デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー   作:SoDate

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第Ⅴ章≪After≫, 八舞ウィッシュ
第5-A 0話, 修学旅行の少し前の話


 時刻は午前五時、いつもよりかなり早い時間に目を覚ましたトーマは、さっきまで見ていた夢の内容を思い出す

 

「あの時の夢……随分と懐かしい夢を見た気がする」

 

 一年前の耶倶矢と夕弦の事を思い出したトーマは、少し懐かしい気持ちになりながら布団から出てカレンダーに目を向けるとどうしてあの頃の夢を見たのか、その理由がハッキリと分かる

 

「そうか、もう一年になるのか」

 

 今日この日は、トーマが初めて或美島に行った日……つまり八舞姉妹と会ってからもうすぐ一年と言うことになる。それが少し感慨深くなってしまったトーマはいつもより気合いを入れて朝食の準備に取り掛かった

 

 

 

 

 一方の五河家、続いていた厄介事もすっかりなりを潜め……ている訳もなく、目覚まし時計と共に五河士道の意識を覚醒させたのは近所にあるマンションから鳴り響いた爆音だった

 

「な、なんだッ!?」

 

 大慌てでベランダから爆音の原因を確認すると、マンションの十香の部屋から黒煙が立ち昇っているのが見えた士道は大慌てで十香の部屋に向かう

 

「十香! どうしたんだ!」

「シ、シドー……」

 

 涙目になっている十香が士道に見せてきたのはジュースをこぼして水浸しになったノート

 

「すまぬ、士道から借りたノートを汚してしまった……」

「へ?」

「シドーに嫌われてしまうと思ったら……うぅ……」

 

 士道とパスの繋がっている精霊は、感情が不安定になると霊力が逆流してしまう危険性がある。涙目になって辺りに霊力の波を出現させる十香を見た士道は急いでその言葉を否定する

 

「大丈夫だ、その程度で嫌いになったりしない」

「ほ、本当か?」

「あぁ、本当だ──っ!?」

 

 一安心かと思いきや今度は風呂場の方からとてつもない冷気を感じた士道は、それが誰のものなのかを理解して大急ぎで向かう

 

「四糸乃っ──」

「士道さん……よしのんが……」

 

 完全に凍りついた風呂場の中にいた四糸乃にバスタブの方を指さされ、そちらに目を向けると排水溝に詰まっているよしのんの姿が見える。それを見た四糸乃が泣きそうになるのと共に少しずつ周囲の気温も下がり、バスタブにはられていたお湯が凍っていく

 

「落ち着け四糸乃、これ以上凍ったら助けられなくなる」

 

 中身が完全に水と化していたバスタブの中に手を突っ込んだ士道がよしのんを引っ張りだすと、流れる動作でよしのんは四糸乃の左腕に収まった

 

『いやー、士道くん。いつもながら助かったよー』

「ありがとう、ございます……士道さん……」

 

 これでひと段落と言うわけでもなく、続けざまに起きた爆音の方に行くと再び涙目になっている十香の姿があった

 

「すまぬシドー……今度はきなこをこぼした……」

「大丈夫……そんな事で嫌いになったりしないから」

 

 五河士道の朝はようやく落ち着き、士道は欠伸をしながら朝食の準備を始めようとしたところでやってきた琴里から小言を言われていた

 

「いつも言ってるでしょう、精霊は精神が不安定になると霊力が逆流しちゃうから注意しなさいって。いつまでも寝てるからこうなるのよ」

「仕方ないだろ、昨日は遅くまで試験勉強してたんだから……」

「私は残ってる仕事があるから先に出るわ、たまの休みくらい二人の相手をしてあげなさい……念のため、インカムを忘れずにね」

「俺も試験勉強あるんだが、修学旅行も近いから準備もしなきゃいけないし」

「シュガークリョコ? 何だそれは? 甘いのか?」

 

 士道と琴里の話を聞いていた十香は、修学旅行の修学の部分をシュガーと勘違いしたらしい

 

「あぁ、いや。シュガーじゃなくてだな」

「とにかく、私はもう出るわ」

 

 少しばたばたとしている騒がしい休日の朝だったが、今の士道たちにとってはこれが日常なのである

 

 

 

 

 一方、トーマの家……と言うより誘宵美九名義のマンション。今日はいつもより気合いを入れてと言うことで和食、そして白米に味噌汁、塩焼きした鮭の切り身に漬物で終わらせるところに卵焼きを追加した朝食の準備をしていると少し寝ぼけている様子の美九が起きてきた……制服姿で

 

