デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー 作:SoDate
凜祢が消滅してからしばらくして、フラクシナスへと回収された士道の前に令音がやってきた
「……大丈夫かい、シン」
「いや……さすがにまだ、堪えてます」
やせ我慢をするように、士道は令音に対してぎこちない笑みを浮かべる
「……ふむ、そうかね。では、今回の現象についての話は時間を改めた方がいいかな?」
「っ! ……お願い……します」
令音の言葉を聞いた士道は、令音の方にしっかりと視線を向ける。今回の現象について、士道は知らなければならない──凜祢がどういう存在だったのかを、知らなければならない
「……ん、覚悟があるのなら、私は君の意思を尊重しよう」
二人は空いているブリーフィングルームに場所を移し、令音がモニターに今回の一件のデータを表示する
「……まず最初に行っておくが、ルーラーは精霊とは似て非なる存在だったようだ」
「精霊じゃ……ない?」
「……あぁ。とはいっても、まったく別種のものであるかと言われれば、そうとも言い切れない」
そう言うと令音はモニターに表示されているデータを切り替える
「……詳しいことはもっと調べてみないとわからないが……。恐らく……そうだな、何か強大な霊力の残滓が意思を得たものとでも言おうか」
「それって、どういう……」
「……器がない、と言えばわかりやすいかな。普通の精霊は封印された場合、器が残る。だが、力のみであるルーラーは──」
「──そのまま、消える……」
「……そうだ、残念だが……」
それは薄々わかっていた、凜祢の兄──園神冬馬が士道に言った言葉から予想はついていた……だから、まだ大丈夫だ
「いえ……大丈夫です。続けてください。──結界の方は?」
「……結論から言えば──天宮市全域を覆っていた結界、エデンは我々を閉じ込める他に、ある特殊な力を持っていた」
「……あぁ、それに近い。もっとも……その規模が段違いだがね」
「一体……この結界にはどんな力があったんですか……?」
凶禍楽園にどの程度の能力があったのか、その答えはすぐに令音から返ってくる
「……ん。凶禍楽園の力……それは──『世界を、やり直す力』」
「せ……世界をやり直す?」
あまりにも壮大過ぎる能力に、士道は今一つ実感がわかない
「……言葉の通りさ。結界の中に存在する世界を、望む結果が出るまで何度もやり直すことのできる力……それが、エデンの能力だ。──君にも、断片的に記憶があるんだろう?」
「あ──」
そう言われた士道は、気付いた。誰か一人を選んだ記憶……それは自分だけでなくみんなも覚えていた記憶だ
「覚えて……ます。朧気に、ですけど。十香や折紙と過ごした記憶が……あります。まさか、あれが──!?」
「……あぁ。恐らく、それらは全て実際に起こったことだ。君が凶禍楽園の繰り返しの中で、選び取った世界の可能性だ。世界が繰り返すことで生まれた”あったかもしれない”結末だ」
アレが実際に起こった事、最初は実感がわかなかったが凶禍楽園の能力を知った今となってはそれが事実だとしか思えない。夢や妄想と言うにはあまりにも現実的過ぎるその記憶は……確かに存在する
「ルーラーは……凜祢は、一体何のためにこの結界を張ったんですか?」
凶禍楽園の能力がわかったとしても、まだ……一つだけわからない事がある。そんな力を持っているのだとしたらいったい何のためにその結界を張ったのかである
「……それは」
令音は少し言いよどんだ後に、ゆっくりと口を開いた
「……ここからは、私の推測が多分に入る。これが絶対の解ではないことは了承してくれたまえ」
「は……はい」
「……世界のやり直し。それには、ある法則性があった」
「法則性……ですか」
「……あぁ。今まで進められていた世界が急遽収束し、もう一度元の状態に戻される。それにはいくつかのパターンが認められたのだが……一つ、絶対的な条件が判明した」
士道の中で思い当たるのは、トーマの死だが。令音の口ぶりからするとそれは少し違うように感じる
「……要は”とあること”が起こった時、世界は必ず、もとの状態に巻き戻っていたのさ」
「……それは一体」
士道は、心臓が少しうるさく感じる
「……あぁ。世界をやり直す条件……それは……シン。君の──死だ」
「俺の…………死?」
少しだけ理解することが遅れた士道だったが、考えてみると結界にいるときは琴里の霊力が無い状態……つまり回復能力を失った状態だった、条件はばらばらだったが……それでも確実に士道は命を落としていた
「俺が死ぬことで、世界が繰り返されていた……」
「……あぁ。君が死んだ瞬間、世界は、結界が張られた日に巻き戻る。シン、君がこの世界の鍵だったのさ」
「ちょ……ちょっと待ってください! 俺が、鍵……って、一体なんでそんなことを!? 第一、ルーラーは……凜祢は、俺を殺そうとしてたじゃないんですか? そのために、俺から、封印したはずの精霊の力を失わせて──」
「……違うんだ。そもそもその前提が……間違っていたんだ」
士道は今まで、ルーラーは自分を殺すために結界を張ったのだと思っていた。けれど令音はその前提が間違っているという
「違う……って。どういう……ことですか?」
「……シン、先日の十香の暴走を覚えているかね?」
「十香の……暴走?」
「……あぁ、学校の屋上で突然十香の力が暴走した。思い出せないかい?」
令音にそう言われた士道は今まで忘れていた記憶を思い出す
「……っ!? そうだ……俺はあのとき巻き込まれて……!」
「……そうだ。恐らく凶禍楽園が発動したのは、そのタイミングだったのだろう」
