デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー   作:SoDate

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第1-3話, 特訓

 翌日の朝、トーマが朝食用の鮭を焼いているのだが、一向に美九の起きてくる気配がない

 

「おかしい」

 

 時刻は七時前、この時間には大体起きてくるはずだと考えたトーマは、美九の部屋の扉をノックする

 

「おーい美九、起きてるかー」

 

 返事はない、軽いため息の出たトーマは扉を開けて部屋の中に入ると、美九は布団にくるまった状態で寝息を立てていた。日頃の疲れが溜まっているのだろうとも思ったが今日は平日、部屋のカーテンを思いっきり開いて朝日を部屋に呼び寄せる

 

「んー」

「美九、起きろ、朝だぞ」

「ぁーい」

「全く、ほれ起きろ!」

 

 布団を無理やり引き剥がすと中々に扇情的な格好の美九が目に入るが、トーマは動じず壁にかかっていた制服をぶん投げる

 

「朝飯もうすぐ出来るから冷める前に起きて来いよ」

 

 それだけ言い残してトーマは未来の部屋から出ていく、一応火を止めて起こしに来たが今のトーマにとっての最優先事項は美九よりも朝食の支度である

 それから程なくして、少し不機嫌そうな顔の美九が出てきた

 

「むー」

「なんだその顔……それより早く食え、冷めると飯のうまさが半減だ」

「……お兄さん、寝起きの反応見てもう少し反応があったんじゃないですかー?」

「反応って、別に今更だろ……いただきます」

 

 今日は昨日程時間に追われていなかったトーマも手を合わせて朝食を食べ始める

 

「私、結構スタイルには自信あるんですけど……」

「スタイル良くても毎日見てりゃ慣れる」

「なーんか複雑ですぅ」

 

 チクチク言ってくる美九の言葉を気にせず、焼き鮭、白米、味噌汁のルーティンを作りながらトーマは朝食を食べ進めるが、いい加減視線がうざくなって来たのか一度朝食を食べる手を止めて再び美九に視線を向ける

 

「目線がうざい、後冷めないうちに飯を食え、何をするにも体が資本だ」

「今はアイドル活動も休業中ですしぃ、いっそ体調崩したほうがお兄さんに看病して貰えてラッキーかもしれませんしぃ」

「バカなことを言う暇があったら自分の人間不信を……治す方法は後でもいいから飯食って学校にいきなさい……ごちそうさまでした」

 

 残りわずかだった朝食を食べきって食器を水につける

 

「あぁ、それと……しばらく帰れないから夕食は自分で作るなりどっかで買うなりしてくれ」

「どういうことですか!?」

「空間震……と言うか精霊関連で色々あってな、付き合った方が本集めも楽そうだし」

「私聞いてませんよっ!?」

「……まぁそう言う事で、それじゃ、いってきます!」

「ちょ、ちょっと!! もぉー! 帰ってきたらしっかり聞かせて貰いますからねー!」

 

 そんな美九の声を背に受けながらそそくさと洗い物を済ませてマンションから出て行った

 

 

 

 

 若干逃げるようにマンションを出たトーマのやってきた場所は来禅高校(らいぜんこうこう)、士道たちの通っている高校である。彼が今日この場所を訪れたのは今日の六時頃に琴里から連絡があったからである

 

「あ! とーまさんだー!」

「……ん?」

 

 手続きを一通り終えて、校舎に入ったトーマに声をかけてきたのは、中学の制服を着ている琴里なのだが……昨日とは違う様子にトーマは少し怪訝そうな顔を浮かべる

 

「あのぉ、もしかして五河君の妹さんのお知り合いの方ですか?」

「え、えぇ、まぁ……そんな感じです」

 

 どう返したものかと若干返事に困っていると、琴里があ! と大きな声を上げて男子生徒に突撃する。そして彼女のタックルをもろに受けた男子生徒──五河士道はビックリするくらい情けない声を上げる

 

