デート・ア・ライブ feat.仮面ライダーセイバー 作:SoDate
翌日、店に書き置きを残したトーマは地図アプリを起動したスマホを片手にネットに流出してしまっていた美九のマンションまで向かう
「っと、ここか」
やってきたマンションは今回の一件を全く知らない住人でも勘づくほどに多くの取材陣が押しかけている……正確にはテレビの撮影クルーではなく美九や住人から何らかのインタビューをしようとしている雑誌記者の方が多いのだろうが、トーマにとってそれは些細な違いだ
「さてと、とりあえず色々と聞いていきたいところだが」
トーマはその手の事に関しては全くの素人、伝手も何もない状況からどうにかして情報を集められないかと考えたが全くと言っていい程情報収集のための手段が思いつかない……そのため彼の取った方法は
「盗み聞きだな」
そう、盗み聞きである。そうと決まれば話は速いと言わんばかりに出来ている人だかりの方に移動すると耳を澄ませる
「ったく、連日待ったって出て来やしない」
「この感じだと、帰ってきてすらいないんじゃねぇのか」
「にしても、この話は本人が何も語んねぇからそうなんじゃねぇかって憶測が広がってるだけで何の証拠も出やしない」
「そうだな、そもそも俺たちだって噂の出所もわかんねぇなら本人の口から聞こうってここに集まってるわけだし」
『──噂の出所が不明? それに証拠が出てないってどういうことだ』
トーマの見たニュースサイトの内容だと、写真が見つかったから噂が広がったって書いてあったはずだ。それなのにどうして近くにいる記者たちは証拠が出てないなんて言ってるんだ
『見たはずの情報と今記者たちの言ってる情報に差異があり過ぎる』
盗み聞きではあるがこうして記者から情報を得た瞬間から頭の中に広がっていくのは情報同士がバラバラになっていく感覚と、反対に見知らぬ誰かによって意図的に美九を貶められている可能性が信憑性を帯び始めた実感
それをより確かなものにするための方法として最も単純かつ確実なのは芸能関係者から情報を仕入れることなのだが……と考えていると、近くにいた記者たちが騒めき始めた。何事かと思ってそちらを見ると目線の先にいたのはビジネススーツを着ているいかにも出来る女性という感じの女性
「あれ、確か宵待月乃のマネージャーだったよな」
「話聞きに行くぞ!」
「……成る程、これが僥倖って奴か」
トーマも記者たちに混ざる形で彼女の元に近づくが入る隙間もない程にぎゅうぎゅう詰めの状態である。このままでは話を聞くにも聞くことが出来ない以上どうにかして彼女をここから連れ出す必要がある、トーマがここでファルシオンに変身してあの女性を連れ出すことは簡単だが公の場に姿を現すことになる……トーマにとってもそれは避けたい
「……となると、力尽く以外の方法はないか」
決まってからは行動は簡単だ、無理やり人混みをかき分けて彼女の目の前まで辿り着く。そして次にやるべきことは簡単で困惑する彼女の手を取るとそのまま隙間を縫って走り出す
「あっ! 待てッ!」
「何処に連れてく気だぁ!」
「ちょ、ちょっと──」
「今は黙って手を引かせてください。訊きたいことがあります」
「訊きたいことって……貴方も記者?」
「記者じゃないです、それと宵待月乃のファンでもないです」
なら一体トーマが何者なのかという困惑の表情に染まっていた彼女の手を引きながら走り続ける、記者たちと距離が離れた所で角を曲がってその場に隠れる
しばらく隠れてやり過ごしていると記者たちはまっすぐ走っていった。それを見て一息ついたトーマに対して彼女は改めて声をかけてくる
「あの、貴方一体何なの?」
「あぁ……えっと、オレはトーマ。この街にある定食屋で働いてます」
「トーマって、苗字? それとも名前?」
「名前です」
「それじゃあ、苗字は?」
「……オレ、自分に関する記憶がないんです。だからすみません、苗字は──」
「そう、こっちこそごめんなさいね、嫌な事聞いちゃって」
「信じてくれるんですか?」
にわかには信じられない事を言っているトーマのことをあっさり信じた彼女に対して、言った本人が驚くという奇妙な状況が生まれたもののそれに対して彼女はカラッした顔で笑い言葉を続ける
「そりゃあね、真剣そうな感じだし。それよりこっちの自己紹介がまだだったわね、私は須藤ゆき。よろしくね」
「……よろしくお願いします」
「それで、君は何が訊きたいの?」
「宵待月乃の、噂について」
トーマのその言葉を聞いたゆきは少しだけ顔を伏せ、今度はさっきまでの明るい表情ではなく真剣な表情で言葉を続けた
「さっき、あなた言ってたわね。宵待月乃のファンじゃないって……なのに、どうして彼女の噂が知りたいの?」
「宵待月乃、いや……誘宵美九は今、オレの働いてる店で匿ってる状態です」
「それ本当──いえ、月乃の本当の名前を知ってるって事は真実なんでしょうね。一緒にいるから、彼女の噂を探るのね」