「あれ、今日って美九学校だったのか?」

「……へ? 今日って平日じゃぁあ──」

「今日、土曜だぞ?」

「あっちゃぁ……完全に寝ぼけちゃってましたぁ、着替えてきますね」

「おう、飯も完成までもうちょっと時間かかるからゆっくりでいいぞ」

 

 テレビから流れるニュースが心地よい朝、一通りの朝食を作り終えたトーマはそれを皿に盛りつけていると私服に着替えた美九が戻ってきた

 

「改めておはようございます、お兄さん」

「おはよう、美九」

 

 美九がやってきたことを確認したトーマは二人分の白米と味噌汁をよそって自分も席に座る

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 美九とトーマの食卓には、平和な時間が過ぎていった

 

「そういえば美九、お前んとこは修学旅行とか行かないのか?」

「……お兄さん。私これでも三年生ですよ? 受験生なんですよ? それに、私たちのところは二年生の時に行っちゃいますし」

「って事は去年か」

「はい……まぁ私はお仕事で参加できなかったんですけどねぇ」

「……そいつは、なんというか残念だったな」

 

 少し気まずそうにそういうトーマに対して、美九は軽い笑みを浮かべながら返事をする

 

「気にしないで良いですよぉ、ロケでいろんなところに行く機会はあったのでそこまで羨ましいとも残念だとも思いましたし……それに、やっぱりアイドルの活動って楽しかったですし」

「そうか……なぁ美九。そろそろ活動再開しても良いんじゃないか?」

「……そうですねぇ。やっぱり色々考えてみると、まだまだやりたいこともありますし。そろそろ頃合いなのかもしれませんね」

「…………」

「でも、もう少しだけ考えようと思います……活動再開しても良い時期なのかもしれませんけど、まだ少しだけ怖いので」

「そっか……でも、何かあったら絶対に相談はしてくれよ?」

「わかってますよー」

 

 和やかな雰囲気で、時間は進んでいく

 

 

 

 

 

 

 一方、朝の騒々しさもようやく収まり朝食を食べている十香と四糸乃の様子を見ていた士道の形態に着信が入る

 

「ん?」

 

 形態の画面に目を落とした士道の目に入ったのは、差出人:鳶一折紙の文字と少し話がしたいという短い文章のメールだった。琴里の一件もあり色々と訊きたいことのあった士道が席を立つと、十香と四糸乃が不思議そうに目を向けてきた

 

「どうしたのだ? シドー」

「いや、ちょっと買い物に行ってくる。昼は何が食べたい?」

「……親子丼……」

「私も行くぞ、シドー」

「いいよ、ゆっくり食べてな。すぐ帰ってくるから」

 

 十香と四糸乃にそう言った後、士道が外に出ると電柱の影に折紙はいた

 

「な、何やってんだ。折紙」

「見つかった」

「いや、お前が呼びだしたんだろ」

 

 ここで話をしようかと思っていた士道だったが思った以上に人目が多し、話が話であるため人目につくのは出来るだけ避けたい

 

「なぁ、折紙」

「なに」

「ここじゃちょっと話しづらいし、二人きりになれる場所に行かないか?」

「!」

 

 その言葉を聞いた折紙が士道を連れてやってきたのは、いつもの公園の女子トイレの個室

 

「って、なんで女子トイレなんだよ!?」

「ここなら邪魔は入らない」

「っ、なにしてんだ!?」

 

 折紙は自分のスカートの中に手をかけた。一方の士道は顔を逸らしながら折紙にそう言うと、彼女はキョトンとした表情で士道に問う

 

「では何をするために、こんなところに連れ込んだの?」

「連れ込んだのは折紙さんですよね!? 俺はただ先月の事について話をしなきゃと思っただけだ! あれから色々あってあんまり折紙とは話せてなかったし……お前、その、どうなったんだ?」

 

 記憶は朧気になってしまっているが、琴里の一件からあの日に至るまでの間に確かに折紙と会ったような気はしているが……今はそれを気にする必要はないし、それを抜きにしても折紙とは全然話をしていなかった気がする

 

「査問の結果、二か月の謹慎処分が言い渡された」

「そっか」

「私はまだ納得したわけではない」

 

 そう言った瞬間、折紙の瞳が少しだけ鋭いものへと変わる

 

「炎の精霊、イフリート。あなたは私の両親を殺したのは彼女ではないと言った……けど、それを証明する決定的な証拠はない」

「そうかも知れない、けど信じて欲しい。俺は絶対に嘘は──」

「勘違いしないで。あなたの言葉は信じたい、それに……私も出来ることなら士道の妹を殺したくはない」

「折紙……ありがとう」

 