「はがぁ……っ!」

「あはははは、はがーだって! 市長さんだ! あはははは!」

「……大丈夫か?」

「こ、琴里にトーマ……っ!? なんだって高校に……」

「まぁ、ちょっとした野暮用だ」

 

「あ、五河くん。妹さんが来てたから、今校内放送で呼ぼうとしてたんですよぅ、でもその途中でお知り合いの方にあってぇ」

「は、はぁ……」

「まぁ、そう言う事だ」

 

 そう言うと、琴里はぶんぶんと手を振っていた

 

「おー、先生、ありがとー!」

「ありがとうございました」

「はぁい、どういたしましてぇ」

 

 それに対して先生もにこやかに返す

 

「やー、もうっ、可愛い妹さんですねぇ、もう一人の男の人もしっかりしてますし」

「はあ……まぁ」

 

 その言葉に対して士道は頬に汗を垂らしながら苦笑いしていた、先生は改めてバイバイと琴里に手を振り、チラリとトーマの方に目を向けると職員室の方に歩いていった

 

「……なんだ、少し寒気が」

「大丈夫か?」

「大丈夫……だと思う、健康管理はしっかりしている筈なんだが……」

「……で、琴里」

「んー、なーに?」

「おまえ……昨日のあれ、ラタトスクとか、精霊とは──

「その話はあとにしよーよ」

 

 無邪気な口調であるがその中になんともいえない圧を感じた

 

「……早かったね、琴里、それにトーマも」

「うん、途中で、フラクシナスに拾ってもらったからねー」

「俺は走ってきた、約束の時間の十分前には事前準備を完璧に……だからな」

「それよりほら、おにーちゃん。はやく行こ? とーまさんも」

「っとと……ちょ、わかったから走るなって」

 

 琴里に引っ張られていく士道の事を見ながら歩き出すと、令音がトーマの隣までやってくる

 

「……不思議かい?」

「……まぁ、昨日はアレで今日はコレってのは、変な感じです」

「……勘違いしないで欲しいのだが、昨日の姿と今日の姿はどっちも本物の琴里だ」

「でしょうね……演技であそこまで出来るとは思えないですから」

 

 そこから特に話もなく、四人がやってきたのは東校舎四階、物理準備室と書かれたプレートのある部屋だった

 

「さ。入ろー、入ろー♪」

「ハイ・ホー、みたいに言うんじゃねぇよ」

 

 そして、スライド式のドアを滑らせるのだが……そこには記憶の無いトーマでもこれは物理準備室にはないだろ、と思われる光景が広がっていた

 

「……ちょっと」

「……何かね?」

「なんですか、この部屋」

「少なくとも物理準備室ではないだろうな」

「……部屋の備品さ?」

「いやなんで疑問形なんですか! ていうかそれ以前に、ここ物理準備室でしょう? もといた先生はどうしたんですか!」

 

 少なくとももうこの場所にいることはないのだろう、とトーマは考える

 

「……あぁ、彼か。うむ」

 

 令音はあごに手をやって小さくうなずき……しばらくの沈黙が続いた

 

「……まぁそこで立っていても仕方ない。入りたまえ」

「うむ、の次は!?」

「真実は闇の中って奴だな」

 

 令音のスルースキルに感心しつつ、教室の中に入っていく。令音は部屋の最奥に置かれた椅子に腰を掛けた。その後に琴里が部屋の中に入ってきて白いリボンをほどいて黒いリボンで髪を結び直した

 

「──ふぅ」

 

 リボンを結び直したことで雰囲気の変わった琴里は近くの椅子に座り込みチュッパチャップスを口に入れる

 

「いつまで突っ立ってるのよ、士道。もしかしてカカシ志望? やめときなさい。あなたの間抜け面じゃあ、烏も追い払えないと思うわよ。あぁ、でもあまりの気持ちの悪さに人間は寄ってこないかもしれないわね」

「……」

 

 余りの妹の変貌ぶりに士道は頭に手を置いた

 