「……はい、彼女と出会って、彼女の噂を知った。けど彼女がそんなことをするとは思えない……それに、言っちゃなんですけど美九の所属してる事務所に黒い噂だってあった」
「そこら辺は気にしないで、私もあの事務所追い出された身だから……でも、そっか。月乃を──美九を信じてるから彼女の噂を探ってるのね」
「信じてるってのは少し違います、オレが信じてるのはあくまでオレの直感です。信頼関係なんかじゃなく。オレが信じたいから、知りたいから勝手に調べてるだけです」
トーマがそう言うとゆきは少しだけ笑ってから立ち上がる
「ここで話すのもアレだし、移動しましょうか」
「……わかりました」
ゆきについていったトーマがやってきたのは美九の住んでいるマンションからかなり離れた所にある飲食店。いかにも金のある人が使いますと言った風貌の店の中に入ると、ゆきとトーマは個室に通された
「ここなら、誰かに聞かれる心配もないわ」
「はぁ、でもここ高いんじゃ──」
「心配しなくてもそれくらい出すわ、美九の事を信じてくれたお礼」
「はぁ……」
正直釈然としていないトーマを後目にゆきはメニュー表から適当なものを頼む。店員の出て行ったことを確認したゆきはお冷を一口飲んだ後に話を始める
「それで、確か美九の噂について……だったわよね」
「はい、オレは美九がスキャンダルを起こすようには見えなかった」
「そうね、確かに噂されてるようなスキャンダルを美九は起こしてないと思う、と言っても私だって確証を持ってそう言えるのは事務所を追い出されて少し経った後なんだけどね」
「……どういうことですか?」
疑問を浮かべたトーマに対してゆきが見せてきたのは一冊の手帳
「この手帳は私の知り合いから貰ったものよ、書いてあるのは私の所属していた事務所がやってきたことの記録」
「そんなもの、一体どうやって」
「これでも美九を売り込む為にコネクションだけは多く作って来たからね。それが役に立った感じ」
「……なるほど」
あまり実感はなかったものの彼女は美九をマネジメントしていた張本人だ。事務所の力を抜きにしてもかなりのコネがあるのだろうと予想できない事もなかった
そこからトーマが聞いたのは、美九が噂を流されるまでにあった事を聞いた
「美九には、いままで何度も裏営業についての話が回って来てたの、今までは私の所でその話は断るようにしてたんだけど。上の連中は私を通さないで直接美九に話をするって言う強硬手段に出た」
「けど、彼女はそれを断った」
「えぇ、トーマ君の察してる通り彼女はそれを断った、彼女がステージに立つのはファンに笑顔を与えるため。たとえ仕事が減っても自分に出来る方法でファンを笑顔に出来たら良い……そう考えていたの」
トーマがゆきの話を聞いた感じだとやはり彼女が目立ったスキャンダルを起こすような人物には思えない、それに彼女の口ぶりだともう事務所側に問題があるというのは確定事項なのだろう
「それで、断ったから誰かが彼女のスキャンダルをでっち上げて噂を流した」
「えぇ、それも事務所側の誰かじゃなくて事務所の社長本人が噂をでっち上げた……そしてそれを最悪の形で情報を流して美九を追い詰めた」
「その結果が今の状態……って事ですか」
「えぇ、流された噂を否定するためにステージに立った彼女を待っていたのは観客の冷たい視線、そして──その視線に晒された彼女は声を失った」
彼女が声を失うまでに何があったのか、トーマはそれを初めて聞いた、彼女がどういう思いを抱えてステージに立ち声を失ったのか、聞くなら本人の口からと思ったが今はそんな事どうでもいい
「……それで、ゆきさんはこれからどうするんですか?」
「どうにかして、彼女のスキャンダルは払拭するつもりよ、そのために色々と準備もしてる」
「準備?」
「えぇ、今の美九を救うにはあの事務所そのものを潰すしかない。その為に圧力でやめていった人たちにアポを取って証言してもらえるように説得中よ、だから──」
そこまで言うと、彼女はトーマに向かって頭を下げる
「──貴方にお願い。全てが終わるまで、美九の事を守ってあげて欲しいの」
トーマは、その言葉に対して何か返事をすることが出来なかった。けれどトーマの心の中には確かに一つの決意が生まれていた
須藤ゆきと出会った帰り、美九の身に起こったことを知ったトーマが店の鍵を開けて中に入るとつまらなそうに席に座っている美九の姿があった。彼女はトーマの姿に気付くと一瞬表情を明るくするがすぐにむすっとした表情に戻る
[どこ行ってたんですか? ]
「書いた通り、少し気になることがあったから出かけてたんだよ」
[気になること? ]
「あぁ、美九の噂について」
「──っ」
「けど、それで確信した。あの噂は全くの嘘って事がな」
[そうですか]
美九はそれだけ言うと後ろを向きホワイトボードに何かを書くと、それをトーマの方に見せてきた
[色々あったみたいですけど、とりあえずおかえりなさい]
「──あぁ、ただいま」
美九の書いたその文字に、トーマは少しぎこちない笑顔で答えた