 士道がそう言って頭を下げるが、折紙はさらに言葉を続けた

 

「それはこちらの台詞、感謝している。変わらず私と話してくれて……私はあなたの妹を殺そうとした人間。いえ、それ以前に私は三か月前、あなたを殺してしまう所だった」

 

 三か月前、十香との初デートの際に士道は折紙に脇腹を撃ち抜かれ瀕死レベルの怪我を負った。それ自体は琴里の霊力による治癒の力で治ったから問題はないが。折紙にとって自分が士道を殺しかけたという事実は決して消えることのない罪となってしまっている

 

「気にするな……とは言えねぇよ。それでも俺は、折紙、お前と今まで通り話したいと思ってる。駄目か?」

 

 士道のその問いに折紙は首を横に振る、それを確認した士道は安心したように胸をおろした

 

「じゃあ、そろそろ出るか」

「待って、士道。貴方は……人間?」

「ッ!?」

 

 その問いかけに、士道は動きを止める。それを見た折紙は尚も言葉を続けた

 

「前から不思議に思っていた、三か月前。私は間違いなくあなたを撃った……それにこの前も、安心して。上には報告していない、あなたが精霊であると判断された場合、あなたの討伐指令がくだる場合もある」

「っ……俺は人間だよ、少なくとも自分ではそのつもりだ」

「そう」

 

 折紙はそういうと士道の横を通り過ぎて、個室の扉を開ける

 

「疑わないのか?」

「言ったはず、あなたの言うことは信じたい……いつか、もし私に話してくれる時が来たなら、詳しい話を聞かせて欲しい」

 

 そう言って折紙は個室から出ていき一息ついた瞬間、もう一度個室の扉が開け放たれた

 

「士道、この後時間は?」

「えっ……なんで──」

「修学旅行用のドリンク剤を買わねばならないので、一緒に選んで欲しい」

「修学旅行よう? ……って、いやいや、何で俺が選ぶんだよ!?」

「選んで欲しい」

「……えっと……」

「選んで欲しい」

「……一回帰った後で良ければ」

 

 相変わらず押しの強い折紙に、士道は再び負けるのであった

 

 

 

 

 時は遡る事少し前

 今日の仕事は午前中のみだったトーマは、おっちゃんが発注をミスって余ったからそっちで消費してくれと言う理由で押し付けられた大量の野菜入り段ボールを持って美九と共に五河家へと続く道を歩いていた

 

「なぁ、美九。わざわざお前まで来る必要なかったんじゃないか? 今回はあくまでもおっちゃんから貰った……と言うか押し付けられた野菜届けに行くだけな訳だし」

「いいじゃないですかぁ、久々に十香さんにも会いたいですし、四糸乃さんにも挨拶したいですし……それに、気は進みませんけどお兄さんがお世話になってる以上、琴里さんの兄にも挨拶くらいはしておかないと」

「まぁ、美九がいいならそれでいいけど、士道に挨拶する理由がオレが世話になってるからって……お前は一体オレの何なんだよ?」

「そうですねぇ、お嫁さん?」

「寝言は寝てから言うもんだぞ、脳内ピンク」

「その言い方は酷くないですか! 酷すぎないですか!?」

 

 すっかり素の自分を晒している間柄だからこそ言い合える軽口を叩きながら五河家に向かっている途中で、二人の足が止まる

 

「……何でしょう、さっきの感覚」

「霊力の乱れ……もしかしたら士道たちに何かあったのかもな」

「それなら急ぎましょう、十香さん達のピンチかも知れません!」

「それならちょっと待ってくれ、フラクシナスに連絡を取ってみる」

 

 外していたインカムを耳に付けたトーマがフラクシナスとの通信を繋げた瞬間、少し焦ったような琴里の声が聞こえてきた

 

『士道!?』

「いや、トーマだけど」

『……トーマか、一体何の用なの?』

「仕事先で余りに余った野菜を五河家に置きに行く途中で変な霊力の乱れを感じてな、何かあったのかと思って連絡した次第だ」

『そう言うことね……実は十香の感情値が急に危険領域まで下がったのよ。それで士道に連絡しようとしても連絡つかないし、ジャミングかけられてるみたいで何処にいるかもわからないしで……』

 

 琴里から説明を聞いたトーマはさっきの霊力の乱れに納得すると、歩く足を少しだけ速める

 

「それなら、野菜置き次第オレも士道を探す……お前らの家に誰かいるか?」

『多分四糸乃がいると思うわ』

「わかった、連絡取りながらこっちでも探す」

 

 通信をきったトーマは、早歩きで横をついてきている美九に話しかける

 