「……琴里、おまえどっちが本性なんだ?」

「嫌な言い方するわね。そんなんじゃ女の子にもてないわよ。──あぁ、だからまだ童貞だったんだっけ。ごめんなさい初歩的な事を指摘して」

「……おい」

「統計だと、二十二歳までに女生徒交際できなかった男の半数以上は、一生童貞らしいわ」

「まだ五年以上猶予あるわ! 未来の俺を舐めるなよ! ……って、どうしたトーマ」

「いや……別に」

「猶予と可能性ばかり口に出す人間は、結局明日から頑張るしか言わないのよね」

「ぐ……」

 

 士道は口喧嘩では敵わないと悟り、ぐっとこらえてドアを閉める。一方のトーマも、まさかの流れ弾によりダメージを受けていた

 

「……さ、ともかくシン。訓練を始めよう。ここに座りたまえ

「……了解」

 

 トーマは言われるがままに腰を掛ける士道の事を後ろから見守る体勢に入る

 

「さ、じゃあ早速調きょ……ゲフンゲフン、訓練を始めましょう」

「てめ今調教って言おうとしたな」

「気のせいよ。──令音」

「……あぁ」

 

 琴里の言葉に、令音は足を組み替えながら首肯する

 

「……君の真意はどうであれ、我々の作戦に乗る以上は、最低限クリアしておかねばならないことがある」

「何ですか?」

「……単純な話さ。女性への対応に慣れておいてもらわねばならないんだ」

「女性への対応……ですか?」

「……あぁ」

 

 士道の問いに対して令音は頷く

 

「……対象の軽快を解くため、ひいては行為を持たせるためには、まず会話が不可欠だ。大体の行動や台詞は指示を出せるが……やはり本人が緊張していては話にならない」

「女の子と会話って……さすがにそれくらいは」

「本当かしらね」

 

 そう言いながら琴里は士道の頭を令音の胸に押し付けた。豊満なバストに押し付けられた士道はすぐに琴里の手をどかし、パッと顔を上げた

 

「……ッ、な、ななななにしやがる……ッ!」

「はん、ダメダメね」

「……いや、急にやられて対応しろと言う方が無理なんじゃ……」

「うるさいわよトーマ、とにかく、このくらいで心拍を乱してちゃ話にならないの」

「いや、明らかに例がおかしいだろ!?」

「ホント、悲しいまでにチェリーボーイね。やだやだ、可愛いとでも思ってるの?」

「う、うるせぇ」

「……まぁ、いいじゃないか。だからこそ私たちがここに来たのだから」

 

 結局の所、そう簡単に慣れるのは無理なのではと思いつつ、これ以上流れ弾が来ると怖いのでとりあえず黙っておく

 

「生唾飲み込んじゃって。いやらしい」

「……! い、いや違うぞ琴里ッ! お、俺は別に……」

「……まぁ、早いところ始めようじゃないか」

「は──―っい、いやまだ心の準備が……っ」

 

 士道の勘違いしているのを見ながら、琴里たちの方に視線を移す

 

「……成る程、訓練とはこれか」

「そう言う事よ」

「え……?」

 

 目を開けた士道も画面に表示されているものを見る

 

「こ、これは……」

「……うむ、恋愛シミュレーションゲームというやつだ」

「ギャルゲーかよ!」

「ギャルゲーだな」

「やだ、何を想像してたの? さすがもう総力だけは一級品ね気持ち悪い」

「……っ、やっ、そ、それは……」

「お、俺はただ、本当にこんなもんで訓練になるのかって……」

「訓練になるかはともかく、案外面白かったぞこれ」

「えっ、やったことあんの?」

「あぁ、同居人からもう少し女心を理解しろと押し付けられてな」

「まぁ、これはあくまで訓練の第一段階さ。それに市販品ではなく、ラタトスク総監修によるものだ。現実に起こりうるシチュエーションをリアルに再現してある。シンは前位にはなるはずだ。ちなみに15禁」

「あっ、ほんとだ……少しタイトルが違う」

「……エロゲではないんですね」

 