「ど、どうしてわかるんですか?」
「……そうでなければ、君はあのときに死んでいたかもしれないからね」
「──し、死んでいた、って……」
「……君は最近まで体調不良に悩まされていただろう。十香たち精霊が暴走する前からね」
「あ、はい。今じゃほとんど感じませんけど……。でも、フラクシナスで診てもらったとき、異常はなかったですよね?」
「……確かに、異常はなかった。しかし、異変は起きていたんだ。我々が知らない脅威を伴って、ね」
フラクシナスでもわからなかった些細な異常、それによって今回の一件がもたらされたのだと令音は言う
「フラクシナスでもわからなかったって……それは一体」
「……これは私の推測に過ぎないが、精霊ではなく、君自身が暴走に近い状態にあったのかもしれない」
「え……?」
「……君は精霊たちと出会ってから、過酷な日々を過ごしていた。精霊とのデートでももたらされる緊張感やストレス。戦闘での命のやりとり──」
「と、ちょっと待ってください! 何を言ってるんですか、令音さん。それじゃまるで──」
「……あぁ。恐らくだが、君の身体から封印さていた霊力が、精霊たちに戻ってしまったのは、結界によるものではない。君の急激な体調不良と、その他の様々な要因が重なり合い、偶発的に起こってしまったイレギュラーであった可能性が高い」
「それって……じゃあ……」
令音の話が本当であるのなら、結界が張られたから霊力が逆流したのではない。事実はその逆、士道の体調不良による精霊への霊力の逆流というイレギュラーが起きたから結界は張られた
そして、士道の死というトリガーを原因に繰り返す世界。その事実全て士道の中に繋がっていく
「ま、さか……凜、祢……」
「……園神凜祢と言う少女がどこから現れたのか……。君とどのような接点があったのかはわからない。だが、一つだけ確実なことは──」
そのすべてが繋がった結果、園神凜祢という少女が何をしたかったのか──誰の為に今回の事件を起こしたのかを、理解する
「凜、祢……」
「……そうだ。園神凜祢は、君を守るために……そのためだけにこの世界を作ったんだ」
そう、園神凜祢は五河士道を守るために、あの世界―
「お──れ、……は……ッ、何も……知らないで。凜祢に……。俺は……ッ!」
「……それ以上は、やめてくれないか、シン」
「────っ、令音、さん……?」
「……誰が彼女を恨もうが、誰が彼女を哀れもうが、構いはしない。……しかし、シン。君は、君だけは、彼女が命を賭して守った君だけは……彼女の決意を、汚さないでくれ」
「……ッ!」
「……お願いだ、シン。園神凜祢は、ただ君を救おうとしただけだった。それに報いようとするのなら……お願いだ。後悔や謝罪ではなく……感謝を」
「……は、い……ッ」
士道は、再び溢れ出そうになる涙を堪えて上を向く
「……ん、大丈夫そうだね。──なら、これは、君に渡しておくよ」
「──え? これって……」
「……新天宮タワーから君たちが脱出してきたとき、紛れていたものだ。中に何か入っているようだが……心当たりはないかね?」
そう言われ渡されたのは、見覚えのある鍵だった。それはかつて士道が凜祢が渡したもの
「令音さん。あの、少しだけ……一人にしてくれませんか?」
「……あぁ、わかった」
令音はそういうとブリーフィングルームから出ていった。残された士道は一人、残された鍵を……園神凜祢のいた証を見つめる
「……大事にするって約束しただろ、凜祢? だったら、責任持てよ……ちゃんと持っていけよ……! でないと……わかっちまうじゃねぇか……朝、起こしてくれないって……嬉しそうに料理の味を聞いたりしてくれないって……おまえの笑顔は……もう見れないんだって……ッ!」
鍵を胸に抱きながら、士道は一人言葉を紡いだ。過ごした時間は僅かだったとしてもそこに自分の大切な幼馴染はいたのだと……その想いを口にした
あの事件から数週間の時が流れたある日、士道が高台公園で景色を眺めていると後ろから声をかけられる
「よう、士道。息災か?」
「……ん、あぁ」
「ここ……いい景色だな」
「だろ? 気に入ってんだ、この場所」
士道の隣までやってきたトーマは、手すりに寄りかかると話を始めた
「士道、お前……どこまで覚えてる?」
「実はもう結構忘れちまってる」
「そうか……」
「あぁ……でも、この鍵を誰か渡したことだけは、今でも不思議と覚えてるんだ。誰に渡したのかも朧気になっちまってるのに、それだけははっきりと」
「……それなら、それでいい」
トーマは士道のその表情を見て少しだけ笑う
「なぁ、士道」
「どうした?」
「その鍵……大切にしろよ」
「あぁ、当たり前だ」
その言葉を最後に二人は別れた、いつもの日常へと戻っていった
とある国、とある場所、一人の男が問いかける
「随分と機嫌が良さそうじゃないか」
「……おや、そう見えますか?」
「あぁ、今日はいつにもまして機嫌が良さそうだ」
「貴方がそう言うのならば、そうなのでしょうね……えぇ、確かに間違っていない。今の私は実に機嫌がいい」
問いかけられた男はまるで目当てのおもちゃを見つけたように、手元にある本を弄ぶ
「それじゃあ、君はそろそろ動くのかい」
「えぇ、失われた本のシステムが再起動した以上。私は私の目的の為に欠片を集めなければならないので」
「そうか、それなら私たちも準備を始めるとしよう。いつでも動けるように……ね」
潜んでいた闇が動き出し、錆びた歯車は少しずつ、回り始める
凜祢ユートピア Fin
次章, 八舞テンペスト
≪お知らせ≫
活動報告に
・凜祢ユートピアに関するお話し
・質問コーナー
の二つを掲載しました