「美九、少し急ぐぞ」

「わかりました、全速力で行きましょう!」

 

 急ぎめで五河家まで向かったトーマは、美九に野菜の受け渡しを任せて士道の事を探しに出る。十香を探すこと自体は乱れた霊力の痕跡を追って行けば辛うじて可能だが、士道を探す方法はどうするかを考えていたところで爆音が鳴り響きそちらに向かっている途中で琴里から通信が入った

 

「トーマだ」

『あぁ、トーマ? とりあえず十香と士道は合流したわ』

「了解、それで次はどうするんだ?」

『十香の霊力は不安定になってるみたいだし、これから士道にデートさせて精神を安定させるつもり。トーマはどうする?』

「フラクシナスで回収して貰えると助かる……暑くてたまったもんじゃない」

『わかったわ、すぐに回収するから少し待ってなさい』

 

 フラクシナスに回収してもらったトーマが艦橋まで歩いて向かっていると、大量のきなこパンを抱えた神無月とばったり遭遇する

 

「おや、トーマ君ではないですか」

「神無月さん……なんですその大量のきなこパン」

「いやぁ、今朝がたに霊力の暴走がありましてね、いざと言うときの為にきなこパンを買いに行っていたところなんですよ」

「だからって買いすぎ……いや、十香ならそれくらい全部食べきれるか」

 

 トーマも彼女の大飯食らいっぷりは士道から聞いている、だからこそ大量に貰った野菜の八割以上を五河家に押し付ける予定だったのだ。などと考えているうちにフラクシナスの艦橋前まで辿り着く

 

「ただいま戻りましたー、今朝のような暴走があると困りますからねぇ、いざと言うときの為にきなこパンの買い占めを──」

「神無月さん、きなこパン買い占めて──」

 

「「「「「「あんたか!」」」」」」

 

 神無月とトーマが入ってきた瞬間、フラクシナスクルーの声が一つになり二人の鼓膜を貫いた

 

 

 

 

 それから、トーマがきなこパンの宅配係をすることになり十香から見えないようにきなこパンを受け渡すと、その足で五河家まで向かう。

 どうやら十香の精神状態は無事安全圏まで戻ったようで、士道は昼食の買い出しをしてから五河家に戻ってくるらしい

 

「おじゃましまーす」

「あっ、お兄さん! やっと来ましたねー!」

「こん、にちは……トーマ、さん」

『やっほー、トーマくーん』

「おう、四糸乃とよしのん。美九になんにもされなかったか?」

『だいじょぶだいじょぶ、ちょーっとセクハラされそうになっちゃったけどー、よしのんがバッチリ退治したからねー』

 

 よく見ると美九の頬には小さい手の跡がついていた

 

「お前、何やってんだよ」

「いやー、四糸乃さんがあまりにも可愛かったんでつい」

「ついじゃねぇだろ、全身レズピンク」

「失敬な、レズじゃないですよ! 確かにかわいいものは好きですけど一番はお兄さんですぅ!」

 

 などと話しているうちに玄関が開き士道の声が聞こえてきた

 

「ただいまー」

「おかえり……なさい、士道さん」

「おう士道、邪魔してるぞ」

「ただいま四糸乃、それにいらっしゃいトーマ……と、えーっと」

 

 きなこパンをくわえた十香の隣にいた士道は、トーマと四糸乃の間にいる美九に目を向けて困惑の表情を浮かべる

 

「貴方が琴里さんの兄、五河士道ですかぁ……まー、及第点ですね」

「えっと、君は──」

「あっ、すいません話すのは大丈夫ですけどそれ以上近づかないでくださいそれ以上近づくと私はアナタを張り倒してボコボコにしてしまう可能性があるので死にたくなかったらそれ以上近づかないでくださいね、と言うか近づくな」

「…………えーっと」

「すまん士道、こいつは誘宵美九。たびたび話題に出してるオレの同居人だ」

「あぁ、その子がトーマの言ってた──」

「えっ、お兄さん私のこと話題にしてくれたんですか!? どんなこと言ってましたか! その場から動かないで出来るだけ端的に一息で──きゅぅ」

 

 少し呆れた様子のトーマは美九の首筋に一発叩き込んで意識を落とす

 

「すまん士道、美九は人間不信と男嫌いを同時発症させてる中々に面倒な奴でな。ビジネスライクで話す分には問題ないんだが定期的にこうなる、特に今回はオレの知り合いって事で境界線があやふやになってるんだろうな」

「そ、そうか……とりあえず俺は十香と四糸乃の分の昼飯作るけど。トーマたちはどうする?」

「オレたちは食ってきたから大丈夫だ。気にしないでくれ」

「そっか、それでもお茶くらいは出すから少し待っててくれ」

 