 日常会話の流れで士道は何となく行ったのだろうが、琴里から向けられていた視線が変わった

 

「やだ最低」

「……シン、君は十六だろう? 18禁のゲームができるはずないじゃないか」

「いやおまえらさっきと言ってること微妙に矛盾してね!?」

「言っても無駄だ、諦めろ」

 

 トーマのその言葉を聞いた士道はがっくりと肩を下ろした

 

「……ん、では始めてくれたまえ」

「はいはい……っと」

 

 士道が画面に向き合いゲームを開始したのを確認して、トーマは琴里に話しかける

 

「そういえば司令官殿、どうして俺はここに呼ばれたんだ?」

「琴里でいいわよ気持ち悪い……まぁそうね、トーマには士道のサポートに回って貰うことになるわ。見た感じ士道よりも年上みたいだし、私たちとは別の視点からのアドバイス要員ね」

「成る程、それじゃあ俺は士道のゲーム攻略をサポートすればいいわけだ」

「そう言う事、物覚えがはやくて助かるわ」

 

 とりあえず自分がやる事を理解したトーマも士道の進める画面に視線を向ける

 

「おはよう、お兄ちゃん! 今日もいい天気だね!」

 

「ねぇ──────よ!!」

 

 士道、開幕大絶叫である

 

「……どうしたねシン。何か問題でも?」

「いや、これ実際にありそうなシチュエーションを再現とか言ってませんでした!?」

「……そうだが、何かおかしいかね」

「おかしいも何も! こんなふざけた状況現実に起こるわ……け……」

「心当たりアリと言った表情だな、士道」

 

「……何でもないです」

 

 そう言うと士道はゲームに意識を戻しテキストを進めていくと、画面の真ん中に文字が現れた

 

「ん……? なんだこれ」

「何って、選択肢よ。この中から主人公の行動を一つ選ぶの。それによって好感度が上下するから注意するのよ」

「ふーん……なるほどな。これのどれかを選べばいいんだな?」

 

➀「おはよう。愛してるよリリコ」愛をこめて妹を抱きしめる

②「起きたよ。というか思わずおっきしちゃったよ」妹をベットに引きずり込む

③「かかったなアホが!」踏んでる妹の足を取り、アキレス腱固めをかける

 

「……って、なんだこの三択は! どこがリアルだ! 俺はこんなんしたことねぇぞ!」

「なーんか誰かの願望混ざってる気がするな」

「……何でもいいけど、制限時間つきよ」

「は……ッ!?」

 

 琴里の言葉を聞き画面の脇……と言うより選択肢の下あたりを見たトーマは確かにそこに表示された数字が減っていってるのを確認する

 

「士道、とりあえず自分の一番いいと思った選択肢を選んでみろ」

「……っ、仕方ねぇ」

 

➀「おはよう。愛してるよリリコ」愛をこめて妹を抱きしめる←SELECT! 

②「起きたよ。というか思わずおっきしちゃったよ」妹をベットに引きずり込む

③「かかったなアホが!」踏んでる妹の足を取り、アキレス腱固めをかける

 

「おはよう。愛してるよリリコ」

俺は妹のリリコを、愛を込めて抱きしめた。

すると、リリコは途端顔を侮蔑の色に染め、俺を突き飛ばしてきた。

「え……ちょっと、何、やめてくんない? キモいんだけど」

 

「リアルだったー!」

「確かに、思春期の女の子の複雑な心境を的確に表現してるな」

 

 下面に出ていたヒロインの好感度が一気に下落する

 

「あーあ、馬鹿ね。いくら妹でも、突然抱きついたらそうなるに決まってるじゃない。──まったく、ゲームだからいいものの、これが本番だったら、士道のお腹には綺麗な風穴が空いてるわよ」

「じゃあどうしろってんだよこれッ!」

 

 士道の問いに一切答えることのなかった琴里は液晶ディスプレイと点灯させた

 

「あ……? 何やってんだ?」

「訓練とはいえ、少しは緊張感持ってもらわないとね」

 

