デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー 作:SoDate
第6‐1話,美九の頼みと追想の始まり
夏休み明け、士道たちの通っている来禅高校の体育館、夏休み明けの学生というものは大抵どこか休み気分は抜けていないものだが体育館に集まった学生たちはそうではなかった
『今からちょうど一年前……我らは多くのことを学ぶこととなった』
壇上に上がっているのは、士道のクラスメイトである山吹亜衣。彼女は拳を握りながらマイク越しに声を絞り出しており、亜衣麻衣美衣トリオの残り二人は彼女の両脇を固めている
『苦渋の味を、敗北の屈辱を……這い蹲らされた地の冷たさを』
来禅高校の校旗まで立てかけてある異様な力の入れようを見ると、これからどこかに戦いにでも行くのではないのかというほど熱量が溢れ出している
『さぁ諸君。見るも哀れな敗残兵諸君。私は君たちに問いたい。我らは苦汁を舐めたままなのか? 這い蹲ったままなのか? 敗北に沈んだままなのか……!?』
熱量が極まっている亜衣が思いっきり演台に拳を叩きつけるとマイクのハウリング音が体育館上に響き渡る
『否! 否だ!
彼女の言葉に呼応するように体育館内に響き渡るのは生徒たちの雄たけび、体育館中のガラスが微かに揺れ、士道の鼓膜が少し痛くなる
「はは……気合い入ってんな」
「シドー、亜衣は一体何を言っているのだ? どこかと戦争でも始めるのか……?」
苦笑している士道の横にいた十香は、怪訝そうな表情を浮かべながら士道にそう問いかける
「今月はあれだ、天央祭があるんだよ」
「天央祭? なんだそれは」
「んー、まぁ簡単に言うと超でっかい文化祭のことだな」
「文化祭……おぉ、テレビで見たことがあるぞ。学校に食べ物屋が並ぶ夢のような祭りだ」
「ん、まぁ間違っちゃいないが……」
「ぬ……? それで、なぜその文化祭をやるのに、このような決起集会が必要なのだ?」
そう、壇上に上がっている彼女たち、そして体育館に集まっている生徒たちが圧倒的な熱量を向けているもの、それは文化祭……なのだがこの天宮市の文化祭である天皇は少しだけ通常の文化祭と異なっている。そしてそれがここに居る生徒たちの闘争心を迸らせている原因でもある
「天央祭ってのはちょっと他の文化祭とは違ってな。天宮市内の高校十校が合同でやる文化祭なんだよ」
「十校で……合同?」
天央祭は十校合同でやる文化祭、現在でこそ栄えているこの街だが空間震の脅威が抜けきっていなかった当時は、地域面積や施設の充実度と比較しても住民数がかなり少ないというアンバランスな時期があった。そんな時期に行ったものが天央祭である
「要するに、当時は学校数も少なかったもんだから、一緒にやって盛り上がりましょうって企画だったらしい。それ住人数が増えた今でも続いてるんだよ」
当時は、過疎地域と言うこともあり高校同士のあつまったささやかな祭事だったが、天宮市の住民が増えた今では天宮スクエア大展示場を貸し切って三日間行われる一大イベントにまで成長した。天宮市側としても一大イベントにまで成長してしまった天央祭を今さら終わらせる訳にも行かず容認しているらしい。
毎年テレビの取材も入り市外からの観光客も多い、そして天央祭を見て志望校を決定する中学生もいるとなると市側もかなりの経済効果を生み出すこの祭事を終わらせることが出来ないのである
しかし高校同士が手を取るささやかな祭事は多くの住民を獲得した現状、別の意味を持つことになった。その意味とは──
『今年こそ! 今年こそは、我ら来禅が王者の栄冠を手にするのだ!』
各行対抗システムである。天央祭は模擬戦部門、展示部門、ステージ部門などの優秀校を投票によって決め、最優秀校に選ばれた学校が以後一年の王者として君臨するのだ
と、言ったように士道たちの学校が他所の高校に対して闘志を燃やしまくっている中、学生ではない例の剣士は一体何をしているのかというと
「おっちゃん、野菜炒めあがったよ」
「坊主! 野菜炒め定食三つ追加だ!」
「了解!」
毎日の仕事に勤しんでいた。いつもより少し早めに来た忙しい時間帯で客や定食屋から飛んでくる注文を捌きながらひたすらフライパンを振り続ける。そんなことを続けること数時間、ようやく客足が落ち着き椅子に座って休んでいると定食屋の扉がバンッ! と開かれる
「お兄さんッ!」
「……はぇ?」
「おぉ! 嬢ちゃんじゃねぇか、久しぶりだな!」
「あっ、おじさんお久しぶりです」
「おう。それで今日は坊主にどんな用なんだ?」
「そうでした、それじゃあおじさん。ちょっとお兄さん借りていきますねー」
唐突に仕事場までやってきた美九は少し呆然としているトーマの腕をガシっと掴んで定食屋の裏口から外に出た
「ど、どうした急に」
「大事件です大事件です!」
「だから、大事件って一体──」
そんなトーマの言葉を無視した美九が彼を連れてきたのは定食屋から少し離れた場所にある裏路地までやって来たところでようやく足を止めた
「……ここなら大丈夫そうですね」
「大丈夫って、さっきからお前なんかおかしいぞ?」
「おかしくもなりますよぉ、何処から出たのかわからない噂の所為で私大変なんですから」
「噂って、一体何のだ」
「私が今度の天央祭で私が復帰するって噂ですよ。確かにそろそろ再開するのもありかなぁって思ってましたけどお兄さん以外誰にも言ってませんし、そもそも話すような人もいませんし」
「成る程な、それで大急ぎで俺の所まで来たと」
「そうですそうです、だからお兄さん! お願いします。一体誰がこの噂を流したのか……私の代わりに調べてください!」
「美九の代わりにって、それくらい自分で調べられるんじゃ──」
「実は私、通ってる竜胆寺女学院の天央祭実行委員に選ばれちゃったんですよぉ、それであんまり時間取れないので代わりにお願いしたいんです」
美九の話を聞いたトーマはわざわざ自分に頼んだ理由が何だったのかを聞いて納得した。この街にやってきてからまだ数年のトーマであっても天央祭の規模の大きさは知っている、その実行委員に選ばれたとなると確かに噂の出所に調べる時間はないだろうと考えたからだ
「わかった、噂の出所はこっちで出来る限り調べてみる」
「助かりますぅ」
「それなら、とりあえずここから移動──」
ひとまず美九からの頼みを聞いた所でとりあえずこの場所から出ようとしたところでこの場所がどこなのか、気付く
「──ここって」
「どうかしたんですか?」
「……美九、お前覚えてるか、この場所」
「えっ……あっ、そっか、私がお兄さんと初めて会ったのって」
そう、今二人の居る場所は他の人にとっては何の変哲もない路地裏。しかし二人にとっては、全てが始まった場所でもある
「懐かしいですねぇ、あの日初めて出会ってから、もう一年……その後再会してから、もう半年になるんですねぇ」
「ホントだな」
美九の言葉に返事をしながらトーマは思い出す。今から一年前……この街に流れ着き、ようやく生活基盤を手に入れることの出来た青年と、自身にとって大切なモノを一度失ってしまった少女
その二人の──出会いの記憶を
天宮市にある定食屋に下宿していた記憶喪失の青年 トーマ
彼はある日、店の近くの路地裏でうずくまっている一人の少女と出会う
きらびやかな衣装を身に纏った少女の名は宵待月乃
これは、トーマと月乃――美九が初めて出会った時のお話