 トーマにそう言った士道は椅子にかけてあったエプロンを手に取りながら調理場の中に入っていった。トーマも気絶させた美九をこのままにしておくわけにもいかないため自分の膝を枕代わりにしてソファーに寝かせる

 

 そこからは何事もなく時は進み。平和そのもの……と言う所で、ある事を思い出したトーマは士道の方を向く

 

「士道、やる事やったらでいいからこっち来てくれ」

「? わかった。丁度飯も作り終わったし……はい、お待ちどうさん」

「いただき……ますっ!」

「おぉ! いただきますだ!」

 

 二人の前に親子丼を置いた士道は、その足でトーマの近くまでやってきた

 

「それで、一体何の用だ?」

「一応、オレとお前のパスも繋いどいたほうが良いと思ってな」

「パスって……十香たちみたいにか?」

「言っとくがキスはしないぞ」

「そ、そうか……」

「お前何でちょっと残念そうな顔をした?」

「してねぇよッ!?」

「……まあいいや、とりあえずこの本に触ってくれ」

 

 そう言ったトーマはエターナルフェニックスのワンダーライドブックを士道の前に差し出した

 

「あ、あぁ……これでいいのか?」

「それでいい後はオレが──」

 

 エターナルフェニックスの本とは別にアメイジングセイレーンの本を持ったトーマはそのまま意識を集中させると、士道の側から伸びてきた糸と自分の側から伸びている糸を結びつけるイメージをする

 それから程なくして自分と士道の間に何かが開く感覚を覚えたトーマは目を開いて士道に話しかける

 

「オッケーだ」

「もう終わったのか?」

「あぁ、とりあえずこれでオレとお前の間にも霊力のパスが繋がった逆流することはないだろうから形だけだがな」

「そうなのか」

「あぁ、それじゃやる事もやったし……オレはそろそろお暇させて貰うよ」

 

 トーマは寝かせていた美九を抱き上げるとその場から立ち上がり玄関の方に向かった

 

「それじゃ、またな」

「あぁ、また」

 

 美九の靴を器用に履かせ終えると自分も靴を履いて五河家を後にする……因みにこの後、再び十香の霊力逆流騒動があったのだがそちらはトーマが出る必要もなく士道が解決したのでひとまず置いておく

 何はともあれ、トーマたちは無事一日を終えることが出来たのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかのビルの一室、ソファーに座っていた男は興味深げに言葉を発する

 

「ほう、三か月前天宮市で消えた精霊”プリンセス”の反応を、先ほどまで探知していたというのかい?」

「はい、加えてこんな情報も」

 

 男の後ろに控えていた女は、手に持っていた資料を手渡すとページを数枚めくった男は再び声を発する

 

「プリンセスがハイスクールに通っていると」

「彼女の名は夜刀神十香。都立来禅高校の生徒です……転校してきた時期とプリンセスが姿を消した時期は一致します」

「ふふふっ、面白い……確かめてみようか。我々のやり方でね」

 

 そう言った男は、後ろに控えていた女の方を向く

 

「最近精霊を相手にしていなくて身体がなまっている頃だろう。頼んだよ、エレン──エレン・ミラ・メイザース。人類最強のウィザード」

 

 そして女が出て行ったあと、光の当たらない影に潜んでいた男に向かって、口を開いた

 

「どうやら思ったよりも早く、その時が来たようだね」

「そのようですね……それで、どうするつもりですか? アイザック」

「なに、上手くやるさ」

「そうですか。それなら精々互いの邪魔をしないよう……細心の注意を払うとしましょう」

「気にする必要はない、なにせ我々は同士なのだから」

 

 アイザックと呼ばれた男はそう言うとソファーから立ち上がり、もう一人の男の方を向いた

 

「そうですね、互いの目的の為に協力(りよう)しあうのは当然でした」

 

 もう一人の男もまた、アイザックに向けて不敵な笑みを浮かべる

 

 今まで姿を見せなかった闇は、ゆっくりと士道たちの元に忍び寄って来ていた

 




いよいよ目前に迫る修学旅行
向かう先は沖縄――ではなく或美島

一方のトーマも、一年ぶりに或美島へと向かうことになる

楽しい楽しい修学旅行と
慣れたとは言えかなりキッツイ飯屋の手伝い

全く別の目的で行ったはずの二組は、何故か交わることになる


次回, 八舞ウィッシュ 第5-1話

【information】
ウィッシュは英語で書くとwish
意味は”願い”だそうです

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