 そこから琴里の指示と、スタンバイしていたらしいクルーによって、士道が若かりし頃に厨二病(とある病気)に冒され、したためたポエム『腐食した世界に捧ぐエチュード』の朗読が行われた

 

「うわぁ……」

「な……っ、何しやがる!」

「騒ぐんじゃないわよみっともない。精霊に対して対応を間違ったらこんなもんじゃ済まないのよ。士道自身はもちろん、私たちも被害を被る可能性があるんだから。──というわけで、緊張感をも持ってもらうためにペナルティを設定させてもらったわ」

「重すぎるわぁぁぁぁッ! ていうか被害被ってるの俺だけじゃねぇかッ! トーマは!」

「彼に関しては何にも情報出てこなかったのよ、叩いて出てくる埃もなかったわ」

「まぁ、俺は昔の記憶一切ないし、当たり前だな」

「……しかし、そうだね。確かにシンの言う事にも一理ある」

「……そ、そうでしょう!?」

 

 令音の思わぬ助け船に、士道は顔を明るくするのだが、何故か白衣を脱ぎ始めた令音にあたふたするという事態になったが、琴里が発破をかけた事で何とかゲームに起動修正をした

 

「そういえば、さっきの選択肢。トーマならどれを選んだの?」

「俺は基本的に朝食の下ごしらえをするために五時には起きるから、選択肢は④だな」

「ないわよそんな選択肢……まったく、仮にでいいのよ仮にで」

「仮に、か……それなら③だな」

「……どうして?」

「変に甘い言葉をかけると調子に乗るのが目に見えてるからな」

「……アンタの私生活どうなってんのよ」

 

 それから、②、③と選んだ士道は両方のバッドエンドを回収した

 

「これ、➀で正解だったんじゃねぇの!? ていうか普通妹はこんな技使わねぇよ!」

 

 こんな技とは、③の選択肢を選んだ際にリリコが主人公に放った技、サソリ固めの事である。因みにこの技は琴里も習得しているため士道にサソリ固めをかけていた

 

「ぎい……ッ!?」

「ふん、ぎいだって。せいぜいママンママン言ってなさい」

「お、お前、どこでこんな技を──」

「淑女の嗜みよ」

「……とりあえず、ゲームに戻った方がいいんじゃないか?」

「ててッ……そうだな、というかこれ結局どうやるのが正解だったんだよ!」

「まったく、最後は出題者に応えまで聞くの? 情けないわね」

 

 リセットしたタイトル画面からさっきのところまで進めると、琴里はそこで操作を止めた

 

「……? 何してんだ? 早く選ばないと──」

 

 琴里が選択肢を選ばないままカウントがゼロになる

 

「んー……あと十分」

「だめー! ちゃんと起きるのー!」

 

「な……ッ」

「成る程、とち狂った選択肢はあえて選ばず放置をするのも手の一つか」

「あんなおかしな選択肢選ぶなんて、どうかしてるんじゃないの?」

 

 至極ごもっともな意見である

 

「特別にこの続きからやる事を許してあげるから、早く進めなさい。次の選択肢からはペナルティありだからね」

 

 腑に落ちない様子の士道はコントローラーを握り、ストーリーを進めていくと、新しい攻略対象と思われる先生が出てきた。百センチオーバーのバストを持つファンタジー生物だが、今の士道にとってそんなものは路肩の石ころに過ぎない

 

「きゃあっ!」

 

 女教師は悲鳴を上げながらすっころび、主人公の顔に胸を押し当てながら倒れてきた

 

「だから、ねぇと! こんな……」

「そうだな、普通は窒息するな」

「そこじゃないでしょ……って、どうしたのよ、士道」

「……や、なんでも」

 

 また何か思い当たりがあったのか大人しくゲームを続ける

 

➀「こんなことされたら……先生のこと好きになっちゃいます」おもむろに抱きつく

②「ち、乳神様じゃあー!」胸をわしづかみにする

③「隙ありぃぃッ!」腕ひしぎ十字固めに移行する

 

