いや、お前は今……幸せか?」
「えっ? うん、幸せ……かどうかはわからないけど、毎日楽しいよ」
「そっか……それなら、いいんだ」
けれど、その事実を凜祢に伝えることはできなかった。伝えることなく……何気ない話を終えて凜祢と別れると、トーマはさっきまで座っていた場所に倒れこむとすっかり暗くなった空を見上げる
「園神凜祢……お前は────一体、誰なんだ?」
誰に伝える訳でもないその言葉は、闇へと溶けて消えていく
トーマの思い出した重要な真実
それは”園上凜音”と言う少女は紛れもなく、血のつながった妹であることではない
────”園上凜音は交通事故で既に死んでいる”
だからこそ、今の現実はおかしいのだ
死人は蘇ることはない、ならばあの”園神凜祢”と言う少女はトーマの妹ではないのかと訊かれたら、その答えは”否”である。彼女は間違いなく”園上凜音”の記憶を持っている
それなら、彼女は誰なのか……今のトーマにその疑問を解決する方法はない
妹の記憶を持った少女がいる
妹は既に死んだという事実がある
霧に包まれた記憶は少しだけ晴れ
その事実はトーマにより思考の渦へと沈めていく
違和感は少しずつ、けれど確実につもり
その足は、確実に真実へと向かっている
次回, 凜祢ユートピア EX1-5