「っ、そうか……!」

 

 ハズレにしか見えない選択肢を目の当たりにした士道はコントローラーを放置する

 

「……ッ、きゃぁぁぁ! 何してるの!? 痴漢! 痴漢よぉぉ!」

 

 教師の好感度が下がった

 

「なんでだよッ!」

「そんな長時間、避けることもしないで胸の感触を楽しんでたら、当然そうなるわよ」

「そうだな、基本的に退ける方法を模索するか相手の意識を刈り取る方向にシフトするのがいいだろう」

「普通の人間は相手の意識刈り取れねぇと! というかどうしろってんだこの選択肢!」

「選択肢前のテキスト読んでなかったの? 彼女は女子柔道部顧問・五所川原(ごしょがわはら)チマツリ。寝技に持ち込むことによって、意識を胸から勝負に持っていかないといけなかったのよ、という訳でトーマは惜しいところまでいったわね」

「わかるかそんなもぉぉぉぉん!」

「──ま、失敗は失敗よ。やりなさい」

 

 画面越しに男が了承した声が聞こえてくる、次に暴露された黒歴史は士道が昔作ったオリジナルキャラの設定資料。基本的にこの手の設定には自分の好きを盛りまくってるためポエムより破壊力があるかも知れない

 それから、令音がモゾモゾと動きブラジャーを抜き取るという出来事があったものの、何とかゲームを再開する

 

 次のイベントは同級生と思わしき女の子が、廊下の曲がり角で主人公と激突、綺麗にM字開脚でパンツが丸見えになると言うものだった

 

「──!」

 

 記憶を探った士道は何かを確信したように高らかに声を上げた

 

「ねぇよ! これは、こればっかりは絶対にねぇよ!」

「……そうかな? 意外とあると思うのだが……」

「そうだな、日常のハプニングとしてはある部類に入る気がする……」

 

 令音とトーマの言葉に対して、士道は自信をもって首を横に振った。のだがその直後に琴里に椅子を蹴られる

 

「別になさそうなシチュエーションにツッコミを入れるゲームじゃないの。ちゃんとやりなさい。次の選択肢を間違ったら──これよ」

 

 琴里の言葉と共にコンピューターが操作され、画面に動画が表示された

 

「上裸の士道、だが今より幼い気が……」

「こ……れは……」

 

 トーマは不可解そうに首を傾げ、士道は顔を青くした

 

『奥義! ・瞬閃轟爆破ぁぁぁぁッ!』

 

 奥義・瞬閃轟爆破(おうぎ・しゅんせんごうばくは)──士道が作り出したオリジナル必殺技である。あの病にかかった男の子の多くは自分専用の必殺技が欲しくなるものだから別段おかしいことではない。分類としては某超次元サッカーを見た小学生男子がキャラクターの必殺技を練習する……それの延長戦である。

 だが、高校生になった士道にとって、オリジナル必殺技を考える当時の自分の動画は致命傷だった

 

「っいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────ッ!?」

 

 そして、今日一番の悲鳴を上げた

 

「琴里! ヤバい! これだけはヤバい!」

「ふふ、じゃあ次はちゃんと選択を成功させることね。……あぁ、途中で放棄なんてしたら、動画サイトに投稿するからね」

「…………っ」

「士道、俺も協力する……一緒にこのゲームを完全攻略するぞ」

「トーマ……おうっ!」

 

 記憶の無い、経験のないトーマにとっても士道の悲痛な叫びは心に届いた

 そして、これ以上の悲劇を生まない為の……男たちによる長い戦いが幕を開ける




オリジナルキャラの設定資料、世界を憂う時期、必殺技の練習est.
多かれ少なかれ誰にでも存在する黒歴史は、時に宿主に牙を剝き、襲い掛かってくる
だからこそ、人は自身の黒歴史を封印し、忘れようとするのである

次回!更なる悲劇が士道に襲い掛かる!
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